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更新日:2024年5月24日

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10.H事件(平成31年(不)第2号及び令和元年(不)第18号併合事件)命令要旨

  1. 事件の概要
    本件は、地方公共団体である被申立人が、(1)組合が発行する機関紙について、特定の記事を掲載しないよう求め、記事の内容を理由に組合事務所の明渡しを求めたこと、(2)組合事務所の使用許可に関する団体交渉申入れに応じなかったこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
  2. 判断要旨
    • (1)組合が発行する機関紙について、(ア)特定の記事を掲載しないよう求め、(イ)記事の内容を理由に組合事務所の明渡しを求めたとの組合主張について
      • ア 被申立人管理職職員らが組合事務所に架電又は訪問して、組合が発行する機関紙(以下「組合ニュース」という。)の特定の記事を掲載しないよう求めたとの組合の主張については、組合と記事についてどのようなやり取りをしたのか、具体的な事実の疎明がなく判然とせず、直ちに被申立人の対応が支配介入であったとまではいえない。
      • イ 記事の内容を理由に組合事務所の明渡しを求めたとの組合主張について
        • (ア)職員会館の管理者である被申立人が、行政財産である職員会館の使用を許可するに当たり、その目的に沿った必要な条件を付すことに、直ちに問題があるとはいえない。そうすると、行政財産の目的外使用許可を行うに際し、利用目的を限定すること自体は、問題があるとまではいえないと考えられる。そして、職員会館の管理権限を有する被申立人が、使用目的以外の用途に用いたと確認したときに、使用許可の取消手続に入ること自体に手続上の問題があるとまではいえない。
          もっとも、組合が使用目的の範囲内で組合事務所を使用しているかの確認に当たって被申立人が採った対応や、被申立人が組合に対し組合事務所の明渡しを求めた理由によっては、不当労働行為となり得る場合がある。
        • (イ)職員会館内の組合事務所において、その使用目的の範囲内で使用しているか否かの確認に当たり、被申立人が組合ニュースの記事で確認するとしたことについては、組合ニュースの記事を確認することで組合の活動内容を把握すること自体は許されない訳ではない。しかし、一方で、労働組合による機関紙の発行は、労働組合活動上、極めて重要な役割を持っており、組合の言論活動が無制限に許されるものではないとしても、団結権を保障する観点から、これに対しては十分な保護が必要であるというべきである。被申立人は、組合が許可条件に違反したか否かを確認するに当たって、組合ニュースの記事の内容から判断するという手法を採りつつ、場合によっては組合に文書による説明を求めたり、改善要請を行っていたが、被申立人の評価如何によっては、組合にとって重大な事態となる組合事務所の退去を求めるに至るのであるから、こうした被申立人の対応は、組合に記事の掲載を萎縮させ、組合活動に直接的な支障を与えることとなりかねない。
        • (ウ)次に、組合事務所の明渡しは、労働組合の活動や運営に少なからぬ影響を与える可能性があることから、使用者は労働組合に対し、組合事務所の明渡しを求めるときは、明渡しによる不利益を与えてもなお明渡しを求めざるを得ないという、相当な理由が必要であるというべきところ、確かに組合ニュースの記事には、被申立人が「職員の勤務条件等」に含まないとした、政権を名指しで批判する内容等が認められるものの、各記事の内容は労働組合としての意見を表明したもので、各組合ニュース全体の紙面に占める割合等からみても、文書による教宣活動として許容されるべき組合の表現の自由の範囲を逸脱したものとまではいえず、被申立人が組合に対し、組合事務所の明渡しを求めるに足るとする相当な理由が存するとは認められない。
        • (エ)さらに、被申立人は、組合の組合活動自体を問題にはしておらず、政治的要素のある記事が掲載された組合ニュースを、職員会館内で作成・印刷していることを問題とする旨主張するが、組合事務所の明渡しを求めた被申立人による通知前から、被申立人が政治的要素のある記事が掲載された組合ニュースの作成・印刷は職員会館外で行うよう組合に求めていたとする事実の疎明はない。
        • (オ)一方で、被申立人は、これまでから幾度となく文書で被申立人の考えを組合に伝えてきたと主張するが、確かに平成28年度及び同29年度においては、被申立人は組合に対し、被申立人の考えを記載した文書を交付したことが認められるものの、本件において、目的外使用許可の対象となった同30年度おいては文書で何らかの指摘等をしたとの事実の疎明はなく、また、被申立人管理職職員らが複数回組合事務所を訪問等したものの、被申立人自らが、組合とどのようなやりとりをしたのか、当人らには記憶も記録もないと主張するなど、被申立人の考えを組合に十分伝えていたとみることは困難である。加えて、被申立人管理職職員らの組合事務所の訪問後、組合事務所の明渡しを求める通知までの間、被申立人が自ら定めた手続である組合に対する通知や改善要請を行ったとの疎明はない。そうすると、被申立人は組合に対し、自らの見解を明らかにし、具体的な説明や協議を行うことのないまま、性急に、組合事務所の明渡しを通知したとみるのが相当である。
        • (カ)また、被申立人は、別組合に対しては文書にて説明を求めるための通知や改善要請等を行っておらず、その経緯についても具体的な疎明はないところ、被申立人のそれぞれの組合に対する取扱いには差があるのではないかとの疑いがある。
        • (キ)以上を併せ考えると、職員会館の使用目的に付した条件に反する記事を掲載した組合ニュースを職員会館内の組合事務所で作成・印刷したことで、組合に対し、職員会館の使用許可を取り消すことになる旨等を通知した被申立人の対応は、必要最小限の手続とはいえず、組合事務所の明渡しを求めるに足る相当な理由も認められず、組合事務所の明渡しを求めることで、結果的に組合活動を萎縮・弱体化させるものであるといえる。
      • ウ したがって、被申立人が組合ニュースの特定の記事を掲載しないよう求めたとの組合主張については、やり取りについての具体的な疎明がなく、直ちに支配介入があったとまではいえないものの、組合が組合事務所で政権や特定政党への批判的な記事を掲載した組合ニュースの印刷・発行を繰り返したとして、被申立人が組合事務所の明渡しを求めたことは、組合活動を萎縮・弱体化させる支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
    • (2)組合事務所の使用許可に関する団交申入れに応じなかったことについて
      • ア 地方公営企業等の労働関係に関する法律第7条ただし書きは、管理運営事項は団交の対象とすることができない旨定めているところ、管理運営事項とは、住民の総意によって信託され、法令によってその義務、権限を定められた地方公共団体の当局者の責任によって行うもので、具体的には、労働組合との団交によって決定すべきものではないとする趣旨により、団交を行うことができない事項とされていると解される。しかし、管理運営事項と職員の労働条件等に関連する事項は、表裏の関係に立つことが少なくなく、労働者の団結権及び団交権を認めた憲法の趣旨に照らし、団体的労使関係に関する事項については、管理運営事項そのものでない限り、原則として義務的団交事項となると解するのが相当である。
      • イ この点、行政財産である職員会館の目的外使用を許可するか否かの判断そのものについては、管理運営事項に該当するが、団交申入書には、交渉議題として、職員会館の使用について、平成28年度以降、条件が付された理由、組合ニュースがこの条件に適合するかどうかに係る基準やその運用、条件違反とした具体的な組合ニュースの特定、通告をなすに至った理由、別組合との取扱いの違い、組合事務所を供与しないことによる不利益の回避等についての説明や協議を求めていること等が記載されていることが認められ、これは、組合は職員会館を昭和46年から50年近く組合事務所として使用しているところ、その組合事務所の明渡しを求められたことにより、今後の組合と被申立人との団体的労使関係を形づくる組合事務所のあり方や、そのための許可条件について団交を申し入れたというべきである。
      • ウ そうすると、当該団交申入れの議題は、職員会館の目的外使用許可そのものを対象にしたとみることはできず、組合との団体的労使関係に影響を及ぼす事項も含むことから、義務的団交事項に当たるというべきであり、被申立人は、組合との団体的労使関係に影響を及ぼす範囲において、組合との団交に応じるべきである。
      • エ 以上のとおり、被申立人は、正当な理由なく組合の団交申入れに応じなかったというべきであって、かかる被申立人の対応は労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
  3. 命令内容
    • (1)団交応諾
    • (2)誓約文の手交
      ※なお、本件命令に対し、組合は中央労働委員会に再審査を申し立て、被申立人は、大阪地方裁判所に取消訴訟を提起した。

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