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12.J事件(令和4年(不)第58号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、組合が有害廃棄物の処理や組合員の健康被害等について団体交渉を申し入れたところ、清算中である会社が、組合と既に団交を繰り返し実施したところであり応じかねるとしてこれを拒否したことが不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)労働組合法第7条第2号は、「使用者が雇用する労働者」の代表者と団交をすることを正当な理由なく拒むことを不当労働行為として禁じている。
同号にいう「使用者が雇用する労働者」とは、原則的には、現に当該使用者が「雇用」している労働者を前提としているものと解されるが、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争については、元従業員を「使用者が雇用する労働者」と認め、使用者に団交応諾義務を負わせるのが相当である。
(2)そこで、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争について、団交申入れがなされたか、以下検討する。
ア 団交申入書の協議事項の記載についてみると、組合は、事実確認を目的として、有害廃棄物の廃棄とその後の形質変更や行政への届出についての協議を求めているのであり、その事実を確認することが、直ちに、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争であるとみることはできない。
また、組合員の健康被害を協議する前提として、組合が有害廃棄物の廃棄等について明らかにするよう求めたと解する余地はあるが、そうであるのならば、組合は会社に対して、組合員にいかなる健康被害が発生しているのか、当該健康被害と有害廃棄物の廃棄等がどのように関連するか、当該健康被害を解決するために、なぜ、有害廃棄物の廃棄等について明らかにする必要があるのか等を具体的に明示すべきであるといえる。しかしながら、団交申入書にそのような記載があるとは認められない。
したがって、本件団交申入書の記載からは、協議及び要求事項が、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争についてのものとみることはできない。
イ さらに、過去の団交における組合の発言等を併せ考慮することで、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争について、団交申入れがなされたといえるかどうかについてみると、組合は会社に対して、組合員が被った健康被害の具体的な事項すら明らかにしていないのであるから、A組合員の健康に関する組合の団交での発言等を考慮しても、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争について、団交申入れがなされたとはいえない。
ウ 以上のことからすると、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争について、団交申入れがなされたとはいえず、会社に団交応諾義務を負わせることはできない。
(3)以上のとおり、会社に団交応諾義務がない以上、本件団交申入れに会社が応じなかったことにつき、正当な理由があるというべきである。
したがって、本件申立ては棄却する。
3 命令内容
本件申立ての棄却
※ なお、本件命令に対して、組合は中央労働委員会に再審査を申し立てた。