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6.H1/H2事件(令和元年(不)第41号事件)命令要旨
- 事件の概要
本件は、地方公共団体であるH1及びH1が設置し運営する病院であるH2が、地方公務員法等の改正により会計年度任用職員制度が導入されることによる非常勤職員等の労働条件の変更に関して、(1)職員に対する説明会において組合らとの交渉で交付した書面以上の内容が記載された資料により説明を行ったこと、(2)団体交渉において、交渉ではなく説明の場であるとして対応し、組合らと誠実に協議を行わなかったこと、(3)その後、同事項を協議事項とする団交を開催しなかったこと、(4)同事項に関して、別組合とは団交で合意するなどしたこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。 - 判断要旨
- (1)H2が被申立人適格を有するかについて
不当労働行為救済命令の名宛人とされる使用者は、法律上独立した権利義務の帰属主体であることを要すると解するべきであり、H2は地方公共団体たるH1の設置する病院事業に係る組織の一つに過ぎず、不当労働行為救済命令の名宛人たる法律上独立した権利義務の帰属主体と認めることはできない。したがってH2に対する申立ては、その余を判断するまでもなく、労働委員会規則第33条第1項により却下する。 - (2)説明会における説明について
組合の要求書には、看護補助職員等の非常勤嘱託員に係る要求事項の記載があり、組合らとの協議は、組合員らの労働条件等に関する説明・協議を行う場であったのだから、H1が、当該協議において、看護補助職員を含む技能労務区分についてのみを記載した協議資料を配付し、説明を行ったことに問題があるともいえないし、実際、当該協議において、組合らが技能労務職以外の区分の資料を求めた事実は認められない。
一方、説明会における制度概要資料は、H1が、H2を含むH1が設置運営する全病院に対し、会計年度任用職員制度の対象職員である非正規職員に対して説明を行うよう依頼して配付したものである以上、新たに会計年度任用職員となりうる全ての区分についての記載があるのは当然であるといえ、たまたま当該説明会における対象職員が看護補助職員であったとしても、全ての区分に関する記載がある制度概要資料を使用して説明することに何ら不自然な点はない。
そうすると、H1が当該説明会において、組合らとの協議で組合に示したものとは異なる書面を用いて説明を行ったことについては、不合理とはいえないのであるから組合らを無視及び否認し、組合らの団結力及び組織力等を損なう恐れのある行為であったとはいえない。
以上のとおりであるから、H1が、当該説明会において制度概要資料を配付し、同書面に基づく説明を行ったことは、組合に対する支配介入に当たるとはいえず、この点に係る組合らの申立ては棄却する。 - (3)組合らの要求書の要求事項について行われた協議における対応について
- ア 形式的には令和2年4月以降の会計年度任用職員としての任用は、新たに創設された職への新規の任用ではあるが、実質的には、現在任用されている看護補助職員が、特に中断をはさむこともなく引き続き会計年度任用職員として任用される可能性が高く、要求書の要求事項は、その次年度も任用される可能性が極めて高い看護補助職員である組合員の労働条件に関すること等であり、さらにH1に処分可能な事項もあったのであるから、それらがいずれも義務的団交事項であることは、明らかである。
そして、要求書の要求事項が義務的団交事項である以上、当該協議はH1らが主張するような説明会ではなく、団交であったといえる。 - イ H1は、当該協議(団交)において、一定の説明をしている場面もあるが、しかしながら、そもそもの姿勢として、当該協議が団交であるにもかかわらず説明のみを行えばよいとして対応したことは、不誠実であったといわざるを得ず、当該協議(団交)におけるH1の対応は不誠実団交に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
- ア 形式的には令和2年4月以降の会計年度任用職員としての任用は、新たに創設された職への新規の任用ではあるが、実質的には、現在任用されている看護補助職員が、特に中断をはさむこともなく引き続き会計年度任用職員として任用される可能性が高く、要求書の要求事項は、その次年度も任用される可能性が極めて高い看護補助職員である組合員の労働条件に関すること等であり、さらにH1に処分可能な事項もあったのであるから、それらがいずれも義務的団交事項であることは、明らかである。
- (4)団交を開催しなかったことについて
- ア H1は、本件申立てにおいて主張する協議開催ができない合理的理由を、組合らに説明すら行わないまま、2か月近く組合らの要求書に係る団交に応じていなかったといえる。
- イ 団交における交渉人数は、労使協議のうえで決めるべき問題であるところ、H1は、協議日程について、いったん日時が決定していたにもかかわらず、一方的に参加人数を3名までとすることを条件とし、それに組合が応じないことを理由に日程を延期すると回答している。組合らの側の態度に問題がないとはいえないが、それまでの組合らとの協議において、大人数が参加したことにより、野次や不規則発言などで交渉の正常な進行が妨げられた事実は認められない以上、組合らが交渉参加人数を3名までとすることに応じなかったことをもってして、団交を拒否する正当な理由ということはできない。
- ウ 以上のとおりであるから、前記(3)記載の協議の翌日以降、H1が組合らの要求書に係る団交を開催しなかったことは、正当な理由のない団交拒否に当たるといえ、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
- (5)組合間の中立保持義務違反について
- ア 会計年度任用職員制度に係る別組合とH1との協議の日程と、組合らとH1との協議の日程の差が著しく不合理な期間であるとまではいえず、組合らとの協議を意図してことさらに遅らせているとまではいえない。また、H1は別組合との協議についても組合らとの協議同様に「説明会」と表現しているのであり、会計年度任用職員制度に係る協議は「説明会」であるというのが、一貫したH1の姿勢であることが推認され、組合らとの協議に係る対応と差があるものともいえない。
また、条例改正に係るH1の対応に問題があったともいえない。 - イ 会計年度任用職員制度における看護補助職員の給与水準を引き上げることについて、別組合と組合で、H1からの提示の時期に差があったといえる。しかしながら、H1側が意図して組合らとの協議の日程を遅らせていたということはできない。また、ことさら別組合を優先し、組合らを差別的に取扱ったとまではいえない。
- ウ 以上のとおりであるから、要求書に対するH1の対応は、組合間の中立保持義務に違反するものであるとはいえず、この点に係る組合らの申立ては棄却する。
- ア 会計年度任用職員制度に係る別組合とH1との協議の日程と、組合らとH1との協議の日程の差が著しく不合理な期間であるとまではいえず、組合らとの協議を意図してことさらに遅らせているとまではいえない。また、H1は別組合との協議についても組合らとの協議同様に「説明会」と表現しているのであり、会計年度任用職員制度に係る協議は「説明会」であるというのが、一貫したH1の姿勢であることが推認され、組合らとの協議に係る対応と差があるものともいえない。
- (1)H2が被申立人適格を有するかについて
- 命令内容
- (1)H2に対する申立ての却下
- (2)誓約文の手交
- (3)その他の申立ての棄却
※なお、本件命令に対して、H1は、大阪地方裁判所に取消訴訟を提起した。