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4.K事件(令和5年(不)第53号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、会社の従業員2名が、副業について会社役員等の面談を受けた後に適応障害等の診断を受けたことから組合に加入し、組合が、団体交渉を申し入れて、1回目の団体交渉において治療費、休業補償等を要求するなどして、自主解決に努めていたところ、会社が、同組合員らに対して債務不存在の確認を求める訴訟を提起し、争訟の場面が裁判所に移行したことを理由に、2回目の団体交渉を拒否したことが不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)本件団交申入れに対し、会社が団交を拒否したことは明らかであり、当事者間で争いはない。
(2)そこで、本件団交申入れにおける要求事項が義務的団交事項に当たるかについてみる。
本件団交申入れにおける組合の要求事項は、業務に係る社長らとの面談で生じた両組合員の体調不良について会社として対応することを求めたものであって、組合員の労働条件その他の待遇に関する事項であることは明らかであるから、義務的団交事項に当たる。
(3)次に、会社が団交を拒否したことに正当な理由があるかについてみる。
会社は、(a)会社にパワハラ行為はなかったものであることから、会社は両組合員に対する不法行為に基づく損害賠償責任を負わないこと、(b)会社は組合に対してパワハラ行為の主張立証を求めたが、組合はパワハラ行為の主張立証をしなかったこと、(c)パワハラ行為の有無は現在訴訟において審理されていること、からすれば、会社は団交を行う必要はなく、組合との団交を拒んだことは正当な理由がないとはいえないと主張するが、以下のとおり、いずれも、団交を拒否する正当な理由とはいえない。
ア 上記(a)については、団交の当事者の一方である会社が、自らにパワハラ行為はなく、両組合員に対する不法行為に基づく損害賠償責任を負わないと考えたことをもって、団交応諾義務が免ぜられるものではないし、(b)については、パワハラ行為の有無については、団交の中で協議することができるのであって、団交に先立って組合がその主張、立証をしなければ、団交が行えないというものではないから、いずれも団交に応じない正当な理由とはいえない。
イ (c)については、そもそも、団交と訴訟はそれぞれ目的・機能を異にするものであって、団交議題について訴訟が行われている場合でも、団交での自主的な解決は可能なのであるから、団交議題について訴訟が行われていることは団交に応じない正当な理由とはいえない。
ウ しかも、本件の場合、会社は、団交の継続中に、組合の要求について、個別の組合員を被告として訴訟を提起していることが認められ、そうした自らの行為を団交拒否の理由としているのであって、かかる会社の行為は、団交の相手方としての組合を軽視するとともに、組合との交渉を回避しようとしたものと評価するほかない。
したがって、この点に係る会社主張も本件団交申入れに応じない正当な理由には当たらない。
3 命令内容
(1)団交応諾
(2)誓約文の手交
※ なお、本件命令に対して、会社は中央労働委員会に再審査を申し立てた。