ここから本文です。
13.N事件(令和3年(不)第60号、同年(不)第72号、同4年(不)第19号及び同年(不)第20号併合事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、(1)会社が、組合員1名の業務時間短縮について、団体交渉で合意された内容を履行せず、また、その後の団交において、解決に向けた協議に十分な形で応じなかったこと、(2)業務時間短縮等に係る団交において、会社の代理人である弁護士が、会社とグループ会社との関係を否定する旨の発言を繰り返して交渉を混乱させ、また、協議の進行を妨害し、組合への挑発を目的としたような態度を取ったこと、(3)組合がグループ会社の業務に従事していた別の組合員に係る問題について団交を申し入れたところ、会社が拒否したこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)A組合員の労働時間短縮を議題とする団交における会社の対応は、不誠実団交に当たるかについて
ア 会社が、団交でのA組合員の労働時間短縮に係る合意を後日、反故にしたとの組合主張について
(ア)まず、団交において、A組合員の労働時間短縮について、労使が相互の意思を確認した上で明示的な合意をした事実は認められないものの、「A組合員の労働時間短縮のために、工場が止まった日にはA組合員の代わりにグループ会社のC社長が一部を回収に回る」ことで、労使間に合意(社長代理回収合意)が成立したとみることができる。
(イ)ところで、当該団交において、C社長が、曜日ごとの所要時間を説明した上で、特に月曜日の作業時間が短縮になることを繰り返し説明していることが認められ、C社長は、特に月曜日の労働時間短縮が協議の中心になっていたことを前提として、このことについて説明したものとみるのが相当であり、社長代理回収合意に至るまでのやり取りにおけるC社長の発言は、自らが回収に回るのを月曜日に限定することを前提としてなされたものとみるのが相当である。
(ウ)以上のことからすると、社長代理回収合意においては、月曜日以外についてもC社長がA組合員の代わりに回収に回ることで労使間に意思の合致があったとまでいうことはできない。
(エ)以上のことを併せ考えると、そもそも、月曜日以外についてもC社長がA組合員の代わりに回収に回るという、組合が主張する合意が団交で成立していたとまではいえないのだから、会社が団交での合意を反故にしたとの組合の主張は前提を欠くものであり、採用できない。
イ 会社が、団交において、A組合員の労働時間短縮に係る合意を反故にしたことについて主張を二転三転させ、これまでの協議における誤認識を並べ、まともな協議を成立させなかったとの組合主張について
(ア)会社は、団交において、A組合員の労働時間短縮に係る合意を破っているのではないかとの組合の主張に対して、この合意ではC社長が3か所の回収をするのは月曜日に限定したものであるとの自らの解釈について、根拠を示しながら説明していたということができる。
(イ)この点、組合は、会社が主張を二転三転させ、これまでの協議における誤認識を並べ、まともな協議を成立させなかった旨主張するが、会社の回答が主張を二転三転させたものとはいえないし、また、合意を組合がいいように解釈した、A組合員が理解していると思った、それまでもめていたのが月曜日だけであったとの会社の発言が、これまでの協議における誤認識を述べたものとはいえない。
ウ 会社が、新任代理人が出席して行われた1回目の団交において、団交の内容を毎回書面化し双方が調印するとの前回の団交での合意を反故にしたとの組合主張について
(ア)前回の団交において、団交での決定事項について何らかの書面を作成してこれに双方が押印することについては、合意があったとみられるものの、その書面の具体的な作成方法や中身については、組合が作成した見本に基づいたその後の協議に委ねられたものとみることができる。
そうすると、団交が行われた時点では、そもそも、調印の前提となる合意に係る書面の作成方法等についての合意が成立していなかったものとみるのが相当である。
(イ)また、団交において、組合が、会社に提示して押印を求めた合意書案の内容2点については、いずれも前回の団交で合意が成立していたともいえない。
(ウ)以上のとおり、そもそも、団交の内容を毎回書面化し双方が調印するとの合意が前回の団交で成立したとはいえないのであるから、組合の主張は前提を欠くものであり、採用できない。
エ 会社が、団交において、これまで団交において組合と協議してきた内容を把握しないまま協議内容を反故にしたり、虚偽の発言や議論をいたずらにかく乱する発言を繰り返し行って交渉を混乱させたりするような新任代理人を出席させ、協議の進行を妨害する態度を取ったとの組合主張について
(ア)新任代理人が出席して行われた1回目の団交について
a 新任代理人が、団交までの協議の経緯を全く把握せぬまま団交に臨み、C社長が出席しない理由について説明義務を果たさなかったとの組合主張について
新任代理人は、C社長が出席していないことについて根拠を示して説明する必要があるにもかかわらず、全く説明していないばかりか、C社長が出席していない理由について組合が質問を重ねても、会社とは関係のない人物であるとの回答に終始した上、当事者意識を欠いた発言までしている。しかも、当該団交がC社長の都合を考慮して設定されたにもかかわらず、そのことを今初めて聞いたとまで発言しているのであって、かかる新任代理人の対応は、実質的な協議に応じたものとはいえない。
b 新任代理人が、調停条項を無視する態度をとってA組合員の回収ルートに係る協議に応じなかったとの組合主張について
組合が、A組合員が業務開始の6時間後に業務を終了することについて会社の努力義務を定めた調停条項に基づいて労働時間短縮について協議を求めているにもかかわらず、新任代理人は、6時間40分が就業時間であるとの調停条項の別の項目の内容を繰り返すのみであり、当該努力義務については、自らの見解を明らかにすることすらしていないのであって、実質的に、交渉を拒否したものというほかない。
c 新任代理人が、業務指示に係る組合との約束について定型句を繰り返すばかりで実質的な協議に応じなかったとの組合主張について
新任代理人は、会社が約束を守っていないことについての組合の指摘や質問に対して、約束の有無や遵守状況について一切説明もなく、調停条項を持ち出したり業務指示をするとの発言を繰り返すのみで、実質的な協議に応じたものとはいえない。
d 以上を併せ考えると、1回目の団交における新任代理人の対応は、実質的な協議に応じたものとはいえず、不誠実な交渉態度であったと言わざるを得ない。
(イ)2回目の団交における新任代理人の対応について
組合が、A組合員の労働時間を6時間とすることについて会社の努力義務を定めた調停条項に基づいて、A組合員の労働時間短縮に努めるよう要求しているにもかかわらず、新任代理人は、労働時間が6時間40分に収まっていることを理由に協議に応じないばかりか、社長代理回収合意が存在しないかのような対応をとり、工場が止まった日にはA組合員の代わりにC社長が一部を回収に回る案を説明したC社長の団交での発言を否定する発言までしているのであって、かかる新任代理人の対応は、実質的な交渉に応じたものとはいえない。
以上のことからすると、2回目の団交における新任代理人の対応は、実質的な協議に応じたものとはいえず、不誠実な交渉態度であったと言わざるを得ない。
(ウ)3回目の団交における新任代理人の対応について
a 新任代理人が出席するようになる前に行われた団交においては、A組合員の回収業務について熟知したC社長が会社側出席者として参加することにより、A組合員の労働時間短縮に関する協議に実質的な進展がみられた一方、新任代理人が出席するようになって行われた2回の団交において、新任代理人の不誠実な交渉態度の結果、A組合員の労働時間短縮についての実質的な協議がなされなかったことは、前記(ア)、(イ)判断のとおりである。したがって、組合が新任代理人の交渉担当者としての適格性に疑問を持ち、会社の関係者が団交に出席しない理由や新任代理人が団交の場で決定権を有するのかを尋ねるのは当然である。しかしながら、新任代理人は、冒頭から、この点に係る組合の質問や指摘に対して、回答できるものについては回答し、回答できないものについては持ち帰って検討するとの回答を繰り返すばかりで、労働時間短縮の議題について実質的な協議に応じていない。
さらに、(a)新任代理人が出席して行われた1回目及び2回目の団交において、その不誠実な交渉態度のために実質的な協議がなされなかったこと、(b)新任代理人が、1回目及び2回目の団交においては会社の人間が出席していないことについては方針が変わるということもある旨及び今まで団交の場で決定していたことについては方針が変わることは多々ある旨それぞれ述べたこと、からすると、団交において、新任代理人が回答できるものについては回答し、回答できないものについては持ち帰って検討するとの回答を繰り返したのは、団交における組合との実質的な交渉を回避しようとしたものであったと言わざるを得ない。
b したがって、3回目の団交において実質的な協議に応じなかった会社の対応は、不誠実団交に当たる。
(エ)以上のことからすると、新任代理人が出席して行われた3回の団交における会社の対応は不誠実団交に当たる。
オ 以上のとおりであるから、A組合員の労働時間短縮を議題とし、新任代理人が出席して行われた3回の団交において実質的な協議に応じなかった会社の対応は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
また、新任代理人が出席する以前の団交に係る申立て及び新任代理人が出席して行われた1回目の団交における会社の対応のうち団交での合意を反故にしたことに係る申立ては、棄却する。
(2)会社は、B組合員の労働組合法上の使用者に当たるかについて
ア 会社とB組合員との間で雇用契約書が交わされていないことについて当事者間に争いはなく、そのほか、B組合員が会社に雇用されたとの組合主張を裏付ける証拠はない。
イ 団交申入れ事項のうち、B組合員の労働条件に係る要求事項について、会社が、B組合員の基本的労働条件を雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったといえるかについて検討する。
(ア)まず、要求事項「B組合員の有給休暇の取得」についてみると、この点に関して、会社が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったことについて、組合の側から具体的な事実の主張も立証もなく、そのほか、このことを認めるに足る事実の疎明はない。
(イ)次に、要求事項「従業員の新規採用に伴うB組合員の業務内容の変更」についてみると、認定できる事実は約10年前のことである上、これらの事実をもって、団交申入れの時点において会社がB組合員の業務内容を決定し得る立場にあったということはできない。
(ウ)そのほか、会社が、B組合員の業務内容について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったと認めるに足る事実の疎明はない。
(エ)したがって、会社が、団交申入れの2つの要求事項について、B組合員の基本的労働条件を雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったとはいえない。
ウ 以上のとおりであるから、会社は、B組合員の労働組合法上の使用者に当たるとはいえず、その他について判断するまでもなく、この点に係る組合の申立ては、棄却する。
3 命令内容
(1)誠実団交応諾
(2)誓約文の手交
(3)その他の申立ての棄却