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14.B事件(令和2年(不)第42号事件)命令要旨
- 事件の概要
本件は、会社が、(1)団体交渉において、組合は外部団体であるとして、協約締結を拒否するとともに、外部団体と交渉することは全従業員の利益に反するおそれがあるなどとして交渉を拒否したこと、(2)労働基準法違反を理由としてチェック・オフ協定の締結を拒否したこと、(3)団交申入れに応じないこと、(4)組合の分会員に対し、団交等の協議を経ずに夏季一時金を支給したことが、それぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。 - 判断要旨
- (1)団交において、会社代理人弁護士が、(a)組合は外部団体であると称し、協約締結を拒否した、(b)組合は外部団体である、全従業員の利益に反するおそれがあるなどとして、組合との交渉を拒否した、(c)労働基準法違反を口実に、チェック・オフを拒否した、との組合主張について
- ア 組合主張(a)について
会社に労働協約を締結するとの合理的な意思が認められない限り、会社は組合と労働協約の締結が義務付けられるわけではないが、組合の労働協約締結の提案に対し、組合は外部団体であるとし、また、締結しない理由を具体的に説明しない会社の対応は、当初から組合を交渉当事者とすることすら拒絶しており、このことは合意事項の有無とは無関係の問題であって、誠実交渉義務に違反するとともに、組合活動を不当に軽視するものであるというべきである。 - イ 組合主張(b)について
- (ア)組合は会社に対し、分会員の労働条件に関する団交申入れを行ったのであるから、組合は団交の当事者として会社との交渉権限を有するとともに、その役員は団交における交渉担当者である。
そして、団交の場で、会社が組合に提供した企業の内部情報が一旦漏洩されれば損害の回復が不能となることを会社が危惧することは一定理解できるが、会社は漏洩の懸念解消に向けた対応を一切取っていないのであるから、漏洩のおそれがあることを理由に、組合と人事考課査定制度に関する交渉をしない旨の会社の主張には理由がないというべきである。
また、組合との団交の場ではなく、分会員が、直接使用者である社長に説明を求めればよい旨の会社代理人弁護士の発言は、組合活動を軽視した発言であるといわざるを得ない。 - (イ)以上のことからすると、会社は、団交において必要な交渉を進めようとせず、実質的に団交を拒否したのであり、このことは、団交の円滑な進行を妨げ、誠実性を欠くものであったといわざるを得ず、また、会社のかかる対応は組合活動を軽視したものであるというほかない。
- (ア)組合は会社に対し、分会員の労働条件に関する団交申入れを行ったのであるから、組合は団交の当事者として会社との交渉権限を有するとともに、その役員は団交における交渉担当者である。
- ウ 組合主張(c)について
会社は、組合のチェック・オフの協力要求に対し、労働基準法第24条第1項ただし書に違反することから応じられない旨の自己の見解及びその根拠を示している。確かに団交において、会社が労働法に関する書籍のページ番号を示し、組合役員に自分で読むよう述べたことは、いささか丁寧さに欠ける感は否めないが、かかる対応のみをもって不誠実であるとまではいえない。 - エ 以上のとおり、会社の団交における一連の対応は、チェック・オフに関する対応を除き、不誠実団交又は実質的な団交拒否に相当する点があるというほかなく、また、組合活動を軽視する支配介入にも当たり、かかる会社の対応は、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為である。
- ア 組合主張(a)について
- (2)団交申入れに対し、会社がオンライン方式で応じるとしたことについて
- ア 会社は、組合の団交申入れに対し、オンライン方式ではあるものの、団交に応じる旨回答しているのであるから、会社は、形式的には団交に応じようとしているとみることができる。しかし、このように、一見したところでは使用者が団交を拒否してはいない場合においても、使用者が、交渉の実施を困難にするような日時、場所、方式を設定し、理由なくこれに固執するなど、その態度が事実上交渉拒否とみなしうるに至っている場合には、団交拒否に当たるというべきである。
- イ そもそも団交は、労使双方が相対峙して行うのが原則であり、感染症拡大防止の観点からオンライン方式が合理的かつ有益な手段の一つであったとしても、オンライン方式のみが団交において取り得る唯一の手段であったとまではいえない。また、団交申入れに対し、会社がオンライン方式で応じると回答した時点で、会社は、会社の換気されていない事務所内等で会議を開催していたと推認されることも考え合わせると、会社の対応は整合性を欠くとともに、組合が感染症対策を行った上で、対面方式での団交開催を希望していたことを会社は認識していたにもかかわらず、オンライン方式を提案しただけで、その後団交の方式について組合と協議しようとしなかったというべきであり、かかる会社の対応は、事実上団交を拒否するがための不合理な提案であったといわざるを得ない。
- ウ 以上のとおりであるから、会社は、団交申入れに対し、正当な理由なくこれに応じておらず、かかる会社の対応は、正当な理由のない団交拒否であり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
- (3)会社が組合の分会員に対し、団交等の協議を経ずに夏季一時金を支給したことについて
- ア 会社は、組合からの団交申入書において、夏季一時金についてはわずか5行足らず、内容もなおざりで要求意欲も感じられないものであった旨、その後、組合は1か月近く何ら申入れも抗議もせず放置し、夏季一時金などは「オマケ」でしかないことは明らかである旨、要求書では、要求事項の3番目に記載していることからしても、真摯な要求とは到底受け取り得ず、交渉を無視したり拒否したりする意識はなかった旨主張する。
- イ 使用者が従業員に対し、一時金を支給するに当たり、必ずしも労働組合との妥結がその要件とされているわけではないが、一時金の支給に関することは義務的団交事項に当たり、労働組合が一時金の支給に関することを要求事項として団交申入れを行った場合、使用者は、一時金の支給不支給及びその支給額や支給割合等について労働組合と誠実に交渉し協議することが必要である。
- ウ この点、会社の主張についてみるに、要求事項の順番や記載量で労働組合の要求を使用者が勝手に評価すべきでないことはもとより、そもそも一時金の支給に関する労働組合の要求に対し、会社が、夏季一時金などは「オマケ」でしかないことは明らかであるなどと認識していたこと自体が、労働組合を軽視するものであるというほかない。また、確かに団交申入れから次の申入れまで4週間期間が空いていることは認められるものの、団交申入書の記載からは、組合と交渉すべきである旨を要求していることは容易に読み取れるというべきであり、会社は、組合が団交を求めていることを知りつつ、そのまま組合と協議をすることなく夏季一時金の支給事務を進めたというべきである。
- エ 以上によれば、夏季一時金の支給に関し、会社が組合と交渉せず、そのまま支給したことについて合理的事情は認められず、会社のこのような対応や認識は組合軽視であるというほかなく、かかる行為は組合に対する支配介入に当たるといえる。
よって、会社が組合の分会員に対し、団交等の協議を経ずに夏季一時金を支給したことは、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
- (1)団交において、会社代理人弁護士が、(a)組合は外部団体であると称し、協約締結を拒否した、(b)組合は外部団体である、全従業員の利益に反するおそれがあるなどとして、組合との交渉を拒否した、(c)労働基準法違反を口実に、チェック・オフを拒否した、との組合主張について
- 命令内容
誓約文の手交
※なお、本件命令に対して、会社は、大阪地方裁判所に取消訴訟を提起した。