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9.K事件(令和4年(不)第7号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、組合が、法人に対し、A組合員の組合加入を通知し、団体交渉を申し入れたところ、法人は、当該組合員に対し、上司のパソコンを無断で閲覧したこと等を理由に懲戒解雇を予定している旨述べた上で、退職を強要し、退職届を提出させたことが不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
- (1)法人が、本件面談において、A組合員から退職届を受け取るに至ったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについてみる。
- ア 本件面談におけるやり取りは、法人の対応が退職強要に当たるか否かはともかく、組合加入前のA組合員と法人との関係を併せ考えると、A組合員に対する不信感が増大する中で起こった、上司のパソコンを無断で起動し、社内チャットを閲覧するというA組合員の行為を法人が重くみて対応したものとみるのが相当である。また、本件面談における法人の発言には組合を排除するものがあったといえるものの、法人がA組合員個人の行為自体を問題視していたことを踏まえると、反組合的意図が決定的動機になって行われた行為であるとはいえない。
したがって、法人が、組合を嫌悪し忌避する不当労働行為意思を示し、その意思に基づき、A組合員に退職合意を迫り、退職届を提出することとなった旨の組合の主張は採用できない。 - イ 以上のことを総合判断すると、本件面談において法人がA組合員から退職届を受け取るに至ったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとはいえないから、この点に係る組合の申立ては、棄却する。
- ア 本件面談におけるやり取りは、法人の対応が退職強要に当たるか否かはともかく、組合加入前のA組合員と法人との関係を併せ考えると、A組合員に対する不信感が増大する中で起こった、上司のパソコンを無断で起動し、社内チャットを閲覧するというA組合員の行為を法人が重くみて対応したものとみるのが相当である。また、本件面談における法人の発言には組合を排除するものがあったといえるものの、法人がA組合員個人の行為自体を問題視していたことを踏まえると、反組合的意図が決定的動機になって行われた行為であるとはいえない。
- (2)次に、本件面談における法人の行為が、組合に対する支配介入に当たるかどうかについてみる。
- ア 組合加入通知書により、組合は、A組合員の労働条件等については組合との団交において協議、決定することを申し入れており、また、チャットの閲覧行為については直接的には本件団交申入書に含まれていないものの、現に組合からの団交申入れが行われていた状況において、法人は、本件面談でA組合員に対し懲戒処分について言及することを予定していたにもかかわらず、A組合員一人を呼び出して、本件面談を行ったのであるから、法人の行為は、組合の軽視及び活動を阻害する行為であるといえる。
- イ 法人は、第三者に相談することで弁明の機会を逃すこととなり、かつ、弁明の機会を当日しか設けない旨、チャットの閲覧行為を事実と認め、懲戒解雇となる場合に組合は守れない旨述べ、さらにA組合員に対し、団交を行わない旨の話を組合に行うよう述べており、これら法人の発言は、実質的に、A組合員に対して、組合へ相談する機会を与えず、A組合員の組合への相談意欲を失わせるものといえ、組合を排除し、A組合員に今後の組合活動を躊躇させたものとみるのが相当であり、組合の活動を阻害する行為であるといえる。
- ウ 以上のことを総合判断すると、法人がA組合員を呼び出して本件面談を行い、同面談においてA組合員に対し、組合へ相談する機会を与えず、団交を行わない旨の話を組合に行うよう述べた法人の一連の行為は、組合の軽視及び活動を阻害するものであるといえることから、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当する。
3 命令内容
- (1)誓約文の手交
- (2)その他の申立ての棄却
なお、本件命令に対して、組合及び法人は、それぞれ、中央労働委員会に再審査を申し立てた。