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4.K事件(令和2年(不)第32号事件)命令要旨
- 事件の概要
本件は、(1)会社が、組合の役員を含む10名の組合員を雇止めしたこと、(2)組合が、雇止めの撤回など組合員の労働条件について団体交渉を申し入れたところ、会社が、組合は労働組合法上の労働組合ではないなどを理由として団交に応じないことが、それぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。 - 判断要旨
- (1)会社が、本件組合員10名の雇用契約を終了したことについて
- ア まず、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについてみる。
- (ア)本件組合員10名の雇用契約は1年間の有期雇用契約であるが、契約更新されることに合理的な期待が認められる場合は、契約更新されないことによって、身分上及び経済的不利益を被ったというべきである。
会社は市の業務を受託していたところ、本件組合員10名が従事していた業務は、市から受託している業務において恒常的に必要なものであり、また、本件組合員10名は基幹的な役割を担っていたことからすると、市との委託期間中は、雇用期間満了をもって直ちに雇用契約を終了させることを予定していたとはいい難い。また、市と会社との委託契約の内容や、会社の説明会での説明内容等からすると、本件組合員10名にとって、雇用契約更新の期待は、極めて強いものであり、さらに、会社自身、本件組合員10名に対して、契約更新を期待させる言動を行っていたといえる。
そうすると、会社が市から業務を受託している期間中は、本件組合員10名に、雇用契約が更新されることにつき、合理的期待が存在したとみるのが相当である。 - (イ)会社は、執行委員長以外の役員及び組合員の存在は不知である旨主張するので、この点についてみる。
まず、組合四役についてみると、同人らは会社を訪れ団交申入れをしたり、会社支店長らと話合いを行っていることからすると、会社は、組合四役の組合での役職を認識していたとみるのが相当である。他の組合員についても、会社アドバイザー職員を通じて、また、組合の要求事項や同人らの言動等から組合員であることを容易に推認できたし、別件訴訟における会社の準備書面の記載内容からも、本件組合員10名が組合員であることを認識していたことが窺えるのであり、これらのことを考え合わせると、会社の主張は採用できない。 - (ウ)次に、会社が本件組合員10名の雇用契約を終了させたのは、組合員であることが理由であるといえるかについてみる。
会社は、契約更新について、組合員を非組合員と比べて有意な差をもって取り扱っていたといえるところ、組合員の中でも、契約更新されなかったのは、組合活動を行っていた組合員や雇用期間中に新たに組合に加入した組合員であったのであり、これらのことからすると、会社は、組合活動を行っていた組合員や雇用期間中に新たに組合に加入した組合員を標的として、契約更新しなかったとみるのが相当である。 - (エ)さらに、会社が、本件組合員10名の雇用契約を終了させた理由についてみると、一貫しておらず、判然としないところはあるが、雇用期間満了や注意書記載の事由がその理由であると解される。
まず、雇用期間満了の点についてみると、本件組合員10名について、契約更新につき合理的な期待が認められることは前記(ア)判断のとおりであり、会社は、本件組合員10名の雇用契約を終了させるには、合理的な理由が必要であるというべきである。
次に、注意書についてみると、(1)注意書の記載内容につき、事実関係が判然としない上、(2)1件を除き、各組合員に事情聴取もせずに注意書を交付しているのは、拙速すぎる対応であるといえるし、(3)会社は、交付日より数か月前の事項も問題視する一方で、1名を除く組合員については、ほぼ同時期に注意書を交付しており、かかる会社の対応は、不自然といわざるを得ず、これらのことを考え合わせると、注意書は、会社が本件組合員10名の雇用契約を終了させる合理的な理由にはならない。 - (オ)加えて、労使関係についてみると、組合は会社に対し、再三にわたり団交を申し入れているものの、会社はこれに応じていない状態が続いており、また、先行事件の係属中に、会社は、本件組合員10名の雇用契約を終了させたのであるから、当時、組合と会社とは、組合の要求書に対する対応を巡り対立関係にあったとみるのが相当である。
- (カ)以上のことを、総合的に判断すると、会社が、本件組合員10名の雇用契約を終了としたのは、会社の組合嫌悪意思によるものとみるのが相当である。
したがって、本件組合員10名の雇用契約を終了したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たる。
- (ア)本件組合員10名の雇用契約は1年間の有期雇用契約であるが、契約更新されることに合理的な期待が認められる場合は、契約更新されないことによって、身分上及び経済的不利益を被ったというべきである。
- イ 次に、不当労働行為救済申立てを行った事を理由とする不利益取扱いに当たるかについてみる。
会社は、本件組合員10名への注意書の交付を終えたのと同時に、先行事件の結審後であるにもかかわらず、先行事件における審査手続等を批判するとも言い得る書面を当委員会に提出し、さらには、別の文書では、執行委員長との雇用関係が終了したことを理由に、同人は申立人当事者の適格がなくなったとして先行事件を却下するよう当委員会に求めており、かかる会社の対応をみると、会社は、先行事件を意識しつつ、本件組合員10名の雇用契約を終了させたとみるのが相当である。このことに、労使関係を巡る経緯からすると、会社が嫌悪した組合活動には先行事件の申立ても含まれるとみるのが相当であることも考え合わせると、本件組合員10名の雇用契約が終了したのは、不当労働行為救済申立てを行った事を理由になされた不利益取扱いであるとみるのが相当である。 - ウ さらに、支配介入に当たるかについてみる。
会社は、組合活動の中心をなす組合四役について、既に退職を申し出ていた2名を除くと、全員、雇用契約を終了させたのであるから、これにより、組合の運営や組合活動に支障が生じるのは明らかである。したがって、組合に対する支配介入にも該当する。 - エ 以上のとおりであるから、本件組合員10名の雇用契約が終了したことは、労働組合法第7条第1号、第3号及び第4号に該当する不当労働行為である。
- ア まず、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについてみる。
- (2)団交申入れに対する会社の対応について
- ア 組合は、6回団交を申し入れていたところ、各要求書に記載されていた要求事項は、いずれも、組合員の労働条件や待遇及び団体的労使関係の運営に関連しており、義務的団交事項に当たることは明らかである。
- イ そこで、団交申入れに対する会社の対応についてみる。
- (ア)会社は、組合に組合規約等の提出を求め、「適法な労働組合」であることを明確にすることを団交開催の条件とする対応を取っていたといえる。
しかしながら、労働組合法上、労働組合は団交に先立って使用者に対して組合規約を提出する義務を負っておらず、組合が組合規約を提出しなかったとしても、そのことをもって団交に応じない正当な理由とはならない。
また、労働組合法第2条及び第5条は、不当労働行為救済制度の保護を受けるに際して、これに適合することが要件となることを規定するのみで、団交応諾義務の存否自体に関わるものではない。したがって、組合が労働組合法第2条及び第5条に適合することを明らかにしなかったとしても、そのことをもって団交に応じない正当な理由とはならない。 - (イ)次に、会社は、要求書の内容が会社の業務に関する専決事項であり、団交に応じる必要はないとしていると解せるが、要求書の内容が義務的団交事項であることは前記ア判断のとおりである。
- (ウ)次に、会社は、組合規約の改正手続に疑義があるとして団交に応じていないといえる。
しかしながら、そもそも、労働組合は、団交に先立ち、使用者に対して組合規約を提出する義務を負っていない上、労働組合法及び労働委員会規則は、団交に先立ち、労働組合が、使用者に対し、組合規約が労働組合法の規定に適合していることを立証しなければならないと定めているものではない。したがって、仮に、規約改正の手続に不備があったとしても、また、改正手続の不備のために組合規約に労働組合法の規定に適合していない点があったとしても、そのことをもって団交に応じない正当な理由とすることはできない。 - (エ)次に、会社は、雇用関係が終了していることや先行事件について再審査申立てをしていることを理由に、団交に応じていないとみることができる。
しかしながら、組合は要求書で雇止めの撤回を求めており、当該雇止めについて争われている限り、本件組合員10名と会社との間の労働関係は確定的に消滅したものとはいえず、会社は、本件組合員10名の雇止めに関して、団交に応じる義務があると解される。
また、再審査申立てをしたことをもって、会社の団交応諾義務が免ぜられるものではない。
- (ア)会社は、組合に組合規約等の提出を求め、「適法な労働組合」であることを明確にすることを団交開催の条件とする対応を取っていたといえる。
- ウ 以上のとおり、会社は組合からの団交申入れに対し、正当な理由なく応じなかったのであり、かかる行為は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
- エ また、組合は、団交を申し入れるだけではなく、会社の求めに応じて、本来は提出義務のない、組合規約や先行事件の組合資格審査決定書を、会社に送付し、団交開催のために、会社に対して譲歩の姿勢を示している。一方、会社は、組合が自らの求めに応じたにもかかわらず、正当な理由もなく、団交を拒み続けているといえ、このような会社の対応は、労働組合たる組合の存在を否定し、組合の団結権を否認するものといわざるを得ない。
したがって、会社の対応は、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
- (1)会社が、本件組合員10名の雇用契約を終了したことについて
- 命令内容
- (1)有期雇用契約が継続しているものとして取扱い、原職又は原職相当職への復帰及びバック・ペイ
- (2)団交応諾
- (3)誓約文の手交及び掲示