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7.Y事件(令和4年(不)第39号及び同年(不)第52号併合事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、会社が、定年後の再雇用契約を機に、組合員を従前とは異なる業務に就け、従前を下回る賃金を支給したことが不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)本件において、当該組合員の定年後再雇用契約が締結された時点で、未だ組合と会社は対立基調にあり、会社が組合や組合員を嫌悪していることを推認できる。
(2)定年後の再雇用契約における労働条件が定年前と同一でないことはただちに問題とはいえないものの、異なる労働条件とするについては合理的な理由が必要というべきである。したがって、業務内容をミキサー車運転手から新たな業務に変更したことと賃金を定年前に比べて低額にしたことに関する合理的な理由の有無について検討する。
ア 会社が、原則として正社員のミキサー車運転手を置かないとしたことに関して、組合員のミキサー車運転手を会社から排除する意図があったとの疑念は払拭できないが、このことを考慮しても、業務に必要とされる生コン運転手の人数が受注状況や天候等によって日々変動すること自体は首肯でき、このような状況下で経費を抑えるために日々雇用以外の直接雇用のミキサー車運転手は置かないとすることについては、経営上の合理性がないとまではいうことはできない。さらに、本件再雇用契約が締結された時点で、会社に日々雇用以外で直接雇用されているミキサー車運転手がいたとする疎明もない。したがって、定年後の再雇用契約において、会社が当該組合員をミキサー車運転手以外の業務に就けることを不当とまではいうことができない。
また、会社が定年後に当該組合員に命じた業務を必要性のないものとも、過酷なものともいうことはできない。
以上のことからすると、当該組合員の業務内容をミキサー車運転手から新たな業務に変更したことを不合理なものということはできない。
イ 再雇用時の当該組合員の月額の賃金は、(a)基本給が定年前の8割になったこと、(b)資格給と住宅手当が支給されなくなったこと、(c)主として、これらのことにより、合計額が定年前の半額を下回っていること、が認められる。また、賞与が支払われなくなったこと、が認められる。そこで、これらのことについて検討する。
(ア)基本給が8割になったことについては、定年前は週5日勤務であったところ、本件再雇用契約では原則として週4日の勤務とされていることが認められるのだから、このことを理由に基本給が定年前の8割となっていることを不合理とはいえない。
(イ)資格給と住宅手当が支給されなくなったことについては、会社は、定年後嘱託者再雇用規程において通勤手当以外の手当を支給しない旨が定められている旨主張し、確かに、同規程には、資格給と住宅手当についての定めはないことが認められる。
しかし、正社員に適用される給与・退職金規程についてみると、資格給についての定めはなく、住宅手当についての定めはあるが、額が定年前の当該組合員に支払われていた額とは異なっていること、が認められ、定年前に当該組合員に支給されていた資格給と住宅手当は、そもそも会社の就業規則に基づいたものとはいえない。
そこで、定年前の当該組合員に資格給と住宅手当が支給されていた経緯についてみると、労使合意に基づき支給され、複数回の賃金改定を経ても、会社は、基本給の3割から4割に相当する額をそれぞれ資格給と住宅手当として常時支給していたといえる。このような資格給と住宅手当は、名称は手当とされていても実質的には何らかの資格や住宅に関連して支給される手当とはいえず、基本給そのものとまではいえないまでも、基本給に準ずるものというのが相当である。また、資格給と住宅手当の不支給による賃金減の程度も相当に大きく、定年後の再雇用による立場や職務等の変化を考慮しても看過できない水準であるというべきである。
以上のことからすると、会社が、再雇用時において、資格給と住宅手当を一切支給しないとすることには、合理的な理由があるとはいえない。
(ウ)賞与を支払わないことについては、定年後嘱託者再雇用規程には賞与を支給しない旨の定めがあることが認められるところ、賞与を支給しないと定めていることやこの規程を根拠に賞与を支給しないことを不合理であると認めるに足る疎明はない。
(3)以上のとおりであるから、会社が、組合や組合員を嫌悪していることを推認でき、資格給と住宅手当を支給しないとした取扱いについては合理的な理由はないと判断されるのであるから、かかる行為は当該組合員が組合員であるが故になされた不利益取扱いに該当する。一方、それ以外の部分については、不合理とはいえないのであるから、組合員であるが故になされた不利益取扱いとはいえない。
(4)また、通常、使用者が組合員に対し、組合員であることを故として不利益取扱いを行えば、組合員の組合活動を委縮させ、他の従業員の組合加入を抑止するなどの効果をもたらすのであるから、労働組合の運営を妨害するものにも当たるとみるのが相当である。
したがって、資格給と住宅手当を支給しないとした取扱いについては、組合に対する支配介入にも当たるというのが相当である。なお、それ以外の部分については、組合の運営を妨害したというべき特段の事情は見当たらず、組合に対する支配介入とはいえない。
(5)以上のとおりであるから、当該組合員との定年後再雇用契約に当たり、資格給と住宅手当を支給しないとした取扱いについては、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為と判断される。一方、定年後再雇用契約のそれ以外の部分については、不当労働行為に該当するとはいえず、この点についての申立てを棄却する。
3 命令内容
(1)組合員の毎月の賃金について、既支払額との差額を支払うこと
(2)誓約文の交付
(3)その他の申立ての棄却
※ なお、本件命令に対して、組合及び会社は、それぞれ、中央労働委員会に再審査を申し立てた。