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更新日:2024年7月31日

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17.W事件(令和4年(不)第54号事件)命令要旨

1 事件の概要

本件は、会社が組合からの団体交渉申入れに対して、(1)度々回答期限の延期を申し入れ、様々な理由を構えて団交に応じず、(2)団交開催を要求する組合の団体行動に110番通報するなどして介入し、(3)この団体行動に参加した組合員1名に対して、自宅待機及びそれに続く長期間のテレワークを命じたこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)組合の3回の団交申入れについて会社が団交に応じなかったことについて

ア 1回目の団交申入れについて

会社は、団交に応じなかった正当な理由として、(a)義務的団交事項ではないこと、(b)団交の場で議論すべき内容がないこと、(c)議論の前提が整理されていないこと、を挙げる。

(ア)理由(a)(義務的団交事項ではない)が正当な理由といえるかについて

a 執行役員による労働基準法第34条違反、という協議事項については、1時間の昼休憩を会社が実態として認めているかどうかにかかわらず、組合員Aの労働条件その他の待遇に関する事項であることに変わりはなく、義務的団交事項に当たる。

b 専務による組合員Aへの刑法犯呼ばわり、という協議事項については、業務中における上司の発言についての要求であり、組合員Aの労働条件に影響を与えるものであるといえるから、組合員Aの労働条件その他の待遇に関する事項に関するものといえ、義務的団交事項に当たる。

c 申立外B社社長による就労環境不全状態を会社が放置していること、という協議事項については、B社社長による会社社内での菓子の配布について、組合が求めているのは、B社社長による行為そのものの中止ではなく、労働環境整備の一環としての同行為に対する会社の対応であり、社内での行為についてB社社長に配慮を求めることなども会社は行い得たはずであるから、会社にとって処分可能なものであるといえ、義務的団交事項に当たる。

d 以上のとおりであるから、1回目の団交申入れの協議事項はいずれも義務的団交事項に当たり、前記(a)の理由は団交に応じない正当な理由とはいえない。

(イ)理由(b)(団交の場で議論すべき内容がない)が正当な理由といえるかについて

a 執行役員による労働基準法第34条違反、という協議事項については、そもそも、団交は、労使双方が同席、相対峙して自己の意思を円滑かつ迅速に相手に直接伝達することによって、協議、交渉を行うことが原則であり、特段の事情がある場合を除いて、会社による書面での回答をもって、団交をしたことにはならない。

b 専務による組合員Aへの刑法犯呼ばわり、及び、申立外B社社長による就労環境不全状態を会社が放置していること、という協議事項については、団交が一度も開催されない中で、団交において議論は平行線をたどることが予想されると会社が一方的に考えたことをもって、団交に応じなくてよいことにはならない。

c 以上のとおりであるから、団交申入れの協議事項について、団交で議論すべき内容がなかったとはいえず、前記(b)の理由は団交に応じない正当な理由とはいえない。

(ウ)理由(c)(議論の前提が整理されていない)が正当な理由といえるかについて

不明な点があれば、団交の場で組合に質問することもできるのであって、議論の前提が整理されていないとはいえず、前記(c)の理由は団交に応じない正当な理由とはいえない。

(エ)以上のことからすると、会社が1回目の団交申入れについて団交に応じなかったことに正当な理由があるとはいえず、会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たる。

ウ 2回目の団交申入れについて

会社は、団交に応じなかった正当な理由として、(a)団交の場で議論すべき内容がないこと、(b)そもそも協議事項が不明であり、組合及び会社側において協議の体制が整っていないこと、を挙げる。

(イ)理由(a)(団交の場で議論すべき内容がない)が正当な理由といえるかについて

団交が一度も開催されない中で、団交での議論は平行線をたどることが予想されると会社が一方的に考えたことをもって、団交に応じなくてよいことにはならない。

したがって、前記(a)の理由は団交に応じない正当な理由とはいえない。

(ウ)理由(b)(協議事項が不明であり協議の体制が整っていない)が正当な理由といえるかについて

1回目の団交申入れに係る団交が開催されていない状況においては、「この間の懸案事項」が1回目の団交申入れの協議事項を指すものであることは明らかである。

また、「今後の労使協議の持ち方及び便宜供与」については、将来の労使関係構築に向けた協議を求めるものであって、団交での組合の提案を受けてから検討すべきものである。

さらに、仮に、協議事項の内容に不明確な部分があったとしても、事前に組合に確認したり、団交の場で組合に質問したりすることもできるのであって、組合の要求事項が会社にとって不明確であることを理由に、会社の団交応諾義務が免ぜられるものではない。

したがって、前記(b)の理由は団交に応じない正当な理由とはいえない。

(エ)以上のことからすると、会社が2回目の団交申入れについて団交に応じなかったことに正当な理由があるとはいえず、会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たる。

エ 3回目の団交申入れついて

会社は、団交に応じなかった正当な理由として、(a)団交の場で議論すべき内容がないこと、(b)そもそも協議事項が不明であり、組合及び会社側において協議の体制が整っていないこと、を挙げる。

(ア)理由(a)(団交の場で議論すべき内容がない)が正当な理由といえるかについて

会社は、過去の団交の場で話した事実以上の事実はないから、団交の場で議論すべきものがない旨主張するが、過去の団交におけるやり取りの内容は明らかではなく、3回目の団交申入れの協議事項について、議論の余地がなくなっていたと認めるに足る事実の疎明はない。

むしろ、過去の団交の後も、3回目の団交申入れの協議事項に関連するやり取りがなされていたことからすれば、過去の団交が終了した時点において、3回目の団交申入れの協議事項について、交渉が決裂して、再度交渉したとしても進展が見込めない状態に至っていたとはいえない。

したがって、前記(a)の理由は団交に応じなかった正当な理由とはいえない。

(ウ)理由(b)(協議事項が不明であり協議の体制が整っていない)が正当な理由といえるかについて

a 賃金の決定方法及び組合員Aへの窃盗犯呼ばわりという協議事項について

会社は、議論以前に、そもそも団交の場で組合が提出すると約束した書面が提出されていないから、議論の前提が整っていない旨主張するが、3回目の団交申入れの前に開催された団交において、これらの協議事項について、組合が何らかの書面を会社に提出することを約束したと認めるに足る事実の疎明はなく、会社の主張は前提を欠く。そもそも、会社が提出を求めた書面を事前に組合が提出しないとしても、その点については団交で組合に質すことができるのであるから、団交開催の支障になるとはいえない。

b 上記付随事項及び自宅待機・テレワーク命令という協議事項について

会社は、協議事項の具体的事項が漠然不明確であり、会社として話合いのための準備のしようもないことから、当該協議事項のままでは団交を開催する体制が整っていないことが明らかである旨主張するが、協議事項の内容に不明確な部分があるのであれば、事前に組合に確認すればよく、組合の要求事項が会社にとって不明確であることを理由に会社の団交応諾義務が免ぜられるものではないから、会社の主張は採用できない。

c 以上のとおりであるから、前記(b)の理由は団交に応じなかった正当な理由とはいえない。

(エ)以上のことからすると、会社が3回目の団交申入れについて団交に応じなかったことに正当な理由があるとはいえず、会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たる。

オ 以上のとおりであるから、3回の団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

(2)団交開催を求める組合の行動(サイレントスタンディング)に対する会社の対応について

ア 組合が、団交開催を求める示威行動として、組合員ら7名が会社前でプラカードを掲げて立つ本件サイレントスタンディングを行い、この間、これに参加している組合員らと課長の間でやり取りがあったことが認められる。

イ 課長の組合員らに対する発言は、会社の業務に支障が生じるのを避けるためになされたものであるとみるのが相当であって、組合活動としての本件サイレントスタンディングに介入し、これを制止又は阻止しようとしたものとみることはできない。

そのほか、本件サイレントスタンディングに対する課長の対応が、組合の運営に何らかの影響を与えたと認めるに足る事実の疎明はない。

したがって、課長の発言が本件サイレントスタンディングに介入するものであったとはいえない。

ウ 以上のとおりであるから、本件サイレントスタンディングに対する課長の対応は、会社による組合活動に対する支配介入に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

(3)組合員Aに対して自宅待機及びテレワークを命じたことについて

ア 不利益な取扱いに当たるかについて

本件自宅待機及び本件テレワークの期間中、組合員Aは、本来自分が担当すべき業務の一部しか行えない環境が1か月以上続くのであるから、精神的な不利益を被ったといえ、本件自宅待機命令及び本件テレワーク命令は、不利益な取扱いに当たる。

イ 正当な組合活動をしたことの故をもってなされたものであるかについて

(ア)本件サイレントスタンディングが正当な組合活動といえるかについて

a 組合が組合員Aの労働条件その他の待遇に関する事項に関して会社に団交の開催を求めることは、組合の通常の活動の範囲内のものであるといえるから、本件サイレントスタンディングに目的の正当性及び必要性は認められる。

b 本件サイレントスタンディングの態様及び方法に問題があったとはいえない。

c 本件サイレントスタンディングの中で、組合員らが仕入業者の出入りを阻止する行為があったなどの事実は認められない。また、本件サイレントスタンディングは、勤務時間外に短時間で行われたものであり、特段、会社の業務に支障を生じさせたものとはいえない。

d 以上のことからすると、本件サイレントスタンディングは、正当な組合活動であったといえる。

(イ)本件自宅待機命令及び本件テレワーク命令と本件サイレントスタンディングとの関連について

(a)本件自宅待機命令と本件テレワーク命令は、いずれも本件サイレントスタンディングと時期的に近接してなされたということができること、(b)会社が、本件サイレントスタンディングを見て恐怖を感じて体調を崩した従業員がいたことに言及していること、からすると、本件自宅待機命令及び本件テレワーク命令は、いずれも本件サイレントスタンディングに関連してなされた措置とみるのが相当である。

(ウ)労使関係について

本件自宅待機及び本件テレワークが命じられた当時、組合と会社の労使関係は、組合員Aの処遇や本件サイレントスタンディングの是非をめぐって鋭く対立する状況にあったものとみることができる。

(エ)このように、本件自宅待機命令及び本件テレワーク命令は、組合員Aの処遇や本件サイレントスタンディングの正当性をめぐって組合と会社の労使関係が鋭く対立する状況において、正当な組合活動である本件サイレントスタンディングをしたことの故をもってなされたものであると言わざるを得ない。

エ 本件自宅待機及びテレワークを命じた理由について

(ア)本件自宅待機命令の理由について

会社は、従業員の中に、本件サイレントスタンディングを見て恐怖を感じ、当日出社できないばかりか病院にも通うことになった者がいたため、就業規則に基づき、職場秩序維持の観点から発せられたものである旨主張する。

しかしながら、本件サイレントスタンディングは組合が行ったものであって、組合員Aが個人として行ったものではない。また、本件サイレントスタンディングにおいて組合員Aが、殊更、積極的な役割を果たしていたとは認められない。そうすると、組合員Aが本件サイレントスタンディング後に社内で勤務することが、従業員に出社できないほどの恐怖を感じさせるものであったとは考え難い。

こうした状況の中で、組合員Aに対して、職場秩序維持の観点から自宅待機を命じる必要性があったとみることはできない。

(イ)本件テレワーク命令の理由について

会社は、同理由について、上記従業員の体調が落ち着くであろうと考えられる日を期限として、指揮命令権に基づいて発せられたものである旨主張する。

しかしながら、別の従業員が、本件テレワーク命令の理由について「コロナ関係の自宅待機」と説明した事実が認められるのであって、この事実と矛盾する会社の上記主張は、不合理であり、採用できない。

また、1か月以上という長期間にわたって組合員Aにテレワークを命じる必要性は必ずしも明らかではない。

(ウ)したがって、会社が組合員Aに本件自宅待機及び本件テレワークを命じたことに、正当な理由はない。

オ 以上のことを総合すると、会社が組合員Aに対して本件自宅待機及びテレワークを命じたことは、正当な組合活動をしたことの故をもってなされた不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

カ また、唯一の組合員である組合員Aを職場から排除するとともにその組合活動を萎縮させるものといえるから、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

3 命令内容

(1)団交応諾

(2)誓約文の手交

(3)その他の申立ての棄却

 

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