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更新日:2024年5月24日

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8.T事件(令和4年(不)第32号事件)命令要旨

  1. 事件の概要
    本件は、組合が会社に、賃金の支給を止めている理由の開示等を求めて団体交渉を申し入れたところ、会社は、組合が会社の代表取締役を正当な代表取締役と認めていないこと等を理由として団交に応じなかったこと、が不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
  2. 判断要旨
    • (1)本件団交申入れにおける要求事項が義務的団交事項に当たるかについてみる。
      本件団交申入れにおける要求事項は、分会員らの賃金に関すること及び組合員らの労働条件その他の待遇に関する事項であり、義務的団交事項に該当するといえる。
      そうすると、会社が正当な理由なく、団交申入れに応じなければ、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為となるので、会社の主張を以下順に検討する。
    • (2)まず、組合がA社長を会社の「代表者」と認めていない以上、A社長の行為(「団交」と称する申入れに応じないこと)を「使用者である会社の行為」とすることは自己矛盾であり、会社に不当労働行為責任を問うことはできない旨の会社の主張については、本件申立てにおける会社が現に組合員の雇用主であることについて当事者双方に争いはなく、会社が団交を拒否したことは明らかであるから、会社のこの主張は採用できない。
    • (3)次に、労働組合が代表者と認めない者に対して「団交」と称して申し入れたとしても、それはそもそも有効な団交申入れと評価することはできない旨の会社の主張については、A社長は、現に、会社の代表者として従業員である分会員らに対し、その権限を行使しており、組合はそのA社長をあて名とする団交申入書を提出して、本件団交申入れを行っているのだから、本件団交申入れが無効になるとまではいえず、会社のこの主張は採用できない。
      会社の労働協約が締結不能との主張については、組合と会社との間で有効な労働協約が締結できない状況にあったとまではいえず、会社のこの主張は認められない。
    • (4)さらに、会社は、会社が団交を拒否したことについて、(a)組合が、A社長を代表者と認めていないので協議が著しく困難である旨、(b)団交の目的である労働協約の締結ができない旨、(c)分会員らはA社長の指示に従わないので、団交によって問題を解決できる状況にない旨、(d)組合が団交の前提となる労使の信頼関係を悪意で破壊した旨、という4点を正当理由として主張するので、以下それぞれについて検討する。
      • ア まず、正当理由(a)についてみる。
        組合は、A社長を代表取締役と明記した本件団交申入書をもって、会社に団交を申し入れたものといえる。
        また、会社の代表者としての権限を行使しているA社長は、本件団交申入れにおける要求事項について協議や説明等行うことは可能であり、たとえ組合がA社長を会社の正当な代表者として認めていないとしても、組合とA社長との間で有効な協議は可能であったといえる。
      • イ 次に、正当理由(b)についてみる。
        本件団交申入書の要求事項のうち、合意に達すれば労働協約を締結する可能性がある要求事項については、そもそも、組合側ではなく会社側に義務を負わせるような内容の合意を求めるものであり、そうだとすれば、合意に至った事項を、A社長が会社の正当な代表者ではないとして、組合側から有効なものではないと評したり、覆滅させたりすると考えることは現実的ではないといえる。
        したがって、上記労働協約が締結不可能であったり、労働協約としての意義を持ち得なかったりするという会社の懸念のみをもって、団交を行っても意義を持ち得ないものであるとしてそれを団交拒否の正当理由とすることは認められない。
      • ウ さらに、正当理由(c)についてみる。
        分会員らがA社長の指示を聞かないことをもって、どうして団交によって問題を解決できる状況にないことになるのかについて、会社の主張は明確でない。
        そのうえ、本件団交申入書の要求事項は、分会員らの賃金に関すること、会社の経営状況や業務の運営方針などの説明を求めるものであるのだから、このことが団交によって問題を解決することを妨げるとみることはできない。
      • エ 最後に、正当理由(d)についてみる。
        会社と組合との間の信頼関係が破壊されたとの会社の主張は、一定理解できる。
        しかしながら、本件団交申入書記載の要求事項に関しては、組合と会社で団交を行うべき必要性は高い状況にあるといえ、団交を拒否することが正当化されるとまで判断することはできない。
      • オ 以上のとおりであるから、会社の主張(a)から(d)は、団交を拒否する正当な理由として認めることはできず、この点に係る会社の主張は採用できない。
    • (5)以上のとおりであるから、会社は、本件団交申入書に係る団交申入れに対し、正当な理由なく応じなかったのであり、かかる行為は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
  3. 命令内容
    • (1)団交応諾
    • (2)誓約文の交付
      ※なお、本件命令に対して、会社は、大阪地方裁判所に取消訴訟を提起した。

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