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12.A事件(令和5年(不)第48号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、新型コロナウイルス感染症拡大により、 協同組合が、組合員全員が所属するコールセンターの職員にのみ休業指示を行い、休業していない他部署の者にのみ業務負担増を理由とする月額2万円の手当を支給したこと及び月額2万円の手当に関する団体交渉において、合理的な説明を行わないなどの不誠実な対応を行ったこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)協同組合が、組合員が所属するコールセンターの職員に対し休業を命じる一方、休業していない職員に対し、月額2万円の手当を支給したことに係る申立ては、労働組合法第27条第2項の申立期間を徒過していないといえるかについて
ア 本件休業命令及び本件手当の支給は、いずれの行為も行為の日から1年以上経過して申し立てられたことは明らかである。
イ この点、組合は、協同組合が意図的に隠して本件手当を支給したことで、労働組合法第7条第1号違反に気づかなかったのであり、知った時点ですぐに交渉を申し入れ、差額支給を求めているのであるから、救済の対象とするべきである旨主張するが、労働組合法第27条第2項は、申立人側からの申立権消滅の規定ではなく、労働委員会は行為の日から1年を経過した事件の審査権限がないとしている規定であるので、申立期間は、組合の知、不知に関わらず、「行為の日」から進行すると解される。
また、本件休業命令や本件手当の支給が継続して行われていたとの事実の疎明もない。
ウ 以上のとおりであるから、協同組合が、組合員が所属するコールセンターの職員に対し休業を命じたこと及び本件手当を支給したことに係る申立ては、申立期間経過後の申立てであるので、その余を判断するまでもなく、却下する。
(2)団交における協同組合の対応は、不誠実団交に当たるかについて
ア 組合による協同組合への要求事項は、組合員に対する本件手当と同額の一時金等の支給であったといえる。
本件手当と同額の一時金等の支給は、労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、協同組合に処分可能なものに当たり、義務的団交事項に当たるといえる。
イ 組合は、1回目の団交において、(a)本件手当の支給に至った経過についての協同組合の説明が二転三転したこと、(b)協同組合が、総務・保険部門を休業させられない理由について、誠実に対応していないこと、2回目の団交において、協同組合が、交渉を明確に拒否したこと、3回目の団交において、協同組合が、交渉拒否を明言したこと、がそれぞれ不誠実団交に当たる旨主張するので、以下検討する。
ウ 1回目の団交についてみる。
(ア)協同組合は、本件手当の支給に至る経緯について、説明は前後しながらも、具体的に時系列に沿って説明しようとしており、その説明の内容は、一貫したものであり、二転三転しているとはいえない。
(イ)協同組合は、組合の質問に対し、それぞれ回答しており、総務・保険部門を休業させられない理由について、組合の理解を得られるように業務実態や総務・保険部門の人数といった根拠を示しながら一定説明しているといえ、組合の質問に対し、全く的を射ない回答をしているとまではいえない。また、組合が、総務・保険部門を休業させられない理由について、さらに具体的に追及したと認めるに足る事実の疎明はなく、組合の追及の程度に応じたものであったといえる。
(ウ)以上のとおりであるから、1回目の団交における協同組合の対応は、不誠実団交であったとはいえない。
エ 次に、2回目の団交における協同組合の対応についてみる。
(ア)本件手当の支給について、協同組合は、交渉しないことを明言しており、2回目の団交において、協同組合が、本件手当の支給に係る交渉を拒否しているといえる。
(イ)この点、協同組合は、本件手当と同額の一時金等の支給に係る申入れについて、それには応じられないと何度も説明をしているが理解してもらえず、双方に譲歩の余地がないことは明確で団交を打ち切ったとしても正当な理由がある旨主張する。
しかし、本件手当と同額の一時金等の支給に係る議題について、1回目の団交で組合が継続協議を求めていたにもかかわらず、2回目の団交冒頭で前に話をしたので話はしないと述べ、これに対し、組合が、同額の一時金を支給してほしいということを要求している旨述べても、それはしない旨述べるのみで、その理由について説明をしていないといえる。
その後も、本件手当と同額の一時金等を支給できないことについて、根拠を示し、具体的な説明を行っているとはいえない。また、組合から雇用調整助成金の額の決め方や計算方法を尋ねられても具体的な回答を行っていない。
そもそも、雇用調整助成金は、雇用の維持を図るために要した休業手当等の一部を助成する趣旨のものであって、休業を命じられていない労働者に対しての手当支給が、当然に予定されているとまではいえない。そのため、組合が雇用調整助成金の取扱いに疑問を持つことは当然であり、協同組合は、休業していない労働者に本件手当を支給した取扱いについて、具体的に説明すべきであったといえる。
しかしながら、協同組合は、1回目の団交において、本件手当の支給については、社労士や色々な所に相談して、助成金の中でそれをするのであれば別に問題はないのではないかとなったと説明したにとどまり、2回目の団交においても、それ以上の説明は行っていない。
(ウ)以上のとおりであるから、協同組合は、組合に対して、雇用調整助成金の取扱いについて十分に説明を行っているとはいえず、団交が、本件手当と同額の一時金等の支給に係る2回目の団交であることを踏まえると、双方に譲歩の余地がないといえるほど、交渉が行き詰まりに達していたとはいえないのであるから、2回目の団交における協同組合の対応は、不誠実団交に当たる。
オ 最後に、3回目の団交における協同組合の対応についてみる。
(ア)組合が、協同組合に対し、本件手当の支給を判断した理由について聞いているのに対し、協同組合は、回答せず、本件手当と同額の一時金等の支給に係る交渉を拒否しているといえる。
(イ)この点、協同組合は、協同組合において雇用調整助成金の取扱いについて十分な説明が行われており、それにも関わらず同様の交渉を断っても、不当な交渉拒否には該当しない旨主張する。
しかし、協同組合から組合に送付された回答書においては、雇用調整助成金の取扱いについて、1回目の団交と同様の回答にとどまっていたといえる。その後開催された2回目の団交においても、理事長が、判断したのは自分である旨述べたにとどまり、その他に説明を行ったとの疎明もなく、その後、協同組合は、この話は取り出さないでほしいなどと述べ、一切の説明を行っていない。また、前記エ(ウ)判断のとおり、2回目の団交において、協同組合は、雇用調整助成金の取扱いについて十分な説明を行っているとはいえないのであるから、この点について十分な説明が行われていたとはいえない。
(ウ)以上のとおり、3回目の団交における協同組合の対応は、不誠実団交に当たる。
カ 以上のとおりであるから、1回目の団交における協同組合の対応は、不誠実団交に当たるとはいえないものの、2回目の団交及び3回目の団交における協同組合の対応は、不誠実団交に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
3 命令内容
(1)手当支給に係る申立ての却下
(2)誠実団交応諾
(3)誓約文の手交