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6.K事件(令和3年(不)第20号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、組合の支部代表を含む組合員2名について、学校法人が、(1)雇用契約更新を協議事項とする団体交渉が継続中であるにもかかわらず雇止め通知書を組合の頭越しに同組合員らに送付したこと、(2)団交において雇止めの合理的な理由を説明しなかったこと、(3)雇止めにしたこと、がそれぞれ不当労働行為に当たるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)学校法人が、団交の継続中に雇止め通知書を組合員らに送付したことについて
- ア A支部代表及びB組合員の雇止めについては、団交において学校法人が研究業績書の提出を求め、組合員らがこれに応じて提出し、その後、団交が行われているのであるから、学校法人が組合員らに雇止め通知書を交付した時点では、これを議題とする団交が継続中であったものとみるのが相当である。
- イ しかしながら、組合員の雇止めに関する事前協議について何らかの合意が成立していた事実は認められないのであるから、同通知書の交付に先立って組合に協議を求める法的な義務が学校法人にあったとまではいえない。
- ウ また、学校法人が同通知書を交付した後の団交において、学校法人は雇止めの理由等について回答し、さらに、雇止めは保留中である旨述べ、その後、最終的には組合の要求は受け入れられていないものの、団交において交渉が行われたことが認められる。また、雇止め通知について行われた交渉における学校法人の対応は不誠実とはいえない。
そうすると、団交の前日に同通知書を組合員らに交付した学校法人の対応は、組合との交渉を回避したものとはいえない。 - エ 以上のことからすると、学校法人が組合員らに雇止め通知書を送付したことは、組合及び組合活動への信頼を失墜させるものとも、組合活動をないがしろにするものともいえないから、組合に対する支配介入に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。
(2)団交における学校法人の対応について
- ア 担当科目の適合性の判断を依頼した外部専門家の存在について明らかにしなかったとの組合の主張について
外部専門家について、学校法人は、その個人名までは明らかにしていないものの、その所持する学位及び資格並びに携わっている科目について説明するとともに、個人名を明らかにできない理由についても、事例を具体的に挙げて、そうした事態を避けるためであることを説明しているということができ、学校法人の対応が不誠実団交に当たるとの組合の主張は、採用できない。 - イ 雇止め理由の正当性について十分な説明がなかったとの組合の主張について
学校法人は、(ア)A支部代表の雇止め理由については、組合からの質問に対して、十分とまでは言い切れないものの、逐一、根拠を示しながら回答をし、組合の求めに応じて、理由の正当性について、改めてまとめの回答をしているものということができ、意図的に回答を回避したものとはいえないこと、(イ)B組合員の雇止め理由については、組合からの質問に対して、逐一、根拠を示しながら回答をし、組合からの求めに応じて、理由の正当性について、改めてまとめの回答をし、組合のさらなる質問に対しても、一定の回答をしていること、(ウ)学位及び研究業績がないことについては、組合からの質問に対して、逐一、根拠を示しながら回答していること、から、学校法人の対応が不誠実団交に当たるとの組合の主張は、採用できない。 - ウ 雇止めを回避するための代替案を提示しなかったとの組合の主張について
学校法人は、具体的な代替案の提示はないものの、組合からの質問に対して、具体的な根拠を示して一定の回答をしているということができ、学校法人の対応が不誠実団交に当たるとの組合の主張は採用できない。 - エ 以上のとおりであるから、かかる学校法人の対応は、不誠実団交に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。
(3)学校法人が、A支部代表を雇止めにしたことについて
- ア 雇止めが身分上及び経済上の不利益を伴うものであることはいうまでもない。
そこで、A支部代表の雇止めが組合活動を理由としてなされたものであるかについてみる。 - イ 雇止め理由について
- (ア)担当科目と研究業績の不一致について
- a 学校法人が、短大の専任講師であるA支部代表の科目担当の適否を検討するに当たって、学位又は研究業績を有することを基準とすることは、不合理とはいえない。
- b この点、組合は、(a)教員選考基準により採用され勤務をしてきたA支部代表が短期大学設置基準に抵触する事実はない、(b)A支部代表が当該科目を担当することは、教授会で承認されている、(c)いずれの雇止め理由も文書化、規約化されたものが存在せず、組合員以外に査定を受けたものは存在しない、(d)基準に抵触する科目担当者が多数存在し、同基準は組合員だけに設けられたものである、(e)従前の担当科目に関して問題の指摘や改善要望が出された事実がない、旨主張する。
しかし、(a)、(b)及び(e)については、A支部代表の科目適合性の検討はカリキュラムの見直しの一環としてなされたものとみられるのであるから、科目を担当する教員としての適否について、従前の経緯にとらわれることなく改めて検討することが、不合理とはいえない。
また、(c)については、文部科学省及び学校法人の基準の規定に基づいて検討がなされている。そして、契約更新時期に鑑みて面談の順序を優先したとの学校法人の主張に不合理な点はない。
さらに、(d)については、組合員らとは事情が異なる実技担当教員や学長の事例をもって、組合員だけに設けられた基準であるとまでいうことはできず、この点に係る組合の主張は、採用できない。 - c したがって、学校法人が、A支部代表について、学位又は研究業績に該当するものがなく、担当科目と研究業績が一致していないとした学校法人の判断は、不合理ではない。
- (イ)専任講師としての不貢献について
団交において、学校法人が、A支部代表らには現状の業務内容以上求めない旨の発言をした事実が認められるものの、学校法人が、A支部代表に対して業務を担当することへの期待を断念したとはいえないことからすると、学校法人が、A支部代表が特任教員時代以上に短大の運営に貢献していないと判断したことは、不合理ではない。 - (ウ)短大運営に対する非協力的態度について
学校法人は、A支部代表の非協力的態度として、(a)教授会での論文盗用疑惑について審議するようにとの発言、(b)論文盗用疑惑調査での資料提出拒否、(c)論文盗用疑惑調査の学外委員長に直接連絡したこと、(d)A支部代表によるハラスメントの調査に協力しないこと等を挙げる。
上記記載の言動のうち、(a)については、正式に却下された論文盗用疑惑の資料を、教授会終了後とはいえ、その場で配付したものであるし、(b)及び(c)については、調査の公正な実施を妨げるものであり、また、(d)については、自らが対象となった調査への協力を拒否したものであって、学校法人が、これら行為を短大運営に対する非協力的な態度と判断したことは、不合理とまではいえない。
したがって、学校法人が、A支部代表のこれら行為を、短大運営に対する非協力的態度と判断したことは、不合理ではない。 - (エ)以上のことからすると、学校法人が以上の3点をA支部代表の雇止め理由としたことは、不合理ではない。
- (ア)担当科目と研究業績の不一致について
- ウ 非組合員との取扱いの均衡について
学校法人は、雇用契約が終了する教員3名のうち、組合に加入していない1名の教員に対してのみ、早期に面談を行って、雇用契約の更新を決定したものとみることができるところ、保健教員は絶対数が少ないため早期に面談を行い、契約を更新したにすぎない旨の学校法人の主張が不合理とはいえないことからすると、面談について、学校法人が組合員に対してのみ殊更に、異なる取扱いをしたとはいえない。 - エ 当時の労使関係について
組合と学校法人の間には、組合加入通知から雇止め通知に至るまでの間、留学生募集業務の中止をめぐって一定の緊張関係にあったことは認められるものの、留学生募集業務の中止は、労働条件や労使関係に関する事項というよりは、むしろ短大の運営方針に関する事項というべきであり、このことに、学校法人が団交を拒否することなく8回にわたって行ったことを併せ考えると、雇止めが決定された当時、労使関係における対立があったとまではいえない。 - オ A支部代表の雇止め通知の時期について
団交の前日に雇止め通知書を交付した学校法人の対応が組合との交渉を回避したものとはいえないことは、前記(1)ウ判断のとおりである。 - カ 以上のことからすると、学校法人がA支部代表を雇止めとしたことは、不当労働行為意思をもってなされたものとはいえず、したがって、組合活動を理由とする不利益取扱いに当たるとはいえない。
また、A支部代表を雇止めとしたことが、組合活動を理由とする不利益取扱いに当たらないことは上記判断のとおりであるから、支部を構成する組合員が1名となったことをもって組合弱体化を狙ったものとはいえず、組合に対する支配介入に当たるとはいえない。
よって、この点に係る組合の申立ては、棄却する。
(4)学校法人が、B組合員を雇止めにしたことについて
- ア 雇止めが身分上及び経済上の不利益を伴うものであることはいうまでもない。
そこで、B組合員の雇止めが組合活動を理由としてなされたものであるかについてみる。 - イ 雇止め理由について
- (ア)担当科目と研究業績の不一致について
- a 学校法人が、B組合員の担当科目の科目適合性を検討するに当たって、学位又は研究業績を有することを基準とすることは、短期大学設置基準に準じたものといえ、不合理とはいえない。
- b また、B組合員の研究業績が学校法人の選考基準の「学術論文2篇以上の業績を有する者」との基準を満たさないと判断したことが、不合理とまではいえない。
- c 以上のことからすると、学校法人が、B組合員について、担当科目と研究業績の不一致を理由に、担当科目について研究業績と科目適合性がないと判断したことは、不合理とはいえない。
- (イ)職務遂行上の日本語能力の不足
学校法人が専任教員であるB組合員に対して教授会での議論に参加できる水準の日本語能力を求めること自体は、不合理とはいえず、学校法人が、B組合員について、職務遂行上の日本語能力が不足していると判断したことは、不合理とはいえない。 - (ウ)以上のことからすると、学校法人が以上の2点をB組合員の雇止め理由としたことは、不合理であるとはいえない。
- (ア)担当科目と研究業績の不一致について
- ウ 非組合員との取扱いの均衡について
学校法人が組合員に対してのみ殊更に異なる取扱いをしたとはいえないことは、前記(3)ウ判断のとおりである。 - エ 当時の労使関係について
雇止めが決定された当時、労使関係における対立があったとまではいえないことは、前記(3)エ判断のとおりである。 - オ B組合員の雇止め通知の時期について
団交の前日に雇止め通知書を交付した学校法人の対応が組合との交渉を回避したものとはいえないことは、前記(1)ウ判断のとおりである。 - カ 以上のことからすると、学校法人がB組合員を雇止めとしたことは、不当労働行為意思をもってなされたものとはいえず、したがって、組合活動を理由とする不利益取扱いに当たるとはいえないから、この点に係る組合の申立ては、棄却する。
3 命令内容
本件申立ての棄却