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10.S事件(令和5年(不)第33号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、降格と賃金カットを通告された組合員1名について、(1)組合と会社との間で団体交渉が開催されたが、組合が早期決着に向けた条件提示をしたところ、会社は、現実的な和解案を貰っておらず、協議が平行線になっているので団交に応じる予定はない旨返答し、その後の団交申入れに応じないこと、(2)組合がビラを配布したことに関して、会社は組合に対し損害賠償請求を行うとの記載を含む警告書を交付したこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)組合の団交申入れに対する会社の対応について
ア 会社は、組合が、未払い残業代の支払いに拘泥するのであれば、団交を開催しても、全く話合いは進まず、平行線となることは明らかであり、本件団交申入れの拒否には正当な理由が認められる旨主張する。
イ しかし、組合は、当初は当該組合員が継続勤務することを目指していたが、本件団交申入れにおいては、早期の解決に向けて「退職条件」として、未払い残業代相当分、退職慰労金分、慰謝料分を内訳とする解決金を求める提案を行っている。退職前提の解決金については初めての提案であり、特に退職慰労金分、慰謝料分については、一切協議はなされていない。
さらに、未払い残業代相当分についても、それまで組合が要求していた未払い残業代とは性格が異なるものといえ、この点について協議を尽くしたとはいえない状況である。
その後、引き続き組合は団交開催を求めたが、会社は、現実的な和解案がなく双方の主張が平行線になっているため団交に応じない旨、繰り返し回答し、団交は開催されなかったことが認められる。
ウ 以上のことから、組合が提示した解決金についての協議は、団交の場では全く行われていないとみるべきであり、団交が平行線で合意到達の見込みがない状態に至っていたとはいえない。
したがって、本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるといえる。
エ また、会社の回答書には、会社が組合との団交に応じるには現実的な和解案が必要である旨記載されているが、組合の要求事項は、組合が自由に決定すべきものであるところ、仮に組合の要求が、会社にとって現実的でなく受け入れられない内容であったとしても、それは団交においてその旨を説明すべきである。会社にとって現実的な要求を提示することを団交開催の条件とすることは、不当に組合の要求内容を制限するものといえ、もって組合の団交機能を制限するものといえる。
そもそも会社は、上記アからウのとおり正当な理由のない団交拒否を行っており、会社の当該対応は、組合の団結権を否認するものとして、組合を軽視し、組合の活動を妨害するものといわざるを得ず、支配介入に当たるといえる。
オ 以上のとおりであるから、本件団交申入れに対する会社の対応は、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為である。
(2)組合のビラ配布に対する会社の対応について
ア 組合がビラを配布した後、会社が、組合に対し、交付した警告書には、(1)ビラが取引先会社に直接送付されていると指摘したうえで、(2)ビラを直接送付する行為は明らかに違法な組合活動に該当するとし、このような行為を行わないように警告するとともに、(3)違法な組合活動により取引先との取引が停止した場合には、組合及び当該組合員に損害賠償を請求するので留意するよう記載されていることが認められる。
これについて、組合は、組合が取引先会社に本件ビラを直接送付したという事実を否定しているところ、組合が取引先会社に直接送付したと認めるに足る事実の疎明もない。
イ そうすると、会社は、事実を具体的に確認することなく、組合が本件ビラを取引先会社に送付したと決めつけ、これが違法な組合活動であるとして損害賠償請求の対象となると警告したのであるから、この警告書の交付は、組合に、他の組合活動も損害賠償請求の対象となり得るとの恐れを抱かせるものであり、組合が活動に慎重にならざるを得なくなるのは当然といえる。
したがって、会社が、組合に対し、警告書を送付したことは、威嚇や報復の示唆などにより、不当に組合活動を萎縮させ弱体化させるものであったといえる。
ウ 以上のとおりであるから、会社が、警告書を組合に送付したことは、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
3 命令内容
(1)団交応諾
(2)誓約文の手交
※ なお、本件命令に対して、会社は中央労働委員会に再審査を申し立てた。