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2.T事件(令和4年(不)第28号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、組合員の雇用主と業務委託契約を締結している委託元会社が、組合からの団体交渉申入れに応じないことが不当労働行為に当たるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
- (1)本件の委託元会社が、組合員の労働組合法上の使用者に当たるかについて、検討する。
労働組合法第7条にいう「使用者」とは、一般に労働契約上の雇用主をいうが、雇用主以外の事業主であっても、当該労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、同条にいう「使用者」に当たると解するのが相当である。そこで、委託元会社が、組合員の基本的な労働条件について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるかについて、みる。- ア まず、資本関係や役員などの人的関係において、委託元会社が雇用主に影響力を及ぼしうると認めるに足る事実の疎明はない。
- イ 次に、組合は、委託元会社が組合員と雇用主との雇用契約に介入し、組合員の地位喪失に強い影響力を及ぼしたと主張する。
しかしながら、組合がその理由としてあげる雇用主人事担当者の発言については、その内容を裏付ける事実の疎明はない。また、委託元会社が雇用主に組合員に関するクレームや指示を行い、それによって雇用主が組合員への対応を決定したと認めるに足る疎明はない。 - ウ なお、組合は、委託元会社からの指示や関与として、本件業務の事前研修が、委託元会社社員により行われていた旨主張するが、研修の実施主体が雇用主と委託元会社のどちらであるかにかかわらず、事前研修の講師を委託元会社社員が行うことのみをもって、委託元会社に雇用管理に係る決定権について雇用主と同視できる程度の支配力があったとまでいうことはできない。
- エ また、雇用主の従業員に対する労務管理や、欠勤者が出た時の要員確保は、雇用主が行う旨定められているところ、これに反する実態があったとの主張、立証はなく、この点においても委託元会社が関与する余地はないとみるべきである。
- オ これらのことからすると、委託元会社は、資本関係及び人的関係の点でも、雇用主に何らかの影響を及ぼしうる立場にあったとはいえず、また、雇用主が、組合員の雇用契約終了を判断した過程において、委託元会社から雇用主に対して、何らかの働きかけがあったことを裏付ける事実の疎明はない。よって委託元会社が組合員に対し雇用主と同視できる程度の支配力を有していたとはいえない。
- カ 以上のとおりであるから、委託元会社は、組合員の労働組合法上の使用者に当たるとはいえない。
- (2)したがって、組合の本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たらず、この点に関する組合の申立ては棄却する。
3 命令内容
本件申立ての棄却
なお、本件命令に対して、組合は中央労働委員会に再審査を申し立てた。