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更新日:2025年1月31日

ページID:100026

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14.S事件(令和5年(不)第69号及び同年(不)第70号併合事件)命令要旨

1 事件の概要

本件は、団体交渉における対応と分会長に対する懲戒処分が不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。

2 判断要旨

(1)団交における医療法人の対応について

ア 本件において、組合が、義務的団交事項である昇給問題について団交申入れを行ったことは明らかである。

イ 使用者には、義務的団交事項についての労働組合からの要求を真摯に受け止め、応じ難い場合にも、団交において、その理由について説明を尽くし誠意をもって協議に応じる義務があり、これを果たしていなければ、不誠実団交に当たると判断される。また、使用者が説明を尽くしたか否かを判断するに当たっては、団交における一部のやり取りのみではなく、そこに至る経緯も併せて考慮する必要があるというべきである。

ウ 本件団交の2回前の団交までは、医療法人は、経営状況を理由に、組合からの昇給の要求には応じ難いと返答していたのに対し、組合は、昇給ができないほど経営状況は悪くないとして、引き続き、一律の昇給を要求していたといえる。

そして、本件団交の1回前の団交以降についてみると、一律の昇給を要求した申入れから約半年が経過した段階で、医療法人は、突然、同法人が属するグループとして一律で昇給する考え方を取っていないことを組合の要求に応じない理由として挙げ、これに対し、組合は、基本給を一律5%昇給するか、それに代わる提案をすることや当該グループの方針に従わなければならない規約やそれに類するものがあるのであれば、明示することを要求したことが認められる。

エ このような経緯を経て開催された本件団交において、医療法人は、当該グループではなく同法人として一律の昇給はしない方針である、同法人は当該グループに属していない旨述べ、再度、これまでとは異なる方針を挙げたというのが相当である。さらに、組合が、その方針を採用する理由を尋ねたのに対し、医療法人は、哲学である等と述べるにとどまり、具体的な説明は行わなかったというべきである。

オ したがって、医療法人は、組合からの要求に応じない理由について説明を尽くしたとは到底いえず、かかる対応は、誠意をもって協議を行ったものには当たらない。本件団交における医療法人の対応は、不誠実団交に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為と判断される。

(2)分会長に対する懲戒処分について

ア 不利益取扱いについて

(ア)本件分会長処分は就業規則の懲戒の定めに従って出勤停止としたものであるから、不利益性があることは明らかである。

(イ)医療法人は、本件分会長処分の主たる理由は、本件ビラの作成及び配布であるとした上で、本件ビラの作成及び配布は正当な組合活動の範囲外であると主張する。

(ウ)そこで、本件ビラについてみると、組合は指名ストライキの際に本件ビラを配布しており、その内容を総じてみると、昇給を求めて労使協議を行ってきたが、利益が出ているにもかかわらず医療法人が一切妥協しようとしないためストに至ったとして、医療法人の対応を非難するとともに、組合の立場から患者を含む一般の人に、ストに対する理解や支援を呼びかけるものということができる。

そうすると、本件ビラは、労働者の経済的地位の向上といった労働組合の活動目的に沿った言論活動の一環として配布されたものというのが相当であって、労働組合の団体行動権や表現の自由に基づくものとして、尊重されるべきものである。もちろん、労働者の経済的地位の向上を目的とした労働組合のビラの配布であっても、事実を歪曲して使用者を非難することは許されない。しかし、労働組合は、使用者の事実認識と異なることも含めて、その立場から見た事実認識や意見を表明できるというべきであって、真実とはいえなくとも真実と信じるに足る相当な理由がある場合には、これに基づく労働組合の言論活動も正当なものと認められ得る。また、一部に正確性を欠く表現があるにしても、そのことのみで正当ではないとされるものではなく、正確性を欠いたとされる内容や程度、ビラ全般の趣旨等を総合的に勘案した上で、労働組合の正当な言論活動の範囲内か否かは判断されるべきものである。

(エ)医療法人は、具体的に本件ビラ上の複数の表現を指摘し、事実と異なり医療法人の名誉・信用を毀損するもので、正当な組合活動の範囲を超えている旨主張する。しかし、これらの表現を考慮しても、本件ビラの内容は、労働者の経済的地位の向上という活動目的に沿って、組合の立場から見た事実認識や意見を表明したものであり、正当な組合活動の範囲内のものとみるのが相当である。

(オ)また、医療法人は、本件ビラの配布が医療法人の賃借権ないし施設管理権を侵害する旨主張する。しかし、組合が本件ビラの配布または掲示という組合活動を医療法人の施設内で行ったとは認められない。医療法人が入居する建物の共用部分で本件ビラが配布されたことがあったが、これによる医療法人の賃借権ないし施設管理権の侵害は、それが仮に認められるとしてもそれほど大きなものではなく、かつ、医療法人の申入れに応じて組合が共用部分での配布をその後行っていないことからすると、これを理由に組合活動の正当性を否定することはできない。

(カ)以上のとおり、本件ビラの作成及び配布は正当な組合活動に当たるのであるから、本件分会長処分は、労働組合の正当な行為をした故の不利益取扱いであると判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

イ 支配介入について

(ア)通常、使用者が組合員に対し、労働組合の正当な行為をした故の不利益取扱いを行えば、正当な組合活動を妨害し、組合員の組合活動を萎縮させるなどの効果をもたらすのであるから、労働組合の運営に対する支配介入にも当たるというべきである。本件においても、本件分会長処分が、ビラの配布による組合の言論活動等を抑制させることは明らかである。

(イ)さらに、本件ビラは組合により作成されたことは明らかであって、医療法人が、本件ビラに関して不適切な点があるとするのならば、申入れや抗議の相手先は、本来、組合であるべきである。そして、実際に、医療法人は組合に対し、申入書を提出し、団交で協議が行われるなどし、組合は、医療法人の申入れを受け入れたり、一定の譲歩を示すなどしていたといえる。

しかし、この団交から約2か月後に本件分会長処分が行われているところ、この団交以降、医療法人が組合に対し、本件ビラについて協議申入れを行ったとする疎明はなく、しかも、本件処分通知書の処分理由の欄には、既に組合が譲歩していたことが含まれている。

かかる経緯からすると、本件分会長処分は、組合との協議を著しく軽視したものであるとともに、本件ビラを口実として、ことさら本件分会長個人に懲戒処分を科したというべきもので、一層、組合員の組合活動を萎縮させ、組合の運営を阻害したというのが相当である。

(ウ)以上のとおりであるから、本件分会長処分は、組合の運営に対する支配介入であると判断され、かかる行為は、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

3 命令内容

(1)誠実団交応諾

(2)分会長に対する出勤停止処分がなかったものとしての取扱い及びバック・ペイ

(3)誓約文の手交

※なお、本件命令に対して、医療法人は中央労働委員会に再審査を申し立てた。

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