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1.K事件(令和4年(不)第29号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、会社が、組合員1名に対し、約2か月間、休業を命じたことが、不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)会社が、A組合員のみを、「注文がないためパレット作業の仕事がない」という理由をもって休業させたことは組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについて
ア 不利益性について
会社が、A組合員に対し、本件休業命令以降A組合員が復職するまでの間、賃金を全額支払っていたことについては、当事者間で争いはなく、A組合員には、経済的な不利益は認められない。
しかし、会社は、組合に対し、仕事も注文もなく、赤字であり、助成金がなくなればA組合員の雇用も難しくなるという趣旨の発言を複数回行っており、このことに、本件休業命令が、約2か月間弱という長期に及んだことを考え合わせると、A組合員は雇用に係る不安を感じたであろうことが推認され、同人に精神的な不利益があったといえる。
イ 本件休業命令以前の組合らと会社との間の労使関係について
会社が本件休業命令を行った時期においては、組合と会社は、A組合員に対する口頭注意をめぐり意見が対立しており、組合は社長の行為が不当労働行為になる可能性に言及した文書を送付するなどしており、本件休業命令直前の会社と組合及びA組合員との関係は一定程度の緊張状態にあったといえる。
ウ 会社が主張する、当該行為の業務上の必要性や合理性について
(ア)A組合員が担当していたパレットの業務が著しく減少していたという理由について
A組合員の休業期間、会社は、200台のパレットの製造業務の注文を受けて、その製造を行っており、A組合員の担当業務が全くなかったとはいえない。しかし、同時に、パレット製造については、2から3名で行っていることが認められ、200台以上を打上げる場合であっても3名で所要時間は最大8.0時間であった。そうすると、受注合計数は、2か月で481台に過ぎなかったのだから、A組合員が通常勤務を行えるほどの業務が十分になかったという会社の主張はそれなりに根拠があるものといえ、本件休業命令に必要性や合理性がなかったとまでいうことはできない。
(イ)職場環境を調整する必要があったという理由について
A組合員が、工場長に対し、A組合員が片づけを行った際の出来事について、社長に説明するよう1か月の間に3回ほど求めていたことは事実であり、その月末以降工場長が有給休暇を頻繁に取得していたにもかかわらず、A組合員が休業中の月は一日も休んでいなかったことや団体交渉において、社長はそれにより工場長がノイローゼになったと述べていること等から、工場長がA組合員との関係で問題を抱えており、会社が、工場長にとって深刻な状況であると判断し、そのことに配慮して本件休業命令を行った旨の会社主張には、一定合理性があり、虚偽であるとまで判断することはできない。
そうすると、会社が、工場長とA組合員の関係性に配慮して対応を検討し、その理由を述べてこなかったという点については、一定理解でき、不合理とまではいうことはできない。
エ 以上のことを総合的に判断すると、本件休業命令当時、組合と会社とが一定程度の緊張状態にあったとはいえるものの、本件休業命令に、業務上の必要性及び合理性が認められることからすれば、本件休業命令が、A組合員が組合員であるが故に行われたものとまでいうことはできない。
オ 以上のとおりであるので、本件休業命令は組合員であるが故の不利益取扱いには当たらない。
(2)上記(1)判断のとおり、本件休業命令は、虚偽の理由でもって行われたとも、A組合員の組合活動を理由に行われたとも認められないから、その余を判断するまでもなく、支配介入にも該当しない。
(3)以上のとおりであるから、会社が、A組合員に対し、本件休業命令を命じたことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるとはいえず、本件申立ては棄却する。
3 命令内容
本件申立ての棄却
※ なお、本件命令に対して、組合は中央労働委員会に再審査を申し立てた。