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6.K事件(令和5年(不)第64号事件)命令要旨
1 事件の概要
本件は、組合が、組合員1名に対する懲戒解雇辞令の撤回を要求項目とする団体交渉を申し入れたところ、学校法人が、一度は団交に応じたものの、懲戒委員会の再審議を求める第2回団交申入れには応じないことが、不当労働行為に当たるとして申し立てられた事件である。
2 判断要旨
(1)労働組合法第7条第2号は、労働組合からの義務的団交事項に係る団交申入れに対して、使用者が正当な理由なく拒むことを禁じている。
(2)本件団交申入れは、組合員の懲戒処分に関することであり、これは組合員の労働条件その他待遇に関する事項に該当するものであるから、義務的団交事項である。
(3)そうすると、学校法人が正当な理由なく、このような義務的団交事項に関する団交申入れに応じなければ、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為となる。
この点について、学校法人は、(a)主位的主張として、学校法人は、組合の「要求事項」について、全面的に受け入れたと評価できることから、団交を拒否したことには「正当な理由」が認められる旨、(b)予備的主張その1として、組合は学校法人からの求釈明事項に対する回答をしなかったのであるから、団交を拒否する「正当な理由」が認められる旨、(c)予備的主張その2として、組合は、A組合員に対し、まずもって、労使協議会の利用を促すべきであったといえるのだから、団交を拒否したことに正当な理由が認められる旨、を主張するので、以下検討する。
ア まず、学校法人の主位的主張についてみる。
(ア)学校法人は、学校法人の回答書において、本件団交申入書の要求事項を全面的に受け入れ、懲戒委員会において再審議を行うことを表明し、実際に、再審議を行ったので、その後の団交を拒否したことには「正当な理由」が認められる旨、主張する。
(イ)本件団交申入書の記載からすると、組合が、A組合員に対して「十分な弁明の機会」を与えた上で、懲戒委員会での審議をやり直すことを求めていたことは明らかである。
加えて、第2回懲戒委員会の開催を通知した学校法人の回答書とこれに対する組合の文書をみても、組合が団交を申し入れた趣旨は、単に懲戒委員会を開催することのみではなく、A組合員に対して、「十分な説明と弁明の機会」を与えた上での、懲戒委員会での審議のやり直しであったことは明らかである。また、組合が、組合の要求事項が受け入れられたとは評価しておらず、懲戒委員会でのA組合員に関する審議を巡って協議すべきであるとの意向を示していることも明らかである。
以上のことからすると、第2回懲戒委員会が開催されたことのみをもって、学校法人が、本件団交申入書での組合の要求事項を全面的に受け入れたとまでみることはできず、学校法人と組合との間には、懲戒委員会でのA組合員に関する審議を巡って、未だ協議すべき事項が存在するとみるのが相当である。
したがって、第2回懲戒委員会の開催をもって、団交を拒否したことの正当な理由とはならない。
イ 次に、学校法人の予備的主張その1についてみる。
学校法人の書面の記載からすると、学校法人は、学校法人からの求釈明事項は、本件団交申入れによる団交が「単なる同一の交渉の繰り返し」であるか否かを判断するためのものであり、これは、学校法人が団交に応じる義務の有無を確認するために必要な事項であると主張しているように解されるので、この点について検討する。
第1回団交で主張、提案、説明がなされた事項について、組合が再度協議を求め、これに対して、学校法人が第1回団交での協議事項との差異について釈明を求めたのであれば、当該求釈明事項は、学校法人が団交に応じる義務の有無を確認するために必要な事項と評価し得る。しかし、学校法人からの求釈明事項は、本件団交申入書に記載された「要求の理由」の各項目について、組合がそのように主張する根拠について釈明を求めるものであるといえ、かかる釈明を求めること自体、第1回団交において、本件団交申入書の「要求の理由」の各事項については十分協議がなされていないことの証左といえる。そうすると、学校法人からの求釈明事項は、団交の場において直接確認すれば足りる事項であって、団交に応じる義務の有無を確認するために必要な事項とはいえない。
したがって、組合が、学校法人からの求釈明事項に回答しないことをもって、本件団交申入れに応じない正当な理由とはならない。
ウ 最後に、学校法人の予備的主張その2についてみる。
学校法人が利用すべきと主張するのは、別組合と学校法人との間で設置された労使協議会であるから、そもそも組合と協議する場ではなく、組合がA組合員に対して同協議会を利用するよう促すべきとは到底いえず、本件団交申入れに応じない正当な理由となるものではない。
(4)以上のとおりであるから、本件団交申入れに対する学校法人の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
3 命令内容
団交応諾
※ なお、本件命令に対して、学校法人は中央労働委員会に再審査を申し立てた。