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上垣内(かみがいと)遺跡
遺跡:上垣内遺跡(かみがいといせき)
所在地:寝屋川市高倉地内
時代:旧石器から近世
調査期間:令和5年4月から令和6年1月
主な遺構:竪穴建物、掘立柱建物、井戸、溝、自然流路
主な遺物:須恵器、土師器、瓦器、瓦など
上垣内遺跡の概要
上垣内遺跡は東西約650メートル、南北約300メートルの範囲に拡がる遺跡で、生駒山地から派生する太秦丘陵(うずまさきゅうりょう)の南斜面に立地しています。この丘陵には、古墳時代前期(4世紀)に造られた忍岡(しのぶがおか)古墳、古墳時代中期(5世紀)に造られた太秦高塚(うずまさたかつか)古墳、石宝殿(いしのほうでん)古墳(7世紀)など各時期の著名な古墳が存在し、また小規模な古墳からなる古墳群も点在しています。
文化財保護課では都市計画道路梅が丘高柳線の工事に伴って、平成25から30年度にかけて発掘調査をおこなってきました。今回は4回目の発掘調査となります。
前回までの調査では、古墳時代中期の古墳周溝の可能性がある溝、古墳時代後期の竪穴建物、掘立柱建物、中世の井戸などを確認しています。
今回の発掘調査の成果
今回の調査区は大きく5つに分かれており、第1から第5調査区と呼び分けています。
第1図 調査区配置図
第1調査区は太秦丘陵の上に位置しており、高燥で安定した場所が大部分を占めています。そのため、居住に適しており、古墳時代後期から飛鳥時代の竪穴建物1棟、奈良時代と推測される掘立柱建物1棟を検出しました(写真1・2)。また、古墳時代や古代だけでなく、中世に属する遺物も出土しており、建物跡は見つかりませんでしたが、井戸を2基確認しています。
写真1 古墳時代後期から飛鳥時代の竪穴建物
写真2 奈良時代の掘立柱建物1
このほかに、竪穴建物の位置する丘陵から一段下がった場所で、人工的に掘削された溝が確認されました(写真3)。中心部の幅は約4m、深さは約1.5mを測り、西の丘陵部から東の谷へ向かって水を流していたと考えられます。溝底には大量の土器が投棄されており、これらはいずれも奈良時代に属します。溝内の土層を観察すると、奈良時代に溝が掘削された後は、自然の作用によって徐々に埋没していったことがうかがえます。
また、第1図の★印で示した部分には、溝底からさらに掘りくぼめられた部分があり、そこに須恵器の壺が据えられている状況を確認しました(写真4)。住宅を建てる前の地鎮祭のような、土地の神様に対する祭祀関連の遺構である可能性が想起されます。
写真3 奈良時代の溝
写真4 溝の遺物出土状況
第2・3調査区では顕著な遺構が確認されませんでしたが、第4調査区において、北東から南西方向に向けて流れる自然流路(河川跡)を確認しました(写真5)。この河川は位置などからみて、第4調査区の東を流れる藤谷川に関連すると考えられます。土層の観察によって、この河川は人工的に埋め立てられていることが分かっており、埋めた後の平坦面に掘立柱の倉庫が建てられていることなどから、流路の付け替えがなされた可能性を想定できます。
河川として機能した時期の堆積層からは古墳時代中期から飛鳥時代にかけての土器が出土しており(写真6)、埋め立て土からは飛鳥から奈良時代の土器が出土します。また、特筆すべき遺物として、埋め立て土の中から出土した飛鳥時代の土馬が挙げられ、遺跡の性格を考えるうえで重要な手掛かりとなります。
写真5 古墳時代から飛鳥時代の自然流路
写真6 自然流路の遺物出土状況
藤谷川の西側に位置する第5調査区では、掘立柱建物2棟を検出しました。掘立柱建物2(写真7)は、出土した土器から飛鳥時代に建てられたとわかりました。建物の主軸は西に約14°振れており、地形にあわせて建てられていると考えられます。また、柱穴にはすべて柱を抜き取った痕跡を確認できます。そして、その抜き取り穴の中には焼けた壁土や炭化物が多量に含まれており(写真8)、この建物は火災にあって廃絶したと考えることができます。
掘立柱建物2が廃絶した後、奈良時代になると藤谷川へ向かって緩やかに傾斜する地形を大規模に整地して平坦地がつくられ、その上に掘立柱建物3(写真9)が建てられます。この建物は柱間が桁行、梁行ともに3間で「総柱建物」と呼ばれる構造をしていることから、倉庫であったと考えられます。また、このような規模の倉庫は一般的な集落ではあまり見られないこと、掘立柱建物2とは異なり正方位に合わせて建てられていることなどからみて、一般集落の倉庫とは異なる性格である可能性が高いと判断できます。
写真7 飛鳥時代の掘立柱建物2
写真8 掘立柱建物2の柱穴
写真9 奈良時代の掘立柱建物3
以上のように、今回の調査では、古墳時代から古代の上垣内遺跡について新たな情報が得られただけでなく、この地域の歴史を考えるうえで重要な成果を得ることができました。