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大阪の障害児教育をよくする会 要望書
要望書受理日 |
令和6年7月24日(水曜日) |
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団体名 | 大阪の障害児教育をよくする会 |
取りまとめ担当課 | 教育庁 人権教育企画課 |
表題 | 障がい児教育の充実を求める要望書 |
要望書
2024年7月24日
大阪府教育委員会
教育長 水野 達郎 様
障がい児教育の充実を求める要望書
大阪の障害児教育をよくする会
会長
要望趣旨
日ごろより、大阪の障がい児教育の充実・発展にご尽力いただきありがとうございます。
さて、特別支援学校・学級に在籍する児童生徒が大幅に増加し、知的障がい特別支援学校を中心に深刻な「過大・過密」となっています。また、小学部・中学部の児童生徒が急増するもと、義務標準法の関係で全校的に児童生徒数が増えても教職員は減少する事態が進行し、現場は教員不足が常態化し、安全・安心な学校が脅かされる状況となっています。
特別支援学級においては、2022年4月に文部科学省から発出された「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について(いわゆる『4月27日通知』)」で「原則として週の授業時間数の半分以上を目安として特別支援学級において…授業を行うこと」などの方向性を明示したことにより、通知発出後、2年連続で特別支援学級は激減し、適切な支援を受けられない事態になっています。
2018年に策定された「府立支援学校における知的障がい児童生徒の教育環境の充実に向けた基本方針」、その後、2020年に見直された「知的障がいのある児童生徒等の教育環境に関する基本方針」では、府立支援学校における知的障害児童生徒が2026年度までに1590人増加する見込みを示しました。基本方針が策定されてから5年余りが経過しましたが新校整備は2024年4月に開校した出来島支援学校のみです。その間にも「教室転用」や学級編成基準を大幅に上回る児童生徒を教室に詰め込むいわゆる「圧縮学級」は増加の一途で、人権侵害ともいえる状況が広がっています。その後、府教委は2023年度当初予算案のなかで、「特別支援学校設置基準に定められた校舎面積基準、学級編成基準への不適合を2032年度までに解消できるよう在籍者数の増加が見込まれる地域を優先し、新たな支援学校の整備等を行う」考え方を示し、2023年度及び2024年度当初予算案において、(1)豊能地域新校整備、(2)大阪市北東部新校整備、(3)交野支援学校四條畷校本校化に向けて予算化しました。しかし、府内各地域の知的障害支援学校の「過大・過密」「教室不足」はこれらの学校整備だけではまったく不十分なものであり、新校の開校も2028年度から2029年度の予定で、いま支援学校で学んでいる子どもたちの学習権は侵害され続けています。
「過大・過密」を解消し、「教室不足」や長時間通学問題の抜本的解決を図るためにも、地域に根ざした適正規模の障害児学校建設は、教職員、父母、関係者にとって緊急の要求となっています。
肢体不自由支援学校では、遠距離・長時間通学による子どもたちの負担の解消が、長年の課題になっています。
現在おこなわれている障がい児教育を充実させるためには、障害児学級・通級指導教室の抜本的充実、府内各地域に根ざした特別支援学校の抜本的増設、小中学校と高校における20人以下学級の早期実現、教職員の増員などが求められます。また、障がいの重度・重複化および大規模化による特別支援学級の教育困難の解決や、発達障がい等特別な教育ニーズを持つ子どもたちの実態に見合った教育条件整備などの課題に対しても、早急に実効性のある対策をたて、実行しなければなりません。
私たちは、「インクルーシブ教育」の最大の課題は、子どもの学習権・発達権を実質的に保障・前進させることだと考えています。
つきましては、すべての障がい児・者の権利が守られ、ゆきとどいた教育が保障されるよう、以下の項目の実現を強く要望します。
要望項目
1.教育行政基本条例、府立学校条例、職員基本条例を撤回し、当面は条例の性急な具体化をやめてください。
2.移管された旧大阪市立特別支援学校12校については、大阪市立の時と同等の教育条件を保障してください。
3.障がい児教育の推進にあたっては、すべての子どもたちの成長・発達が保障されるよう、特別支援学校・学級、通級指導教室の増設、1クラス20人などの少人数学級の実現など十分な条件整備をおこなってください。
(1)20人などの少人数学級の実現など、通常学級に学んでいる障がい児や発達障がい等の子どもたちへの教育保障と条件整備をおこなってください。
(2)すべての小中学校に通級指導教室を設置してください。
4.今後の大阪府立支援学校のあり方については、保護者・関係者の意見を十分に取り入れ、整備計画を策定し、その推進をはかってください。とりわけ、希望者に対して小中高一貫教育が保障できていないこと、適正規模を大幅に超えた学校が増加し、2023年に実施された文部科学省の教室不足調査で「370室不足」していることなどは極めて深刻です。これらの課題の解決方策を緊急に策定してください。
(1)文科省に対し、制定された「特別支援学校設置基準」を実効あるものとなるよう要望してください。また、「特別支援学校設置基準」を踏まえて、大阪府として責任をもって教育条件の整備をすすめてください。そして、「特別支援学校設置基準」を既存校にも適用し、基準を満たしていない学校については直ちに基準を満たすように改善するための予算を措置してください。
(2)府内各地域の大阪府立支援学校の「過大・過密」「教室不足」を解消するため、地域に根ざした支援学校が適正に配置されるよう、今後の学校建設計画を以下の要望を踏まえて検討してください。
ア.児童生徒数150から200名規模(1992年大阪府学校教育審議会答申)、自宅からの通学時間40分以内で、支援学校を抜本的に増設する計画をただちに策定してください。
イ.「特別支援学校設置基準」および「特別支援学校施設整備指針」に基づき、子どもたちに豊かな教育が保障できるように十分な普通教室や特別教室を適切に準備・配置してください。
ウ.府内各地域に小中高の3学部を備えた知的障がい支援学校を、保護者・関係者の意見を十分に取り入れ、建設計画を緊急に策定してください。
エ.小・中・高等部のある支援学校と「職業教育を専門とする学科を設置した選抜制の高等支援学校」の「併設」は、運動場、プール、特別教室を異なる学校で共用することや、選抜実施日に併設校を休校とせざるを得ない等、様々な問題があるため見直してください。
オ.2020年度から2024年度までの国の支援学校整備等のための集中取組期間を延長するよう国に要請し、大阪府として「過大・過密」「教室不足」を解消するための学校整備を早急にすすめてください。
(3)府立支援学校の通学区域割については、保護者・関係者の意見を十分に取り入れ、福祉圏域、生活圏域(放課後デイサービスの利用を含む)を守ってすすめてください。また、増加する児童生徒数に対して通学区域割りの安易な変更などの対応を行うのではなく、父母・教職員、関係者との合意を前提とした計画的な教育条件整備を実施してください。
(4)増加する児童生徒数に対して通学区域割の安易な変更などの対応はおこなわずに、小・中・高等部の12年間を一貫して同じ支援学校に通学することができるようにしてください。とりわけ、2020年度よりおこなっている府内3地域の通学区域割変更に対しては早急に改善してください。
(5)泉南地域と北河内地域に、肢体障がいのある子どもが安心して学べる小・中・高等部のある支援学校を建設してください。
(6)交野支援学校四條畷校の本校化にあたっては、現場や保護者の意見を十分に取り入れ、小学部棟の設置や必要な特別教室等、施設設備を整備してください。
ア.本校化の工事に際しては、在校生の安全を確保し、授業や学校生活に支障が出ないようにしてください。
イ.小学用のトイレ、更衣室、自立活動室、図工室、音楽室、調理室、視聴覚室、教材室、中庭、遊具、プレールームなど小学部に必要な施設設備を備えた小学部棟を設置してください。
ウ.スプリンクラー、エレベーターの設置はもちろんのこと、体育館、プール(小学部用と中高等部用エリア分け)、校舎、教室の改修、バスターミナル新設など独立した知的支援学校として必要な施設設備を整備してください。
エ.枚方市・交野市地域に、もう1校知的支援学校を整備し、枚方市の一部と交野市の高等部生徒が交野支援学校四條畷校ではなく、地元の知的支援学校に通えるようにしてください。
オ.東大阪市に、知的支援学校を整備し、東大阪市の一部の高等部生徒が交野支援学校四條畷校ではなく、地元の知的支援学校に通えるようにしてください。
(7)交野支援学校四條畷校の本校化までの間、施設設備の改修等、必要な教育条件整備をおこなってください。
(8)豊能地域および大阪市北東部の新校を整備するにあたっては、現場や保護者、地域住民の意見を十分に取り入れ、小学部棟の設置や必要な特別教室等、施設設備を整備してください。
(9)教室不足が深刻な八尾支援学校について、その具体的な解消方策を緊急に講じてください。
(10)学校施設の抜本的改築、改修をおこなってください。また、トイレや水道設備を障がい者用に改修してください。
(11)病弱支援学校、病弱支援学級、病院内学級、訪問学級を増やし、病気療養児の教育を保障してください。また、病弱支援学校に学校籍を移さなくても、希望したときに病院内学級での授業が受けられるようにしてください。
(12)今後の知的障がい支援学校の新校整備においては、児童の実態に応じた小学部棟を必ず新設してください。
(13)府立支援学校の在籍者数増の対策としては、大阪府学校教育審議会答申で示された「高校と支援学校の併設」ではなく、支援学校の抜本的増設をおこなってください。
(14)障がい児の社会性を育て、自立に向けたとりくみを充実させるために、すべての特別支援学校に寄宿舎を設置してください。
(15)府立聴覚支援学校の3歳児未満早期教育を大阪府独自に制度化してください。当面、2校がこれまで実施してきた3歳未満児早期教育相談について、保護者が希望すれば聴覚支援学校でも子どもの支援を含め継続した相談が従来通り受けられるようにしてください。
(16)公共交通の不便な場所にある支援学校については、行事の際に保護者用の駐車スペースを確保するなど、保護者の負担をできるだけ軽減してください。
5.安全・安心で適正な通学時間・通学距離を保障してください。
(1)スクールバスの民間委託化方針を撤回し、直営でのスクールバス運行をしてください。
(2)自宅から40分以内で通学できるように、スクールバスの増車等の対策を緊急に講じてください。
(3)スロープ・リフト付のスクールバスを大幅に増やしてください。
(4)乗車する子どもの実態に合わせて必要なコースには小型バスにも添乗員を複数名配置してください。
(5)医療的ケアを必要とする児童生徒が安全に通学できるようにしてください。重度障がいの通学支援については、保護者・関係者の意見を十分に取り入れ、当事者が安心して利用できるようにしてください。
(6)民間委託化されたスクールバス添乗員が頻繁に変わらないよう(最低1年は継続)に教育委員会として指導してください。
(7)スクールバス添乗員が児童生徒の実態に応じた対応をおこなうことができるよう、障がい理解を高めるための研修を府の責任で毎年定期的におこなってください。
6.「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について(通知)」(文科省2022年4月27日、大阪府教育庁2022年5月10日)により、障害等による特別な教育的ニーズに応じた教育が阻まれている状況が起きています。事態の収拾に向けて、以下のことを早急に実施してください。
(1)「通知」で示された授業時数は目安であり、子どもの障害の状況や保護者の願い、これまでの経緯などに応じて支援学級への在籍も可能であることを、市町村教育委員会に周知してください。
(2)学びの場の決定にあたっては、子どもの障害の状況や保護者の願いを十分に考慮し、それぞれの必要に応じた判断をするよう、市町村にはたらきかけてください。万が一にも、強引な学びの場の変更や強硬な手続き的合意により、保護者や子どもが不安や不利益を被ることがないようにし、その際は市町村向けに通知を発出した府教委の責任で事態の収拾にあたってください。
(3)今回の通知等を受け、支援学級から通常の学級に在籍を変更した子どもについて、支援学級での指導が再度必要となった場合には、すみやかに支援学級に在籍できるようにしてください。
(4)学びの場の変更に伴う教職員配置の大幅な減少が起こらないようにしてください。
(5)通常学級に在籍する特別なニーズを持つ子どもたちの、学習や学校生活の際に必要な支援を行うための教職員を配置してください。
(6)障害児学級での個々の障害の状況に応じた指導の充実、通常学級との交流・共同教育の充実に向け、障害児学級の定数改善や加配教員の配置を府として行ってください。
7.小・中学校における支援学級在籍者や通級指導教室利用者の大幅増、障がいが重度・多様化している実態をふまえて、次の施策を実施してください。
(1)障がい種別・定数(8人)の基準を遵守した支援学級設置をおこなってください。また、学年ごとでの学級設置や定数引き下げなど、府独自の定数改善をはかってください。
(2)重度加配を復活し、支援学級担任を増員してください。
(3)施設・設備の基準を設け、その改善・充実をはかってください。特に、肢体不自由児が在籍する学校にエレベーターを設置してください。
(4)通級指導教室を全ての小中学校に設置してください。
(5)支援学校・支援学級・通級指導教室・通常の学級、どこで学んでいても、その子に必要な教育課程・教育条件を保障してください。また、支援学級担任、通級指導教室担当教員の専門性向上をはかってください。
(6)医療的ケアを必要とする子どもが在籍するすべての小・中学校に看護師を配置してください。また、泊を伴う行事に看護師が付き添いできるよう府教委の責任で制度化してください。
(7)特別支援教育コーディネーターを専任で配置し、保護者の教育相談や療育等との連携をさらに充実できるようにしてください。
(8)支援学級在籍者を含めると、35人・40人の定数を超える通常学級をなくすよう、弾力的運用だけでなく、施策を講じてください。
8.知的障がいのある生徒の府立高校への入学については、障がいのある生徒に対する適切な教育課程や教材の準備、専門性を持った教職員の確保、施設設備の整備など、発達を保障するための教育条件整備をはかってください。
9.チャレンジテスト、学力調査等、競争をあおるような教育をやめ、これまで通常の学級で学ぶことができていた子どもたちが、通常の学級から排除されている状況を改めてください。
10.より豊かで安全な学校給食を子どもたちに保障してください。
(1)府立支援学校の給食調理業務の民間委託化はやめてください。
(2)給食調理員、栄養職員の増員、施設設備の改善などをおこない、直営自校方式の学校給食をより充実させてください。
(3)給食調理員の新規採用選考を再開し、転退職に伴う補充は正規職員でおこなってください。
(4)文部科学省「学校給食衛生管理の基準」にもとづいて、厨房の施設設備を抜本的に整備してください。
(5)仕様書の内容については、十分な協議をおこなってください。衛生的な調理ができない、衛生改善がみられない、人員の入れ替わりが激しく給食の安全安心・安定的な提供ができない委託業者については、速やかな業者変更ができるよう仕様書に「契約不履行の基準」などを明記してください。
11.障がい児教育の専門性を後退させないよう、画一的な年限基準および府立高校間との強制人事異動方針を撤回してください。
12.大阪府立支援学校における看護師配置について、次の施策を実施してください。
(1)大阪府立支援学校に在籍する、医療的ケアを必要とする子どもたちが安心して学校生活を送れるよう、看護師配置については正規の学校職員として独自に定数枠を設けてください。また、児童生徒の実態に応じて配置してください。
(2)制定された「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」を踏まえて、教育をおこなう体制を拡充させるために、標準法に看護師を定数として明記するよう文科省に対して要請してください。
13.府立支援学校において、情緒障害をあわせもつ知的障がいのある児童生徒のための重複障害学級増設を行ってください。あわせて、重度の知的障がい児や発達障がい児などにも手厚い教育が保障されるよう、教員を増やしてください。
14.標準法にもとづき措置された定数の各校への配分は学級数など客観的基準にもとづいておこなってください。
(1)府立支援学校の一般学級の「くくり」(複式学級編制)を改めてください。
(2)幼稚部・高等部の重複障害学級と訪問学級についても、法の趣旨にもとづき、複数学年で3人を超える児童生徒数を一律に学級編制基準の「3人」で除算する方法を改めてください。
(3)児童生徒数が増えることにより教員配置の比率が厳しくなる「標準法」の比率を改善するよう国に要請してください。
(4)この間、小学部児童、中学部生徒が急増するもとで、年々教職員の配置が手薄になっています。各学校の実態に見合った大阪府独自の教職員加配をおこない、充実した指導をおこなえるようにしてください。
15.府立支援学校の寄宿舎教育を継続、発展させてください。
(1)寄宿舎指導員の配置は「標準法」を踏まえて学校毎に算定し、その数を最低限各寄宿舎に配置してください。
(2)通学困難や家庭状況などを考慮し、必要な児童生徒の入舎を認めてください。
(3)老朽化した施設設備を早急に改善してください。
16.期限付き講師をはじめとする臨時教職員による配置を改め、正規の教職員による配置を計画的にすすめてください。
17.放課後や休日、長期休業中の障がい児の地域での豊かな生活・発達を保障するために、社会教育等による条件整備をおこなってください。
18.豊かな放課後の活動を保障するため、放課後等デイサービスの保護者の利用料の負担軽減を国に働きかけるとともに、府としても対策を講じてください。
19.豊かな青年期教育を保障するため、府立支援学校高等部に専攻科を設置してください。
20.「職業教育を専門とする学科を設置した選抜制の高等支援学校」について
(1)「就労支援」教育のみに偏るのではなく、全ての子どもたちの発達を保障できる学校にしてください。
(2)子どもたちの成長発達にとってどうだったのかの観点で検証をおこなってください。
(3)高等支援学校における定員割れが生じている実態をうけて、生徒や保護者のニーズを把握するための調査をおこなってください。また、府立支援学校全体において、高等部以降の進学についての意向調査などをおこなってください。
21.だいせん聴覚高等支援学校について、通学負担を軽減するため、通学用バス運行等通学条件の改善をはかってください。また、寄宿舎を設置してください。
22.府立支援学校の管理職には障がい児教育の経験者を任用してください。「准校長」「首席」「指導教諭」等の制度は廃止してください。
23.教育をゆがめる「教職員の評価・育成システム」は撤回してください。
24.府および市町村の就学指導委員会の運営を民主的におこない、発達保障の観点にたった適切な就学指導をおこなってください。
25.府立支援学校は、府民の財産であることから、地域活動等への開放をすすめてください。
26.災害発生時の対応について、学校まかせにせず、府教育委員会として災害時のマニュアルを整備するなど、統一した方針を策定してください。
27.泊を伴う学校行事について、教職員旅費予算削減等を理由にした泊行事の回数削減をおこなわず、各学校において子どもたちの泊行事を経験する機会を保障してください。