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人権学習シリーズ 同じをこえて 「差別と平等」をどう学ぶのか/5.「差別と平等」に関する学習のポイント
5.「差別と平等」に関する学習のポイント
以上のように見てくると、「差別と平等」についての学習のポイントが浮かび上がってきます。
はっきりとしたモノサシをさしだす
第1に、「機会の平等」と「結果の平等」、「不利な人に手厚く」や「ユニバーサルデザイン」など、差別や平等をめぐる基本的な概念をはっきりと打ち出し、これらの違いに対する認識を深めることです。実際には、日本社会にあっても、特別措置やユニバーサルデザインのような発想に立った施策が数多く行われています。ところが、そのような政策が実施されていることや、なぜそのような施策が行われているのかという理由などは、ほとんど知られていません。従って、そのような政策や取組み、とりわけ特別措置について情報提供することが大切です。
施策の背景や経緯を紹介する
第2に、なぜそのような施策が行われているのか、背景や経緯を整理して情報提供することです。社会的な差別があるところでは、多くの場合、被差別者に不利益状況が蓄積されていきます。これを「差別と全般的不利益の悪循環」などと呼びます。差別があるもとで親の代が経済的に厳しい状況を抱えて暮らしていると、子どもの代もさまざまな制約を受けながら育つことを強いられやすいのです。そのような現実は、統計などによって示すことができますから、政府などの行った調査などを活用して、悪循環があることを示し、それを何とかするために法律などにより、特別措置が定められているのだということを説明する必要があります。
価値観を問いかけ、ゆさぶる
第3に、一人ひとりの平等についての価値観を問いかけ、ゆさぶる学習が重要です。私たちは、一般的には「機会の平等」こそが平等と思っていることが多いのですが、実際には具体的な問題や場面に応じて「結果の平等」に通じる価値観を当てはめていたりします。例えばふだんは「能力に応じて雇用の採否を決めるべきだ」と考えている人であっても、障がい者の法定雇用率を政府が定めていることを批判しているとは限らないのです。ところが、平等に関する明確な概念を持っていないために、たいていの場合、そのようなブレやズレは意識せずにすんでしまいます。自分のなかに複数のモノサシがあることを意識することによって、平等や差別についてもう一度考えてみようとする姿勢が生まれやすいと言えます。
体験的に感じる機会を持つ
第4に、特別措置やユニバーサルデザインの重要性を体験的に感じてもらうことです。特別措置に対しては、「がんばれば困難も乗り越えられるはずだ」「個人の努力こそ大切であり、そんな制度を当てにしてはいけない」といった意識が根強くあります。確かにそのような面はあるでしょう。また、そのように困難を乗り越えてきたという自負をもつ人であれば、そのような意見が出てきやすいかもしれません。ところが、調査を踏まえて統計的に見ると、不利な条件で生まれ育った子どもたちは、学業成績の不振が目立ったり、大学進学率が低かったり、大人になってからは所得が低くなりやすかったりします。乗り越えた人がひとりいたとしても、その後ろには、顕在的・潜在的なハードルが立ちふさがったためにがんばっても乗り越えられなかった人がたくさんいるのです。このような点は、理屈だけではなかなか分かりません。そこで、シミュレーション学習などによって、貧困や不利益が子どもに伝わりやすいことを体験することに意味があります。
具体的な人物を通して学ぶ
第5に、悪循環のもとで苦しみつつ、悪循環を越えていくために取り組んできた人の姿を紹介することです。差別撤廃運動をしている人だけではありません。現代社会では、企業なども積極的にこの課題に取り組んでいます。先に紹介した、シャンプーのボトルだけにギザギザをつけ、リンスのボトルとの違いがすぐ分かるような商品をつくった企業などもその例です。そのような人や企業・団体の姿を学ぶことによって、自分もそのような活動に参加していきたいという気持ちが生まれやすくなります。
このような学習を経て、差別や平等についての確かなモノサシに関する知識を得て、私たちは自分なりの考え方をもって、一つひとつの差別や問題状況について、どのようなモノサシを当てはめるべきなのかを考え、議論しやすくなります。