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更新日:2010年4月30日

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人権学習シリーズ 同じをこえて 「差別と平等」をどう学ぶのか/2

論文「差別と平等」をどう学ぶのか? 大阪教育大学 森 実

2.「気持ちで差別」、「チャンスを平等に」、「不利な人に手厚く」

さまざまなモノサシのうち、ここでは、国際社会で用いられている基準を紹介することにしましょう。ここで紹介する3種類のモノサシは、差別や平等を考えるときに不可欠になっています。ところが、このことが広く知られていないために、差別や平等を議論するときにややこしくなっている場合が多いのです。

(1)「差別意識」=意図的に誰かを排除していないか?

第1のモノサシは、差別意識を持っているかどうかという基準です。差別意識とは、「○○の人たちは嫌いだ」「○○の人たちは悪い人たちだ」といった気持ちをさします。このように、特定の社会集団に対してはっきりとした見下しや善悪の心の構えを持っていると、「それはよくないことだ」、つまり不公正だと考えやすいでしょう。

ところが、社会的制裁に関わる判断をするときには、このモノサシは使いにくいと言わなければなりません。そもそも、差別意識を持っているかどうかを判然と判断することは難しいものです。また、差別意識を持っている人がその対象となる人たちを実際に排除したり、冷遇したりするとは限りません。逆に、差別意識を持っていなくても、その人たちを排除し、相手にとって不利益をもたらす場合もあり得ます。

(2)「機会の平等」=背景に関係なく機会を提供しているか?

第2のモノサシは、機会を平等に提供しているかどうかという基準です。「能力と意欲さえあれば、だれにでも門戸を開いているか?」という問題です。これは、「機会の平等」や「チャンスの平等」といわれます。

この基準は他者から見てもわかりやすいと言えます。例えば、就職にあたってその人の人種を聞いたり、戸籍を詳細に書くよう求めたりするならば、それは能力や適性、意欲以外の要素を重視しているということになりますから、不公正だと判断できます。

問題は、機会を平等にしたからといって、それだけで被差別者の被ってきた不利益を改善できるとは限らないということです。歴史的・社会的に差別を被ってきた集団は、多くの場合所得が低かったり、学力や大学進学率が低かったりするなど、困難状況が集中しています。蓄積された差別によって悪循環が成立しているのです。機会の平等だけでは、その悪循環を断ち切ることができません。

(3)「結果の平等」=不利な人に手厚く

そこで登場したのが、第3のモノサシ、不利な立場にある人に手厚くしているかという基準です。これは、国際的には「結果の平等」と呼ばれます。蓄積してきた不利益状況は補償されてしかるべきだという考え方です。同和対策事業やウタリ対策事業は、そのような蓄積してきた不利益状況を改善するための措置だと言えます。女性専用車両も、女性が痴漢などの性暴力被害に遭いやすいという社会状況から、特別措置的に行われているものです。このような基準は、国際的にも国内的にも、条約や法律で認められています。

ところが、ここにも問題はあります。多くの人は、平等といえば「機会の平等」のことだと考えています。特別措置を行おうとすれば、被差別状況にある人を特定しなければなりません。障がい者雇用率を実現しているかどうかを判断するためには、障がい者として特定しなければならないのです。被差別部落出身者、アイヌ民族など特別措置を行う場合には、それを受ける人や地域を特定しなければなりません。「機会の平等」こそが平等だと考えている人にとって、このように対象者を特定することは差別しているように映ります。政府などが統計調査などを行う場合に同和地区内外を分けたり、アイヌ民族として数字を出したりすることに対しても、疑問を向けたりするのです。

また、対象となる集団を特定することについては賛成していても、具体的な特別措置の施策についてそれを公正と見なすかどうかは、なかなか一致しないものです。「機会の平等」こそ平等と思っている人と、「結果の平等」の必要性を認めている人との間では、公正の基準も違ってくることでしょう。

日本では、「努力しようがしまいがみんな同じ賃金をもらう」といったことをさして「結果の平等」と言われることがありますが、それとここでいう「結果の平等」とは異なります。国際的には、社会集団を比較して、ある集団が他の集団より平均所得が低いとか、学業成績平均が低いとか、進学率が低いといった状況があることをさして「結果の不平等」と呼び、その社会集団間の格差をなくすことをさして「結果の平等」と呼ぶのです。

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