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更新日:2011年4月1日

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人権学習シリーズ みえない力 誰の責任?「不公平なイスとりゲーム」から考えよう/コラム カフカの階段について

誰の責任?「不公平なイスとりゲーム」から考えよう(めやす90分)

コラム カフカの階段について

生田武志(野宿者ネットワーク代表)

ホームレスは甘えている??

ぼくは、野宿者支援の活動をしています。その中で、多くの人から「ホームレスは甘えているだけだ」「死ぬ気で頑張れば、仕事なんか見つかる」と繰り返し言われてきました。
野宿になっている人の多くは、ごく普通の人たちです(ただし、私が出会った人たちや、他の団体が相談・調査した結果をみると、知的障がいや精神障がい、被虐待経験者、そして在日や沖縄、被差別部落出身の人たちの比率は高いですが)。ただ、いったん野宿などの極度の貧困状態になると、元の生活に戻ることが「絶望的なほど難しい」「事実上、自力では不可能」ことがわかってきました。この難しさ、理不尽さを目に見える形で示すために、この「カフカの階段」を考えました。

取りつくことさえ不可能な階段

「たとえてみると、ここに2人の男がいて、一人は低い階段を5段ゆっくり昇っていくのに、別の男は1段だけ、しかし少なくとも彼自身にとっては先の5段を合わせたのと同じ高さを、一気によじあがろうとしているようなものです。先の男は、その5段ばかりか、さらに100段、1000段と着実に昇りつめていくでしょう。そして振幅の大きい、きわめて多難な人生を実現することでしょう。しかしその間に昇った階段の一つ一つは、彼にとってはたいしたことではない。ところがもう一人の男にとっては、あの1段は、険しい、全力を尽くしても登り切ることのできない階段であり、それを乗り越えられないことはもちろん、そもそもそれに取っつくことさえ不可能なのです。意義の度合いがまるでちがうのです。」 ──カフカ「父への手紙」。

機能していないセーフティネット

貧困になっていくプロセスは、階段を一つ一つ降りてゆくようなものです。しかし、野宿になってしまうと、そこから元の高さに戻ろうとすると、1段つまり「壁」になっていて、上ることがほとんど不可能です。転がり落ちるのを防ぐ「セーフティネット」はありますが、吹き出しに書いているように、日本ではそれがあまり機能していません。
よく、「ホームレスはやる気なんかないんだから支援なんかしたってムダだ」と言う人がいますが、こういう「壁」の状態が何年も続いたら、やる気がなくなっても無理はないだろうと思います。

社会のあり方を考える

それではどうすればいいのでしょうか?「壁」に段差を入れて「階段」にすればいいはずです。つまり、「お金がないので、就職しても一月先の給料日まで生活できない」のだったら、「お金を貸しましょう、あとで返してね」。あるいは「生活保護を受けて、アパートと生活費を確保してから仕事を探しましょう」。福祉事務所が水際作戦をしているのなら、「ぼくたちや弁護士、司法書士が役所に一緒に行きましょう」。アパートに入るときなどに、保証人や緊急連絡先が必要なら、ぼくたちがなることもできます。つまり、このたとえの狙いの一つは、貧困・野宿問題の解決のためには、「段差を作る」ことが、つまり「衣・食・住」にわたる行政や市民の援助が必要だ、ということです。
ところで、階段の上で「何をやっているのかな?」とあります。普通の答えは、「仕事と家のある元の生活」ですが、ここでの答えは「いす取りゲームが行われている」というものです。
つまり、一人階段を上がればその代わりに一人が落ちる、つまり失業するんだとしたら、こうやって階段を作ってあがっても、本質的な解決にならないのかもしれません。もちろん、現実には野宿者が一人就職したからといって他の一人が失業するわけではありません。けれども、現在300万人の失業者がただちにどこかに就職できるような状況は全くないのです。
だとすれば、「いす取りゲーム」の規則そのものを変える、ということが考えられます。「階段を作る」という一人ひとりへの支援と同時に、「いすを分け合う」(=ワークシェアリング)、「いすを増やす」(=社会的起業)など、社会にある「ゲームの規則」そのものを変えることが必要なのだと思います。

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