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更新日:2011年4月1日

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人権学習シリーズ みえない力 DVを支えているもの/コラム 「DVと社会の責任」

DVを支えているもの(めやす90分)

コラム 「DVと社会の責任」

加藤伊都子(フェミニストカウンセリング堺)

責任転嫁と暴力の正当化

妻に暴力をふるった経験のある男性の3割が、暴力をふるったのは「相手が自分の言うことを聞かないので行動でわからせようとした」と答えている。同様に、3割の男性が、暴力をふるったのは「相手がそうされても仕方がないことをしたから」と答えている。
「暴力をふるったのは妻が○○したから」という言い方は、あたかも妻の行動が暴力の原因であるかのようだが、そうではない。暴力の原因は「妻の行動しだいでは暴力も許される、あるいは必要である」とする夫の考え方にある。それを不問にし、妻の行動を云々(うんぬん)するのは責任転嫁であり暴力の正当化である。

周囲の人々の言葉

こうした責任転嫁と暴力の正当化は、被害者の周囲の人によっても行われる。多くの被害者は周囲から「夫を怒らせないようにしろ」「夫婦だから仕方がない」などと言われている。中にははっきりと「暴力をふるわれるのはあなたに責任がある」と言われている被害者もいる。
「女性が口答えをしたら、男性が叩くのは当たり前」と言われた被害者もいる。これら周囲の人々の言葉から伝わってくるのは、夫婦間での暴力は当たり前のことであり、妻はそれを我慢しなければならない、それがいやなら夫を怒らせないようにしなければならないというものである。

「男は仕事、女は家庭」という性別役割社会

いまだに96%以上の女性が結婚時に夫の氏に変更しているのだが、ここに示されるのは、夫婦の代表は夫であるとする社会通念である。この通念を支えているのは「男が主、女は従」とする考え方である。男と女とでは果たすべき役割が異なるとする、このような考えを性別役割意識という。代表的なものが「男は仕事、女は家庭」である。男性の役割は稼ぐことにあり、女性の役割は、衣食住を始めとする家庭の運営にあるとする考え方である。この考えに賛成する人は年々少なくなる傾向にあるが、社会の仕組みは今も変わっていない。労働人口の4割を女性が占めている現在でも、その働きは正当に評価されず家計補助の位置づけのままである。そのため働く女性の半数がパート、アルバイトなどの非正規雇用であり、年収の平均は男性の6割程度でしかない。

男女間の力の差

こうした男女間の格差は賃金格差だけではない。女性社長は全社長の10人に1人、女性管理職は全管理職の8%という数字に示されるように、社会的地位でも歴然とした差がある。
国会議員を始めとする政策決定の場にいる女性の割合も1割強程度である。これらの差は、この社会における男女間の経済的力、社会的力の差である。そして性別役割社会では、稼ぐ以外の家庭責任は、衣食住の管理から家計のやりくり、家族成員の情緒の安定まで、すべてが女性の責任とされている。

性別役割意識が女性に強いるもの

結婚式で花嫁に贈られる「彼が仕事に専念できるようにあたたかい家庭を作ってください」という言葉は「仕事以外のことで心配をかけるな」「よきサービスを家庭に用意せよ」という意味である。だが、家庭は生活の場であり、問題や葛藤、不調や不幸と無縁ではない。にもかかわらず、自分が主で、妻は従と考えている夫たちは、自分の要求や気持ちが優先されて当然と考え、そうならないのは妻が十分に役割を果たしていないからだと考える。実際に夫から妻への暴力の多くが、こうした性別役割意識に基づく不平不満を口実にふるわれている。
妻たちは暴力が始まらないように、あるいは早く終わるようにと、夫の顔色をうかがい、結果としてますます性別役割から逃れられなくなっていく。

暴力を許している責任

このような状況にある妻たちに「本当にいやなら別れられるはず、別れないのはそれほどいやではないからだ」という言葉がなげられることがある。しかし夫を怒らせないことを優先させてきた妻たちは、暴力的環境から脱け出し、自立するために必要な経済的な力、社会的な力を奪われ続けているのである。そして家庭の外も家庭の中と変わらない性別役割社会である。逃げられないのは、彼女たちの責任ではない。女性への暴力を許している責任は、性別役割を是認し続けてきた、そして女性たちに性別役割への適応を強いてきた社会の側にある。

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