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人権学習シリーズ ありのままのわたし 大切なあなた コラム1
コラム1 受け止められる中で育つもの
「ぼくってすごいでしょ!みてみて!」
ある公園でのできごと。1歳になったばかりのAくんは、公園にある小さなスロープをハイハイで登っています。いっしょにいた保護者が、「Aくん、がんばって!」「もう少し!」と声援を送っています。ついにAくんは、スロープの頂上に到着しました。その瞬間、Aくんは、自信満々の笑顔で鼻をふくらませ、保護者の方を「キッ!」と振り返りました。「すごーい、Aくん!」「登れたねー!」との歓声を受けると、Aくんは「ふんっ!」とうなずき、スロープを降りると、再度、登り始めました。「ぼくってすごいでしょ!みてみて!」と自信にあふれた姿が輝いていました。
「自分は愛されている」という感覚
発達心理学者のE.H.エリクソンは、乳児期(誕生から15ヶ月-18ヶ月ごろ)の発達課題として「基本的信頼の獲得」を挙げています。「基本的信頼の獲得」とは、周囲の人や世の中に対する「信頼」の感覚を獲得すること、「この世に生まれてきて良かった」という感覚を獲得することと言われますが、この感覚を身に付けることが、その後の人生において、人を信頼し、自分は自分で大丈夫という気持ちを持つための土台となっていきます。こうした感覚は、「お腹がすいて泣いたら、養育者が空腹を満たしてくれた」など、子ども自身の要求が満たされることによって育っていきます。そして、自分が発した要求が満たされる中で子どもは、「自分は受け止められる価値のある存在だ」「愛されている存在だ」という感覚を身に付けていきます。
この時期の子どもが基本的信頼を獲得するためには、おとなは子どもが発する要求にできる限り応えていくこと、子どもの思いを受容することが大切になります。常に子どもの思いを受け止められるわけではありませんし、子どもの要求が何であるのか分からないこともあって当然なので、ゆるやかに考えておくことも大切になりますが、「基本的には自分の要求は受け止められる」という経験を重ねる中で、子どもは世の中に対する信頼感を獲得し、自分は価値のある存在だと認識できるようになります。
子どもとおとなの「応答関係」から
ここに挙げられた「おおむね0歳から1歳半」の子どもを対象としたプログラムは、子どもがおとなに「してもらう」ことをきっかけにした活動が中心になっています。こうした活動の中で、「楽しい」「心地良い」「安心」といった「快の感情」を十分味わうことが、「この世に生まれてきて良かった」「この世は安心できる場所だ」という感覚を育んでいきますし、「もう1回やって!」と要求し、おとながそれに応えてくれる経験をする中で、「自分の要求は受け止められている」「自分は愛されている」という気持ちを持つことにつながります。また、「いないいないばあ」などの遊びで、子どもの行為におとなが楽しんで反応していくことが、「自分は価値のある存在だ」という感覚を身に付けるきっかけとなります。こうした応答関係が、乳児期には重要なのです。
冒頭のエピソードに見られたAくんの姿は、Aくんを受け止める保護者の姿勢があってこそ実現した姿なのです。