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人権学習シリーズ ありのままのわたし 大切なあなた 発刊にあたって、冊子の構成と使い方、用語解説
発刊にあたって
私たちの誰もが、一人ひとりが持っている可能性を最大限に発揮し、喜びを実感できる社会で生きたいと願っているのではないでしょうか。しかしながら、性別や障がいの有無、社会的出身や国籍、人種や民族などを理由に、人としての誇りや可能性が奪われてしまう差別や偏見がなおも存在するのが現実です。
そうした差別や偏見をなくし、人と人とが対等に手をつなぐことのできる社会の実現を目指し、人権教育教材の作成に過去9年間取り組んできました。これら人権について多様な角度からとりあげた教材は、行政機関をはじめ企業、地域など様々な場面で活用され一定の成果を上げてきたと考えています。
今回、人権学習シリーズvol.10の発刊にあたって、差別や偏見が世代間で再生産されていくプロセスを考えた時、乳幼児期にこそ、自他ともに尊重するという体験を十分積み重ね、人としての根っこを耕していくことが大切であるという思いを強く持ちました。差別や偏見とは無関係であった0歳の子どもが、生活の中でおとなが子どもにかける言葉や行動を介して、あるいは社会の価値観を無意識のうちに身に付けていく過程において、5歳にもなれば、偏見の芽を身に付けているということが少なくないからです。
この教材では、就学前の子どもを中心に、その発達段階に応じ、遊びを通じた人権感覚を育むプログラムやおとな(保護者)のエンパワメントをテーマとしたプログラムを紹介しています。家庭や地域、子育て支援の場、保育所・幼稚園などでの活用を通じて、おとなの子どもへの関わりや、おとな自身が自分自身を振り返るきっかけとなることを願っています。
この教材が、ありのままの自分が肯定され、人を大切に思える心を育み、子どももおとなもエンパワメントされる一助になれば幸いです。
冊子の構成と使い方
1 冊子の構成
この冊子は「論文」と「プログラム」で構成されています。
(1)乳幼児向けプログラム
- 3つの年齢区分
乳幼児期を「関係の変化」「人権に関わる意識の育ち」に着目し、「0歳から1歳半」「1歳半から3歳」「4歳から6歳」に区分し、活動を紹介しています。「0歳から1歳半」はおとなからしてもらう時期、情動的な一体感を通して人への安心感・信頼感が育つ時期。「1歳半から3歳」はおとなとともにする時期、他の子どもへの関心が育つ時期、身体諸機能の発達で自信が育つとともに、「違い」に気づきだす時期。「4歳から6歳」は子ども同士の関係が深まる時期、身体の諸機能の基礎ができるとともに、自分と他の子どもとの違いを認識する時期、ととらえました(年齢区分ごとの「コラム」で、子どもの成長とおとなの関わりについて書いています)。
年齢区分別プログラムになっていますが、該当する年齢でしかできないものではありません。子どもの興味に合わせて選び、子どもの反応などによって工夫し、楽しんでください。 - 3つのキーワード
おとなとの関わりを軸として仲間との関わりも広がるなかで、育ってほしい「差別や偏見をなくしていく力」を「人権力」と表現し具体的な遊び・活動を通して紹介しています。
人権力は「尊重」「公平」「反偏見」の3要素からなり、プログラムではキーワードとして示しています。 - 多様な場での活用
家庭や地域、子育て支援の場、保育所・幼稚園など、乳幼児がいる場であれば、基本的にどこででも活用できるものです。
(2)乳幼児と保護者向けプログラム
子どもと同じ目線に立って「一緒に遊びを楽しむ」、そして「自分の子ども以外にも目を向ける」ことをねらいに、ファシリテーター向けに手順を記したプログラムです。
子育て支援の場や保育所・幼稚園の保護者参加の行事などでも活用できます。
(3)保護者向けプログラム
子どもたちの人権意識の土台になる「自分が尊重されている」とはどういうことかを、保護者を始めおとなが考えるきっかけづくりのプログラムです。
また、性別役割分担意識や「いい母親・父親」像など常識を問い直し、子育てしやすい社会について考え合うプログラムです。
子育て支援の場や保育所・幼稚園のクラス懇談会、また講座や研修などで活用できます。
(4)論文・コラム
プログラムを通して伝えたいこと、一緒に考えてほしいことを論文と各プログラムのコラムとして示しています。
プログラムと併せて読むことで、プログラムの進め方や応用の仕方について理解が深まります。
2 用語の説明
- キーワード:プログラムで身に付けてほしい内容を単語で表しています。
- ねらい:キーワードをプログラムに即して具体的に説明し、プログラムで何を身に付けてほしいのかを表しています。
- 対象:乳幼児向けプログラムはおおよその該当年齢を示しています。
- 所要時間:プロクラムの進行に要するおおよその時間を示しています。
- プログラムのおおまかな流れ:乳幼児と保護者向けプログラム・保護者向けプログラムについて構成するアクティビティ名とそのねらい、進行に要するおおよその時間を示しています。
- 準備するもの:プログラムに必要な材料や道具などを示しています。
3 会場の作り方
乳幼児向けプログラム
- 動きの少ないプログラムは、どのような場でも少しのスペースで楽しめます。
動きのあるプログラムは、子どもの動きを予測して室内、室外ともに足元や周囲に危険物がないかを確かめます。 - ごっこ遊び、コーナー遊びは、家庭では小さなスペースでもいいので、ざぶとんや小さなシートなどを置いてあげると、より遊びに集中できるでしょう。子育て支援の場や保育所・幼稚園では、年齢に応じて必要な広さが変わってきます。
乳幼児と保護者向けプログラム
- 子どものけがを防止するとともに、参加者の動きをスムーズにするために障害物がない、なるべく広いスペースを設けることが必要です。そのためにも、参加者の荷物を置く場所を設けます(隅っこに机、あるいは敷物を用意)。
- 机・イスは必ずしも必要ありません。みんなが座ることができる広さの敷物があればよりよいでしょう。敷く場合は、子どもたちが足を引っかけないように端を固定するなど配慮が必要です。
保護者向けプログラム
- 参加者の荷物を置く場所を設けます(隅っこに机、あるいは敷物を用意)。
- 「子どもの声を聴く」は、4人から6人のグループになるように机とイスを用意します。
他のプログラムは、最初はイスのみを用意します(用意の仕方はプログラムの記載どおり)。 - 活動をする時に動いたり、あるいは途中で机を必要とするプログラムもあるので、スペースに余裕のある会場を用意します。
用語解説
ワークショップ
ワークショップ(workshop)とは、もともと「職場」「作業所」「工房」を意味し、みんなで意見交換や共同作業を行いながら進める「参加体験型」学習のことをいいます。指導・被指導の関係で学ぶ学習でなく、参加者が積極的に他者の意見や発想から“学びあい”、最後にみんなで自らの“ふりかえり”をするという、学習のプロセスでの学びを大切にします。問題解決を図るとともに、態度や技能(スキル)を身につけられるという特徴があります。
ファシリテーター
ワークショップを進行する人をファシリテーター(facilitator)と呼んでいます。単に進行役といってもよいのですが、「活性化させる」という意味を持つファシリテーターの方が、実際に期待されている役割に近い言葉になっています。話し合いの交通整理をする議長役だけでなく、話し合いの素材になるものを用意し、そして時間管理を行いながら全体を進行する役目をするなど、さまざまな複合的な能力が必要とされています。
エンパワメント
差別など(社会的抑圧など)により弱者の立場に立たされてきた個々人が、その内在する能力、行動力、自己決定力を取り戻すことです。