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更新日:2013年11月25日

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大阪府広域自治制度に関する研究会「最終報告」

はじめに

当研究会は、平成19年8月に第1回の会合を開催して以降、地域のことは地域自らが考え、決定し、その責任も負うという地方分権型社会の実現、言い換えれば「地域主権」の確立を目指す観点から、道州制のあり方について検討を進めてきた。本年4月には「中間論点整理」を行い、検討を加えるべき主な論点として、(1)国と地方の役割分担、(2)道州立法(条例)の拡充強化、(3)地方税財政制度のあり方、(4)大都市制度のあり方、(5)道州の執行機関・議会を挙げた。これらの論点を中心にさらに議論を行い、関西としての視点も加味しながら取りまとめたものがこの報告である。

道州制の議論は平成18年2月の第28次地方制度調査会の答申以降、各方面で進められているが、政府においても道州制担当大臣の下に「道州制ビジョン懇談会」が設置され、本年3月にはその「中間報告」が取りまとめられている。同中間報告は、2018年までに道州制へ完全移行すべきであり、そのため2010年には道州制基本法の案を作成する必要があるとしている。今後さらに政府における検討が進めば、基本法案の内容や道州制の制度設計について、当事者として地方が意見を求められることも考えられる。

地域主権の確立を求める観点から、どのような道州制を考えていくべきなのか、今後、大阪府が当事者として道州制を考え、発信していく際のガイドラインとなるよう期待するものである。

なお、この報告自身は、大阪府の方針や施策を直接反映したものではなく、当研究会を構成する委員の意見を集約したものである。

1 広域自治体改革が求められる背景と道州制への期待

道州制をはじめとした広域自治体改革について最近、議論が盛んに行われている背景や、その具体的な手段として道州制に期待が寄せられている理由については、当研究会の「中間論点整理」に述べているが、再度、簡単に整理しておきたい。

1 都道府県を取り巻く社会・経済環境の変化

まず次のような社会・経済環境の変化が、広域自治体のあり方について見直しを迫っていることが指摘できる。

(1)生活圏・経済圏の拡大

交通網や通信手段の発達により人々の生活圏や経済圏は大幅に拡大する一方、府県の区域は明治21年以降その姿をほとんど変えておらず、それらとの乖離が指摘されている。また、生活圏や経済圏の拡大に伴い、物流ネットワークをはじめとした社会資本整備や環境保全、産業振興などの面で行政課題の広域化が進んでおり、これに対する迅速な対応を可能にするためにも、府県の区域を越える新しい体制への期待が生じている。

さらにグローバル社会の到来は地域経済にも大きな影響を与えているが、それぞれの地域の特徴や潜在力を活かしながら、内外との競争に伍していこうとの動きが見られるなかで、地域経済の基盤整備を担う広域自治体の政策力の強化や、効率性の向上が求められている。

(2)地方分権改革の担い手

住民に身近な行政はできる限り地方に委ねることを基本として、地方分権改革が進められているが、国が現在実施している事務のなかには、本来は地方が担うべきにも関わらず、「広域性」や「専門性」をタテに地方への移譲を拒んでいるものが多く存在する。

「広域性」については、府県が同様の事務を実施しているに関わらず、事務の対象が複数の府県にまたがるといった理由だけで国が実施しているものがあり、また「専門性」についても、府県がその規模を拡大すれば体制を十分確保できると考えられるものがある。国から地方への権限移譲を進めるためにも、広域自治体の規模の充実強化を図る必要がある。

(3)市町村合併の進展

平成7年の「市町村の合併の特例に関する法律」(合併特例法)の改正を契機として始まった、いわゆる「平成の大合併」によって、市町村の数が大きく減少するとともに(注1)、市町村の行財政基盤の強化が進んだ。また、地方自治法に基づく「条例による事務処理の特例制度」などを通じ、都道府県(以下、単に「府県」)から市町村への権限移譲が進み、府県の役割、特に市町村に対する補完事務を軽減させたことから、府県の広域自治体としての位置づけや今後の役割について問われることにつながっている。

(注1)平成11年3月31日現在で3,232あった市町村数は、平成21年3月30日(予定)には1,779に減少。

2 現行制度を前提とした改革と限界

上記のような環境の変化は、府県を越える対応や府県そのものの体制強化を求めているが、現行制度においても次のような対応が可能である。しかし、それぞれに課題があり、これらの課題を包括的に解決し得る抜本的な改革として道州制の導入に期待が寄せられている。

(1)広域連携

広域的な行政課題に対し、複数の府県が任意の協議会などを構成し、連携を通じて取り組みを進めることが可能であり、関西を含む各地域で様々な試みがなされている。しかし、一般的に広域連携は各府県の自発的な協力を基としたものであり、各府県が合意に達する場合にのみ具体的な成果に結びつくものである。また、利害対立のある案件では、合意形成に時間が掛かることや、合意に達したとしても各府県の利害に公平に配慮する結果、広域行政のあるべき姿を考えると必ずしも最善の成果をもたらしていない。

(2)広域連合

地方自治法に定める広域連合制度は、多様な広域的行政ニーズに対応し、同時に国や府県からの権限移譲の受け皿を整備することが目的とされている。府県による広域連合の例はまだないが、関西では早ければ来年夏の設立に向けて、具体的な準備が進められている。

府県による広域連合が実現すれば、新しい枠組みとして、これまで以上に地域一体となった取り組みを進めることができ、府県を越えた取り組みの意義と効果が明らかになれば、さらに効率的な広域自治制度導入への機運を促すことにもつながる。しかし、広域連合を設置しても府県が並存し、また財政的にも構成府県の分賦金(負担金)に依存することから、構成府県の利益に反するような意思形成は事実上、困難ではないかとの指摘もなされている。

(3)都道府県合併

平成16年の地方自治法改正によって、府県についても自主的な合併の道がひらかれている。複数の府県を合併し単一の府県とすれば、広域連携や広域連合のように構成府県間の合意形成がネックとなることなく、圏域全体での利害調整や意思形成が効率的に進むと期待できる。

しかし、単なる府県合併に終わっては、国との役割分担は現状と変わらず、地域主権の実現を図る観点からは課題がある。3府県以上の合併であれば、「道州制特別区域における広域行政の推進に関する法律」(道州制特区推進法)の定める「特定広域団体」となり、国に対して権限移譲を求めていくことは可能であるが、同法が適用されている北海道の現状をみると、国と地方のあり方を大きく変えるには至っていない。

3 道州制への期待

先述したとおり道州制は、社会経済情勢の変化によって広域自治体にもたらされた行政課題への対応を可能にし、かつ現行制度を通じた対応の限界を乗り越える手段として期待されている。言い換えれば、2つのレベルで広域自治体の施策を「最適化」するための試みとして、道州制が有効であると考えられている。

府県はその行政区域のなかで、施策の「最適化」を図る存在と考えることができるが、「中間論点整理」では、道州制はふたつの面で従来とは異なる最適化を可能とする手段であると述べた。すなわち、ひとつは従来の府県の区域を越えたより広域での施策の最適化であり、スケールメリットを通じた効率化や、各府県ともに同様の施策や施設整備を競うようなフルセット主義からの脱却である。簡単な数式使えば、1+1=2を求めることに等しい。

もうひとつは、国からの権限移譲を通じた新しい施策の最適化である。地域の振興に係る権限や財源を道州に集中することができれば、従前のような中央省庁ごとのタテ割り行政の弊害を除き、また中央集権的な画一的行政を廃して、地域の実情に応じた総合的な施策が可能となる。こちらは言わば、1+1=3を目指すものと言うことができよう。

特に関西では、中小企業の潜在力を活かしたより戦略的な産業振興、琵琶湖・淀川をはじめとした流域単位での総合的な河川管理と環境保全、様々な地域資源を活かした広域での観光振興などの分野で、新たな「最適化」を行うことができるのではないか。こうした施策を通じて道州制は、何よりもその最終目的である住民福祉の向上をもたらすことができると考える。

2 道州制の制度設計に係る基本的考え方

それでは、道州制がそのような2つの最適化を可能とするためには、どのような姿を備えていなければならないだろうか。端的には、道州が自立した地方政府として、自らの圏域のことについては自らの意思と責任で政策を実行し、その成果も圏域に暮らす人々の間で分かち合えるような「地域主権型」の道州制でなければならない。道州制を「地域主権型」のものとするために、どのような制度設計を行う必要があるのか、次章以下、その基本的な考え方について整理していく。

1 国・道州・市町村の役割分担のあり方

国と道州、そして市町村間の役割分担と相互の関係のあり方は、道州制下における地方税財政制度や道州の組織・体制などにも密接に関わり、道州制の具体的な姿を求める際の基本となるものである。「中間論点整理」においては、国・道州・市町村間の役割分担を考える際、まず次の4点を原則とすべきことを述べた。すなわち、

  • (1)行政が果たすべき役割は何かを考え、民で実施可能なものは民に委ね、行政全体のスリム化を図る。
    その上で、国と地方の役割分担を抜本的に見直し、
  • (2)国の役割は外交や防衛など、国が本来果たすべき役割に純化し、内政に関する事務は原則として、企画立案から管理執行まで地方が一貫して担う。
  • (3)地方の役割とされたものについては、「近接性の原理」や「補完性の原理」に従い可能な限り市町村が担う。
  • (4)道州は府県に代わる広域自治体として、市町村と役割分担しながら、主に地域(圏域)における広域行政を担うこととする。

さらに、国・道州・市町村の役割分担については、次のような点を踏まえつつ、具体的なあり方を求めていくべきである。

(1)内政において、なお国が担うべき役割

内政については地方が一貫して担うということが原則であるとしても、内政について国がいっさい関わらないというあり方は考えづらい。例えば、

  • (1)国でなければ出来ない事務(国有財産管理、国家公務員制度など)
  • (2)事業規模や効果が全国的なもので、国が一括して担う方が明らかに合理的な事務(航空管制、気象予報など)
  • (3)国が全国一律で規律しなければ国民生活上、重大な支障が生じる制度の策定(通貨制度、度量衡、知的財産制度など)

は国が担うべき役割と考えられる。

この際、国の役割をいたずらに肥大させることを避けるため、外交や安全保障を含め国が担うべき事務を「国の専管事務」として自治制度を定める基本法などに限定列挙し、それ以外は全て地方の事務と位置づけることが考えられる。また、この地方の事務については、国は立法もできないということを原則とすべきである。さらに、それに抵触するような形で国が地方の事務に関与してきた場合に備え、司法判断を含め事後的に国の関与を排除する仕組みを用意しておくことも考えられる。

一方、国が本来なすべきことを地方に押し付けるような事態も引き起こしてはならず、上記のようなメルクマールに沿って、国の専管事務を具体的に明らかにしていくことが必要となる。また国の役割とされたものについては、企画立案から管理執行まで国が一貫して担うこととすべきであり、現行の法定受託事務のようなあり方を残すことは望ましくない。戸籍や選挙管理事務のように、例外的に国の事務であるにも関わらず地方が執行を担うものが残ることは考えられるが、そのようなものは厳しく限定し、費用負担についても全額国の負担とすべきである。

(2)全国的に統一性が必要な施策への対応

内政について国の専管事務とされたもの以外は地方が担うとしても、地方の事務とされたものについて、全国単位で統一した執行基準が必要となるもの(例:環境基準、労働基準等)や、全国的に統一した処理をする方が国民生活や企業活動の上で合理的なもの(例:食品表示、道路標識等)が考えられる。このような事務(以下、「全国共通事務」と称する)について、全国的な統一性をいかに確保していくべきであろうか。

基本的には、

  • (1)道州(市町村)間の自主的な協議によって、共通条例を策定する、または共通条項を各道州または市町村の条例に設ける。
  • (2)「地方の事務について国は立法できない」という原則の例外として、国会の立法に委ねる。

の2つの方法がある。

(1)の場合は、「内政については地方が一貫して担う」という原則に、より忠実なあり方であるが、道州間(市町村間)の合意をいかに形成するかが課題となる。自主的な協議の場として道州または市町村の全国協議会を設け、必要なときには多数決も用いながら意思形成を行うことが考えられる。

手続き的には、単一の条例案を各道州議会が承認していくようなあり方や、例えば、EU指令に基づいて欧州連合の加盟国が政策の共通化を図るように、原則のみを全国レベルで定め、実際の条例の規定については各道州(市町村)の裁量に委ねるような緩やかなものも想定し得る。また、この条例共通化の手続きについては国法に定め、その手続きへの参加義務のみ各道州・市町村に課しておくことも考えられる。

(2)の場合は、地方が担う事務について国の関与を一定の範囲で認めるものである。国の関与を必要最低限のものとするために、国の立法の範囲を予め限定しておくことや、事後的に国の行き過ぎた関与を是正する仕組みなどを組み込んでおくことが必要になる。また、国の立法過程に地方の意思を反映するため、法案作成について国と地方の協議の場を設けることも考えられる。

(3)国の本来の役割と地方

内政についてもなお国が担う事務があるのとは逆に、外交や通貨制度のように国が本来担うと考えられている事務についても、その一部を地方が実施するということも考えられる。例えば、ある道州が外国からの観光客を誘致するため、道州内の免税店や宿泊施設でのみ通用するローカル通貨を発行し、外国人観光客に対して限度額の範囲内で格安レートで両替をする、というような施策もあり得るのではないだろうか。

このように国の専管事務とされたものについても、道州や市町村が実施可能と考えるものについては、道州や市町村を一方的に排除するのではなく、柔軟なあり方を可能とするような制度とすべきである。

国と地方の事務区分のイメージ

事務区分

メルクマール

事務例・備考

地方の事務

国専管事務以外のすべて

  • 企画立案から管理執行まで地方が一貫して担う
  • 実施する・しないの選択も地方が自主的に判断

国は立法をできない

〔全国共通
事務〕

地方の事務のうち、次に該当するものは全ての道州・市町村が実施することとし、かつ最低限の範囲で全国統一の制度、執行基準・手続などを定める。

  1. 各地方の対応の相違が、国民の基本的人権の保障、福祉の向上などに重大な支障を生じる恐れのあるもの
  2. 各地方の対応の相違が、円滑な国民生活や企業活動に重大な支障や混乱をもたらす恐れのあるもの
  3. 緊急時において共通の対応をしなければ、国民の生命・財産に重大な損害を生じる恐れのあるもの

事務の具体例として

  1. 義務教育(年限、無償の範囲、到達すべき教育内容等)、労働基準(8時間労働制、最低賃金制、労働安全等)など
  2. 食品表示(表示すべき内容、規格等)、自動車交通(道路運送車両の安全構造、交通標識等)など
  3. 広域防災(感染症予防のための対応)など

国専管事務についても、わが国の主権の侵害や国民生活に重大な支障を及ぼさない範囲で、地方独自の施策を可能とする。(例:関税制度の特例、地域通貨など)

国専管事務(国の事務)

  • 国家としての存立に関わる事務
  • 内政については原則として、地方が担う。

次に該当するものは例外として、国が企画立案から管理執行までを直接担う。

  1. 国の内部管理に関わるもの
  2. 事業規模や成果等が全国に及び、国が一括して担う方が明らかに合理的・効率的なもの
  3. 全国一律に規律しなければ、重大な支障が生じる国民の諸活動に関する事務
  • 外交、防衛、国籍、出入国管理など
  • 例外的に国が担うものとして、
  1. 国有財産管理、国家公務員制度など
  2. 航空管制、海難審判、気象予報など
  3. 司法(基本法制を含む)、通貨、金融、公正取引など

((3)は地方の自主的な調整が可能なら、地方の「全国共通事務」とする)

(地方への
委託事務)

国の専管事務のうち、国民の利便性や国の行政組織の簡素化の観点から、道州または市町村に事務の執行を委託するもの

国政選挙の管理、旅券交付など

  • 現行の法定受託事務は廃止、ごく例外的なものに限定。費用は全額国の負担。

(4)道州と市町村の役割分担

道州と市町村との役割分担については、住民に身近な行政は出来る限り市町村が担うこととするが、その具体的な姿は、市町村に対する道州のあり方によって大きく変わる。どのようなあり方が考えられるのか、「中間論点整理」においては次頁のようなマトリクスを提示した。

このマトリクスのうちどの枠を選択するのかは、具体的な事務によって、また道州制の導入時と何年か制度運用を経た後では、多少異なってくることも考えられるが、市町村が自らの判断と責任で行政を行い、納税者にとって受益と負担の関係を明らかにするためには、基本的には次のような方向性(マトリクス内の矢印)を目指すべきであると考える。

すなわち、

  • イ.道州の役割は、
    • (1)圏域を単位とした社会資本整備、
    • (2)広域的な環境保全・管理、
    • (3)地域経済政策及び雇用政策など、
      より広域の行政や専門性・技術性を要する行政に重点化していく。
  • ロ.保健、福祉、義務教育など住民に身近な行政は市町村が総合的に担い、現在、これらの分野で府県が実施している事務は、市町村に大幅に移譲する。
  • ハ.市町村が行う事務事業については、道州は極力、関与や支援を行わず、市町村の自立的な執行を基本とする。
  • ニ.小規模市町村の補完についても、市町村間の水平補完により支えることとする。

市町村から見た道州の位置づけは、現在の府県のような国の補助金の窓口となったり、住民に身近な行政も手がけ、市町村の行う事務事業に一定の関与を行うような、言わば「中二階」の存在ではなく、市町村にとって「軽い存在」を指向するものとなろう。

しかし、市町村でできることは全て市町村が担う、道州はできるだけ市町村に対する関与は行わないことを基本としても、道州と市町村の間で何らかの調整が必要になることが考えられる。例えば河川管理について、(1)本川は道州が管理し、支川は市町村が管理するような場合や、(2)河川管理はすべて道州が担うとしても、河川に流入する下水の整備は市町村が行うような場合である。

このような場合、道州が市町村の事務について一定の範囲で、道州全体の統一性を図ることが考えられる。例えば上述の河川管理で言えば、道州条例のなかに道州と市町村間の役割分担や、市町村の整備する下水の排水基準について規定することがあり得る。道州条例と市町村条例の関係については次章でも述べるが、道州条例で規定するとしても、道州が市町村行政に対して一方的・包括的に関与を行うということではなしに、対等協力の関係にある地方政府同士として調整を行い、その結果を反映するものでなくてはならない。

例えば、道州内の市町村長による協議会を設け、市町村事務に関係する道州条例を道州議会で審議をする前に、同協議会への諮問を行うなど、道州の政策決定過程に市町村の意思を反映する仕組みを設けることを考えるべきである。

また道州条例以外にも、道州の施策と市町村の施策の間に矛盾や齟齬が生じることのないよう、双方の間に多様な調整の仕組みを設けることが重要になってくると考える。

道州と市町村の関係イメージ・マトリクス

 

コンパクト 大きい

  • 現在、都道府県が実施している事務は大幅に市町村に移譲。
  • 道州は以下のような広域事務に軸足を移す
  1. 圏域を単位とする社会資本整備
  2. 広域的な環境保全・管理
  3. 地域経済政策及び雇用政策
  • 道州の役割は限定的なものとし、保健、福祉、義務教育など住民に身近な行政は市町村が総合的に担う。
  • 規模や能力に課題のある市町村は、市町村間の水平補完により支える
  • 現在、都道府県が実施している事務は、市町村の規模や能力に応じ移譲を進める。
  • 対象が散在する広域的な行政や、より高度で専門的な行政課題に重点化しつつも、広範な分野の行政を担う。
  • 保健、福祉、義務教育など市町村が担う行政についても、広域的な観点から補完する。
  • 規模や能力に課題のある市町村は、道州が補完する。

市町村が行う事務・事業については、極力、関与や支援は行わず、市町村の自立的な執行を基本とする。

 

 

道州が担う役割について、市町村の権限や事務・事業と重複、抵触する場合、より広域的な利益の実現を図り、市町村とも積極的に調整を行う(市町村に対する関与、補助負担金の交付も含む)。

 

 

2 道州立法(条例)の拡充強化

道州が自らの意思と責任でその役割を担うためには、自らの仕事について決定権を有しなければならない。そのためには先述のとおり、地方が担う仕事については原則として、国は立法できないこととすべきである。また、例外として国の立法を認める場合でも、その範囲を必要最低限度にとどめ、道州の広範な自治立法権(条例制定権)を確立する必要がある。国が法令の規定や補助金の交付要綱などで道州の自由な行政運営を阻害するようでは、現状の中央集権的なあり方と変わるところがなくなってしまう。

(1)広範な条例制定権を保障するための措置

国法に規定し得る事項を必要最低限度に止め、国の過剰な関与を防ぎ、道州の自治立法権を保障するために次のような措置が考えられる。

(1)国法の役割を限定する法規範を設ける。

例えば、我が国の自治制度を定める基本法に、国と地方の役割分担の基本的な事項を定め、地方が担う事務について国は立法ができないという原則、例外として立法が可能な具体的範囲、国会での立法手続き等を定めておくことが可能である。

また、仮に先述の「全国共通事務」に関する事項を国法に定めるとしても、最大限、地方の自主的な判断を尊重し、その規定の性格に応じて地方の修正(条例による「上書き」)を認めるようにすべきである。

(例)

  • 全国一律の基準を定めるもの→上書き不可
  • 確保すべき最低基準、許容し得る最高限度を定めるもの→ その範囲での上書き可
  • 技術的な標準(目安)を定めるもの→上書き可

しかし、国の立法活動の限界や範囲については、個々の事案によって変わることが考えられ、抽象的な法規範だけでは適切な保障を行うことは難しい。そこで、次のような措置をあわせて考えておくことが妥当である。

(2) 国の立法過程への地方の参画を保障する。

具体的な法律の制定にあたって、必要最低限度の規定になっているか、国法に規定する必要性が認められる内容かを事前にチェックする仕組みが必要である。

これまでの地方分権改革のなかで地方6団体が求めてきた「国と地方の協議の場」の法定化や、憲法上の議論もあるが、参議院の構成・選挙方法などをより地方代表性の強いものとすること、国会の審議において地方代表からの意見聴取を義務づけることなども考えられる。

(3) 国法と道州条例の競合を事後的に調整する仕組みを設ける。

上記に示した条例による「上書き」も事後的な調整手段のひとつである。また、国法と道州条例との間で矛盾が生じたときに備え、特別な国と地方の係争手続きを用意しておくことや、司法の判断に委ねることも考えられる。

(2)道州条例と市町村条例の関係について

道州条例と市町村条例の関係については、どのように考えるべきであろうか。1(4)で述べたように、道州の事務と市町村の事務との間に整合性を保つため、市町村の事務について道州条例に一定の規定を設けるとしても、道州が一方的に決めるとすると、道州と市町村の関係が現在の国と地方の関係のようになってしまう恐れがある。法解釈上は、道州条例が市町村条例に優先するとしても、道州と市町村の関係は対等協力のものとなるようにしなければならない。

道州と市町村は対等協力の関係にあるとの原則の下、市町村の決定権を保障するためには、次のような措置をとることが考えられる。

(1) 道州条例と市町村条例の関係を規定する法規範を設ける。

道州と市町村の関係について、道州と市町村が協議を重ねた上で道州が自治憲章(または自治基本条例)を定め、そのなかで道州条例と市町村条例の関係や市町村事務に関わる道州条例を制定する場合の手続き等について定めておくことが考えられる。(注2)

(注2)道州と市町村が対等協力の関係にあることを保障するためには、道州と市町村の役割分担やそれぞれの条例の関係等について、むしろ国法で規定すべきとの考え方もあるが、地方分権を徹底するという観点からは、道州と市町村との役割分担や関係についても、道州ごとに決めていくことが望ましいと考える。

(2) 道州の立法過程への市町村の参画

道州が市町村の事務に関わる立法を行う場合、その過程に市町村の意思が反映するようなシステムが必要である。先述したように、道州内の市町村長による協議会を設け、条例案について道州議会での審議前に同協議会への諮問を義務づけることや、審議の過程で市町村からの意見聴取を義務づけることなどが考えられる。あるいは、道州と市町村間の協議の場を常設し、重要な条例案についてはそこで事前に協議を行うことも考えられる。

(3) 事後的な調整制度

国法と道州条例の関係と同様に、道州条例の規定の性格に従って市町村条例による事後的な補正(上書き)を認めることや、道州と市町村の間で紛争が生じたときに備え、係争処理手続きを設けておくことが必要である。また係争処理手続きについては、最終的には司法判断を求められるような仕組みも用意しておくことが考えられる。

3 国・道州・市町村の役割分担の調整(事務事業の配分)

ここまで国・道州・市町村の間の役割分担や、国法と道州条例、または道州条例と市町村条例との関係などについて基本的な考え方を述べてきた。この章では、国・道州・市町村間において具体的な事務事業が実際どのように配分(再配分)されていくのか、想定されるプロセスについて考えたい。

道州制の導入によって、これまでの国と地方の役割分担は大幅に見直されることとなるが、すべての事務事業において、地域の実情に応じた役割分担や執行のあり方を確定するには、かなりの時間を要すると考えられる。

それには、まず基本的な考え方に沿って全国的に標準となる形をつくり、それを出発点に各道州や市町村の実情に適合したものへと少しずつ修正を加えていくほかないと思われる。標準形を各地域の実情に応じたものへと手直ししていくには、柔軟な事務事業の再配分プロセスや、執行基準・手続の見直しのプロセスを用意しておく必要がある。

また、このプロセスは、税財政制度とも関係する。次章でも述べるが、国・道州・市町村間の標準となる役割分担を基に、それぞれが自立的な行政運営を行えるように税源配分を行い、地域間で生じる税収格差に対しては財政調整制度をつくることになる。この標準となる形から役割分担を変える場合(事務事業を再配分する場合)は、それに応じて財源の手当てについても見直しを行うことになる。

こうした見直し・修正のプロセスには多くの時間と労力を要することになるが、地方分権という観点からは、地域が自らの意思によって、その地域に最適なあり方をいつでも求めることができるということが重要であり、道州制導入の段階ではあまり精密な制度設計は求めず、柔軟に修正を重ねていくこととすべきである。

(1)配分(再配分)のあり方

「近接性の原理」や「補完性の原理」によって、最も身近な政府である市町村から事務事業を配分していくという原則に従えば、市町村を優先したボトムアップ型のプロセスを用意することになる。また、いったん決まった事務事業の配分を固定化するのではなく、市町村や道州の意思を優先し、事務配分の変更が絶えず可能となるようオープンなプロセスにしなければならない。

市町村にあらゆる事務を押し付けて、国や道州を軽くするというのが道州制の目的ではない。市町村自身が身の丈に合わせて、自らの責任で仕事を選択することを原則としつつ、市町村が選択しなかった事務をどうするか、市町村間の連携に委ねるのか、道州か、道州の連携か、それとも国が担うのかという議論を重ねていくプロセスとすべきである。

また、各道州間や市町村間に整合性(統一性)が必要な施策については、国法や道州条例によって一方的に道州や市町村に事務を義務づけたり、その執行基準や執行手続を定めるような仕組みではなく、国・道州・市町村間の協議によって、事務事業の配分や執行基準・手続きなどを定めていく調整システムによるべきである。

但し、対等な調整の結果として、国法や道州条例に規定を設けることは可能であり、また、この調整システムへの参画そのものについては、国法または道州条例で国・道州・市町村に対して義務づけるべきと考える。

(2)配分(再配分)プロセスのイメージ

事務事業の配分(再配分)プロセスとしては、14ページのようなものが考えられる。原則として、ここでは各市町村、または道州の「やる・やらない」の判断が優先するが、市町村を越える広域において迅速な対応が求められているものや、国際社会からの要請によって新たに取り組む必要が生じた事務などは、国や道州のイニシアチブで事務事業の配分がなされる場合もあると考えられる。そのような場合でも、国・道州・市町村間の協議を基本に決定がなされるような仕組みにすべきである。

また全国共通性については、実際にはほとんどの事務事業に現行法での枠組みがすでにあり、それに基づく国民的なコンセンサスもあるので、全くのゼロから決めていくということにはならないと考える。これまでにない新しい事務事業が生じたときは除いて、現行制度をベースに標準的なあり方をつくり、それをスタートにこのプロセスを使って修正を重ねていくことになる。道州制の導入によって、国民生活や経済活動に無用な混乱をもたらさないためにも、このような現実的なアプローチが妥当であると考える。

(3)地方間の水平的な調整の重要性

上記のようなプロセスにおいては、国と地方間の垂直的な協議とともに、道州間・市町村間の水平的な協議が重要となる。各道州や市町村は自立した行政運営を行うことが基本であり、他の道州や市町村は競争相手でもあるのだが、道州間・市町村間の協調がなければ、全国共通性の確保は当然のこと、各道州や市町村間の施策が矛盾し、それぞれの効果が発揮できなくなる可能性もある。また、水平的な調整によって、地方が自ら課題を解決できないなら、国の介入や関与を招くことにもなろう。

1の(2)(全国的に統一性が必要な施策への対応)でも述べたように、道州や市町村が互いの施策や条例について協議を行い、協調的に調整を進める仕組みを設けることが必要になる。また、そのような仕組みに参画することは道州や市町村の権利であり、また義務であることは明記されるべきである。

また、協議の対象となるのは、全国共通事務や地域的な共通性が必要な事務だけではなく、ある道州や市町村の独自の戦略や施策であったとしても、他の道州、市町村に影響を及ぼすものは全て対象となるようすべきである。

国・道州・市町村の事務配分・再配分プロセスのイメージ

プロセス

各プロセスの内容

1 国・道州・市町村の役割分担

補完性の原理に従い、市町村→道州→国の順で役割分担を考える。
(役割分担は道州によって異なることも)

  1. 多数の市町村が担う意思
    →市町村の事務
  2. 多数の市町村に担う意思なし、多数の道州に担う意思あり
    →道州の事務
  3. 多数の市町村・道州に担う意思なし
    →国の事務
  4. (1)から(3)の過程を繰り返し経て、標準的な国・道州・市町村の役割分担を決定

2 地域共通性・全国共通性

近隣の市町村(道州)と協議

  • 共通の執行基準や執行手続が必要か
  • 互いの施策を整合させる必要はあるか

全国の市町村(道州)と協議

  • 全国の市町村(道州)がともに担う事務とすべきか
  • 全国一律の執行基準や執行手続が必要か
    • 全国市町村協議会・全国道州協議会で協議
    • 共同政策、共同条例案の策定
    • 各市町村(道州)条例に規定

(これらの過程を国会に委ねることも。但し、地方の意思を反映)

3 実際の事務配分

個別の市町村の意向に基づき、事務を道州や各市町村に配分する。

  • 標準的な役割を担うことのできない小規模市町村の補完
  • 標準以上を担える市町村への権限移譲
  • 財源調整の方法

などについて決定

4 事務配分の見直し

市町村(道州・国)の意向によって、

  • 道州内の実際の事務配分
  • 地域共通性・全国共通性
  • 国・道州・市町村の標準的な役割分担

について見直す

 <競争と協調>

各市町村や道州は、それぞれの地域を振興するために独自の施策を競うが、同時にそれらの施策を有効なものとするためには、他の市町村や道州、国との協調も必要である。

4 道州制下の税財政制度

道州制下の税財政制度については、道州や市町村が自らの意思と責任で政策展開ができるよう、国・道州・市町村間のそれぞれの役割分担に応じた、自主性・自立性の高い制度とすることとすべきである。また、受益と負担の関係を明らかにして、どのような施策をどの程度の負担で行うのか、住民自らが判断できるようなシステムとしなければならない。

このため、補助金や交付金などの国から地方への移転財源に頼ることなく、自らの税収により道州や市町村がその役割を担うことを基本に、自立性が高く偏在性の少ない地方税体系を構築する必要がある。国と地方の税源配分を抜本的に見直し、国から地方への大幅な税源移譲を行うとともに、地方の課税自主権を強化しなければならない。

また、住民にとって受益と負担の関係が分かりにくく、地方の自由な行政運営を損なう国庫補助負担金や、直轄事業負担金のような制度は廃止されるべきである。

(1)税源配分のあり方

国・道州・市町村それぞれの税源をどのように配分していくべきか。現実的なアプローチとしては、まず国・道州・市町村間で役割分担を決め、標準となる仕事の割り振りを行った上で、各政府レベルでの所要額を見積もり、それに見合う収入額を確保するために、適切に財源を当てはめていくことになる。

基本的な考え方としては、固定資産税のような課税ベースが動かないものを市町村に優先的に与え、逆に課税ベースが移動する消費税はより広域の政府レベルの税源とするということがある。特に消費税は、税源の偏在性が少なく、税収の安定性も備えていることから、道州の基本的な税源とすることが考えられる。

地方の自立性をより完全なものとするために、国・道州・市町村間で課税ベースを完全に分離し、徴税事務もそれぞれ別個に行うべきとの議論もあるが、現行よりも地方が担う仕事が大幅に増えると考えられるなかで、あまり現実的な議論とは言えない。それぞれの政府が必要な額を確保することを優先すべきであり、むしろ消費税や法人税などは国と地方が課税ベースを共有するようなあり方も考えられる。このとき、国と地方が双方の合意に基づく割合で税収を分けるなど、国の一方的な裁量を排除するような仕組みを用意することが肝要となる。

また徴税事務については、効率的で合理的な事務の遂行のために、国と地方で一元的な徴税機関を設立することや、道州が一元的に徴収し、法律などで予め定められた割合に従って、国や市町村に配分するような方法も考えられる。

(2)財政調整制度のあり方

道州制導入の目的が各地域に自立的な経済圏を形成することにあり、道州間の経済力格差も小さくなっていくと期待されることから、財政調整制度は不要になるとの考えもある。しかし、現実には北海道や沖縄など、地理的な条件や経済社会的条件が厳しい圏域もあることが想定され、道州間の経済力格差は長期にわたって残ると考えられる。

そこで、全ての道州が最低限必要な行政サービスを担えるよう、道州間の財政調整制度が必要となるが、現行の地方交付税制度のように各道州のやるべき仕事やその水準を細かく定め、財政需要を積み上げていくと、制度を複雑にし、その透明性を下げることになる。また、調整財源への依存を必要以上に大きくすると、各道州の自立性を損ね、住民にとって受益と負担の関係を不明確なものにしてしまう。

各道州は、財政調整制度によって基準となる最低限の行政サービスを賄うだけの財源が保障され、それを超える部分については、自らの財源(税率を上げること)によって確保していくというあり方を基本とすべきである。そのため、極力調整総額は小さく、また制度はシンプルで明快なものにすべきである。

調整財源については、道州自らの税収に求める考え(水平調整)と国税に求める考え(垂直調整)があるが、国税に財源を求めると国への依存を深めるのではないかとの懸念から、専ら水平調整のみによるべきとの議論がある。しかし、諸外国の制度をみても水平調整のみとすることは難しく、例えば、地方6団体が求めてきた「地方共有税」のように、国税にも調整財源を求めつつ、調整の過程に道州の意思が反映されるような制度を考えていくことが現実的であると考えられる。

(3)道州間財政調整制度のイメージ

以上のような基本的考え方を踏まえつつ、道州間の財政調整制度をイメージにすると、次ページのようになると考える。

ここでは、同じ行政サービスを受けるためのコストとして線CDEFが、また全道州を通じた一人当たりの平均支出(税収)額が線HIで示されている。ここでいう「行政サービス」とは、道州が標準的に担うと想定されるすべての行政サービスを考えるのではなく、そのなかでも全ての道州が必ず担うべきと考えられる最低限の行政サービスを考える。例えば、財政力の乏しい州(困難州)のなかでも、とりわけ条件の厳しい州を基準に、その地域社会を維持するための最低限の施策を想定する。仮にこの行政サービス(そのコスト)を初期値(デフォルト)と呼ぶとすると、初期値は出来るだけシンプルに、かつ小さく想定すべきである。

次に、線CDEFのうちCD間には「困難州」が、EF間には「富裕州」が存在し、そしてDE間には「中間州」が存在するということになる。このとき、道州間の財政調整制度をできる限りシンプルな制度設計とし、また道州間の水平調整を中心に運用するなら、中間州がマジョリティを構成し、困難州と富裕州の調整役を担うことが望ましい。そのためには、まず税源移譲によって中間州の財政力を高め、財政的に自立して道州としての標準的な役割を担うことができるようにし、財政調整の対象をなるべく困難州と富裕州に限定することが必要である。

道州の区割りについて研究会として特定の案を想定しているわけではないが、例えば第28次地方制度調査会の区割り案とそれぞれに属する府県の財政力や地方税収額を考えると、将来、関西州がこの中間州のなかで重要な位置を占める可能性が大きく、他の中間州と緊密な関係を築くとともに、全国的な視野からも道州間の協調関係をつくる役割を担うこととなろう。

なお、財政調整制度をさらにシンプルにする観点から、調整対象を一人当たりの平均支出額(線HI)に止めるべきとの考えもあるが、現実に困難州を地域社会として維持していけるのかどうか慎重な検討が必要である。

道州間の財政調整制度イメージ
  • HIは一人当たりの平均税収額(平均歳出額)。
  • ある行政サービスを基準に、同じ内容の行政サービスを受けるためのコストを考えると、人口密度が低い地域はコストが高く、また人口密度が高い地域も過密などからコストが高くなる。
    したがって、一人当たりのコストは線CDEFを描く。
  • 各道州の一人当たりの税収額は通常、人口密度が高いほど高くなると考えられ、線AGを描く。
  • 道州間の税収格差を緩和するため、富裕州(線EG)が一定額を拠出(△EFG)し、困難州(線AE)へ交付する(△EBA)。
    拠出金額=交付金額。したがって、各道州間の収入格差はBFに緩和。
  • さらに、困難州がなお賄うことができないコスト(EBCDで囲まれた部分)を国が補填する。
  • また、基準となる行政サービス以上のものを供給する場合(線JK)については、当該道州が独自に課税して財源を調達する。
    (出所)齋藤 愼、中井 英雄「再考・道州制」『日本経済新聞』 2008年5月20日朝刊。

(4)市町村間の財政調整

市町村においても、その行政運営は自主的・自立的な財政に基づくこととし、市町村間の財政調整制度はなるべくシンプルに、そして調整総額はミニマムにすることが基本となる。このとき初期値は、消防や救急医療など最低限必要となる行政サービスを基に算定し、財政調整はその範囲にとどめ、それを超えるサービスについては各市町村がそれぞれの努力(増税を含む)のなかで財源を確保していくこととすべきである。

しかし、市町村間の場合、水平調整を基本とすることは困難ではないかと考える。道州制導入後も市町村の数は相当に多く、また財政能力についてもかなりバラつきが出ることが考えられ、道州間のように中間的な市町村が中心となって調整を担うということを想定できる状態にはまだない。現実には道州による垂直的な調整を考えることになろう。

但し、調整総額が膨らみすぎないように、自主財源のみで運営する市町村の基準・範囲を明確にし、その範囲におさまる市町村が多数を占めるような仕組みにしていく必要がある。また、財政力が比較的弱い市町村は「困難州」に偏在する傾向にあるので、道州間の財政調整にその点を考慮することも必要になるであろう。

(5)課税自主権の強化など

道州や市町村が役割に見合った税収を自主的・自立的に確保し、また住民に対して受益と負担の関係を明らかにするためにも、地方の課税自主権が強化されるべきである。現行のような標準税率や制限税率は基本的には無くし、税率に制限を設けるのは国と地方が課税ベースを共有し両者間に調整が必要な場合などに限るべきである。また、法定外税についても原則、自由に設けることができるようにすべきである。(注3)

地方債の発行と償還については、自らの責任と負担で行うことを基本に、単独での発行が困難な小規模自治体には必要に応じて道州が共同発行の仕組みを取り入れるなど、国の同意をはじめとした関与や現行の地方交付税のような財源保障は行わないこととすべきである。

(注3)但し、各道州がバラバラに種々雑多な物品・サービス税を課すると、内外との交易を不必要に妨げるようなことも考えられる。先述のように消費課税などは国と地方が共同して行い、対等の立場で税収の分配について定めていくことが現実的であると考えられる。

5 大都市制度のあり方

現行の府県と市町村の関係において、政令指定都市(以下、「政令市」)に代表される大都市特例があるが、道州制下においてはこれをどのように考えていくべきであろうか。関西には4つの政令指定都市が存在し、それぞれの都市圏が連たんして重なり合うとともに、全体として拠点性の高い集積を形成していることから、政令市をはじめとする大都市と道州の役割分担や関係をどうするかは、関西にとって重要な課題となる。

(1)特例的な扱いの対象となる都市

道州が広域的な行政に重点化する一方、市町村は住民に身近な行政を総合的に担うという明確な役割分担を行うことや、そのため現行の府県の事務も大幅に市町村へ移譲することになること、さらには初期値となる行政サービスを基準に市町村自らの意思と責任で担うべき事務を決めていくことになることから、現行のような人口規模を基準にして特例市や中核市のような特例を設けるあり方はとる必要がないと思われる。

しかし、東京都の区部や政令市、特に大阪市のように政治経済機能の集積が進み、多くの昼間人口を抱えるような大都市の場合は、次のような理由から特別の仕組みを設けるべきと考える。

  1. 極めて高い行財政能力を持ち、各都市が大都市特有の行政需要に対応するために行う施策が、その行政区域を越えて効果や影響を及ぼし、道州が圏域全体をにらんで行う施策との間に重複や競合を生じる可能性が高い。
  2. 各圏域の経済活動の中枢であり、各都市が自らの集積向上のために行う施策と、道州が圏域全体の経済発展をにらんで行う施策との間に整合性が必要となる。
  3. 行政区域を大きく越えて都市圏を構成し、広域自治体である道州との連携協力が課題となる。

関西の場合は4つの政令市があり、このうち京都、大阪、神戸の3市は昼間人口比率が100%を超え、独自の都市圏を構成するとともに、その集積は全体として関西経済の牽引役となっている。また、堺市の昼間人口比率は100%を超えていないが、湾岸エリアに高度な産業集積が進むなど、関西経済にとって重要な都市として発展していくことが見込まれている。このことから関西州とこの4政令市との間には、特別な仕組みを備えることが必要であると考える。

(2)大都市の位置づけ

次に大都市について、道州に包括される基礎自治体のひとつとして扱うのか、道州から独立した特別の自治体とするのかという論点があるが、大都市圏の多くが元々の行政区域を超えて広がっている現状を考えれば、一定の市域のみを道州から切り分けることは、生活圏や経済圏を分断し、広域的な課題への一体的・総合的な対応を損ない兼ねない。関西の場合も、4政令市の都市圏が連たんし、相互に重なり合っていることから、関西の一体性を損なわず、広域的な課題に効果的に対応するためには、政令市を含めすべての市町村を道州に包括される基礎自治体として扱うべきである。

(3)道州と大都市の関係のあり方

市町村の規模を問わず、財政調整制度の基準となる行政サービス(初期値)を超える施策については、住民が負担(増税)の是非を判断し、自らの選択で実施することが基本である。大都市についても、基礎自治体としてその区域を対象として、自らの判断と負担で行う施策については、道州は関与も支援もしないことが原則となる。

しかし、(1)で述べたように道州と大都市との間には施策の重複や競合が生ずることなどが考えられ、また、グローバルな都市間競争に勝ち抜くためには、大都市の有する政治経済機能の高い集積を核として、圏域単位で資源の効率的な活用を図ることが必要となる。こうしたことから、道州と大都市との間においては、相互の役割や施策について調整するための特別な仕組みが必要となる。

道州と大都市の事務の重複

一般に道州の担う義務

  1. 圏域を単位とする主要な社会資本整備
  2. 広域的な見地からの環境保全・管理
  3. 人や企業の活動圏・経済圏に応じた地域経済政策、雇用政策
 

大都市の担う事務

(都市基盤整備)

  • 道路、港湾、鉄軌道、空港 など

(産業・労働・経済)

  • 産業振興、企業立地促進、観光施策、雇用促進、職業訓練 など

(福祉・健康)

  • 感染症対策、難病対策、高次医療 など

(教育・文化)

  • 大学の設置、文化スポーツ振興 など

(環境)

  • 環境対策、産業廃棄物対策 など

一般的に基礎自治体の担う事務

一般の市町村が担う事務

 

※指定都市市長会「道州制を見据えた新たな大都市制度の在り方についての提言」より作成

(4)具体的な課題と調整のための仕組み

道州と大都市の間で課題となるのは、大都市が自らの振興のために行う社会基盤整備などの施策と、(1)道州が圏域全体をにらんで行う同様の施策との整合性、(2)道州が圏域全体のバランスやネットワークを考えて作成する計画や戦略との整合性である。例えば、大都市が都市機能の向上を目指して建設を行う地方空港と、道州が圏域全体をにらんで整備を進める基幹空港との役割分担などの問題は、これに相当する。

また、(3)大都市の行う施策の効果や影響の及ぶ範囲が、負担を課される者、または民主的統制を行うべき者との間に齟齬を来たしていることも課題である。例えば、地下鉄などは大都市の区域内のターミナルを結ぶだけではなく、郊外を結ぶ路線とも相互乗り入れを行うなど、大都市圏全体の交通ネットワークを構成する重要な要素であり、その整備や運営については、大都市の行政区域に住む住民が民主的な統制を行っている。一方、その負担は運賃の支払いなどを通じて、大都市の住民以外にも及んでおり、望ましいあり方であるかどうか疑問が残る。

こうした課題を解決するには、大都市の自立的・自主的な施策展開を尊重しつつ、(1)港湾や空港、道路整備など圏域全体に影響を及ぼす基盤的な社会資本整備などの施策は、独立の事業体に切り離して一体的な管理を目指す、(2)計画・戦略の整合性については、道州と大都市がそれぞれの案を持ち寄って協議をする、あるいは策定過程に互いに参画し合うような仕組みを用意することが必要となろう。

前者については、一部事務組合や広域連合の設置、機関の共同設置、法人への共同出資などの手段が考えられる。但し、広域での民主的統制のあり方をどう考えるかについては、留意しなければならない。また後者については、自治憲章の制定を通じて、道州と大都市の役割分担や施策の調整について一般的な原則を定めるほか、現行の地方自治法に定めるような協議会の設置、総合調整のための任意の組織の設置、企画立案部門の職員の人事交流、計画の実施段階での協議、さらには係争処理のための第三者機関の設置など、多様かつ多層の手段を用意することが妥当であろう。

また、大都市だけではなく各都市圏単位で施策の整合を図るという観点から、これらの仕組みには大都市とともに同じ都市圏を構成する周辺市町村の参画も得ることが望ましい。さらに、関西の場合は、京阪神に4つの大都市圏が連たんしていることから、京阪神全体で共通の事業主体や戦略・計画を作るような試みも考えられる。

大都市が中枢機能を発揮し、道州全体の経済を牽引していくためには、その特性や個性が尊重されなければならず、過度にその施策を枠付けることには自制的であるべきだが、道州全体の資源配分や大都市圏以外の住民・地域とのバランス、道州全体のネットワークとの整合性は道州が責任をもって図る必要がある。大都市が自らの行政区域のことだけではなく、大都市圏の中枢都市としての役割や、道州全体の牽引役としての役割を同時に、かつ適切に果たしていけるようなあり方を、道州とともに作っていくことが求められる。

大都市においても、住民にとって受益と負担の関係が明らかであるなら、住民の監視が無駄な「二重行政」を抑止し、道州との合理的な役割分担や連携を後押しすると期待できる。この点において委員のなかから、大都市における住民自治の充実が重要となるが、都市としての一体性や機能を保ちつつ、市民参加を得ながら行政運営を行うには、中核市程度の規模(人口30万人)が妥当であり、政令市域の「複数市への分解」や、行政区の法人区への転換(区長公選制の導入)も検討されるべきとの意見があった。一方、大都市内の自治制度については、大都市自らの意思と責任に委ねるべきであり、道州が一方的に枠組みを決めることは望ましくないとの意見もあったところである。

(5)地域間財政調整機能

現行の府県及び政令市の関係においては、政令市域の地方税収はすべてが政令市の税収となるのではなく、政令市を包括する府県の税収ともなっている。この税収は府県の施策を通じ、政令市以外の地域に重点的に配分されることで、一種の地域間財政調整機能を果たしている。道州の役割が圏域の各地域の調和を図りつつ、全体の発展を促すことにあるなら、こうした機能を引き続き道州が担うことが重要になる。

例えば、ある河川の流域において上流部の森林整備や砂防事業は、下流部にある大都市に大きな利益を与えているが、流域全体で負担を分かち合うには、道州が大都市を含め一体的に税を課し、山間部に重点的に投資を行うようなあり方も考えられる。

大都市を道州から独立した自治体とすると、このような機能を果たせなくなる恐れが強い。道州全体の観点から受益と負担の関係を明らかにし、かつ民主的な統制の下で圏域全体のバランスを考えながら施策を進めるためにも、大都市は道州に包括される基礎自治体とすべきである。

(6)地域的な拠点都市との関係

圏域全体の発展を図るという道州の役割を考えるとき、京阪神のような都市的な中核地域との関係のほかに、日本海や太平洋沿岸部の拠点的な都市(例:彦根、福知山、紀伊田辺、豊岡など)との関係を考える必要がある。大都市及び大都市近郊と、農山漁村地域との調和を保ちつつ圏域全体の発展を促すのが道州の重要な役割なら、農山漁村地域の核となる各都市の施策と道州の戦略・計画との整合性を十分にとらなければならない。このため拠点都市との間には大都市同様に、それぞれの戦略・計画を整合させるスキームを考えておくことが望ましい。

但し、道州単位の戦略や計画に基づき、現実に各地域でどのような政策を選択するかは、各地域の自主的な判断によるべきであって、それは農山漁村地域でも同じである。道州が各地域の特色を活かした施策を支援しつつ、大都市圏と周辺部の農山漁村地域とのバランスを保ち、道州全体としてのネットワークを形成することで、道州内一極集中への懸念に応えることができると考える。

道州と大都市間調整のイメージ

道州-大都市-大都市圏周辺都市

  • 道州と大都市間で施策の整合性を確保
    <例:道州単位での物流戦略の策定と大都市が行う港湾整備>
  • 大都市圏内での水平連携と中枢機能の発揮
    <例:高次救急医療への共同対処と基幹病院の設置>
  • 圏域全体をにらんだ一体的な施策
    <例:流域単位の河川整備計画の策定とそれに沿った総合的な河川管理>
  • 共同実施主体
    圏域全体に影響・効果を及ぼす事業の共同実施<例:都市鉄道の整備・運営>
  • 地域間財政調整機能
    <例:道州が一体的に課税し、上流の山間部に重点的に投資>
<道州と大都市間の調整の仕組み>(例)
  • 自治憲章:道州と大都市間の役割分担や施策の調整について一般的な原則を規定
  • 調整機関:
  1. 法定協議会の設置
  2. 総合調整のための任意組織の設置
  3. 計画実施段階での調整(事業実施に先立ち協議・同意を求める等)
  4. 係争処理機関の設置(事後的な紛争処理)など
  • そのほか:企画立案部門の人事交流など
  • 共同実施主体:特定の事業を切り分け、別の主体に執行を委ねる
  1. 一部事務組合・広域連合の設置
  2. 独立行政法人、公団・公社などの機関の共同設置
  3. 法人への共同出資 など

6 道州の執行機関、議会のあり方

道州は、圏域全体のバランスとネットワークを保ちながら経済発展を図り、その果実についても圏域全体で分かち合うというあり方を目指すべきである。執行機関や議会についても、それに相応しいあり方を考えていく必要がある。また、広域的な行政に重点化するとはいえ、道州は国から大幅な事務事業の移譲を受けることになり、その権限や予算規模も、現行の府県と比べかなり大きなものとなることが想定される。

こうした点を踏まえた上で、道州の執行機関や議会の制度設計については、次のような要素に考慮を払う必要がある。

  1. 政治的安定性
  2. 意思決定の迅速性と、責任の所在の明確さ
  3. 権力集中の抑制と議会の機能強化
  4. 圏域全体の観点からの利害調整と公益実現
  5. 選挙における多様な意見の反映と、具体的な争点の明示

(1)制度の枠組みと選挙制度

まず、憲法93条に規定する長と議員の直接公選を通じ、民主的な正当性をもった代表機関、政治的な決定機関を備えることが不可欠である。しかし、これ以外の具体的な制度は道州ごとに異なっても構わない。実際には、(1)現行制度を踏襲、(2)アメリカの大統領制に近い役割分担型の二元代表制、(3)公選首長と議会が一体となって行政運営を担う議院内閣制的な制度などが考えられる。

但し、日本の二元代表制は、本来議会に属する権限を首長が決定できる制度(専決処分)があったり、不信任議決に対して議会の解散が選択できるなど、首長の権力がやや強いものとなっている。現行制度を踏襲するのであれば、首長の多選禁止を加えるなど首長への権力集中を抑制することや、議会の権能をより強化する方向で検討することが望ましい。

道州議会の選挙制度については、(1)地元の利害にとらわれず、道州全体の観点から政策的展望を持った政党が多数派を形成する仕組みが望ましいこと、(2)マニュフェストを通じた政党選挙を行い、道州全体でバランスよく意見を反映できる制度が望ましいことから、地域代表としての性格を薄め、比例代表選挙を採用(併用)することが望ましいと考える。

また、安定した政権運営のために、議会委員会制や議院内閣制のような仕組みを検討してもよい。例えば、イタリアでは首長選挙(直接公選)と地方議会選挙(比例代表制)を不可分のものとして実施し、当選した首長候補を支持する政党に自動的に安定多数を配分する制度を採用している。

なお、道州制への移行後一定期間については、旧府県単位の利害調整のために、旧府県単位の選挙区選挙を併用することや、経過的に府県代表による上院を設けることなども考え得る。また先述のとおり、道州が市町村の事務に関する立法を行う際、市町村の意思を反映するために、道州議会内に市町村長から構成される協議会(意見具申機関)などを設けることも考えるべきである。

市町村の制度についても、全国一律のものとする必要はなく、地域の実情に応じて市町村が自ら選択していくことができるような仕組みとすべきである。地方自治法に相当する法を道州ごとに策定し、その際、道州の立法に定める内容は基本的な部分にとどめ、制度の詳細は市町村自らが設計できるようなあり方も考えられる。

(2)住民自治の保障

道州制の導入によって、府県を廃止することで役所の存在が住民から遠ざかり、住民自治が損なわれるのではないかという懸念がしばしば示される。しかし、道州制の目指すところは、国がこれまで握ってきた内政に関する企画立案権を道州へ移譲し、また住民に身近な行政については、その権限を市町村へ移譲することで、行政に関する決定の場を住民により近いところに移すことにある。

市町村への権限移譲を積極的に進めるとともに、道州の意思形成過程への様々な市民参加、市町村参加の方法を確保しつつ、政策決定を行っていく仕組みを整えることで、この懸念に応えることができると考える。

道州制においても、住民自治の基本は代議制民主主義であり、まず議会の機能を充実強化していくことが基本となる。そして、代議制を補完する仕組みとして、直接民主制的な手段の拡充・強化、情報公開やパブリックコメント制度の充実、重要な案件への住民投票制度の採用などが検討されることが望ましい。

また市町村については、合併などを通じ規模や面積が拡大することも想定されるため、その意思形成過程に住民をどう近づけるかという議論は生じうる。直接民主制的な手段の拡充のほか、地域自治区や地区協議会の活用なども考えられる。

(3)道州の組織

道州の執行機関の組織については、企画立案から管理執行までひとつのパッケージとして、地方が責任をもって決定できるという道州制の意義を形にできるようなものとしなければならない。事業執行については、独立行政法人や企業体などの別の組織へ切り離すことは可能だが、戦略・計画の策定や政策案策定のレベルでは、道州全体の視野から総合的な立案が可能となるような組織が必要である。

現実には分担管理型の組織も残すことになるであろうが、現行の府県にしばしば見られるような、中央省庁のタテ割りをそのまま映したようなあり方は、排除されるべきである。

7 国のあり方

道州制の導入は、単に広域自治体の規模や役割を見直すということに止まらず、国・広域自治体・基礎自治体からなる我が国の統治機構全体の再構築を伴い、国のかたちそのものを変えるものである。国会を含め国の組織・機能の大幅な改革を伴うものとなる。

国の体制や組織は、国が本来の役割(国専管事務)を果たすために必要なものを除き再編され、それらが有していた予算や人員は権限や事務事業の移譲に伴い、地方へ移管されることになる。これまで事務執行を担ってきた国の地方支分部局の大半が廃止されるだけではなく、企画立案機能を担ってきた中央省庁についても、地方が担う事務については、地方自らが企画立案を行うことになるので、大きく解体再編されることになる。

このとき幾つかの点で留意すべきことがある。まず、本来行政が担うべき仕事かどうかという観点から、整理を行った上での移管であるべきである。2の1で述べたように、民で実施可能なものは民に委ね、行政全体のスリム化が図られるべきである。

次に、従前の国の仕事のやり方、組織をそのまま移すことにはならない、ということがある。国の権限や事務事業を道州へ移譲することにより、これまでのタテ割り行政を質的に転換し、地域の実情に応じた総合的な行政を図るべきであり、そのためには道州が国のタテ割り組織をそのまま引き継ぐのではなく、道州独自に必要な組織のあり方を求めることになる。

また、現行の国-地方支分部局を通じた予算確保と事務執行のあり方については、なかなか実態が把握しづらい(注5)。地方支分部局が直接執行している事務ばかりではなく、国の外郭団体や独立法人を通じて実施されているものもあり、地方へ移譲される権限、事務事業に伴い、必要な規模の財源が移譲(確保)されるか十分な検証が必要である。

人員については、地方へ移譲された仕事を担うために必要な人材を、必要な数だけ移すことが基本となるが、国の行財政改革を進めるために、地方支分部局の人員をそのまま道州に移し替えるということであってはならない。特殊な技術をもった職員や専門性の高い職員については、すべての道州や市町村へ直接移管することがかなわず、道州・市町村間の共同組織等にプールするような方法も考えられる。さらに、旧中央省庁の出身者が各道州の企画立案ポストを独占するようでは、現実問題として道州制を導入する意味がなくなってしまう。国、府県、市町村いずれの出身者であるかを問わず、能力本位の公平な任用がなされるべきである。

(注5)むしろこのような実態を民主的な統制の下に置き、地域の意思と責任で必要な政策を実施していくことが道州制の意義である。

3 おわりに

ここまで地方分権改革を進める観点から、道州制がどのような考えの下で制度設計がなされるべきか、(1)国・道州・市町村の役割分担と関係、(2)道州立法(条例)の拡充・強化、(3)道州制下の税財政制度、(4)大都市制度のあり方、(5)道州の執行機関、議会、(6)国のあり方の6つの論点から整理を行った。また、幾つかの論点のなかで市町村のあり方についても触れている。

先述のとおり、道州制の導入は国の統治機構すべてに大幅な改革を及ぼすものであり、実現には、制度そのものの詳細設計だけではなく、現行制度からの移行に伴う手続きなど、少なくとも10年程度の期間に及ぶ議論と作業が必要となろう。無論それは、国だけの手に負えるものではなく、全国の府県や市町村の協力を要するものになる。道州制を「地域主権型」のものとするためには、むしろ当事者として地方が積極的にこの議論と作業に加わることが望まれる。

最後に将来、このような議論や作業に携わることになるであろう大阪府に対して、お願いしたい点を3つ挙げ、結びとしたい。

(1)大阪府には過疎地域がないことを考慮すること

これは多くの府県に比べむしろ特異なことである。道州の役割が、京阪神地域の大都市圏と周辺部にある農山漁村地域とのバランスとネットワークを考慮しながら、全体の発展を期することであるなら、いまその両方を抱える府県の経験や実績から学ぶ必要がある。この点、大阪府の担当者は謙虚であるべきである。

(2)海外の事例に学ぶこと

海外には我が国に先行して地方分権改革に取り組んでいる単一制国家や、連邦制をとる国家がある。海外の制度をそのまま移入せよということではないが、いずれの国も、地域主権と国家としての一体性をいかに両立させるか、智恵をしぼり、時間を掛けて制度を作ってきているはずである。具体的な制度のあり方は、これらの国家の事例からも学ぶことができる。

(3)地方分権改革を着実に前進させること

間もなく政府の地方分権改革推進委員会から第2次勧告が出される予定である。いわゆる「第二期地方分権改革」はまさに正念場を迎えており、この改革が頓挫するようでは、「地域主権型」道州制の実現はおぼつかない。道州制は究極の地方分権改革の姿であるべきであり、分権改革なき道州制は単なる都道府県合併となってしまう。まずは第二期地方分権改革の実現を強く求めていくべきである。

言うまでもなく大阪府単独で関西州は構成されない。近隣府県とともに連携と協力を重ね、ともに関西州を作っていかなくてはならない。現在、関西の府県は広域連合への結成に向け検討を急いでいると聞いている。「関西広域連合」が実現すれば、そこでの実践と検証が、道州制へ向けたステップを提供するはずである。道州制について関西の各府県の間では温度差もあることを承知しているが、広域連合での実践と検証を通じ、望ましい広域自治体の姿を近隣府県とともに模索して欲しい。

大阪府として、道州制の具体的な姿についてどのようなあり方がよいと考えるのか、関西に相応しい道州制とはどのようなものか、今後、意見を表明し、また制度設計に係る作業にも参画していくことになると思うが、その際、この報告がひとつの指針となることを期待している。

平成20年12月1日

大阪府広域自治制度に関する研究会

大阪府広域自治制度に関する研究会 委員名簿

  • 座長 新川達郎 同志社大学大学院総合政策科学研究科長
  • 副座長  山下 淳 関西学院大学法学部教授
  • 委員 中井英雄 近畿大学大学院経済学研究科長
  • 委員 玉岡雅之 神戸大学大学院経済学研究科准教授 

(注)委員の肩書きは、平成20年4月1日現在

大阪府広域自治制度に関する研究会 開催実績

回数

開催日時

主な議題

第1回

平成19年8月13日

広域自治体改革が求められる背景について

第2回

〃 9月13日

国・道州・市町村の役割分担について

第3回

〃 11月13日

道州制下における税財政制度のあり方

第4回

〃 12月27日

道州制下における大都市制度、道州の執行機関・議会について

第5回

平成20年1月30日

道州の条例制定権の拡充・強化について

第6回

〃 2月21日

道州制にかかる課題について

第7回

〃 3月31日

「中間論点整理」(案)について

第8回

〃 4月28日

国・道州・市町村の役割分担について

第9回

〃 6月3日

国・道州・市町村の役割分担について

第10回

〃 7月1日

道州制下における大都市制度、国の具体的な姿について

第11回

〃 7月31日

道州制下における税財政制度のあり方、道州の執行機関・議会について

第12回

〃 8月28日

「最終報告」(素案)について

第13回

〃 10月21日

「最終報告」(案)について

第14回

〃 12月1日

「最終報告」(案)について

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