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大阪府家畜排せつ物利用促進計画
大阪府家畜排せつ物利用促進計画 平成28年5月策定
「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」(平成11年7月28日法律第112号)に基づき、国は平成27年4月に平成37年度を目標とする新たな「家畜排せつ物の利用の促進を図るための基本方針」を策定しました。
これを受け、府は、新たな基本方針に即した「大阪府家畜排せつ物利用促進計画」の見直し策定を行いました。
大阪府家畜排せつ物利用促進計画
第1 家畜排せつ物の利用の目標
本府においては、「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」(平成11年法律第112号。)に基づく管理基準は、平成26年12月1日現在、すべての適用対象農家において遵守される状況となっています。家畜排せつ物処理施設が整備されることにより増産された堆肥の有効活用について、畜産農家と関係機関が一体となりさまざまな取り組みをしてきた結果、安定的に利用されてはいますが、引き続き利用の促進及び良質堆肥の生産促進対策が必要とされています。
このため、府、市町村、農業関係団体、畜産農家、耕種農家等の関係者は一体となって、次に掲げる事項に留意し、平成37年度を目標年度として、家畜排せつ物の利用の促進を図るための取組を計画的に推進するものとします。
1 畜産の現状
本府の畜産は、大消費地を背景として、都市近郊の有利性を生かした典型的な都市畜産として発展してきました。しかしながら都市化がさらに進んだことや、生産費の上昇により営農環境が整わなくなったことに加え、担い手の高齢化及び後継者不足等による離農があい続き、飼養戸数及び頭数が年々減少するのは避けられず、平成26年2月1日現在、乳用牛1,420頭、肉用牛700頭となっています。
とはいえ、本府畜産の平成25年農業産出額は21億円(表1)と、依然として、本府農業部門において重要な位置にあり、今後とも、農業の基幹部門として安定的な発展を図っていく必要があります。
「畜産経営の現状」(表1)
畜種 |
農家戸数 |
飼養頭羽数 |
1戸当たりの飼養頭羽数 |
農業産出額(億円) |
---|---|---|---|---|
乳用牛 | 32 | 1,420 | 44 | 13 |
肉用牛 | 14 | 700 | 50 | 1 |
豚 | 8 | 7,010 | 876 | 4 |
採卵鶏 | 16 | 79,000 | 4,938 | 3 |
畜産統計(平成26年2月1日現在)
平成25年「生産農業所得統計」
2 家畜排せつ物の利用の現状と課題
(1)家畜排せつ物の利用の現状
本府における年間の家畜排せつ物発生量は、平成26年2月現在で、窒素量に換算して約341トンと推定されます(表2)。
「本府の家畜排せつ物発生量」(表2)
区分 |
飼養頭羽数 |
排泄量(1頭当たり) |
窒素含有率 |
排泄物発生量 (窒素量換算) |
|||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ふん |
尿 |
ふん |
尿 |
ふん |
尿 |
||||
|
(kg/hd/day) |
(kf/hd/day) |
(%) |
(%) |
(t/yr) |
(t/yr) |
|||
乳用牛 |
搾乳牛 |
1,100 |
45.5 |
13.4 |
0.4 |
0.8 |
73 |
43 |
|
乾・未経産 |
160 |
29.7 |
6.1 |
7 |
3 |
||||
育成牛 |
160 |
17.9 |
6.7 |
4 |
3 |
||||
肉用牛 |
2歳未満 |
310 |
17.8 |
6.5 |
0.4 |
0.8 |
8 |
6 |
|
2歳以上 |
200 |
20.0 |
6.7 |
6 |
4 |
||||
乳用種 |
190 |
18.0 |
7.2 |
5 |
4 |
||||
豚 |
肉豚 |
6,890 |
2.1 |
3.8 |
1.0 |
0.5 |
53 |
48 |
|
繁殖豚 |
120 |
3.3 |
7.0 |
1 |
2 |
||||
採卵鶏 |
雛 |
12,000 |
0.059 |
- |
2.0 |
- |
5 |
- |
|
成鶏 |
67,000 |
0.136 |
- |
- |
67 |
- |
|||
ブロイラー |
0 |
0.130 |
- |
2.0 |
- |
0 |
- |
||
合計 |
|
|
|
|
|
341 |
|||
出典等 |
畜産統計(平成26年2月1日現在) |
「環境保全と新しい畜産」 農林水産技術情報協会 |
(算出値) |
このうち、畜産及び耕種農家によって堆肥等として農地還元利用に仕向けられるのが約254トン、浄化・蒸散・希釈放流等の農地還元されないものが約87トンと推定されています。
(2)家畜排せつ物利用促進に関する課題
本府における平成27年度の家畜排せつ物の堆肥等としての利用率は、これまで種々の取組により向上させてきた結果、74.4%となっていますが、今後さらなる対策を行わなければその利用率は減少が予想されます。
要因としては、農地面積が減少傾向にあること、高齢化や後継者不足による労働力の不足、都市農地ならではの臭気問題といった原因が挙げられます。
具体的には、畜産農家、耕種農家ともに高齢化しており、重労働である堆肥の散布作業が行えなくなってきたこと、堆肥施用時には特有の臭気が発生するため、地域によっては周辺住民からの苦情発生により使用を控えざるを得ないこと等が考えられます。これらの課題を解決し、継続的な仕向け先を確保することが重要な課題となっています。
また、家畜堆肥の生産には労働力や施設維持費、資材費など諸経費がかかるにも関わらず、生産費の回収が十分に出来ていない実態があります。畜産経営の安定化のためには、畜産環境に配慮しつつより良質な堆肥を生産し、継続的に供給することで堆肥の価値を高めることが重要です。
3 家畜排せつ物の利用の目標
平成27年度策定の大阪府酪農・肉用牛生産近代化計画等を踏まえると、担い手の育成や酪農団地を中心とした飼養規模の拡大推進といった生産基盤の強化等総合的な対策により乳牛は現状と同等、肉用牛、豚及び鶏では現状の8割程度の頭羽数を維持する見込みです。
これによると、目標年度である平成37年度には、家畜排せつ物の予測発生量は窒素量に換算して約296トンとなり、このうち下水道の利用等による割合は現状と同等とすると、これを除く約220トンが利用可能な量と推定されます。
発生量は減少するものの、利用可能な量は引き続き堆肥等に処理し、農地へ還元していく予定です。このため、先に述べた課題を解決し、積極的な対策を実施することにより現状の家畜排せつ物の利用率を概ね維持することとし、目標値は75%とします。この目標を達成するため、以下の取り組みを進めるものとします。
4 基本的な対応方向
(1)耕畜連携の強化
耕種農家等における堆肥の利用を促進するため、府は、市町村、農業関係団体等と連携し、
- ア 地域における堆肥の需給情報の把握と情報の共有
- イ エコ農産物生産農家等、耕種農家へ向けた情報発信や技術指導等による堆肥利用促進
- ウ 耕畜連携の優良事例を紹介する等により、農家の自主的な取り組み啓発等に努めるものとします。
(2)ニーズに即した堆肥づくり
耕種農家等堆肥利用者のニーズ(土壌改良効果、腐熟度、価格、肥料効果、取扱性等)に即した堆肥を生産し、供給するため、
- ア 府、市町村、農業関係団体等は、必要な情報の収集と畜産農家への提供及び技術指導を行います。
- イ 畜産農家は、得られた情報や技術を活かし、ニーズに即した堆肥を生産し、供給するよう努めます。
- ウ 試験研究機関は、アで行う堆肥生産の技術指導に役立てるための技術支援等を担います。
これらの取り組みにより堆肥の品質を高めることで堆肥利用機会の向上とともに堆肥の価値の向上を目指します。
(3)府民の理解醸成と家庭菜園への普及
食の安全安心への関心と健康志向の高まりから実益と趣味を兼ねてセカンドライフに家庭菜園を楽しむ層が増えています。府、市町村、関係関係団体等はこれらの層へ府内産堆肥を活用した有機栽培の良さを訴求することで、堆肥の利用促進ひいては資源循環型農畜産業への理解醸成に努めます。
(4)各地域における堆肥需給状況と方策
- ア 北部地域
北部地区においては、山間部に畜産農家は点在化しながらも、肉用牛や養鶏を主体に、安定的な経営が行われています。耕種農家においても野菜・米を中心に持続的な農業が行われており、エコ農産物や有機農業への関心が一部で特に高く良質な堆肥の供給が望まれています。また、中部地区においては畜産団地や企業養豚経営が行われ、都市部での軟弱野菜等の施設園芸での集約的な生産や山間部での果樹生産が行われていることから、今後とも当地域においては堆肥の需要は見込まれます。 - イ 南部地域
南河内地区においては、養鶏を中心とした畜産経営が行われており、果樹については農家が減少しているものの野菜の生産が盛んです。また、泉州地区は大規模な酪農団地や肉用牛経営があり、府畜産部門の生産額の多数を占めています。耕種農家においても米、果樹、野菜の生産が盛んであることから、労働力不足や臭気問題などへの対策を施した上であれば、堆肥需要増加の余地が見込まれます。
南部地域は畜産、耕種ともに生産が盛んですが、比較的有機農業に先進している北部地域では流通経路等の関係から他府県から堆肥を仕入れていることも多く、南部から北部地域へ堆肥を広域流通させることができれば府内での循環が進み、堆肥利用活性化につなります。このため、府、関係団体等は堆肥の広域流通を進めるべくマッチングに努めることとします。
5 畜産環境問題への対応
畜産施設周辺の宅地化が進展し、畜産になじみのない新たな住民からの畜産施設に起因する臭気への忌避反応は年々強まる一方です。家畜排せつ物の適切な処理のみならず飼育環境を含めた臭気対策や汚水対策が一層重要になっています。
問題の解決にはもはや単独農家のみで対応することは限界があり、地域の畜産農家や関係機関が集まり畜産クラスターを構築し、積極的に対策に取り組むことが必要です。府、市町村等はこのような取り組みを促し、助言、技術支援します。
また、必要に応じ、より環境に配慮した施設の整備など国の補助事業等の効果的な活用を促します。
基本的な対応方法は「大阪府畜産環境保全指導方針」に体制を定めており、特に畜産環境問題が深刻化した場合には府、市町村、研究機関、関係団体からなる大阪府畜産環境保全対策連絡会議を開催し、個別指導方針や有効な処理施設の導入を含めた改善対策について検討します。
第2 整備を行う処理高度化施設の内容その他の処理高度化施設の整備に関する目標
1 本府における施設整備の現状と基本的考え方
本府においては、以前より都市化が進行しており、水質汚濁や悪臭等環境問題の発生を抑えながら地域住民の居住環境の保全を図っていくことが、畜産経営における課題となっていますが、これまで関係者が一体となって畜産環境保全に関する施策を推進してきた結果、処理高度化施設については、必要とされる施設数がおおむね充足される状況となっています。
環境規制、特に汚水は硝酸性窒素等に係る暫定排水基準(700mg/L)が適用されているものの、将来的には一般排水基準(100mg/L)が適用される可能性を踏まえ、適正なものとなるように継続的に稼働状況の確認と機能の高度化についての助言指導をするものとします。
飼養規模拡大や新たな環境規制への適応、畜産環境問題への対応等のため処理施設を整備するにあたっても、畜産農家と関係団体等で構成する畜産クラスターの仕組みを活用します。
酪農団地を中心とした地域においては、酪農クラスターを構築し、離農農家の空き牛舎を有効活用した新規就農、府内酪農家の集約とともに、既存農家においても飼養規模の拡大により飼養頭数を増頭することにより生産基盤の強化を行うことが目指されています。これに伴い家畜排せつ物の発生量増加が見込まれるため、関係機関と連携して施設・機械の整備や有効な処理技術を導入することにより臭気対策や汚水対策を行います。
第3 家畜排せつ物の利用の促進に関する技術の研修の実施その他の技術の向上に関する事項
1 技術開発の促進
本府における家畜排せつ物の利用に関しては、ニーズの多様化に適切に対応していくため、低コストで実用的な技術開発を促進することが引き続き重要です。
このため、府は関係機関との連携を図りつつ、試験研究機関である地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所に対し、堆肥の調製その他の処理技術、悪臭防止技術、排水の高度処理技術等について、低コストで実用的な技術支援を依頼するものとします。
2 指導体制の整備
開発された技術が速やかに生産現場に普及されるためには、技術の普及に関して一定の役割を担っている関係機関の職員や地域のリーダーとなる農家の資質を向上させることが重要です。
このため、国が開催する中央畜産技術研修会へ参加する等、最新の知識・技術を習得して畜産農家の指導にあたる人材を育成し、指導レベルの向上を図ります。
3 畜産農家の技術習得
開発された技術が実際に生産現場で活用されるためには、畜産農家や耕種農家自身がその技術に習熟する必要があります。
このため、畜産農家は、日頃から畜産環境保全に関する技術開発の動向に注意を払うとともに、地域の耕種農家との情報交換に努め、ニーズに即した堆肥生産のための技術や悪臭防止技術、排水の高度処理技術等の習得に努めます。
府や関係団体は、畜産農家と耕種農家が環境と調和のとれた土づくりや効果的な施肥等を行うのに必要な技術・知識の習得が出来るように情報提供を行い、また、意見交換会などの機会を設けるよう努めるものとします。
第4 その他家畜排せつ物の利用の促進に関し必要な事項
1 資源循環型畜産の推進
現在、本府の畜産農家においては、飼料の多くを海外からの輸入に頼っていますが、これを自給飼料に置き換え資源循環型農畜産業の推進を図ることは、食料自給率向上のみならず環境負荷軽減の観点からも重要です。
このため、府、農業関係団体等は、飼料用米など飼料作物に加え、農作物を含む食品の製造残さの有効活用、国産稲わらの給与を推進し、その他利用されていなかった地域の草地資源の活用を検討し、飼料自給率向上を目指します。また、これらを飼料として与えた家畜から生産された堆肥を農地へ還元することで、地域資源の循環型社会の形成を目指します。
2 消費者等の理解の醸成
本府畜産業の健全な発展を図るためには、畜産業に対する消費者や地域住民の理解を醸成することが重要です。
このため、府及び市町村は、
- ア 関係者が一体となって畜産環境対策に取り組んでいること
- イ 家畜排せつ物の利用が資源循環型社会の構築に一定の役割を果たし、環境負荷の軽減に寄与していること
等について、府民に対する普及・啓発に努めるものとします。
3 家畜防疫の観点からの適切な堆肥化の徹底等による防疫対策の強化
万一家畜伝染病が発生した場合は、家畜排せつ物を通じて病原体が散逸することを防ぐ必要があります。このためには日ごろから家畜排せつ物が適切に処理されている必要があります。
府は、
- ア 畜舎内や家畜排せつ物処理施設に病原体を媒介しうる野生動物が侵入して未処理の家畜排せつ物に接触しないこと
- イ ひとや車両の出入りの際は消毒を徹底すること
といった飼養衛生管理基準の遵守を徹底させるとともに、家畜排せつ物中に病原体を含んだ場合も堆肥化処理により死滅させるよう技術指導することにより家畜伝染病蔓延防止措置を行います。