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更新日:2009年8月5日

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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第133号)

(答申第133号)医療法人決算書公開(第三者異議)事案(答申日 平成19年1月26日)

  1. 対象行政文書
    医療法人Aの平成16年度の決算書類(財産目録、貸借対照表、損益計算書)
  2. 実施機関の決定
    • (1)実施機関
      大阪府知事(担当課:健康福祉部医務・福祉指導室医療対策課)
    • (2)決定内容 公開決定
  3. 異議申立て
    • (1)異議申立ての趣旨
      公開決定の取消しを求める。
    • (2)異議申立ての理由(要旨)
      大阪府情報公開条例解釈運用基準には、第8条第1項第1号の「運用」欄に該当する情報例として「(3)経理、労務管理に関する情報」と例示されており、公開することと決定した行政文書が、当該条例第8条第1項第1号に該当することは明らかである。
      公開決定により、当該経理情報が債権者でもない不特定者に流言飛語の材料として悪用されると、受診者等とAとの相互信頼関係が損なわれ、回復困難な損害を受けることとなる。
      さらに、請求者や利用目的が不明であるため、条例第4条の利用者の責務が厳守される保証が無く、責務違反の罰則規定も無い。
  4. 大阪府情報公開審査会の答申
    • (1)審査会の結論
      実施機関は、本件異議申立てを却下すべきである。
    • (2)理由(要旨)
      本件異議申立ては、本件決定を取り消し、本件行政文書を非公開とすることを求めるものであるが、平成18年8月18日に本件異議申立てが提起される以前の平成18年8月10日に、請求者に対し本件決定に基づく本件行政文書の公開が実施されていることが認められる。
      本件異議申立ては、行政不服審査法に基づく不服申立てであり、それは、異議申立ての対象である行政処分が取り消されることによって、当該処分により違法又は不当に侵害されたとする異議申立人の権利又は法律上若しくは条例上保護された利益の回復を求めるものである。しかしながら、本件決定に基づいて公開は既に実施されており、本件決定を取り消しても、事の性質上、公開が実施される前の状態に復せしめることはできない。そうである以上、本件決定を取り消すことは法律上無意味であり、本件決定の取消しを求める本件異議申立ては法律上の利益を欠くものであって、本件異議申立人は異議申立ての利益を有しないといわざるを得ない。したがって、実施機関は本件異議申立てを却下するべきである(同様に、執行停止の申立てもその利益を有しないものであり、併せて却下すべきである)。
      なお、行政不服審査法によれば、行政処分に対する異議申立ては、原則として、処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内にしなければならないとされており(行政不服審査法第45条)、本件異議申立ては、この期間内に提起されているが、公開が実施された以上は、上記の期間内に提起されたか否かにかかわり無く、異議申立ては法律上の利益を欠くものであるから、本件異議申立てが却下されることとなるのは止むを得ないところである。

大阪府情報公開審査会答申(全文)

第一 審査会の結論

実施機関は、本件異議申立てを却下すべきである。

第二 異議申立ての経過

  1. 平成18年6月23日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定に基づき、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「医療法人Aの平成16年度決算書(財産目録、貸借対照表、損益計算書)」の公開請求(以下「前回請求」という。)が行われた。
  2. 同年6月29日、実施機関は、前回請求に対応する行政文書に第三者である異議申立人に関する情報が記録されていることから、条例第17条第1項の規定に基づき意見書提出の機会を付与するため、異議申立人に対して第三者意見書提出機会通知書を送付した。
  3. 同年7月7日、異議申立人から次の内容で意見書が提出された。
    • (1)行政文書の公開についての反対の意思の有無 有
    • (2)行政文書の公開についての意見(概要)
      公開に反対する部分は、医療法人Aの経理に関する情報(府条例第8条1項1号該当)であって、これが公開されると、当院の適正な事業活動に支障を来し、競争上の地位、及び正当な利益が侵害されることが明白である。
      • ア 平成18年度診療報酬改定及び人員配置の経過措置、特に看護職員の配置基準の変更により看護職員の確保について困難が予想されることが明らかであり、当院の最大の問題点である。情報が公開された場合、他の医療機関との間の格差が表面化し、利益・不利益が生じることは明白であり、不利益が生じている状態で看護職員の確保が困難な場合、入院基本料の減額が行われ、病院経営に重大な問題となる。
      • イ 平成13年度第4次医療法改正による医療機関の体系的整備を行っているところであり、情報が公開されることにより、これらの事業の遂行に、金融・財政面から多大な影響を受ける。
      • ウ 今回の公開請求者及びその利用目的が不明であるため、府条例第4条の利用者の責務が厳守される保障が無いことも、公開に反対する理由である。
  4. 同年7月11日、前回請求が取下げられるとともに、別の請求者から、同じ請求内容の公開請求(以下「本件請求」という。)が行われた。
    実施機関は前回請求と本件請求が同一の行政文書を請求するものであったことから第三者である異議申立人に対し再度の意見書提出の機会の付与は行っていない。
  5. 同年7月21日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として、次の(1)の文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、これを公開するとの決定(以下「本件決定」という。)を行い、請求者に通知するとともに、異議申立人に対しても、条例第17条第3項の規定により、同年7月24日に、公開決定をした理由を(2)のとおり付して通知した。
    なお、本件決定に基づく公開を実施する日について、実施機関は、請求者には、「平成18年8月8日以降で別途調整します。」と、異議申立人には、「平成18年8月8日以降で請求者と別途調整する日」と記載して通知している。
    • (1)行政文書の名称
      医療法人Aの平成16年度の決算書類(財産目録、貸借対照表、損益計算書)
    • (2)公開決定をした理由
      行政文書公開請求に対する公開・非公開の判断は、当該公開請求の目的を問わず、条例の規定に則して行うものであり、本件行政文書(公開部分)に記録されている情報については、当該法人及びその事業の性質等を考慮すると、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するものとは認められず、大阪府情報公開条例第8条第1項第1号に該当しないほか、同条例第8条第1項各号及び第9条各号(非公開情報)のいずれにも該当しないため。
  6. 同年8月10日、実施機関は、請求者に対し本件行政文書の公開を実施した。
  7. 同年8月18日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
    なお、本件決定については、同日、異議申立人が、実施機関に対して執行停止の申立てを行ったが、実施機関においてはこれに対する決定を行っていない。

第三 異議申立ての趣旨

本件決定を取り消し、非公開とすることを求める。

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。

  1. 公開することと決定した行政文書は、大阪府情報公開条例第8条第1項第1号に該当しないと判断しているが、“大阪府情報公開条例解釈運用基準”には、第8条第1項1号の「趣旨」「解説」のあとの「運用」の欄に該当する情報例として「(3)経理、労務管理に関する情報」と例示されているので当該行政文書は当該条例第8条第1項第1号に該当することが明らかである。
  2. 情報公開決定処分により、当該経理情報が債権者でもない不特定者に流言飛語の材料として悪用されると、受診者等と異議申立人との相互信頼関係が損われ、回復困難な損害を受けることとなる。
  3. 更に、公開請求者及びその利用目的が不明であるため府条例第4条の利用者の責務が厳守される保証が無いことや責務違反の罰則規定も無いことが異議申立ての理由である。

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は概ね次のとおりである。

1 医療法人の財産目録、貸借対照表及び損益計算書について

これらの書類は、医療法第51条第1項において、医療法人が毎会計年度終了後2ヵ月以内に都道府県知事に届け出ることが義務づけられている決算に関する書類であり、かつ、これらは同条第2項並びに医療法施行規則第33条及び第36条で提出することが規定されている書類である。

医療法人の会計処理については、病院を開設する医療法人にあっては、その財政状態と経営成績の適切な把握を行うことを目的として、「病院会計準則」(昭和58年8月22日医発第824号厚生省医務局長通知、平成16年8月19日医政発0819001号厚生労働省医政局長通知で「病院会計準則の改正について」)が定められ、これに基づき処理されている。

財産目録には、基本財産目録及び普通財産目録として、当該医療法人が保有する全ての資産(土地、建物、医療機械器具、現金及び預金等)の金額が記載されている。

貸借対照表には、当該医療法人の資産勘定として流動資産、固定資産、繰延資産及び資産合計の金額、負債勘定として流動負債、固定負債及び負債合計の金額、資本合計の金額並びに負債・資本合計の金額が記載されている。

損益計算書には、その損益として、医業収益、医業外収益、特別利益、医業費用、医業外費用、特別損失、医業利益、経常利益及び税引前純利益の金額等が記載されている。

2 医療法人について

医療法人は、医療法の規定によって、設立される社団又は財団であり、病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設の開設を目的とするものである(医療法第39条)。

医療法人は、実施している医療行為の公益性に鑑み、その経営基盤の安定を図る必要性から、業務を行うに必要な資産を有すること、並びにその自己資本比率を一定以上に保つことが義務づけられている(医療法第41条及び医療法施行規則30条の34)。

また、事業によって生じた剰余金の配当が禁止されている(医療法第54条)など、医療法上、非営利的法人としての性格が規定されている。

3 本件係争部分が条例第8条第1項第1号に該当しないことについて

(1)条例における公開原則について

条例においては、その前文及び第1条にあるように、「府の保有する情報は公開を原則」、「個人のプライバシー情報の最大限の保護」、「府が自ら進んで情報の公開を推進」という制度運営の基本的姿勢としている。

よって、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報を公開しなければならないものである。

本件異議申立てにおいては、異議申立人が本件係争部分を公開しないことを求めているため、当該情報が条例第8条に該当しないことについて、以下において説明する。

(2)条例第8条第1項第1号に該当しないことについて

事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重・保護されなければならないという見地から、社会通念に基づき判断して、競争上の地位を害すると認められる情報、その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが条例第8条第1項第1号の趣旨である。

同号では、

  • (a)法人等に関する情報であって、
  • (b)公にすることにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるものは、公開しないことができると規定している。

これを本件係争部分について検討すると、以下のとおりである。

ア 上記(a)について

本件係争部分は、医療法第51条第1項に基づく医療法人から知事に提出された決算報告書の一部であり、法人等に関する情報であると認められる。

イ 上記(b)について

一般に、「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理を侵害すると認められるものをいうと解されており、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、事業を営む者に対する名誉侵害、社会的評価の低下となる情報及び公開により団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらわれないものをいうと解されている。

そして、「競争上の地位を害すると認められるもの」と認められるためには、当該文書に記録された情報が明らかとなることにより、当該法人等に具体的な不利益が及んだり、社会的評価の低下につながるなどの事実が存在し、それが社会通念に照らして「競争上の地位その他の正当な利益」を害すると認められる程度のものである必要があると解すべきである。

ところで、実施機関においては、従来から医療法人が医療法に基づいて実施機関に提出している決算届のうち、財産目録、貸借対照表及び損益計算書については、理事長以外の個人の氏名等の個人情報や取引先の事業者名などを除き、項目や数値等を、すべて公開する取り扱いを行ってきている。その理由は以下のとおりである。

  • (ア)医療法人の公益性
    医療法人は、医業の非営利性を損なうことなく法人格を取得することにより、資金の集積を容易にし、医療機関の経営に永続性を付与し、私人の医療機関経営の困難を緩和する制度として、昭和25年の医療法改正により導入された制度である。その根幹をなすのは、非営利性の徹底であり、株式会社のような営利法人と異なり、医療の非営利性を担保するため、剰余金の配当を禁止し(医療法第54条)、法人が行うことのできる附帯事業も特別医療法人を除いては、本来の医業に支障のない範囲で、医療関係者の養成・再教育業務や、医学に関する研究所の設置、第2種社会福祉事業等の公益的な事業に限定されており、収益事業が禁止されているなど、その公益性は高い。
    このような医療法人の公益性にかんがみ、医療法は医療法人の経営状況の開示義務を定め、医療法人は財産目録、貸借対照表及び損益計算書を常に各事務所に備え付け、医療法人の債権者の閲覧に供することを規定している(医療法第52条)。
    なお、医療法第52条は、これらの書類の閲覧を求めることができる者を当該医療法人の債権者としているが、この規定は、地方公共団体が情報公開制度により債権者以外の者に対してこれらの書類を公開することを禁止する趣旨ではないと解されている。
    むしろ、近年の情報公開の広がりの中で、厚生労働省は「これからの医業経営のあり方に関する検討会」最終報告(平成15年3月26日)のなかで、医療法人の決算書情報の開示について、「公益性の高い特定医療法人や特別医療法人、国、都道府県から運営費補助金を受けている医療法人に対しては、積極的開示を要請すべきである」とし、「その余については、行政として自主的開示が促進されるための環境整備を行う」としている。
  • (イ)記載事項からの経営分析の困難性
    医療法人の財産目録、貸借対照表及び損益計算書に記載されている項目は、第3、1に述べたとおり、項目ごとの総額を記載しているに過ぎず、その細目を示すより詳細な財務資料は添付されていない。
    以上からすれば、財産目録、貸借対照表及び損益計算書に記載されている項目ごとの金額から、当該医療法人の経営規模はどの程度か、収入と支出とのバランスがとれているかなど、当該医療法人のおおよその経営内容の分析や把握は可能であったとしても、より正確かつ詳細な経営分析を行うためには、一般的・平均的な医療法人の経理データとの比較や、より詳細な細目的資料の提出や法人の経理担当者からのヒアリングを受けない限り困難であり、当該医療法人の経営上の秘密やノウハウに属するような情報は得られないと考えられる。
    以上のような医療法人の有する公益的性質及び財産目録、貸借対照表及び損益計算書の記載事項の概括性からして、実施機関としては、これらの情報を具体的な取引先名等を除いて公開しても、当該医療法人の競争上の地位その他正当な利益を害するまでの支障は生じないと判断して、部分公開する取り扱いを行ってきたものであり、本件行政文書についても、同様の判断を行ったものである。
    なお、判例も、学校法人が県に提出した貸借対照表等の一部について県知事が行った公開決定に対し、学校法人がその取り消しを求めるという、本件異議申立てと類似の事案において、次のように判示して、県知事の公開決定を正当とし、学校法人側の請求を棄却している。
    すなわち、最高裁判所平成13年11月27日判決は、「本件情報から得られる分析内容からは、上告人(学校法人)の競争上の地位を害するような上告人独自の経営上のノウハウ等を看取することは困難であり、本件情報の内容は、客観的にみて、上告人の学校運営等を阻害したり、その信用又は社会的評価を害するものということはできない。また、本件情報は経理に関する情報であることから、直ちに上告人が本件情報を管理することに正当な利益を有するということはできず、そのような利益を認めるに足りる特段の事情が存するともいえない。」と判示し、前記東京高裁判決の認定判断を正当と是認し、学校法人側の上告を棄却している。
    この最高裁判決は、学校法人が県に提出した貸借対照表等の公開を正当と是認したものとして非常に重要な意義を有し、医療法人が本府に提出した貸借対照表等の公開についても、同様に妥当するものと考えられる。
    最高裁判決は、法人の経理情報というだけでは非公開にはできず、公開された情報から得られる分析内容から当該法人の競争上の地位を害するような独自の経営上のノウハウ等を看取することが困難であり、客観的に見て当該法人の運営や信用、社会的評価を害すると認められない限りは公開すべきであることを判示しているのである。
    なぜなら、患者やその家族が医療機関を選択するに際して、最も重要視する要因は、その医療機関が提供する医療や看護の質、すなわち「医療水準のレベル」がメインである。これは、学校と異なり、医療機関において患者が負担する診療報酬は、診療報酬基準表により全国一律にどの医療機関で受診しても、同一の診療行為であれば同一の金額であることから、患者にとっては、医療機関を経営する医療法人の経営状況にはあまり関心がなく、むしろ、「医療水準のレベル」がどうかが主たる関心事であるからである。そして、「医療水準のレベル」は、医療機関を開設する医療法人の経営状況に直接左右されるものではなく、むしろ、従事する医師の知識、経験、医療技術の高低、看護師その他の医療スタッフの水準の高低等マンパワーによるところが大きいというべきである。
    したがって、本件行政文書を公開することにより、仮に経理の専門家が分析すれば、当該医療法人のおおよその経営状態が把握できるとしても、そのことによって、一般の患者やその家族による医療機関の選択に大きな影響を及ぼすとは社会通念上想定しがたいのであって、当該医療法人の競争上の地位、すなわち、同一医療圏に存在する他の医療機関との患者受診数、病床利用率等の競合に客観的に明らかな影響を及ぼすものではない。
    以上述べたところにより、本件係争部分の記載事項については、公開しても異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。

4 異議申立人の主張について

異議申立人は、本件行政文書は条例第8条第1項第1号に該当するとし、当該経理情報が不特定者に流言飛語の材料として悪用され、同法人の信頼関係が損なわれ損害を受けるとしている。更に、条例第4条の利用者の責務が厳守される保障が無く、責務違反の罰則規定も無い旨を主張しているので、念のため、この点について反論する。

本件係争部分に記載された情報の公開が、異議申立人の客観的な競争上の地位その他正当な利益を害するものでないことは前述のとおりであるから、仮に本件情報を基に第三者から批判、批評を受けるおそれがあるとしても、それは異議申立人の医療機関運営を阻害する関係になるものとは必ずしもいえない。また、本件情報が公開請求者に開示されることによって、異議申立人に対する流言飛語の材料として悪用されることを、具体的に裏付けることを窺わせる具体的な証拠や特別の事情の存在は明らかにされておらず、異議申立人の主張は抽象的な可能性ないしは主観的な危惧に止まるものであって、いまだ客観的に明らかなものということはできない。

そもそも、本件条例は、府の説明責務を全うするため、府の保有する情報の原則公開及び「知る権利」の保障に資することを目的として情報公開制度を創設し、何人も目的の如何を問わずに行政文書の公開を請求できることとしたのであるから、公開請求に係る行政文書が悪用される抽象的な可能性があることだけで、公開を拒否することはできない。また、一度公開決定された行政文書は、その後公開請求を経ずに何人にも情報提供される運用とされているのであるから、他の医療法人の貸借対照表等でも、一度公開決定された後に、当該法人が訴訟等の紛争にかかわる事態になることは可能性としてはあり得るが、そのことをもって非公開とされることがあり得ないことを考慮すれば、本件のような情報は将来にわたって公開に支障がないことが他の医療法人についても判断されているともいえる。

さらに、条例第4条は、利用者の責務として、行政文書の公開を受けたものは、それによって得た情報を、第1条の目的に則して適正に用いなければならないことを規定しているのであって、利用者の利用目的違反については別途、当該情報を有する者と公開により得た情報を悪用した者との間に損害賠償等民事上の関係が生じることはあっても、それは公開請求された行政文書を条例の非公開事由に照らして公開するか非公開とするかの判断とは別個の問題であって、抽象的に悪用のおそれがあることをもって、非公開とすべき特段の事情があるとはいえない。

本件行政文書と同一の文書は、医療法第52条の規定によりその債権者であれば閲覧できるのであるから、本件条例に基づく公開請求を非公開としても異議申立人が危惧している事態が回避できるわけではなく、悪意の者は債権者を通じて同一の情報を入手し、これを悪用することも可能なわけであるから、本件行政文書を非公開とすべき特段の事情となるものではない。

5 結論

以上のとおり、本件処分は条例に基づき適正に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 本件異議申立ての適否について

本件異議申立ては、本件決定を取り消し、本件行政文書を非公開とすることを求めるものであるが、第二で述べたところによれば、平成18年8月18日に本件異議申立てが提起される以前の平成18年8月10日に、請求者に対し本件決定に基づく本件行政文書の公開が実施されていることが認められる。

本件異議申立ては、行政不服審査法に基づく不服申立てであり、それは、異議申立ての対象である行政処分が取り消されることによって、当該処分により違法又は不当に侵害されたとする異議申立人の権利又は法律上若しくは条例上保護された利益の回復を求めるものである。しかしながら、上記のように本件決定に基づいて公開は既に実施されており、本件決定を取り消しても、事の性質上、公開が実施される前の状態に復せしめることはできない。そうである以上、本件決定を取り消すことは法律上無意味であり、本件決定の取消しを求める本件異議申立ては法律上の利益を欠くものであって、本件異議申立人は異議申立ての利益を有しないといわざるを得ない。したがって、実施機関は本件異議申立てを却下するべきである(同様に、執行停止の申立てもその利益を有しないものであり、併せて却下すべきである)。

なお、行政不服審査法によれば、行政処分に対する異議申立ては、原則として、処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内にしなければならないとされており(行政不服審査法第45条)、本件異議申立ては、この期間内に提起されているが、上記のように、公開が実施された以上は、上記の期間内に提起されたか否かにかかわり無く、異議申立ては法律上の利益を欠くものであるから、本件異議申立てが却下されることとなるのは止むを得ないところである。

2 本件決定及び本件決定に基づく公開の実施に係る手続の適否について

本件異議申立てについての審査会の判断は1で述べたとおりであるが、今回、請求者に対する公開の実施後に異議申立てがなされるという異例の事態を招くに至った、本件決定及び本件決定に基づく公開の実施に係る手続の適否について、念のため検討する。

まず、実施機関においては、このような事態を避けるため、行政文書の公開に反対する旨の意見書を提出した第三者に送付する「第三者に関する情報の公開決定に係る通知書」の教示文に、公開を実施する日までに異議申立て及び執行停止の申立てがなされなかったときは、請求者に公開されることになる旨の注を付して、注意喚起を図っており、本件決定においても、異議申立人への通知は、この様式が用いられている。

また、条例は、行政文書の公開に関し、請求者が行政文書の公開を受ける利益と、第三者が公開決定の是非を争う利益を調整するため、公開請求の対象となった行政文書に請求者以外の第三者の情報が記録されているときは、実施機関は、当該第三者に対して意見書提出の機会を付与することができることとし(条例第17条第1項)、当該第三者から公開に反対する旨の意見書が提出されたにもかかわらず当該行政文書を公開する旨の決定を行う場合には、当該第三者に対して不服申立て等を行う機会を保障するため、公開決定の日から公開実施の日までの間に少なくとも2週間の期間を置くことを義務づけている(条例第17条第3項)。

本件決定に当たっても、実施機関は、前回請求の際に異議申立人から公開に反対する旨の意見書が提出されていたことから、請求者及び異議申立人に対する公開決定の通知において、公開を実施する日を、異議申立人に対する公開決定通知書の発信日である平成18年7月24日から2週間の期間を置いた「平成18年8月8日以降」と指定しており、実際にも、公開を実施した日は、通知書発信日から17日目に当たる平成18年8月10日である。

以上のことから、本件決定及び本件決定に基づく公開の実施に係る手続は、適正であると認められる。

しかしながら、条例第17条第3項が、第三者に対して不服申立て等の機会を保障するために設けられた規定であることからすると、本件において、公開の実施後に異議申立てが行われ、これを却下せざるを得ない結果となったことは遺憾である。

実施機関においては、第三者が公開に反対している行政文書の公開の実施に際しては、当該第三者に対して、通知書に記載した公開を実施する日までに不服申立て等を行わない場合には、公開を実施し不服申立て等の機会を失うことになるおそれがある旨を十分説明するとともに、不服申立て等を行う意向があるかどうかをあらかじめ確認するなど、慎重な対応に努められるよう望むものである。

3 結論

以上のとおりであり、本件異議申立ては本件決定の取消しにより救済すべき法律上の利益がなく、これを却下すべきであるので、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

主に調査審議を行った委員の氏名

岡村周一、福井逸治、松田聰子、岩本洋子

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