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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第132号)
(答申第132号)特定学校法人及び特定私立高校関係文書部分公開事案
(答申日 平成18年12月21日)
1 対象行政文書
学校法人A、及び同法人が運営するB高等学校に関する以下の資料
ア 対象行政文書
- (ア)役員一覧
- (イ)校長採用解職届(1件)
- (ウ)役員変更について(報告)(8件)
- (エ)文部科学省が所管する調査の調査票(B高校の部分 15件)
2 実施機関の決定
(1)実施機関
大阪府知事(担当課 生活文化部私学課)
(2)決定内容 部分公開決定
ア 公開しないことと決定した部分
- (ア)「役員一覧」のうち、事務局職員の氏名、個人の年齢、報酬及び給与、退職金額
- (イ)「校長採用解職届」及び「役員変更について(報告)」のうち、個人の印影、個人の氏名、事務局職員の氏名、担当者氏名、生年月日、性別、本籍、学歴及び職歴(公職及び法人役員等は除く)、身分証明書、教員免許状、証明書、誓約書、理事(平成17年4月以降)及び監事の住所、退任理由、理事長の印影、議事録のうち学校運営に関する具体的な審議内容に関する部分及び経営経理に関する事項
- (ウ)「文部科学省が所管する調査の調査票」の一部に記載されている担当者氏名
- (エ)「文部科学省が所管する調査の調査票」の一部に含まれている個人の中退理由、原級留置が特定し得る部分
イ 公開しない理由
- (ア)条例第8条第1項第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、法人代表者の印影及び当該法人の学校運営に関する具体的な審議内容等が記録されており、これらの情報を公にすると、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。 - (イ)条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、個人の氏名、生年月日、性別、本籍等が記録されており、これらの情報は個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別されるもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
3 異議申立て
(1)申立ての趣旨
本件部分公開決定のうち、大阪府情報公開条例第8条第1項第1号を理由として非公開とした部分(注「理事会議事録」及び「評議員会議事録」のうち「学校運営に関する具体的な審議内容に関する部分」及び「経営経理に関する事項」と「理事長の印影」)についての決定取り消し、及び当該情報の全部公開を求める。
(2)理由
本件決定は大阪府情報公開条例前文、第1条、第3条の趣旨に反する。
4 大阪府情報公開審査会の答申
(1)答申の結論
実施機関の判断は妥当である。
(2)答申の理由(要旨)
ア 条例第8条第1項第1号について
本号は、
- (ア)法人(かっこ書き略)その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、
- (イ)公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(かっこ書き略)
が記録された行政文書は公開しないことができる旨定めている。
本号の「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理に反する結果となると認められるものをいい、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、公開されることにより、事業を営む者に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうと解されるが、これらの具体的な判断に当たっては、当該情報の内容のみでなく、当該事業を営む者の性格や事業活動における当該情報の位置づけ等も考慮して、総合的に判断すべきものである。
イ 本件係争部分の条例第8条第1項第1号該当性について
本件係争部分に記録されている情報は、本件法人の理事会又は評議会の議事内容と代表者の印影であり、いずれも、ア(ア)の要件に該当することは明らかである。
次に、本件係争部分に記録されている情報がア(イ)に該当するかどうか検討する。
(ア)「理事会議事録」及び「評議員会議事録」のうち「学校運営に関する具体的な審議内容に関する部分」及び「経営経理に関する事項」に記録されている情報について
本項の情報について、審査会で見分したところ、以下の情報が記録されていることが認められた。
- a 本件法人の予算及び決算における金額の増減の理由、中科目以下の項目及び金額(大科目から分かる金額及び補助金に係る金額を除く。)が分かる情報並びに個別の収支内訳、
- b 本件法人の就業規則、職員組織規程及び教授会規程の一部改正等法人の内部管理に係る規程に関する情報、
- c 理事会及び評議会での発言者の氏名及び意見にわたる発言内容、
- d 本件法人における新キャンパスの建設理由、新学部、新学科の名称及び設置理由、記念事業の計画内容、奨学金給付規程の改正理由、学則の変更理由等、法人の経営方針や事業計画に関する検討過程の情報
これらの情報は、いずれも、法人の財務に関する詳細な情報、法人の内部管理事項に関する情報、法人の経営方針に係る検討過程の情報であって、公にすることにより、本件法人の取引上、経営上の秘密を明らかにすることになったり、団体の自治に対する不当な干渉となって、当該法人の正当な利益を害すると認められ、ア(イ)の要件に該当する。
(イ)理事長の印影について
法人代表者の印影については、当該印影が現に公表され、又は公表することが慣行となっているなど特段の事情のない限り、一般的には、専ら当該法人が自ら管理すべき情報である。本件法人の理事長の印影についても、同様であり、これを公にすると、印章偽造等の不正使用を誘発し、虚偽の契約書等の作成が容易になるなど、当該法人の正当な利益を害するおそれがあると認められ、また、本件法人の理事長の印影については、当該印影が現に公表され、又は公表することが慣行となっているなど特段の事情は認められないことからア(イ)の要件に該当する。
大阪府情報公開審査会答申(全文)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 異議申立人は、平成18年3月9日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、学校法人A(以下「本件法人」という。)及び同法人が運営するB高等学校(以下「本件高校」という。)に関して、別紙1に掲げる文書の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 実施機関は、同年4月7日、本件請求に対応する行政文書として、(1)の文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(2)の部分を除いて公開する旨の部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、(3)のとおり公開しない理由を付して異議申立人に通知した。
- (1)行政文書の名称
- ア 役員一覧
- イ 平成15年4月3日付け校長採用解職届
- ウ 平成15年5月31日付け役員変更について(報告)
- エ 平成15年7月5日付け役員変更について(報告)
- オ 平成15年12月25日付け役員変更について(報告)
- カ 平成16年1月26日付け役員変更について(報告)
- キ 平成16年4月19日付け役員変更について(報告)
- ク 平成16年8月18日付け役員変更について(報告)
- ケ 平成17年4月21日付け役員変更について(報告)
- コ 平成18年2月8日付け役員変更について(報告)
- サ 学校における情報教育の実態に関する調査の本件高校の部分
- シ 高等学校卒業(予定)者の就職(内定)状況に関する調査の本件高校の部分
- ス 高等学校入学者選抜の改善等に関する状況調査の本件高校の部分
- セ 学校図書館の現状に関する調査の本件高校の部分
- ソ 学校評価と情報提供の実施状況調査の本件高校の部分
- タ 高等学校等における国際交流等の状況等に関する調査の本件高校の部分
- チ 中高一貫教育校の設置・検討状況の本件高校の部分
- ツ 児童・生徒の新体力テスト実施状況調査の本件高校の部分
- テ 私立高等学校における中途退学者数等の状況調査の本件高校の部分
- ト 私立高等学校における長期欠席実態調査の本件高校の部分
- ナ 学校体育施設の設置状況調査の本件高校の部分
- ニ 受動喫煙防止対策実施状況調査の本件高校の部分
- ヌ 薬物乱用防止教室等実施状況調査の本件高校の部分
- ネ 学校の安全管理の取組状況に関する調査の本件高校の部分
- ノ 学校における石綿付金網の処理状況についての本件高校の部分
- (2)公開しないことと決定した部分
- ア (1)アのうち、事務局職員の氏名、個人の年齢、報酬及び給与、退職金額
- イ (1)イ~コのうち、個人の印影、個人の氏名、事務局職員の氏名、担当者氏名、生年月日、性別、本籍、学歴及び職歴(公職及び法人役員等は除く)、身分証明書、教員免許状、証明書、誓約書、理事(平成17年4月以降)及び監事の住所、退任理由、理事長の印影、議事録のうち学校運営に関する具体的な審議内容に関する部分及び経営経理に関する事項
- ウ (1)セ~チ、ネ及びノのうち、担当者氏名
- エ (1)トのうち個人の中退理由、原級留置が特定し得る部分
- (3)公開しない理由
- ア 条例第8条第1項第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、法人代表者の印影及び当該法人の学校運営に関する具体的な審議内容等が記録されており、これらの情報を公にすると、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。 - イ 条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、個人の氏名、生年月日、性別、本籍等が記録されており、これらの情報は個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別されるもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
- ア 条例第8条第1項第1号に該当する。
- (1)行政文書の名称
- 異議申立人は、同年4月27日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定の非公開部分のうち、条例第8条第1項第1号を理由として非公開とした部分(以下「本件係争部分」という。)についての決定を取り消し、当該情報の全部公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は概ね以下のとおりである。
1 意見書における主張
(1)私学と公権力の関係
教育基本法・学校教育法等の基本となる教育関連法規、学習指導要領は、公立・私立を問わず適用されるものであり、また私学が所轄庁から許可をうける特許事業であることに鑑みれば、私学が国の定める諸法令に何らかの支配を受けるのは当然であり、法令に違反しない範囲においてのみ教育内容についての自由が認められているというべきである。
私学がどの程度公権力によって支配されているか否かについては、私学助成が憲法89条の「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。」(「公の支配」の定義をめぐって、助成金の関連で朝鮮学校等の学校が不当に差別されている等の問題を抱える条項ではあるが)との規定に抵触するのではないかとの議論を契機として、戦後から1970年代半ばまで国会での議論を始めとして様々な方向性が示されてきた。現在の私学助成の根拠である私立学校振興助成法は、こういった議論の末に誕生した法律で、これにより私学に対する監督は強化された。
私立学校振興助成法の制定経緯や政府見解、判例などを見ても、私学は「公の支配に属する」との解釈で一致しており、同法5条「国は、学校法人又は学校法人の設置する大学若しくは高等専門学校が次の各号の一に該当する場合には、その状況に応じ、前条第一項の規定により当該学校法人に交付する補助金を減額して交付することができる。」との規定に端的に表れているように、所轄庁は私学に対して監督権限を有することを引き替えとして、助成が認められていることを前提として、以下詳述する。
(2)本件情報公開の必要性
私学に対する助成の原資は府民・国民の税金により賄われていることは言うまでもなく、私学が法令を遵守し、交付された助成金を正当な目的に用いているかを調査することは、所轄庁の責務と言うべきである。同時に、府民・国民に対して、助成先の団体に関する詳細を公表することは一層重要なことであり、私立学校の公益性を考えるとなおさらである。
現実に私学に通う子どもたちや、進学先として検討している子どもたち、その保護者たちは、学校の詳細な財務状況を含めた様々な状況を知りたいと願っている。教育内容はさることながら、例えば極端な話をすれば、突然倒産するかもしれないし、また不当な低賃金・高賃金の教員がいるかもしれない。極めて公益性の高い私学であるからこそ大阪府の補助金も受け、親たちは公立に比して高額の授業料等を納め、その学校に子どもを通わせている。私学における教育内容と経営方針の自主性は一定の尊重をされるべきで、所轄庁である実施機関としては、不当に法人の競争上の地位を阻害するような行為は許されないものではあるが、しかしその自主性の尊重は、そこに通う子どもたちの教育を受ける権利や、その保護者の財産を正当に保護するという目的と比較考量されなければならない。
今年2月に発覚した上宮学園・前理事長と大阪府教育委員会・前教育監による贈収賄事件を契機として行われた調査では、大阪府教育委員会や大阪府私学課の複数の職員が、特定の私学から接待等を受けていたことが明らかとなり、これらの職員には処分・措置等が行われており、監督官庁と私学の間の緊張関係の欠如を露呈した形となっている。
例えば公立学校であれば、子どもたちや保護者は、情報公開請求や自己情報開示請求を行うことにより、自らの知りたい情報を収集し、疑問点を自ら調査することができるが、そのような制度を設けている私学は皆無である。
こういった状況の中で、私学に関する詳細な情報を把握しているのは、当該校と所轄庁である私学課だけであるところ、これらの情報が正当に用いられ、正すべき点について正すべく私学に対して適切な範囲の指導がなされているとは到底考えられず、府民・国民の手によるチェックが急務である。
また大阪府においては計画進学率を定め、その中で公立と私立の配分比率を定めている。府立高校の多くは空き教室があり、進学を望む子どもすべてに教育を施すことができる物理的環境を有しながら、依然としてどこにも進学できない子どもがいるのは、ひとえにこの公私配分比率が存在するためであるといえ、この比率の存在により私学は存在できていると言っても過言ではない。
実施機関は「学校法人の権利、競争上の地位、その他正当な権利を害するおそれがある」として本件情報を非公開としたものであるが、行政により強力な保護が行われているこの私学業界において、この上でさらなる権益を認めることに、府民や府立学校に通う子どもたちやその保護者がいかなる感情を抱くかは容易に想像できよう。
本件法人に関して言えば、2003年度資金収支内訳表によれば、収入総額約43億円の30%を占める約13億円を、大阪府からの補助金で補っている。この13億円はもちろん府民・国民の税金から拠出されているものであり、投入した公金がどのように使われ、どのような意志決定の下に学校運営がなされているか等を知らせることは、上述のとおり最終的な負担者である府民・国民に対する実施機関としての責務である。
(3)所轄庁による私学の実態把握義務
私学は前述のとおり特許事業であるから、当然にその許可が取り消されることもあり得る。私立学校法62条「所轄庁は、学校法人が法令の規定に違反し、又は法令の規定に基く所轄庁の処分に違反した場合においては、他の方法により監督の目的を達することができない場合に限り、当該学校法人に対して、解散を命ずることができる。」と定めており、ある私学がこの規定に該当するか否かの判断をするためには、所轄庁として一定の情報を収集することは必然となる。
しかしながら今回の請求のうち「生徒の懲戒関連」「教職員の処分措置関連」「生徒の逮捕・補導案件」「生徒の事故に関する報告」の各資料については不存在として文書が公開されていない。
異議申立人の情報公開請求により公開された教職員処分関連文書を見ても、学校の内外では教職員が関連した様々な事件・事故が発生している。これらの情報からは様々な状況を伺い知ることができる。子どもたちや保護者への対応、管理職の教職員への対応、それらを含めた学校の体質全般を把握できるのである。
日常的な体罰、施設の不備の放置、教職員の不当な解雇といったことは、すべて法令に抵触する行為であるが、現在所轄庁が私学より提出を受けている資料のみでは、これらの実態を把握することは不可能である。
所轄庁の権限を正当に遂行する上で必要な情報が存在しないことは、府民・国民にとっての不利益であり、大阪府情報公開条例の精神にそぐわない実情である。
(4)結論
以上の諸点により、実施機関の各主張は、子どもたちやその保護者の権益を無視したものであり、不見識なものであると言わざるを得ない。
2 意見書(2)における主張
(1)私学の公共性と関与の範囲
学校は教育基本法、学校教育法に基づいて存在する教育を行う場であって、それぞれの教諭は学校教育法28条に定める「教育をつかさどる」という権能を持って、児童・生徒に対して教育をおこない、その他様々な子どもに対するアプローチを日々行っている。そして私学は、顧客である子どもたち(特にその保護者)の要請に応じる形で特色ある取り組みを行い、それらに学校の成り立ちや宗教的要素と相まって、独特の校風を醸成している学校も多い。
しかし「学校」の存在自体が、教育基本法、学校教育法といった国家による国民教育の根幹となる法律に準拠している以上、公立・私立を問わず、基礎的な部分について法令の縛りがかかるのは当然のことである。
実施機関は「所轄庁が行政権限を行使するに当たって私立学校審議会の意見の聴取が義務づけられるなど、行政の関与が制限されている」と主張するが、私立学校法において、私立学校審議会への意見聴取が義務づけられているのは次の件についてである。
- 学校等の設置・廃止等・閉鎖命令について(私立学校法8条)
- 学校法人の収益事業の種類について(同26条)
- 学校法人の設立について(同31条)
- 学校法人の収益事業の停止について(同61条2項)
- 学校法人の解散命令について(同62条2項)
これらはいずれも私学にとっての存亡を左右する重要な事項であり、私学の独自性を尊重するという観点に立ち、所轄庁の独自判断による瑕疵を防止する目的があると推察されるところではあるが、一方でこれら以外の行政行為について行ってはならない旨の規定は存在しない。所轄庁の私学に対する行政の関与は、これらのみに関わらないことは当然のことであり、あたかも行政の関与はすべからく私立学校審議会への意見聴取が義務づけられているかのような主張は法令の拡大解釈である。
(2)私学と情報公開の在り方
実施機関は「ホームページや学校案内等を活用する中で情報提供がより一層なされることを促している」と主張するが、顧客向けのセールスポイントのみのホームページや学校案内では、学校の実態を推し量ることは不可能であるばかりか、これらの「いいこと」しか書いていない案内を真に受け、さらに噂や風評といった不確定な情報に基づき学校を選択し、苦難に満ちた学校生活を送っている私学進学者が多く存在するという事実がある。
公立学校では、本件不存在資料は公開の程度の差異は別としても、それなりの情報を把握できる程度の資料は取得でき、それにより学校の実情を推し量ることができる。学校教育の公共性に鑑みれば、子どもたち、教職員の安全と費用負担者たる保護者の要請に応える義務があるという点につき、公立と私学には何らの差異も認められるべきではない。
公益法人であり税金を原資とする助成金を受け、計画進学率や公私比率といった多くの特権を享受している学校法人に対して、いまに至るまでも情報公開を制度として義務付けていないことに問題がある。
一般の公立学校に関する情報を取得しようとする際には、管轄する教育委員会に対して情報公開請求を行うものとされている。本件情報公開の対象となった資料は、本来的にはすべて私学から公開されるのがもっとも望ましい在り方であるが、現時点においてそのような制度が確立されていない以上、所轄庁たる私学課を経由して情報公開請求を行う以外にない。
(3)実施機関の体質的問題点
実施機関は「これらの資料がない場合においても、実施機関において適正な事務の執行が可能である」と主張するが、実施機関のいう「適正な事務」が単に私学から提出された資料のみを基にして、機械的に行われているものであるとすれば、それは仮にも「教育」に携わる機関の主張することではない。
「子どもたち」が「教員」から教育を受ける場を提供するのが「学校」であり、教育の本質でもある。実施機関は「私立学校において体罰等法令に違反する事象が起きた場合については、所轄庁として、法令の根拠の有無によらず、適宜必要な指導を行っている」とも主張するが、子どもたち、教職員が日々動き、変化している現場の実態を把握せず、「起きた場合」には必要な指導を行うなどという寝言を、いじめ自殺した生徒の保護者、体罰を受け苦しんでいる子どもたちに対して言えるのか。
所轄庁であり、また多額の助成金を拠出している以上、私学の起こす様々な不祥事は、それが構造的な要因であればあるほど、長年にわたり関わってきた実施機関の責任は増すというべきである。昨年の上宮学園理事長に係る贈収賄事件に見られるような学校と私学の癒着・密着が潜在的なものであれば、私学による子どもたちへの犯罪(体罰等)は、実施機関も共同正犯ともいうべきであろう。
また「大阪府私立全日制高等学校等の設置許可等に関する審査基準」の「8 学校法人の管理運営」には「(1)法令の規定、法令の規定に基づく処分及び寄付行為に基づいて、適正に管理運営されていること」とあるが、法令の規定に合致するか否かの判断は実施機関が行うであろうことを考えると、一定の資料がなければその判断は不可能に近いほど困難を極めると推測するが、前述のとおり実施機関は「適正な事務の執行が可能」であると言い切っている。その根拠が示されておらず不明であるので詳述はできないが、実に不可解であると言わざるを得ない。
(4)私学助成金について
私立学校振興助成法12条は、助成を受ける学校法人に対する所轄庁の権限を定めた規定であり、第1号において「助成に関し必要があると認める場合において、当該学校法人からその業務若しくは会計の状況に関し報告を徴し、又は当該職員に当該学校法人の関係者に対し質問させ、若しくはその帳簿、書類その他の物件を検査させること。」と定め、第2号で収容定員超え入学に対する是正命令、第3号で予算変更勧告、第4号で法令違反等による役員の解職勧告について、それぞれ定めている。
このうち2号から4号については、同法12条の2及び13条に基づき、私立学校審議会への意見聴取が義務付けられているものの、1号についてはそのような義務は存在しないと解される。
昨今の公金の使われ方に対する厳しい見方や、公務員に対する異常なほどのバッシングを見るとき、いつまでも「関与の目的・内容は限定されている」などと言い続けることは現実問題として厳しい社会情勢にあることを、まず実施機関としては認識すべきである。
その上で、前述の1号の規定によれば「助成に関し必要があると認める場合」との前提があるところ、現在の社会情勢と財政再建団体ギリギリの大阪府の財政状況を考えれば、もはや「必要がある」というよりは必須であると考えるべきである。この規定によれば、助成を受ける学校法人に対して、一定の「検査」等を行うことが可能であることは明白である。
そうであるにもかかわらず、実施機関は弁明書において再三にわたり法令を持ち出しては私学権益の守護者たる立場を強調している。上述のとおり、実施機関は助成を受ける学校法人に対して検査を行う権限を有しており、そしてそれが私立学校審議会への意見聴取義務に含まれていない以上、残るは実施機関とその職員が、昨今の社会情勢等をふまえ「助成に関し必要があると認める場合」にあると作為・不作為とに関わらず認識できないことにあり、助成金の原資が公金であるとの意識と、それを扱う上でのモラルの欠如を矯正することが緊急の課題であるといえよう。
(5)結論
以上の諸点により、実施機関の各主張は、子どもたちやその保護者の権益を無視したものであるばかりか、現状認識に著しい瑕疵があり、不見識なものであると言わざるを得ない。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね以下のとおりである。
1 学校法人について
学校法人とは、私立学校法に基づき私立学校の設置を目的として設立される法人であり、学校教育法において、学校は、国、地方公共団体及び学校法人のみが設置することができると定められている。
また、私立学校法第4条において私立大学及び私立高等専門学校を設置している学校法人の所轄庁は文部科学大臣とし、それ以外の私立学校を設置している学校法人については、都道府県知事と定められている。
2 私立学校の自主性及び公共性について
私立学校法第1条では、「私立学校の特性にかんがみ、その自主性を重んじ、公共性を高めることによって、私立学校の健全な発達を図ることを目的とする」とあり、私学の特性として「自主性」と「公共性」を挙げている。
独自の建学の精神に基づく教育を実施する私立学校はその自主性が尊重され、法制度上も、学校教育法第14条(学校における設備、授業等についての法令違反等に対する変更命令)の適用が除外され、また、所轄庁が行政権限を行使するに当たって私立学校審議会の意見の聴取を義務付けるなど、行政の関与が制限されている。
その一方、公教育の一翼を担うという公共性を併せ有することから、私立学校法第59条及び私立学校振興助成法に基づき、私立学校の教育条件の維持・向上、修学上の経済的負担の軽減を図るとともに私立学校の経営の健全性を高めることを目的として助成の措置が行われているところである。
3 私立学校に対する所轄庁の関与について
2にあるように、私立学校の管理運営については自主性が尊重されることから、所轄庁等が、学校教育法、私立学校法、私立学校振興助成法その他の関係法令等に基づき認可、届出等が必要なもの以外に私立学校に対する関与(行政指導を含む。)を行うに当たっては、公共性と自主性の調和に留意しつつ、その必要性を慎重に検討しなければならない。
実施機関においては、国の法令に規定するもののほか、法令に基づく認可申請、届出に係る添付書類等その他私立学校から提出を受けるべき書類等について、大阪府私立学校法施行細則に一部を定めているほか、「私立学校・学校法人の認可申請・届出の手引き」を定め、行政指導により私立学校等から書類等の提出を受けている。これらの提出を受けた書類等は、条例に基づく行政文書であり、当然に公開請求の対象となるものである。
4 私立学校等における情報公開について
私立学校はその公共性に鑑み、自らも情報公開を行うことが求められている。
私立学校法が一部改正され、平成17年4月1日から、学校法人の財務書類(財産目録、貸借対照表、収支計算書、事業報告書、監査報告書等)の事務所への備付け及び関係者への閲覧が義務づけられたところである。
また、高等学校設置基準(文部科学省令)や本府の学校の設置認可等に関する審査基準においては、学校の運営状況等について積極的な情報公開に努めることを私立学校の責務として求めている。
これらの情報公開の実施に係る具体的な内容及び方法について法令等に定めはなく、私立学校や学校法人の自主的な判断に委ねられているところであるが、実施機関としても、公教育機関である私立学校が説明責任を果たすという観点のほか、府民の自由な学校選択を支援する観点から、提供すべき情報の内容や項目等を大綱的に示した「大阪府私立学校情報提供指針」を平成15年10月に策定し、ホームページや学校案内等を活用する中で情報提供がより一層なされることを促している。
5 本件行政文書(係争部分)について
本件行政文書のうち、係争部分が含まれる文書が「校長採用解職届」と「役員変更について(報告)」である。
(1)校長採用解職届
学校において、校長を新たに採用・解職したときに都道府県知事に届け出るものである。これは、学校教育法第10条で、「私立学校は、校長を定め、大学及び高等専門学校にあっては、文部科学大臣に、大学及び高等専門学校以外の学校にあっては都道府県知事に届け出なければならない。」と定められている。
添付する書類は「理事会の議事録」「新校長の履歴書、誓約書、就任承諾書、教員免許状(写)」「旧校長の辞任届」である。
(2)役員変更について(報告)
学校法人において、理事又は監事を変更したときに所轄庁に届け出るものである。本件法人は、文部科学大臣を所轄庁とする学校法人であり、私立学校法施行規則第13条の規定で、「文部科学大臣を所轄庁とする学校法人は、理事又は監事が就任したときはその氏名及び住所並びにその年月日を、理事又は監事が退任したとき並びに理事(理事長を除く。以下この項において同じ。)が理事長の職務を代理し、又は理事長の職務を行うこととなったとき及び理事長の職務を代理する理事が当該職務の代理をやめたときはその氏名及びその年月日を、遅延なく、文部科学大臣に届け出ることを要する。」と定められている。役員変更という重要な情報であるので、文部科学省所管の法人が文部科学大臣宛に届けたものの写しを大阪府知事にも提出を求めているものであり、添付する書類は、「新旧対照表」「就任承諾書」「身分証明書」「履歴書」「理事会議事録」「登記簿謄本」「辞任届」である。
これらのうち、本件において争われている部分は、「理事長の印影」「支出、借入金等財務に関する情報」「学校、学部の設置に関する情報」「規則、規程等の改正に関する情報」の部分である。
6 本件決定の適法性について
(1)条例第8条第1項第1号について
条例第8条第1項第1号においては、法人(国、地方公共団体、独立行政法人等、地方独立行政法人、地方住宅供給公社、土地開発公社及び地方道路公社その他の公共団体(以下「国等」という。)を除く)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報(以下「例外公開情報」という。)を除く。)に該当する情報が記載されている行政文書を公開しないことができる旨が規定されている。
(2)本件行政文書が条例第8条第1項第1号に該当することについて
実施機関が公開しないことと決定した部分が、条例第8条第1項第1号に示す「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」情報であるか検討する。
ア「理事長の印影」
当該法人の登記、契約等に用いる印影を公にすることにより、偽造等される恐れがあり、財産に対し重大な影響を及ぼす可能性もあることから、学校法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとして、条例第8条第1項第1号に該当するものと認めるのが相当である。
イ「議事録のうち学校運営に関する具体的な審議内容に関する部分及び経営経理に関する事項」
- (ア)支出、借入金等財務に関する情報
学校法人の各校ごとの具体的な支出内容や借入金等の学校経営に要する経費の内容及び金額が記載されて?る部分であり、学校法人の公的性格を考慮してもなお、学校法人の社会的評価に結びつく詳細な財務情報を公開することは、学校法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとして、条例第8条第1項第1号に該当するものと認めるのが相当である。 - (イ)学校、学部の設置に関する情報
学校法人の将来構想に基づいた重要な経営戦略や経営上のノウハウをうかがい知ることができる部分であり、これを公にすることにより、今後の学校法人の経営戦略に重大な影響を及ぼす恐れがあり、学校法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとして、条例第8条第1項第1号に該当するものと認めるのが相当である。 - (ウ)規則、規程等に関する情報
規則、規程は学校法人が私立学校の健全な発達及び適正な運営を図るために定めている内部規範であり、法人及び学校運営の拠りどころとなるものである。その改正等に係る意思決定に関する情報が記載されており、これを公にすることにより、今後の学校法人の経営戦略に重大な影響を及ぼす恐れがあるものとして、条例第8条第1項第1号に該当するものと認めるのが相当である。
以上のとおり、本件行政文書は、学校法人の事業に関する情報であって公にすることにより、学校法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められることから、条例第8条第1項第1号に該当し、本件決定において、本件行政文書を非公開としたことは、妥当であると考える。
7 公開請求情報の不存在について
異議申立人は、大阪府教委や兵庫県教委が教職員処分関連文書を公開したことと比較して、私立学校についても「生徒の懲戒関連」「教職員の処分措置関連」「生徒の逮捕・補導案件」「生徒の事故に関する報告」といった実態を把握するため、これらの情報が記載された資料(以下「本件資料」という。)を実施機関において保有すべきである旨主張する。これについては、大阪府教委や兵庫県教委においては、各教委が学校設置者として、自己が管理執行する事務に関する情報を、自主的に公開したものであり、私立学校の所轄庁としての場合とは大きく異なるものである。
また、異議申立人は、その理由として、私立学校には補助金が支出されているから、実施機関が学校運営をもっと把握しておくべきとも主張する。これについては、私立学校に対する補助金は、私立学校振興助成法に基づき、私立学校の教育条件の維持・向上、修学上の経済的負担の軽減を図るとともに私立学校の経営の健全性を高めることを目的として助成の措置が行われているものである。当該助成の措置に関する所轄庁の権限としては、私立学校振興助成法第12条第1号において、助成に関し必要がある場合に業務や会計の状況に関する報告を求めることができる旨規定されており、関与の目的・内容は限定されているところである。
このように、私立学校の運営については、2に記載のとおり、自主性が尊重される中で行われるべきであり、所轄庁が資料等の提出を求めることについては、3に記載のとおり、法令等に根拠のあるもののほかは、私立学校の自主性と公共性の調和に留意しつつ、慎重でなければならないものである。
こうした法体系の中、本件資料については、私立学校が実施機関に対し提出する法令上の根拠はなく、また、学校教育法、私立学校法、私立学校振興助成法その他の私立学校関係法令の施行を所管し、当該法令を執行するに当たって、実施機関としては、これまで一律・定期的に私立学校から本件資料の提出を受けるという特段の必要性を認めていない。加えて、私立学校において体罰等法令に違反する事象が起きた場合については、所轄庁として、法令の根拠の有無によらず、適宜必要な指導を行っているところであるが、このような指導にあたり、本件資料の提出を受けたという事例もない。
したがって、本件資料に係る行政文書については、法令等に基づく提出義務はないものであり、また、行政指導等により、実施機関が私立学校から提出を受けたという事実もないことから、実施機関において保有していない。
なお、本件資料について、不存在を理由として行政文書の非公開決定を行っていない点については、本件公開請求があった際に、異議申立人に対し、請求文書の中には府が保有していない文書もある旨説明した上で、特段文書による不存在決定は不要との意見をいただいていたところである。
また、異議申立人は、意見書の中で「所轄庁の権限を正当に遂行する上で必要な情報が存在しないことは、府民・国民にとっての不利益であり、大阪府情報公開条例の精神にそぐわない。」と主張するが、上記のとおり、本件資料については、法令上、私立学校から実施機関に対し届出義務があるものではなく、また、これらの資料がない場合においても、実施機関において適正な事務の執行が可能であることから、異議申立人の主張は該当しない。
8 結論
以上のとおり、本件決定は条例の非公開事由の要件に該当するものを非公開として処分したものであり、何らの違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 私立学校及び学校法人に対する実施機関の関与について
私立学校及び学校法人については、私立学校法第4条の規定により、私立大学及び私立高等専門学校並びにこれらの学校を設置する学校法人の所轄庁は文部科学大臣、私立大学及び私立高等専門学校以外の私立学校並びにこれらの学校のみを設置する学校法人の所轄庁は、都道府県知事と定められており、実施機関においては、府内に設置される私立の小学校、中学校、高等学校、中等学校、盲学校、聾学校、養護学校、幼稚園、専修学校及び各種学校並びにこれらの学校のみを設置する学校法人に係る許認可、監督及び助成に関する事務を行っている。
このため、実施機関においては、私立学校や学校法人から法令に基づく許認可の申請書類や届出書類の提出を受けているほか、「私立学校・学校法人の認可申請・届出の手引き」を示し、行政指導により、必要な書類等の提出を受けているが、私立学校については、「その自主性を重んじ、公共性を高めることによって」健全な発達を図る(私立学校法第1条)ものとされており、また、その管理は、設置者である学校法人が行うものである(学校教育法第5条)ことから、公立学校に対する教育委員会の関与に比べると実施機関による関与の内容や程度は限定的であり、提出される書類等も異なっている。
なお、本件法人は、本件高校以外に、私立大学等も設置しており、所轄庁は文部科学大臣である。
3 本件行政文書及び本件係争部分について
(1)本件行政文書について
本件行政文書のうち、本件係争部分が含まれる文書は、別紙2のとおりであり、その内容は、次のとおりである。
ア 校長採用解職届(平成15年4月3日付け)
本件法人が設置する別の高校において、校長を採用・解職した際に、学校教育法第10条に基づき、実施機関に届け出た文書である。新旧校長の氏名と採用・解職の年月日等を記載した本文に、添付書類として、理事会議事録、新校長の就任承諾書・履歴書・身分証明書・教育職員免許状(写し)・旧校長の辞令・退職願が添付されたものである。
イ 役員変更について(報告)(平成15年5月31日付け、同年7月5日付け、同年12月25日付け、平成16年1月26日付け、同年4月19日付け、同年8月18日付け、平成17年4月21日付け、平成18年2月8日付け)
本件法人において、理事又は監事を変更した際に、私立学校法施行規則第13条に基づき、所轄庁である文部科学大臣に届け出た旨を実施機関に報告した文書である。報告文を記載した本文に、文部科学大臣宛の役員変更届関係書類一式の写しが添付されたものであり、文部科学大臣宛の役員変更届関係書類には、新旧対照表、就任承諾書、身分証明書、履歴書、理事会議事録又は、評議員会議事録、宣誓書、登記簿謄本、辞任届、事務担当者連絡票が含まれている。
(2)本件係争部分について
本件決定において公開しないこととされた部分のうち、異議申立人が公開を求めているのは、実施機関が「条例第8条第1項第1号を理由として非公開とした部分」であり、別紙2に掲げる各行政文書中、「理事会議事録」及び「評議員会議事録」のうち「学校運営に関する具体的な審議内容に関する部分」及び「経営経理に関する事項」と「理事長の印影」がこれに該当する。
4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
(1)条例第8条第1項第1号について
事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。
同号は、
- ア 法人(国、地方公共団体、独立行政法人等、地方独立行政法人、地方住宅供給公社、土地開発公社及び地方道路公社その他の公共団体を除く。)その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、
- イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。)
が記録された行政文書は公開しないことができる旨定めている。
本号の「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理に反する結果となると認められるものをいい、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、公開されることにより、事業を営む者に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうと解されるが、これらの具体的な判断に当たっては、当該情報の内容のみでなく、当該事業を営む者の性格や事業活動における当該情報の位置づけ等も考慮して、総合的に判断すべきものである。
(2)本件係争部分の条例第8条第1項第1号該当性について
本件係争部分に記録されている情報は、本件法人の理事会又は評議会の議事内容と代表者の印影であり、いずれも、(1)アの要件に該当することは明らかである。
次に、本件係争部分に記録されている情報が(1)イに該当するかどうか検討する。
ア「理事会議事録」及び「評議員会議事録」のうち「学校運営に関する具体的な審議内容に関する部分」及び「経営経理に関する事項」に記録されている情報について
本項の情報について、審査会で見分したところ、
- (ア)本件法人の予算及び決算における金額の増減の理由、中科目以下の項目及び金額(大科目から分かる金額及び補助金に係る金額を除く。)が分かる情報並びに個別の収支内訳、
- (イ)本件法人の就業規則、職員組織規程及び教授会規程の一部改正等法人の内部管理に係る規程に関する情報、
- (ウ)理事会及び評議会での発言者の氏名及び意見にわたる発言内容、
- (エ)本件法人における新キャンパスの建設理由、新学部、新学科の名称及び設置理由、記念事業の計画内容、奨学金給付規程の改正理由、学則の変更理由等、法人の経営方針や事業計画に関する検討過程の情報
が記録されていることが認められた。
これらの情報は、いずれも、法人の財務に関する詳細な情報、法人の内部管理事項に関する情報、法人の経営方針に係る検討過程の情報であって、公にすることにより、本件法人の取引上、経営上の秘密を明らかにすることになったり、団体の自治に対する不当な干渉となって、当該法人の正当な利益を害すると認められ、(1)イの要件に該当する。
イ 理事長の印影について
法人代表者の印影については、当該印影が現に公表され、又は公表することが慣行となっているなど特段の事情のない限り、一般的には、専ら当該法人が自ら管理すべき情報である。本件法人の代表者である理事長の印影についても、同様であり、これを公にすると、印章偽造等の不正使用を誘発し、虚偽の契約書等の作成が容易になるなど、当該法人の正当な利益を害するおそれがあると認められ、また、本件法人の理事長の印影については、当該印影が現に公表され、又は公表することが慣行となっているなど特段の事情は認められないことから(1)イの要件に該当する。
以上のことから、本件係争部分に記録されている情報は、いずれも、条例第8条第1項第1号の規定により、公開しないことができる情報であると認められる。
なお、異議申立人は、本件請求に対応する行政文書のうち「生徒の懲戒関連」、「教職員の処分措置関連」、「生徒の逮捕・補導案件」、「生徒の事故に関する報告」に該当するものがなかったことに関連して、所轄庁による私学の実態把握の在り方や私学と情報公開の在り方等について、種々意見を述べているが、当審査会は、条例に基づく公開決定等の妥当性について調査審議するものであり、このような意見について判断するものではない。
5 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
塚本美彌子、福井逸治、小松茂久、鈴木秀美
別紙1 行政文書公開請求書に記載された行政文書の名称等
学校法人A、及び同法人が運営するB高等学校に関する以下の資料
- ア 学校長、管理職を含む教職員の任免関連
- イ 生徒の懲戒関連
- ウ 生徒の退学状況
- エ 教職員の処分措置関連
- オ 生徒の逮捕・補導関連
- カ 生徒の事故に関する報告
- キ 文部科学省が所管する以下の調査関連資料
- (ア)学校における情報教育の実態に関する調査
- (イ)高等学校卒業(予定)者の就職(内定)状況に関する調査
- (ウ)高等学校入学者選抜の改善等に関する状況調査
- (エ)インターンシップの実施状況調査
- (オ)学校図書館の現状に関する調査
- (カ)学校評価と情報提供の実施状況調査
- (キ)高等学校等における国際交流等の状況調査
- (ク)中高一貫教育校の設置・検討状況
- (ケ)高等学校通信制教育の状況等に関する調査
- (コ)私立学校(小・中学校)における不登校児童生徒に関する調査
- (サ)「福祉」に関する調査
- (シ)教員免許状授与件数等調査(専科担任の状況)
- (ス)児童・生徒の新体力テスト実施状況調査
- (セ)私立高等学校における中途退学者数等の状況調査
- (ソ)私立高等学校における長期欠席実態調査
- (タ)学校体育施設の設置状況調査
- (チ)学校給食実施状況調査
- (ツ)学校給食施設に関する調査
- (テ)受動喫煙防止対策実施状況調査
- (ト)薬物乱用防止教室等実施状況調査
- (ナ)学校の安全管理の取組状況に関する調査
- (ニ)学校における石綿付金網の処理状況について
- (ヌ)学校給食の調理機器等においてアスベスト(石綿)が使用されている機器等について
別紙2 本件係争部分が含まれる文書
平成15年4月3日付け校長採用解職届 |
理事会議事録(平成15年3月27日) |
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辞令 |
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退職願 |
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平成15年5月31日付け役員変更について(報告) |
役員変更届 |
理事会議事録(平成15年5月29日) |
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評議員会議事録(平成15年5月29日) |
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宣誓書 |
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平成15年7月5日付け役員変更について (報告) |
役員変更届 |
理事会議事録(平成15年5月29日) |
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理事会議事録(平成15年6月18日) |
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平成15年12月25日付け役員変更について(報告) |
役員変更届 |
理事会議事録(平成15年12月3日) |
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評議員会議事録(平成15年12月3日) |
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宣誓書 |
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平成16年1月26日付け役員変更について(報告) |
役員変更届 |
理事会議事録(平成15年12月3日) |
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宣誓書 |
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平成16年4月19日付け役員変更について(報告) |
役員変更届 |
評議員会議事録(平成16年3月30日) |
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宣誓書 |
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平成16年8月18日付け役員変更について(報告) |
役員変更届 |
理事会議事録(平成16年7月28日) |
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宣誓書 |
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平成17年4月21日付け役員変更について(報告) |
役員変更届 |
理事会議事録(平成17年3月29日) |
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評議員会議事録(平成17年3月29日) |
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宣誓書 |
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平成18年2月8日付け役員変更について (報告) |
役員変更届 |
理事会議事録(平成18年1月26日) |
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評議員会議事録(平成18年1月26日) |
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宣誓書 |