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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第123号)その2
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。
1 異議申立書における主張
平成17年9月30日付けの意見書に記載してあるとおり、本件行政文書の公開は、異議申立人の事業活動に支障をきたし、組合役員等の個人情報を保護できない恐れがあるため。
2 反論書における主張
(1)事業協同組合の事業内容について
- ア 実施機関の弁明によれば、事業協同組合は、税率の優遇や行政の監督下に置かれている等の事情が存するところから、公益性の高い性格を有するものであるとし、事業協同組合があたかも公益法人と法的に同一であるとの前提で議論を展開している。
- イ 確かに、事業協同組合は、一定の公益的な機能を担う場合はある。しかしながら、事業協同組合は、公益法人ではない。事業協同組合は、通常、営利法人としての側面が強い。
また、公益性といっても、事業協同組合は、営利事業に関して共同化がなされているに過ぎないことから、副次的に公益的機能を担うものから、組織から業務まで概ね営利法人とかわらず、公益性が著しく稀薄または全く欠如したものまで様々ある。
このような営利法人と公益法人の中間あるいはその一方に類似した団体の存在を法(中間法人法)が承認したうえで、事業協同組合は、中間法人法の特別法である中小企業等協同組合法によって規律される団体なのである。
そして、事業協同組合は、中小の営利事業者を構成員(組合員)とするものである。組合員の事業を支援・援助するためのものならほとんどすべての分野の事業が実施でき、組合の設立も4人以上集まれば可能である。
中小の営利事業者にとって、非常に設立しやすい組合として広く普及しているものである。
このような団体に対して、国が税率の軽減等の保護助成をしているのは、あくまで中小の営利事業者の経済的地位の向上を図るためのものであり、他方、国の一定の監督下においているのは、国の保護助成の濫用を回避するためである。
特に、中小の再資源卸売業は、いわゆる廃棄物をリサイクルする薄利事業である反面、設備に多大な資金がかかる業種である。
技術的要素が比較的少ないので、競争が激化する可能性を秘めていることから、業者が共同して受注事業等を展開して、ようやく利益を確保できる業種であることから、共同事業化されているに過ぎない。共同事業と言っても、現実には、共同的に営利目的を増進実現するに過ぎず、その事業業務の公益性は著しく稀薄である。
要するに、異議申立人のような中小の再資源卸売業を組合員とする事業協同組合は、営利法人と概ね変わらず、公益性が極めて稀薄なものである。 - ウ 本件弁明は、異議申立人を公益法人と全く同じ前提で議論を展開しており、前提事実に誤認がある。
(2)本件係争部分が条例第8条又は同第9条に該当することについて
ア 公開原則について
条例は、「行政公開の原則」を定めている(条例第1条)。
しかしながら、同条例は、その公開の原則だけを杓子定規に適用して、あらゆる情報を公開すべしとしていないことは勿論である。
そもそも、公開の原則を定めたのは、府民の府政への参加を一層推進すること、府政の公正な運営を確保すること、府民の生活の保護及び利便の増進を図ることを目的とし、これらの目的の達成は、ひいては、府民の府政への信頼を深め、府民の福祉の増進に寄与するためである。
これらを一言で言えば、公開する公益上の必要があるからである。
よって、行政公開の原則を適用するにあたっても、公開する公益上の必要性があるかどうかという観点を失念することは許されないというべきである。
イ 条例第8条の該当性について
上記のとおり、条例は行政公開の原則を定めているが、条例は、同第8条第1項第1号所定の事由が存するときは、情報を公開しないことができるとしている。
実施機関も認めるように、条例第8条第1項第1号所定の情報を公開しないことができるとした趣旨の一つに営業の自由の保障がある。
そして、条例第8条第1項第1号は、行政公開の原則のもとで、営業の自由の保障を侵害してはならないとしているのであるが、ここでは、当該事業者の営業の自由をどの程度重視するかが問題とならざるを得ない。
確かに、公開原則は府民の知る権利の拡充に資するものであるが、憲法21条(又は同法13条)から直接要請されているものでなく、個人の知る権利を実質化するものとして、その外延として導かれる原則であるに過ぎない。
他方、事業協同組合の営業の自由は憲法第22条によってまさに直接保護されるべきものである。
そして、上記のとおり、事業協同組合には、営利法人としての側面が強く、その営業の自由は強度に保護されるべき要請がある。
よって、事業協同組合の情報につき、条例第8条第1項第1号の「公にすることにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」かどうかを判断するにあたっては、当該法人の営業の自由の確保につき慎重に配慮する必要がある。
(ア)代表理事以外の役員の氏名について
実施機関によれば、役員は組合運営における実質的な経営者であり、その氏名の公表が生産技術又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等にあたるとはいえず、当該組合の競争上の地位を害するとは認められないとする。
しかしながら、閲覧等の請求に係る情報が「競争上の地位その他正当な利益を害する」と認められる情報に該当するかどうかは、当該情報の内容だけでなく、当該事業者の性格、事業活動における当該情報の位置づけ等にも十分留意しつつ、慎重に判断する必要があるとされている(条例解釈運用基準)。
この点、資源再生業は、薄利事業であることから、業者間の競業牽制、特に業者間の力関係の均衡があり、さらに、一般住民にとって廃棄物としか扱われない物品を対象とすることから、地域住民との関係維持等微妙な力の均衡のもとで成立している。
異議申立人の役員であるものは、通常、自ら組合員である法人の役員または個人事業主を兼任しており、広く異議申立人の役員を開示することは、当該組合員の競業他社との関係等において、上記均衡に亀裂をもたらす蓋然性が高い。
そして、異議申立人は、あくまで個別の中小の事業者の共同体であり、その構成員の取引関係の存続経営の安定等経営上の利益は、そのまま異議申立人の経営上の利益に直結する関係にある。
要するに、異議申立人には、その役員が誰であるかの秘匿につき、重要な経営上の利益を有しているのであって、それを公開することは、当該組合員を構成員とする異議申立人自身の公正な競争が侵害される蓋然性が高い。
実施機関は、当該事業者の性格を十分慎重に検討したうえで、事業活動の当該情報の位置づけを完全に無視している。
そもそも、事業協同組合の代表理事については、登記簿により公開が予定されているものであるが、その他の役員については、登記することが求められていないが、これは公開する公益上の必要が全く認められないからである。
以上のとおり、実施機関の主張には、条例第8条第1項第1号の解釈、適用に誤りがある。
(イ)収支予算書のうち、職員給与手当、賞与、福利厚生費欄の額及び備考欄について
実施機関は、収支予算書のうち、職員給与手当、賞与、福利厚生費欄の金額及び備考欄等の情報を公にしても当該組合のおよその経営規模の把握が可能に過ぎないことから、当該組合の競争上の地位を害するとは認められないとする。
しかしながら、これらの情報は、当該組合における経営の方針として重要な一つの要素である人事のノウハウ、人事政策を相当程度把握できることになる。
要するに、これらの情報は、競業他社との関係で、重要な経営上の秘密に該当するものであり、また、社会的評価の対象となるものである。
そもそも、職員給与手当、賞与、福利厚生費欄の金額及び備考欄等の情報については、公開する公益上の必要が認められる余地は全くない。
以上のとおり、実施機関の主張には、条例第8条第1項第1号の解釈、適用に誤りがある。
(ウ)決算報告書について
実施機関は、
- a 事業協同組合の決算報告書は、中小企業等協同組合法第40条の規定により組合事務所に備え置かなければならず、組合員及び組合の債権者は、何時でも、理事に対しこれらの書類の閲覧又は謄写を求めるとされている。
- b 財産目録等の財務諸表に記載されている各勘定科目の金額から、当該組合の経営規模はどの程度であるか、収入と支出とのバランスがとれているかなど、当該組合のおおよその経営内容の分析や把握は可能であったとしても、主要簿や補助簿その他多くの会計帳簿などの細目的資料の提出や組合の経理担当者からのヒアリングを受けない限り、「競争上の地位を害すると認められるもの」というまでの経営上の秘密やノウハウに属するような情報まで得られない。
- c 公益法人が決算書類を一般の閲覧に供するなど積極的にディスクロージャーする中で、公益性の高い事業協同組合を例外とする合理的な理由はない。
等を理由に、決算報告書を開示しても、「競争上の地位を害すると認められるもの」とは言えないとする。
しかしながら、上記aについては、中小企業等協同組合法第40条は、組合員や組合債権者等組合と法的利害関係を有している者の私的経済的利益保護のために組合自身に公開を義務づけている規定であり、協同組合と法的利害関係を有しない一般市民に公開を義務づけている規定ではない。これに反して、条例に基づく情報公開制度は、中小企業等協同組合法第40条とその趣旨、目的を異にしていることが明らかである。中小企業等協同組合法に上記規定があることから、条例に基づく実施機関による公文書の公開事務の運用上、公益性を有する事業者の収益事業に関する決算報告書を公開する公益上の必要性がある等とは認められない。むしろ、収益事業を営む以上、競業他社の存在を無視できないところ、収益事業の規模、形態を競業他社にも開示させることにつながりかねず、競争上の地位を害する蓋然性が極めて高い。
また、上記bについては、当該組合のおよその経営の分析や把握は可能であることを認めながら、その他の経理担当者からのヒアリング等の捕捉手段を得ない限り経営上の秘密に属する情報は得られないとする。
しかしながら、「財産目録」は異議申立人の資産の内容を示す文書、「貸借対照表」は、異議申立人の資産・負債正味財産の状態を示す文書、「損益計算書」は異議申立人の一事業年度の損益を示す文書、「剰余金の処分または損失の処理の方法を記載した書面」は、異議申立人の利益または損失の処理を示す文書、「監査意見書」は、異議申立人の監事が会計監査の結果に意見を付して理事に提出する文書である。
これらの文書の性質上、これらの文書に記載した情報を開示するときは、異議申立人が、その行う営業活動のうち、いかなる営業活動に重点を置いているか、あるいは財産の状況、信用能力、収入支出の実態などを開示することに他ならず、営利性を強く有する事業協同組合にとっては、競業他社または取引先等との関係で、経営方針、ノウハウとして、その秘匿を死守しなければならない情報である。
また、主要簿や補助簿その他多くの会計帳簿などの細目的資料の提出や組合の経理担当者からのヒアリングを受けなくとも、税務関係、業界情報等に精通した者にとっては、決算報告書を解読すれば、当該事業者の財産状況、信用状況の全貌を概ね把握しうることは公知の事実である。
以上のとおり、異議申立人は、決算報告書の秘匿につき、重要な経営上の利益を有しているのであって、それを公開することは、異議申立人自身の公正な競争が侵害される具体的な危険性がある。
さらに、上記cについても、仮に、異議申立人が公益法人であったとしても、公益法人が決算書類を一般の閲覧に供するなど積極的にディスクロージャーするのは、あくまで任意、サービスの提供にわたる行為であって、当該公益法人が閲覧を拒否する意思を表明していれば、そのような任意の開示がなされることがあるという点は、理由にならないし、そもそも、異議申立人は、公益法人ではなく、上記のとおり、中小企業を結集させ、その営業の自由を保護することを目的とする事業協同組合である。
そして、営利的側面を有する事業協同組合においては、決算書類等を一般の閲覧に供するなど積極的にディスクロージャーしている事実は一切認められない。
以上のとおり、実施機関の主張には、条例第8条第1項第1号の解釈、適用に誤りがある。
(エ)以上のとおり、実施機関の主張は、異議申立人の事業内容、特にその特殊性、事業活動における当該情報の位置づけを十分に検討することなく、かつ、条例の趣旨を踏まえた解釈をしていない誤りがある。
ウ 条例第9条の該当性について
上記のとおり、条例は行政公開の原則を定めているが、条例は、第9条第1号所定の事由が存するときは、情報を公開してはならないとしている。
実施機関も認めるように、条例第9条第1号所定の情報を公開してはならないとした趣旨は、個人のプライバシーを保護する点にある。
個人のプライバシー情報の保護の根拠については、争いあるも、憲法第13条によるとする見解が多数である。
ただ、そのプライバシー情報についても、そこに何を含めるか争いのあるところであるが、個人の尊厳を確保するという憲法第13条の趣旨からすれば、個人の人格の核に該当するような情報、いわゆるプライバシー固有情報については、個人の自律存在に直接関係することから、制約を伴わない強度の保護が要請され、その周辺を形成する情報、いわゆるプライバシー外延情報については、悪用され、または集積利用されるときには、個人の自律存在に影響し、取り返しのつかない損害が発生するおそれがあることから、強度の保護が要請されるとされている。
そして、最近の社会の動向として、個人のプライバシーは、個人情報保護法制定の経緯から明らかなとおり、いわゆるプライバシー固有情報だけでなく、憲法第13条の趣旨を考慮して、当該個人の生活情報等プライバシー外延情報についても可及的に保護される必要がある。
そこで、条例は、個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成等のプライバシー固有情報だけでなく、個人の学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関するプライバシー外延情報についても、広く原則的に公開を禁止している。
もっとも、条例は、「当該情報が一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」を公開禁止にするとして、一定の絞りをかけている。
しかしながら、上記のとおり、情報の内容により、憲法的保障の程度が異なることを踏まえて、プライバシーの範囲を可及的に拡大しようとする社会の動向に応じて条例が個人のプライバシー保護の観点からあらゆる情報のうち一定の事項だけを列挙した趣旨を考慮して、個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成等のプライバシー固有情報は、反証のない限り、一般に他人に知られたくないと望まれることが正当であると認めるべきであり、個人の学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等は、いわゆる人格の核、あるいはプライバシー固有情報とは言えなくとも、その周辺を形成し、その人の自律的存在を推認させる重要な情報として、当該情報は、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると推定すべきである。
(ア)代表理事以外の役員の氏名について
実施機関は、
- a 本件情報は、法人の機関における地位を表示するものであり、他から知り得ないという理由のみをもって、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当である」とは認められない。
- b 他の法令に基づく法人の役員については、公益法人については、理事全員の住所及び氏名が、また、営利法人である株式会社については代表取締役の住所氏名、取締役及び監査役の氏名がそれぞれ登記事項として定められている。
- c 事業協同組合の公益性が高い。
- d 事業協同組合の役員は、対外的にも責任を負う職責がある。したがって、本件情報は、公益法人の役員と同様もともと公示的な性格を持つものである。
として、本件情報は、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当である」と認められないとする。
しかしながら、上記aについては、異議申立人が本件情報の開示を拒否している状況において、本件情報が法人の機関における地位を表示するものであり、他から知り得ないという理由をもって、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当」であるとは考えられないという思考は、憲法第13条の趣旨を全く理解していない議論であると言わざるを得ない。
上記bについても、前述のとおり、異議申立人は、そもそも、法的には公益法人でも、営利法人でもない。
実施機関は、営利法人については、役員が登記事項として開示されていることから、異議申立人も同じように開示すべきとの議論を展開しているが、これは、まさに実施機関が異議申立人の事業内容、その性格等を正確に分析しないばかりか、理論的に破綻していることを雄弁に物語る暴論である。
実施機関は、ある種の情報については、異議申立人と公益法人とは同じであるかのような議論を展開して開示が妥当であると主張し、別の種類の議論では、営利法人と同じように考えるべきと主張している。ご都合主義的な態度というべきである。
また、上記cについても、税率の優遇や行政の監督化がなぜなされているのかの論証を欠き、これらの事情から直ちに公益性を導くことができないことは前述のとおりであるし、また、再資源卸売業の共同体である事業協同組合は、営利事業に軸を置いた共同化であって、公益性が希薄で、営利性が強いことも前述のとおりである。
さらに、上記dについても、実施機関は、中小企業等協同組合法において、理事等が任務を怠ったときに、組合に対して損害賠償責任を負担し、あるいは、理事等が任務懈怠につき悪意・重過失があったときに、第三者に対しても損害賠償責任を負担する旨規定することも開示の根拠とする。
しかしながら、中小企業等協同組合法により組合やその債権者等の私的経済的利益保護のために組合または理事等に一定の」責任を義務づけているのは、この組合が営利法人としての側面が強いため、債権者等の保護規定を置いているのである。これに対して、条例に基づく情報公開制度と中小企業等事業協同組合法とは、その趣旨、目的を全く異にしているものであって、中小企業等協同組合法に上記規定があることから、公開する公益上の必要性がある等とは認められない。
もっとも、実施機関は、単に中小企業等協同組合法に上記規定があるから直ちに開示すべきとしているのではなく、理事等が経営者であり、その責任が内外においても重大な関心になるから、公益法人の役員と同様もともと公示的な性格をもつと認定している。
しかしながら、公益法人または営利法人については、各利害関係者の利害調整を踏まえて、各関係諸法により役員等の開示が義務づけられているが、事業協同組合の役員等は開示することを義務づけていない。
にもかかわらず、条例の解釈によって、法律によって開示が義務づけられていない事業協同組合の役員につき、公益法人と同様もともと公示的な性格を持つという理由でもって、開示を認めることになれば、結局、法律の下位規範である条例が、法律を侵害若しくは改廃し、または法創設機能を有することになる。
実施機関の議論は、完全に国法秩序を破壊または無視する議論である。
以上のとおり、実施機関の主張には、憲法第13条、条例第9条第1号の解釈、適用に誤りがある。
(イ)収支予算書のうち、職員給与手当、賞与、福利厚生費欄の金額及び備考欄について
実施機関は、本件情報につき、職員全員に対する支払予定金額しか判明しないこととなり、個人の給与等は公にされないこと、また、収支予算書はあくまで次年度における予定を示したものであり、組合が予定されている職員数と実際の職員数が必ずしも一致するわけではないから、本件係争部分については、本号には該当しないとする。
しかしながら、前者については、職員が多数在籍する場合には妥当する議論である。すなわち、職員が多数在籍すれば、通常、総額も多額となり、その総額を示しても、個人の収入は公にされたとは言いにくいが、このような議論は、異議申立人には妥当しない。
また、後者の理由、すなわち、収支予算書はあくまで次年度における予定を示したものであり、組合が予定されている職員数と実際の職員数が必ずしも一致するわけではないとする。
しかしながら、この議論はあまりに乱暴なものである。実施機関も認めるように、収支予算書は行政にも提出する文書である。
当該文書を作成するにあたっては、その時点での事業所の状況等を十分に審査、検討しているのであって、組合が予定されている職員数と実際の職員数が一致するのが通常である。
以上のとおり、実施機関の主張には、条例第9条第1号の解釈、適用に誤りがあるばかりか、事実認定においても誤認がある。
(3)結論
以上のとおり、実施機関の主張は、事実認定に誤認があるばかりか、憲法及び条例の解釈にも誤りがある。
本件係争部分は、全て非公開とすべきである。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね次のとおりである。
1 事業協同組合について
事業協同組合は、中小企業等協同組合法(以下「法」という。)に基づく協同組合の中で最も代表的かつ一般的な組合の形態であり、組合員である中小企業者が行う事業に関して、共同購買や共同受注・市場開拓等のいわゆる共同経済事業や組合員のための福利厚生事業などの共同事業を行うことにより、中小企業者の経営の合理化、企業体質の強化や対外信用力の増大等を図るものである。
事業協同組合の機関としては、組合の基本的事項を決定する最高意思決定機関としての「総会」と、具体的な業務の執行を決定する「理事会」がある。
また、組合の役員として「理事」と「監事」があり、いずれも総会で選任される。そして、理事の中から代表理事(多くの組合では理事長と呼称)が理事会で選任されるが、それ以外に、副理事長・専務理事・常務理事の職をおく組合も少なくない。
事業協同組合は、法人税率が公益法人並みに軽減されるなどの税制上の優遇措置とともに、業界団体としての側面から行政の各種補助金の交付、公的施設の運営委託や公共工事などの受け皿となることも多く、民間法人のなかでは公益性の高い性格を有する法人である。
法は、事業協同組合の公益性に着目し、その設立にあたっては業を所管する行政庁(異議申立人については実施機関)の認可が必要とし、設立後においても定款変更認可や決算関係書類提出・役員変更届などの諸手続きを通じて行政の監督下においた。
事業協同組合を設立、運営するにあたって所管行政庁に提出すべき書類は次のとおりである。
(1)中小企業等協同組合設立認可申請書
事業協同組合を設立しようとする場合、法第27条の2第1項では、「発起人は、創立総会終了後遅滞なく、定款並びに事業計画、役員の氏名及び住所その他必要な事項を記載した書面を行政庁に提出して、設立の認可を受けなければならない。」と規定されている。また、設立認可申請書に添付しなければならない書類として、中小企業等協同組合法施行規則(以下「規則」という。)第1条の6第1項において次の書類が定められている。
- ア 定款
- イ 事業計画書
- ウ 役員の氏名及び住所を記載した書面
- エ 設立趣意書
- オ 設立同意者がすべて組合員たる資格を有する者であることを発起人が誓約した書面
- カ 設立同意者がそれぞれ引き受けようとする出資口数を記載した書面
- キ 収支予算書
- ク 創立総会の議事録又はその謄本
また、これらの書類を補足し、申請内容を審査するために、次の書類を認可申請書に添付するよう求めている。 - ケ 理事会議事録
- コ 役員就任承諾書
- サ 委任状(発起人が代表発起人に対して設立認可申請行為を委任する場合)
- シ 発起人全員の印鑑証明
(2)中小企業等協同組合定款変更認可申請書
法第51条第2項では、「定款の変更は、行政庁の認可を受けなければ、その効力を生じない。」とされ、定款変更認可書に添付しなければならない書類として、規則第5条第1項において次の書類が定められている。
- ア 変更理由書
- イ 定款中の変更しようとする箇所を記載した書面
- ウ 定款の変更を議決した総会または総代会の議事録またはその謄本
さらに、同条第2項において「定款の変更が事業計画又は収支予算に係るものであるときは、前項の書類のほか、定款変更後の事業計画書又は収支予算書を提出しなければならない。」とされている。
(3)中小企業等協同組合決算関係書類提出書
法第105条の2では、「組合は、毎事業年度、通常総会の終了の日から二週間以内に、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書及び剰余金の処分又は損失の処理の方法を記載した書面を行政庁に提出しなければならない。」とされ、届出の際に提出書に添付しなければならない書類として、規則第12条において次の書類が定められている。
- ア 事業報告書
- イ 財産目録
- ウ 貸借対照表
- エ 損益計算書
- オ 剰余金の処分または損失の処理の方法を記載した書面
- カ 通常総会または通常総代会の議事録またはその謄本
また、法第40条に規定されている監事の監査がなされているかどうかを確認するため、監査意見書の写しを決算関係書類提出書に添付するよう求めている。
(4)中小企業等協同組合役員変更届出書
法第35条の2では、「組合は、役員の氏名又は住所に変更があつたときは、その変更の日から二週間以内に、行政庁にその旨を届け出なければならない。」とされ、届出の際に提出書に添付しなければならない書類として、規則第3条において次の書類が定められている。
- ア 変更した事項を記載した書面
- イ 変更の年月日及び理由を記載した書面
また、役員の変更が総会並びに理事会での選挙にかかるものであるときは、次の書類を役員変更届出書に添付するよう求めている。 - ウ 総会議事録
- エ 理事会議事録
2 本件行政文書について
本件行政文書は、異議申立人が事業協同組合を設立、運営するにあたって、大阪府知事に対して提出した書類であり、次のとおり区別される。
- a 中小企業等協同組合設立認可申請書(平成12年2月4日提出)
- b 中小企業等協同組合定款変更認可申請書(平成13年7月23日、平成13年8月27日、平成14年9月19日、平成14年12月24日提出)
- c 中小企業等協同組合決算関係書類提出書(平成15年5月7日、平成16年4月13日、平成17年4月21日提出)
- d 中小企業等協同組合役員変更届出書(平成15年5月7日、平成16年4月13日、平成17年4月28日提出)
なお、a及びbのうち、平成13年7月23日に提出している書類については、定款の変更が事業計画又は収支予算に係るものであり、定款変更後の事業計画書及び収支予算書が添付されている。