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更新日:2009年8月5日

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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第124号)

(答申第124号)教職員評価・育成システム提言シート非公開事案

(答申日 平成18年7月20日)

1 対象行政文書

「教職員の評価・育成システム」における「平成16年度 校長への提言シート(写)」

(注)「校長への提言シート」について

実施機関は、教職員の意欲と資質能力を高め、教育活動をはじめとする学校の様々な活動を充実し、学校を活性化する方策として、教職員の自己申告による個人目標の設定(自己申告票の作成)や上司との面談等を内容とする「教職員の評価・育成システム」を実施している。

「校長への提言シート」は、実施機関がこのシステムの一環として、教職員に対し校長の学校運営に関する提言等を提出させているものである。

2 実施機関の決定

(1)実施機関

大阪府教育委員会(担当課:教職員室教職員企画課)

(2)決定内容 非公開決定

(公開しない理由)

条例第8条第1項第4号に該当する。

本件行政文書に記録された情報は、実施機関における人事管理に関する情報であって、記入者が自由に個人の意見や提言を記入するものであることから、公にすることにより、今後、提言シートの記入について慎重になり、自由で率直な提言が行われにくくなる、あるいは、提出そのものを控えるなど、同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。

3 異議申立て

(1)申立ての趣旨

本件対象行政文書の部分公開を求める。

(2)理由(要旨)

本件請求文書は、教職員自らによる教育行政に対する内部告発を明らかにする可能性のある文書であり、大阪府情報公開条例の制度の理念からすれば、開示されなければならない文書であるので、開示されることを求める。

なお、「評価・育成システム」の試行実施における教職員アンケートや校長アンケートについては、開示がすでに行われている。「校長への提言シート」のみ開示しないということはあってはならない。

4 大阪府情報公開審査会の答申

(1)審査会の結論

実施機関の決定は妥当である。

(2)理由(要旨)

ア 条例第8条第1項第4号について

同号は、

  • (ア)府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、
  • (イ)公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

は、公開しないことができる旨を定めている。

イ 条例第8条第1項第4号該当性について

本件行政文書に記載されている情報が上記ア(ア)、(イ)の要件に該当するかどうかについて検討したところ、以下のとおりである。

本件行政文書は、教職員の評価・育成に関するシステムの一環として、教職員が校長への提言等を記載して提出したシートであり、実施機関において校長の評価を行うための資料でもあることから、本件行政文書に記載されている情報は、「府の機関又は国等の機関が行う人事管理等の事務に関する情報」として、ア(ア)の要件に該当する。

次に、本件行政文書に記録された情報がイ(イ)の要件に該当するか否かを検討するに、審査会において、本件行政文書を見分したところによれば、自由記述欄には、「人事・校内体制」、「校長と教職員との関係」、「教育環境・施設整備の改善」、「授業の充実・改善」等についての提言・意見・要望などが具体的かつ詳細に記載されていることが認められる。また、本件行政文書は、人事評価に係るシステムの一環として個々の教職員が提出する文書であり、審査会において確認した教職員向けの手引書の内容からみても、多くの教職員は、その内容がそのまま府民や同僚教員に公開されることを全く想定していないと考えられる。

このような事情のもとで、本件行政文書の自由記述欄に記録されている提言等の具体的な内容が公になると、教職員の実施機関に対する信頼を大きく裏切ることとなり、今後のシステムの実施に当たり、教職員が同僚教員や保護者等に内容を知られることを慮って、校長への提言シートに提言等を自由・率直に記載することを躊躇し、あるいは提出そのものを控えることになるおそれがある。教職員に自由・率直に提言させ、校長の学校運営の改善・充実に資するという校長への提言シートに係る事務の目的を達成することができなくなるとともに、今後とも、実施機関が行う校長の評価に係る事務の実施に当たって必要な情報が得られず、その公正かつ適切な実施に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められ、本件行政文書に記録されている情報は、ア(イ)の要件にも該当する。

なお、条例は、第10条第1項において、行政文書に条例第8条第1項各号又は第9条各号に該当し公開しないこととされる部分を「容易に、かつ、公開請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは、その部分を除いて、当該行政文書を公開しなければならない。」旨定めている。

これを本件行政文書について検討するに、記入者に関する部分等のうち「学校名」、「記入者の氏名」については、異議申立人が公開を求めていないし、「提出日」については、当該情報のみでは単なる日付の羅列にすぎず、本件請求の趣旨をなんら満たすことにはならない。また、校長の評価欄については、その集計結果が既に公表されていることからすると、当該部分のみを公開したとしても本件請求の趣旨を何ら満たすことにはならない。さらに、自由記述欄に記録された情報については、同僚教員や保護者等からも当該教職員又は所属する学校が特定されないようにすると、断片的な情報のみが残ることとなって、部分公開にはなじまない。

以上のことから、本件行政文書に記録されている情報は、その全部について、条例第8条第1項第4号の規定に基づき、公開しないことができると認められる。

大阪府情報公開審査会答申(全文)

第一 審査会の結論

実施機関の決定は妥当である。

第二 異議申立ての経過

  1. 異議申立人は、平成17年10月26日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、「2004年度の『教職員の評価・育成システム』における『提言シート』のすべて」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
  2. 実施機関は、平成17年11月17日、本件請求に対応する行政文書として、「平成16年度校長への提言シート(写)」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、非公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を次のとおり付して異議申立人に通知した。
    (公開しない理由)
    条例第8条第1項第4号に該当する。
    本件行政文書に記録された情報は、実施機関における人事管理に関する情報であって、記入者が自由に個人の意見や提言を記入するものであることから、公にすることにより、今後、提言シートの記入について慎重になり、自由で率直な提言が行われにくくなる、あるいは、提出そのものを控えるなど、同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
  3. 異議申立人は、平成18年1月16日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。

第三 異議申立ての趣旨

本件行政文書は、教職員自らによる教育行政に対する内部告発を明らかにする可能性のある文書であり、条例の制度の理念からすれば、開示されなければならない文書であるので、開示されることを求める。

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張は概ね以下のとおりである。

本件行政文書の内容は、実施機関が平成16年3月に公表した「『教職員の評価・育成システム』試行実施のまとめ」のうち、「平成16年度『評価・育成システム』の実施状況に関する調査(集計)」の「5 平成16年度の『校長への提言シート』について(3)提言内容」を見ると、「校長と教職員との関係」に関するものおよびその他が提言内容の約半分を占める。これは、異議申立人が求めている「学校の今後のあり方や『評価・育成システム』のあり方」に関する教職員の意見が多く記入されていることを予想させうるものである。また、校長を通じて教職員自らが教育行政に対する内部告発を明らかにする資料でもある。この点について、実施機関は弁明書の中で、「本件行政文書は、人事管理に関する行政文書」という実施機関の目的だけを主張するが、本件行政文書が上記のような性格を持つ資料であることについて一切弁明されていない。

本件行政文書には、「評価・育成システム」が教職員の意欲を高めることにはなっていないことを訴える内容のものが一定数含まれていることは、実施機関自身が異議申立人との交渉の中で現認されているところである。実施機関が本件行政文書に記載されている「評価・育成システムのあり方・教育行政に対する内部告発」に関する情報を府民と共有することを拒んで交渉の中で示されないために開示請求を求めたものである。

大阪府情報公開条例の制度の理念「情報を、府民と共有することにより、府民の生活と人権を守り、豊かな地域社会の形成に役立てる」からすれば、教育行政に対する内部告発を明らかにすることを率先して行われなければならない。

また、実施機関は、「本件行政文書が公開され、あるいは公開を前提とする制度になると、自らの記した校長に対する提言・評価が公開されるという心理的圧迫から、教職員が校長の学校運営に対して批判的な提言や評価をすることを躊躇するといった事態が想起される。また反対に、教職員が校長の学校運営を積極的に支持し、評価する内容の場合には、見解の異なる他の教職員からの批判をおそれ、提出を躊躇するなど、・・・教職員に対する心理的圧力となると考えられる。」と弁明する。

しかし、本件行政文書は、実施機関にもその写しが伝達されるということが教職員に周知されて開始されているものである。教職員に対する心理的圧力を部分公開について心配するのであれば、それ以上に実施機関に全面公開されることについて同様に教職員に対する心理的圧力を心配されないのかを弁明する必要がある。

なお、すでに学校における職員会議の議事録は、個人情報を除き部分公開されている。本件行政文書は、職員会議議事録以上に実施機関の教育行政に対する内部告発を含む可能性をもったものである。教育基本法第10条「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し、直接に責任を負って行われるべきものである」に基づき、本件行政文書は、情報公開されなければならない。異議申立人が開示を求めている情報は、「評価・育成システムのやり方・教育行政に対する内部告発」に関する情報のみであり、学校名、校長名、教職員名及び提出者や学校名を特定できる情報等の個人情報は一切求めていない。「評価・育成システム」の試行実施における教職員アンケートや校長アンケートについては、開示がすでに行われている。本件行政文書のみ開示しないということはあってはならない。

また、過去に府立学校の校長の自己申告票の非公開決定に対する異議申立に対して、府情報公開審査会において、当該自己申告票は将来的には本来は見せるべき文書である旨の答申が出されている。つまり、当該自己申告票に書かれている学校長の思いや考えの記載状況などに相当大きなバラツキが見られるために非公開とするという実施機関の決定は追認しているが、学校長がある程度慣れてきて、習熟してきて基本的に書くべきことをきちんと書けるようになれば、学校目標を書いているわけだからそれは人事文書であっても見せるべきであるという答申である。

そのような経過もあるため、本件行政文書は個人情報を除いて部分公開すべきである。

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は概ね以下のとおりである。

1 教職員の評価・育成システムについて

(1)概要

実施機関は、平成14年7月、「教職員の資質向上に関する検討委員会」(座長 木下繁彌 当時甲子園短期大学学長)から、「教職員全般の資質向上方策」について最終報告を受けた。この最終報告の中で、教職員の意欲と資質能力を高め、教育活動をはじめとする学校の様々な活動を充実し、学校を活性化する方策として提言されたのが「教職員の評価・育成システム」(以下「システム」という。)である。

システムでは、年度初めに教職員一人ひとりが、学校の教育目標の実現に向け、組織内の自らの役割を踏まえて個人目標を設定し、校長に申告する。校長は、教職員と面談を行い、仕事の内容や課題について相互理解を深めるとともに、教職員の目標が学校の教育目標に適合しているか、その教職員の役割に照らして適切であるかなどを判断し、必要な場合には目標の修正・変更を指導した上で、教職員の取り組むべき目標を確定する。

教職員は、同僚教職員と連携協力しながら、目標達成に向け1年間取組を進め、中間時点での進捗状況と、年度末には達成状況を自己評価し、校長に申告する。

校長は、児童生徒や保護者、同僚教職員、教頭などの意見も参考にしながら、教職員の自己申告を踏まえ、目標の達成状況を判断し、これを「業績評価」として評価し、また職務全般の取組を対象に、教職員の日常の職務遂行を通じて発揮された能力を「能力評価」として評価する。その上でこれらの評価をもとに「総合評価」を行う。評価は、いずれもA・B・Cの3段階を基本にS・Dを加えた5段階(S・A・B・C・D)の絶対評価である。

評価の結果は、教職員本人に開示され、取組の改善や次年度の目標設定に生かすこととしているが、評価の結果に納得できない場合については、教職員は苦情の申出ができることとしている。

また、校長の学校運営の充実・改善に資するため、教職員が「校長への提言シート」に学校運営に関する意見等を記入して校長に提出する制度を設けている。

(2)導入までの経過

システムは、学校の教育活動等における目標・計画の策定(Plan)、目標達成に向けた実践(Do)、結果の点検・評価(Check)、改善への取組(Action)という「PDCAのサイクル(マネジメント・サイクル)」を活性化するとともに、これまで評価されることが少なかった一人ひとりの教職員の活動を客観的に評価することにより、教職員の意識改革と意欲・資質能力の向上を図り、教育活動をはじめとする様々な活動を充実させ、学校を活性化することを目指すものである。

実施機関では、これまで、このシステムの学校への着実な定着を図るため、市町村教育委員会の協力を得て、平成14年11月からすべての教職員を対象に試行を行い、システムの改善に努めてきた。

平成16年3月には、試行の成果と課題を明らかにするため、すべての対象教職員、府立学校長及び市町村教育委員会等に対するアンケート調査などをもとに2カ年にわたる試行実施のまとめを行った。

その結果、システムの基本的な手続きである自己申告や面談などは定着しつつあり、システムのねらいについても概ね理解が得られていることが確認された。

また、試行を行う中で、教職員と校長のコミュニケーションが深められ、学校の教育目標の共有化が図られたり、校長の授業観察が契機となって校内に授業改善の機運が高まるなど、学校の活性化につながる具体的な動きも見られた。

このため、試行実施のまとめを踏まえ、平成16年4月16日に開催された大阪府教育委員会会議で、府立学校に勤務する教職員(以下「府立学校教職員」という。)を対象とした「府立の高等専門学校、高等学校等の職員の評価・育成システムの実施に関する規則」(平成16年大阪府教育委員会規則第12号)及び市町村立学校に勤務する府費負担教職員(以下「市町村立学校教職員」という。)を対象とした「府費負担教職員の評価・育成システムの実施に関する規則」(平成16年大阪府教育委員会規則第13号)(以下、両規則をあわせて「システム実施規則」という。)を新たに制定し、これら規則に基づいて本格的に実施することにした。

(3)システムの特徴

システムでは、教職員の意欲を高めるため、主体的な取組を尊重し、一人ひとりの目標やその達成状況について自己申告の制度を取り入れている。これに基づき、校長は、面談や日常の指導助言を通じて、教職員の目標達成を支援するとともに、評価結果を本人に開示してその理由を説明するなど、人材育成の観点を重視している。

また、教職員の評価に対する信頼性と納得性を高めるため、評価の基準は手引きに記載し、教職員にあらかじめ明らかにされるとともに、評価結果は教職員に開示され、評価結果に対する苦情申出の制度も用意されている。具体的には、システム実施規則制定後、府立学校教職員については、平成17年1月、実施機関の事務局内に苦情審査会を設置し、市町村立学校教職員についても、実施機関に準じて、各市町村教育委員会事務局内に苦情審査会が設置され、苦情に対応しているところである。

さらに、校長の学校運営に対して教職員が提言する制度を設けている。これは、学校運営の充実・改善に資することを目的として、教職員が本件行政文書に学校運営に関する意見等を記入して校長に提出するものである。この制度により、校長が自らの学校運営について見直しを行ったり、教職員の意見を学校運営に反映したりするなど、システムは双方向性を持ったものとなっている。なお、本件行政文書の写しは校長から実施機関に提出され、実施機関が校長の学校運営を把握する参考資料としている。

実施機関では、他の施策と併せて、このシステムを通じて、教職員の意欲・資質能力の向上と学校の活性化を図り、子どもたちにとって、魅力ある学校、保護者・府民から信頼される学校づくりを進めたいと考えており、そのために、今後、評価結果を適切に活用・反映して、システムの実効性を高めることができるよう、取組を進めているところである。

(4)平成16年度の実施状況について

平成16年度のシステムの実施状況については、自己申告票の提出が、試行実施において7割であったものが、府立学校で92.2%、市町村立学校で94.2%となっていることから、多くの教職員が自己申告を行い、目標達成に取り組んでいることが明らかである。

また、システムの進捗に併せて、校長と個々の教職員との間で目標設定面談及び開示面談が実施され、校長等による授業観察なども行われるなど、システムは着実に実施されており、評価結果の分布についても妥当と考えられる。

一方で、開示面談が一部4月にずれ込んで実施される等スケジュール面での課題があり、本件行政文書の提出率が市町村立学校では26.2%に対して、府立学校では5.5%と、高いとは言えない状況にあるものの、これら課題は、システムを推進していく中で改善・充実が図られるものと考えており、システム全体としては順調に推移していると考えている。

2 本件行政文書について

(1)本件行政文書の概要

本件行政文書は、システムの一環として、校長の学校運営の充実・改善に資するため、教職員が必要事項を記入し、校長に提出するものである。また、その写しは、校長の学校運営の状況を把握する参考として、学校長から実施機関に提出される。

記入する内容は、「学校名」、「氏名」を付す他、次の【1】と【2】がある。【1】は教職員が校長のリーダーシップや指導力、責任感、コミュニケーション力等について「そう思う」「どちらとも言えない」「そう思わない」の3段階で評価するもので、評価・育成システムにおいて、教職員による校長評価という観点から評価の双方向性という性格を持たせたものである。

また【2】は、校長の学校運営について提言があれば自由に記述するもので、校長の学校運営の充実・改善に資するとともに、教職員が学校運営に参画する機会を拡大して教職員の職務への意欲を惹起するという性格も併せ持っている。

さらに本件行政文書は、校長の学校運営の状況を把握する参考資料として教育委員会に写しを提出することとしているが、これはとりもなおさず、校長の学校運営に関して評価を行う上で参考資料となるということであり、この意義については校長に対してもその旨周知しているところである。

これらのことから、本件行政文書は、システムという人事管理制度の中で、教職員から提出される「人事管理」に係る行政文書にあたる。

(2)本件決定について

本件行政文書は、校長の学校運営の改善・充実に資するものであるから、校長と教職員との信頼関係に基づき、教職員が自由・率直に提言を行うことが必要である。

仮に、その内容が、教職員が校長に対して、面前で口頭では提言しづらいものであったとしても、この制度の中では、その様式に従い、率直に自らの意見を校長に伝えることができる。そして教職員から率直な提言がなされたならば、本件行政文書に記載された意見等について、校長はそのことを真摯に受け止め、校長と教職員が率直に話し合うきっかけとするとともに、自らの学校運営を客観的に評価・点検し、教職員の意見を学校運営に反映させていくなど、充実・改善をはかるために参考にすることができる。これらを通じて学校運営の状況や学校の教育目標について、校長と教職員との意思疎通が図られることとなり、学校内での目標の共有化も促進されることとなる。

しかし、仮に本件行政文書が公開され、あるいは公開を前提とする制度になると、自らの記した校長に対する提言・評価が公開されるという心理的圧迫から、教職員が校長の学校運営に対して批判的な提言や評価をすることを躊躇するといった事態が想起される。また反対に、教職員が校長の学校運営を積極的に支持し、評価する内容の場合には、見解の異なる他の教職員からの批判をおそれ、提出を躊躇するなど、本件行政文書を公開することが、いずれの場合にも、教職員に対する心理的圧力となると考えられる。

このように、教職員が本件行政文書に自由で率直に記載することを躊躇し、あるいは提出そのものを控えることになれば、本制度の趣旨であるシステムの双方向性の確保及び校長の学校運営の充実・改善に資するという目的を達することができなくなることから、本制度の運用に支障を来すことは明らかである。

以上のことから、本件行政文書に記録された情報については、公開することにより、今後、本件事務の目的が達成できなくなるおそれがあり、条例第8条第1項第4号に該当するものとして、非公開と決定したものである。

なお、平成16年度のシステムの実施状況を検証するにあたり、本件行政文書の状況についても検討する必要があったが、個々のシートの内容については公開できないことから、「本件行政文書の提出率」、「着眼点の状況」、「提言内容のまとめ」等、実施状況を検討するのに必要な情報として、その全体を類型化し集約したものについて、すでに平成16年8月5日付けで示しており、本制度の趣旨・目的と調和を図りつつ、情報を公開しているところである。

(3)異議申立人の主張に対して

ところで、異議申立人は、本件行政文書は、「校長を通じて教職員自らが教育行政に対する内部告発を明らかにする資料」であり、「大阪府情報公開条例の制度の理念」からすれば、「教育行政に対する内部告発を明らかにすることを率先して行わなければならない」と主張している。しかし、そのような主張は、異議申立人独自の認識又は見解に基づき主張するものであって、本件行政文書は先に述べた趣旨・目的の制度であり、異議申立人の主張は失当である。

また、異議申立人は、システムの「試行実施における教職員アンケートや校長アンケートについては開示が既に行われて」おり、「本件行政文書のみ開示しないということはあってはならない」と主張している。

この前段については、平成16年度において実施機関に対してなされた行政文書公開請求に対し、実施機関が平成16年2月に実施した「『システム(試行実施)に関するアンケート調査』の調査票(市町村教育委員会分)」、「『システム(試行実施)に関するアンケート調査』の調査票(府立学校長分)」、及び「『システム』試行実施に関する教職員へのアンケート調査のアンケート用紙及びマークシート」について、「市町村名」、「所属校」、「校長名」及びこれらを特定しうる情報並びに教職員のマークシートのうち「校種」、「職種」を除き、公開を決定したことをいうものと推測される。

試行実施における校長や教職員に対するアンケートは、システムの本格的な実施に向けて、平成14・15年度の試行の成果と課題を明らかにする目的で実施したアンケートであり、「試行実施のまとめ」の中でそれらの集計結果とともに校長や市町村教育委員会からの主な意見も紹介し、これらの集計結果や意見等を踏まえ、必要な制度改善等を行った上で、平成16年度からシステム実施規則を制定し、本格的な実施に至ったものである。

従って、これらのアンケートについては、システムという人事管理制度を設計する段階で、試行実施の成果と課題を明らかにし、本格的な実施に至るための制度改善をする目的で意見を求めたもので、人事管理に関する行政文書とは異なるものである。このため、当該行政文書に記録された情報のうち、「所属校」「校長名」等提出者を特定し得る情報等を除いた部分については、「公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」ではないため、公開したものである。

従って、これらのアンケートについて、その部分公開を決定したからといって、本件行政文書も公開しなければならないというものではない。

3 結論

以上のとおり、本件処分は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法又は不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人・法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 本件行政文書について

実施機関は、教職員の意欲と資質能力を高め、教育活動をはじめとする学校の様々な活動を充実し、学校を活性化する方策として、教職員の自己申告による個人目標の設定(自己申告票の作成)や上司との面談等を内容とするシステムを実施している。

本件行政文書は、実施機関が、システムの一環として、教職員に対し校長の学校運営に関する提言等を提出させている「校長への提言シート」のうち、平成16年度の府立学校分であり、その記載内容は、以下のとおりである。

(1)記入者に関する部分等

学校名、記入者名及び提出月日が記載されている。

(2)校長の評価

教職員が校長のリーダーシップや指導力、責任感、コミュニケーション力等について「そう思う」「どちらとも言えない」「そう思わない」のいずれかに○を付け、3段階で評価するものである。

(3)自由記述欄

校長の学校運営についての提言等が自筆で自由に記述されている。

また、平成16年度において、自己申告票の提出率が、府立学校で92.2%、市町村立学校で94.2%であるのに対し、「校長への提言シート」の提出率は、市町村立学校で26.2%、府立学校で5.5%にとどまっている。

3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

実施機関は、本件行政文書に記録された情報について、条例第8条第1項第4号に該当すると主張するので、以下この点について検討する。

(1)条例第8条第1項第4号について

行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。

このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが条例第8条第1項第4号の趣旨である。

同号は、

  • ア 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、
  • イ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

は、公開しないことができる旨を定めている。

(2)条例第8条第1項第4号該当性について

本件行政文書に記載されている情報が上記(1)ア、イの要件に該当するかどうかについて検討したところ、以下のとおりである。

本件行政文書は、教職員の評価・育成に関するシステムの一環として、教職員が校長への提言等を記載して提出したシートであり、実施機関において校長の評価を行うための資料でもあることから、本件行政文書に記載されている情報は、「府の機関又は国等の機関が行う人事管理等の事務に関する情報」として、(1)アの要件に該当する。

次に、本件行政文書に記録された情報が(1)イの要件に該当するか否かを検討するに、審査会において、本件行政文書を見分したところによれば、自由記述欄には、「人事・校内体制」、「校長と教職員との関係」、「教育環境・施設整備の改善」、「授業の充実・改善」等についての提言・意見・要望などが具体的かつ詳細に記載されていることが認められる。また、本件行政文書は、人事評価に係るシステムの一環として個々の教職員が提出する文書であり、審査会において確認した教職員向けの手引書の内容からみても、多くの教職員は、その内容がそのまま府民や同僚教員に公開されることを全く想定していないと考えられる。

このような事情のもとで、本件行政文書の自由記述欄に記録されている提言等の具体的な内容が公になると、教職員の実施機関に対する信頼を大きく裏切ることとなり、今後のシステムの実施に当たり、教職員が同僚教員や保護者等に内容を知られることを慮って、校長への提言シートに提言等を自由・率直に記載することを躊躇し、あるいは提出そのものを控えることになるおそれがある。教職員に自由・率直に提言させ、校長の学校運営の改善・充実に資するという校長への提言シートに係る事務の目的を達成することができなくなるとともに、今後とも、実施機関が行う校長の評価に係る事務の実施に当たって必要な情報が得られず、その公正かつ適切な実施に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められ、本件行政文書に記録されている情報は、(1)イの要件にも該当する。

なお、条例は、第10条第1項において、行政文書に条例第8条第1項各号又は第9条各号に該当し公開しないこととされる部分を「容易に、かつ、公開請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは、その部分を除いて、当該行政文書を公開しなければならない。」旨定めている。

これを本件行政文書について検討するに、上記2(1)の記入者に関する部分等のうち「学校名」、「記入者の氏名」については、異議申立人が公開を求めていないし、「提出日」については、当該情報のみでは単なる日付の羅列にすぎず、本件請求の趣旨をなんら満たすことにはならない。また、上記2(2)の校長の評価欄については、その集計結果が既に公表されていることからすると、当該部分のみを公開したとしても本件請求の趣旨を何ら満たすことにはならない。さらに、上記2(3)の自由記述欄に記録された情報については、同僚教員や保護者等からも当該教職員又は所属する学校が特定されないようにすると、断片的な情報のみが残ることとなって、部分公開にはなじまないと認められた。

以上のことから、本件行政文書に記録されている情報は、その全部について、条例第8条第1項第4号の規定に基づき、公開しないことができると認められる。

(3)異議申立人の主張について

異議申立人は、学校における職員会議の議事録が個人情報を除き部分公開されていることや、システムの試行実施における教職員アンケートや校長アンケートについて開示が行われていることから、本件行政文書についても開示すべきである旨主張するが、職員会議の議事録は、公的な会議の議事内容をまとめたもので、会議に出席した同僚教員もその内容を把握しているものであり、システムの試行実施におけるアンケートの調査票は、制度としてのシステムのあり方についての意見を記入するものである。いずれも個々の教職員が、勤務校の校長の学校運営についての提言等を記入し、直接校長に提出する本件行政文書とは事情が異なるから、この点についての異議申立人の主張は採用することができない。

さらに、異議申立人は、府立学校の学校長の自己申告票の非公開決定に係る異議申立に関する当審査会の答申事例を紹介しつつ、本件行政文書は個人情報を除いて部分公開すべきであると主張するが、異議申立人が指摘する当審査会の答申は、学校経営の責任者である校長自らが、「中期的な学校経営のビジョン」等の項目について記載した自己申告票の事例であり、一般の教職員が校長の学校運営に関する個人的な提言等を記入した本件行政文書とは、事情が異なるものである。当該答申の考え方を本件行政文書にあてはめることは適当でなく、この点についての異議申立人の主張もまた採用することができない。

4 本件行政文書に記録されている教職員の提言等に関する情報の取扱いについて

本件決定の適否についての審査会の判断は、以上のとおりであるが、本件行政文書に記録されている教職員の提言等に関する情報の取扱いについての要望を付け加える。

本件行政文書は、教職員が校長の学校運営に対する提言等を記載し、校長を通じて実施機関に提出した文書であり、直接的には、校長が、自らの学校運営のあり方を考えるための参考資料にするとともに、教育長による校長の評価に係る面談の参考資料とされるものであって、行政文書公開制度において、これを公開することができないのは、上述したとおりである。

一方、現在、地域住民や民間人の参画など従来の校長や教職員を中心とする学校運営のあり方が問われていることからすると、本件行政文書に記録されているような校長による学校運営に対する教職員の意識に関する情報については、可能な限り、府民に公開されることが望ましいと考えられる。

このような観点から、本件行政文書に関する情報の実施機関における取扱いをみると、本件行政文書に関する情報で何らかの形で公開されているのは、その提出率や校長に対する評価の集計結果、提言等の内容の概括的な区分ごとの集計結果のみであり、提言等の具体的内容にわたる情報は公開されていない。

審査会としては、条例の前文及び第1条において明らかにされている府民参加の府政を推進するため、実施機関においては、本件行政文書に記録されている教職員の提言等の内容に関し、代表例を整理したり、内容を分析した資料を作成するなど、より詳しい情報の公開ができる方法について検討されるよう期待するものである。

5 結論

以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

主に調査審議を行った委員の氏名

塚本美彌子、福井逸治、小松茂久、鈴木秀美

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