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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第131号)
(答申第131号)府立高等学校教育後援会会計決算報告等不存在事案
(答申日 平成18年11月30日)
1 公開請求された行政文書(公開請求書の記載)
大阪府立高津高等学校教育後援会の平成14年度から平成17年度までの下記に関する文書
- (ア)会計決算報告に関する文書
- (イ)会計監査の結果を報告した文書
2 実施機関の決定
(1)実施機関
大阪府教育委員会(担当課:高津高等学校、財務課)
(2)決定内容
不存在による非公開決定
(理由)
当該文書は、高津高等学校の教育後援会が保有している文書であり、当該実施機関の職員が職務上作成し、又は取得したものではないため、当該職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているものではない。
3 異議申立て
(1)申立ての趣旨
本件決定を取り消し、全ての対象文書の公開を求める。
(2)理由(要旨)
- ア 大阪府立高津高校教育後援会(以下「本件後援会」という。)は、高津高校がPTAに呼びかけて平成12年4月1日に設立されたものである。その目的は「大阪府立高津高等学校在校生の教育活動の振興充実に必要な援助を行うことを目的とする」とされ、構成については、「大阪府立高津高等学校PTAの会員で、かつ、本会の趣旨に賛同する者により構成し、運営する」とされている。本件後援会の役員はPTA役員が兼務するとされ、会計監査についてもPTA規程に準ずるものとし、PTAの会計監査委員が兼務して行うとされている。以上のような本件後援会の規程のあり方からして、その会計処理は、PTA会費とほぼ同一の会計処理が行われていると考えられる。
- イ 実施機関は、平成18年4月「学校徴収金等取扱マニュアル」を定め、その中でPTAの活動経費として徴収される団体徴収金について、「府立学校の現状は、学校の教育活動とPTAの教育活動の円滑化に資するよう、PTAは学校長に会計処理を委任している」としている。本件後援会費の目的はPTA会費の目的と共通のものがあり、会計処理は、PTA会費とほぼ同一の会計処理が行われていると考えられることから、本件後援会費の会計処理は、学校長に委任されていると見るべきであり、会計決算報告に関する文書および会計監査の結果を報告した文書は、高津高校のPTA会計担当者が作成していると考えられる。また高津高校におけるPTA会計担当者がかかる文書を作成する場合、その作成名義は本件後援会になっていると考えられるが、PTA会計処理担当者は、その会計処理の一環として、かかる決算に関する文書を、当然に取得し管理していると考えられる。しかもこの文書の作成もしくは取得は、高津高校が、その組織上、校長が本件後援会費の会計処理を受任したことによるものであるから、当該文書を組織的に用いるものとして保管していることは明らかである。よって当該文書が、開示の対象たる公文書にあたることは明らかである。
4 大阪府情報公開審査会の答申
(1)審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
(2)理由(要旨)
ア 本件後援会について
本件後援会は、高津高校PTAの会員で、かつ、本件後援会の趣旨に賛同する者によって構成され、独自の規程と役員をもつ任意団体である。高津高校在校生の教育活動の振興充実に必要な援助を行うことを目的として設立されており、合格者説明会の際に会員の募集が行われ、役員がPTAの役員の兼務とされ、会計報告がPTA総会の際に行われるなど、高津高校の教育活動やPTAと密接な関係にある団体であるが、経費は、独自に募集したPTA会員有志からの寄付金等で賄われており、公費からの支出はない。
また、本件後援会の会計事務は、校長に処理を依頼しており、校長の指示を受けた高津高校の職員が、事務長、教頭及び校長の承認を得るとともに、定期的に、本件後援会の会計担当役員の確認を受けるという形で処理されているが、これら学校職員の関与は、学校の教育活動と密接な関係にある本件後援会の業務への協力として行われているものであり、実施機関においては、職務外の行為として位置づけられている。
なお、実施機関においては、「学校徴収金及び団体徴収金等の会計基準」(昭和58年4月1日付け教委財第3号)において、団体徴収金の会計処理について定めているが、同基準が適用される団体徴収金は、現在のところ、PTA会計(定時制課程の後援会会計を含む。)と学校安全互助会会計だけであり、本件後援会には、適用されていない。
イ 条例第2条第1項について
行政文書公開請求の対象となる「行政文書」の定義については、条例第2条第1項に「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真又はスライド並びに電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」をいう旨規定されている。
「職務上」とは、実施機関の職員が、法令、条例、規則、規程、訓令、通達等により、与えられた任務又は権限を、その範囲内において処理することをいう。
「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関の職員が管理しているもの」とは、作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該実施機関の組織において、業務上必要なものとして利用又は保存されている状態のものを意味する。
ウ 本件請求に係る会計決算報告等の行政文書該当性について
本件請求に係る会計決算報告等(以下「本件決算報告等」という。)は、毎年度、会計担当役員が作成し、会計監査委員の監査を経て、PTA総会の日に会員に報告し、承認を受けているものである。その作成には、高津高校の職員が関与していることが認められるが、(1)で述べたところからすれば、本件後援会の業務への協力として関与しているのであり、実施機関の職員として、法令、条例、規則、規程、訓令、通達等により与えられた任務の遂行又は権限の行使として、関与しているものではない。
以上のことからすると、本件決算報告等は、(2)で述べたところに照らし、実施機関の職員が、「職務上」作成したものとは認められない。
また、本件決算報告等は、PTA総会の日に、会員に報告し、承認を受けているものであることから、校長をはじめ会員である多数の学校職員が資料として受け取っていると考えられ、これらの資料を、学校において組織的に取得し、管理している場合は、「取得した文書」として、「行政文書」に該当することとなる余地があるが、いずれも、会員個人として受け取っているものであり、学校として組織的に保存、管理されているものは、確認されなかった。
以上のことから、本件決算報告等は、本件後援会が管理する文書としては存在するが、実施機関が管理する条例第2条第1項の「行政文書」としては存在しないと言わざるを得ず、本件決定は妥当であったと認められる。
しかしながら、本件後援会は、高津高校における教育活動の振興充実に重要な役割を果たしている団体であり、その経費は保護者からの寄付金という公共性の高い資金で賄われている。その運営においても、PTAと表裏一体であり、学校職員も会計事務の処理に関与している。このような学校の教育活動と密接な関係にある団体については、団体としての会員に対する説明責任とともに、学校としても一定の説明責任があると言うべきである。実施機関においては、事務室で預かっている団体の文書で必要な情報が把握できるから十分とするのではなく、年度毎の事業報告や会計決算報告、学校の教育活動への助成実績などといった基本的な情報について、当該団体に資料の提供を求めたり、学校で資料を作成するなど実施機関の行政文書としても保有することが望まれる。
また、実施機関の説明によれば、本件後援会の会計事務に関する文書は、一定期間、学校の事務室内で保管されているが、今後は、本件後援会の事務局が置かれているPTA室内で管理するなど、実施機関の行政文書と本件後援会の文書とを峻別した文書管理の徹底を図られるよう望むものである。
大阪府情報公開審査会答申(全文)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 異議申立人は、平成18年3月31日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、次の行政文書の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
大阪府立高津高等学校教育後援会の平成14年度から平成17年度までの下記に関する文書- ア 会計決算報告に関する文書
- イ 会計監査の結果を報告した文書
- 実施機関は、同年4月14日、本件請求に対して、不存在による非公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、理由を次のとおり付して異議申立人に通知した。
(公開請求に係る行政文書を管理していない理由)
当該文書は、高津高等学校の教育後援会が保有している文書であり、当該実施機関の職員が職務上作成し、又は取得したものではないため、当該職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているものではない。 - 異議申立人は、同年6月9日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定を取り消し、全ての対象文書の公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は概ね以下のとおりである。
1 異議申立書における主張
本件において公開を求めた文書は、大阪府立高津高等学校教育後援会の平成14年度から平成17年度までの「会計決算報告に関する文書」および「会計監査の結果を報告した文書」であるが、本件決定は、「当該文書は、高津高等学校の教育後援会が保有している文書であり、当該実施機関の職員が職務上作成し、又は取得したものではないため、当該職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているものではない」との理由で、非公開としたものである。
しかしながら上記理由は、以下のとおり、当該文書の管理状況を誤って評価したものであり、当該文書が、当該実施機関の職員が職務上作成し、又は取得し、組織的に用いるものとして管理していることは明らかである。
(1)本件後援会と学校の関係について
大阪府立高津高校教育後援会(以下「本件後援会」という。)の設立目的やその規程のあり方に鑑みれば、本件後援会と大阪府立高津高等学校(以下「高津高校」という。)との関係は、PTAと高津高校の関係に準ずるものである。
ア 設立の目的と構成
本件後援会は、高津高校がPTAに呼びかけて平成12年4月1日に設立されたものである。本件後援会の規程によれば、その目的は「大阪府立高津高等学校在校生の教育活動の振興充実に必要な援助を行うことを目的とする」(規程第2条)とされ、構成については、「後援会は、大阪府立高津高等学校PTAの会員で、かつ、本会の趣旨に賛同する者により構成し、運営する」(規程第3条)とされている。
そして本件後援会のホームページによれば、「高津高校教育後援会は、高津生の学力アップ・進路目標実現に向け、より良い教育環境を整備するために活動しています。ご寄付いただいた会費は、下記活動の支援に使われています」として「土曜自習室」「校内外部模試」「土曜質問会」「ECCリスニングチャレンジ」「河合塾センターチャレンジ」などの民間教育機関との連携を含む教育活動が挙げられている。また毎年、合格者説明会の際に配布される保護者向けの「PTA教育後援会へのご支援について(お願い)」と題する文書においても、「土曜自習室へのサポーターや模試の監督者への謝礼、センターチャレンジやリスニングチャレンジなどへの支出は、教育後援会が負担しています。本来ならば受益者負担とすべきものですが、自分の子どもだけでなく、保護者全体で高津生全員を支援し、全員の学力向上を図るためにも、教育後援会の力が必要となってきます」とされ、「ご寄付は、これから高津高校で自己実現を図っていかれるお子様の教育活動に100%還元されるものです」と説明されている。そして会費は、平成17年度までに1口5000円として、2口1万円以上の寄付が募られていたが、平成18年度からは、1口1万円に増額されている。
このように教育後援会費は、高津高校の教育活動において、本来受益者負担とすべきものを、保護者全体で支援し学力向上を図ることを目的として集められるものである。
このような本件後援会の設立の経緯や目的から、当然のごとく、事務局は「大阪府立高津高校内に置く」(規程第1条)とされ、本件後援会のホームページにおいても、入会の方法について「ご支援いただける方は高津高等学校事務室までご連絡下さい」とされている。
そして、入会と寄付はあくまでも任意のものとされているが、実際には、毎年合格者説明会の際に、一斉に加入申込書が保護者に配布され、その場で入会受付が行われていることから、9割近い生徒の保護者が本件後援会に加入していると推察される。このような本件後援会が行う学校教育への支援活動は、PTAにおける学校教育への支援活動と共通のものがある。
イ 組織体制と会計処理
本件後援会の役員は、PTA役員が兼務する(規程第4条)とされ、総会もPTA決算総会の日とされ、総会において前年度の事業報告及び会計決算報告をするものとされている(規程第6条第3項)。そして会計監査についても、PTA規程に準ずるものとし、PTAの会計監査委員が兼務して行うとされている。
以上のような本件後援会の規程のあり方からして、その会計処理は、PTA会費とほぼ同一の会計処理が行われていると考えられる。
(2)PTAの会計処理原則
実施機関は、平成18年4月「学校徴収金等取扱マニュアル」を定め、その中で「学校徴収金等とは、学校の教育活動上必要となる費用のなかで、受益者負担の考え方に基づき学校が統一的に処理するために徴収する経費」と位置づけ、この「学校徴収金等」のなかに、学校が徴収する「学校徴収金」とPTAの活動経費として徴収される「団体徴収金」を含めている。
そして前記マニュアルにおいては「これらの私費が学校徴収金等として生徒・保護者から徴収され、税金等の収入によって賄われる公費とともに学校教育活動を支えており、公費と私費は学校教育の中においてそれぞれの役割を果たしています。こうした学校徴収金等は、学校教育活動に必要な経費としての公共性を有するとともに、その管理と取扱いを保護者が包括的に校長に信託している経費であることから、校長は、公費に準じた適正な会計処理を行い、保護者に対して十分な説明及び報告を行う必要があります」とされている。そしてPTAの団体徴収金に関して前記マニュアルは、「府立学校の現状は、学校の教育活動とPTAの教育活動の円滑化に資するよう、PTAは学校長に会計処理を委任している」としている。
本件後援会費は、PTA会費と異なり、任意の寄付という形をとっているものの、前述のとおりその目的は、PTA会費の目的と共通のものがあり、しかも9割近い保護者において寄付を行っている現状からして、前述の「学校教育活動に必要な経費としての公共性」と「管理と取扱いを保護者が包括的に校長に信託している」という性質も、PTA会費と共通のものがあると考えるべきである。
以上により本件後援会費についても、「校長は、公費に準じた適正な会計処理を行い、保護者に対して十分な説明及び報告を行う必要があります」と言うべきである。この点からも、本件後援会費の会計処理は、PTA会費とほぼ同一の会計処理が行われるべきであるし、現に行われていると考えられる。
(3)当該文書の管理状況
以上のとおり、本件後援会費についても、PTA会費とほぼ同一の会計処理が行われていると考えられることから、本件後援会費の会計処理は、学校長に委任されていると見るべきである。しかるところ、本件において公開を求めた文書は、会計決算報告に関する文書および会計監査の結果を報告した文書であるから、かかる文書は、学校長が本件後援会費の会計処理を行うに当たって当然に、高津高校におけるPTA会計担当者が作成していると考えられる。
また高津高校におけるPTA会計担当者がかかる文書を作成する場合、その作成名義は、本件後援会の名義になっていると考えられるが、PTA会計処理担当者は、その会計処理の一環として、かかる決算に関する文書を、当然に取得し管理していると考えられる。
しかもこの文書の作成もしくは取得は、高津高校が、その組織上、校長が本件後援会費の会計処理を受任したことによるものであるから、当該文書を組織的に用いるものとして保管していることは明らかである。
よって当該文書が、開示の対象たる公文書にあたることは明らかである。
2 反論書及び反論補充書における主張
(1)実施機関の主張する不存在理由の不当性
実施機関は、本件請求文書について、校長が本件後援会の依頼を受けて、学校職員に作成を行わせ、校長が保管していることを認めている。にもかかわらず、本件請求文書を不存在とする理由は、
- ア 本件請求文書が本件後援会に帰属していること
- イ 本件後援会の会計事務処理について、本件後援会からの指示を受け、校長及び学校職員の本来の職務と切り離して行っていること
の2点である。
しかしながら、いずれも不存在を根拠づけるものにはならない。
ア 本件請求文書が本件後援会に帰属しているとの理由について
行政文書とは、条例第2条によれば、当該実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書等であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているものとされている。当該実施機関が、職務上作成したものであれば、その所有権を取得したものでなくても、当該実施機関が組織的に用いるものとして管理している限り、行政文書にあたる。従って、本件行政文書の所有権が本件後援会に帰属していることは、行政文書とすることについての何らの障害にならない。
本件は、校長が本件請求文書を保管していることを認めている事案であるが、判例は、実施機関に所有権が帰属せず、しかも実施機関が保管していない書類についても、条例にいう行政文書にあたるとしている。すなわち、さいたま地裁は、岩槻市が出資して設立した第3セクター会社から市に提出された「会社再建計画書」(以下「再建計画書」という。)について、同市民が情報公開条例に基づき市に対して公開を認めた事案について、平成16年6月30日、市は当該請求時において、再建計画書を所持していなかったとしても、速やかに上記会社に再建計画書の提出を求め、原告に公開すべきであったとして、市民の請求を認容した。このように市に所有権が帰属していない第3セクターの文書であっても、市に再建計画書の提出を求める権限のある限り、行政文書に該当するとしている。
このように実施機関が保管していない文書であっても、行政文書とされることがあるのであって、況や、実施機関が保管している文書については、その所有権が実施機関に帰属していなくても、実施機関が職務上作成し、組織的に用いるものであれば、行政文書にあたることは明らかである。
イ 本件後援会の会計事務処理について、本来の職務と切り離して行っているとの理由について
実施機関は、「教育後援会の会計事務処理について、教育後援会からの指示を受け、校長及び学校職員が本来の職務と区別して行っている」などとしているが、具体的に本件請求文書の作成について、本件後援会からどのような指示を受け、どのように本来の職務と区別して行っているか、何ら具体的な説明は行っていない。
そもそも本件後援会の設立そのものが、高津高校によってお膳立てされたものであり、その運営は、加入の呼びかけ、会費の徴収・管理から、支出に至るまで、すべて高津高校によって行われているものであって、その具体的なプロセスにおいて、本件後援会独自の意思決定を及ぼしうる余地は存在しない。
実施機関は「教育後援会の基本的な方針である事業及び会計決算に関することは、総会で決定されており、それに基づいて教育後援会から依頼された範囲内の会計事務処理を校長が行っているに過ぎないのであって、校長の裁量の余地がなく、一方で支出にあたっては、会計担当役員の確認を定期的に受けている。」としている。しかしながら、本件後援会の基本的な方針である事業及び会計決算に関する実質的な決定は、高津高校においてすべて行っているのであって、本件後援会の総会での決定は、単なる追認であって、全く形骸化されたものに過ぎない。もちろん、本件後援会は、高津高校の校長・職員によって作成された本件請求文書について、その会計担当役員が最終的に確認する権限は有しているが、その権限も、日常の具体的な事務処理手続における関与が保障されていない限り、全く形骸化されたものに過ぎない。
このように本件後援会の会計事務処理について、本件後援会の具体的な指示など存在しないのであって、校長においても学校職員においても、本来の会計事務処理と本件後援会の会計事務処理との間に、その職務遂行上の実質的な差異は全く存在しない。ただ会計事務処理の結果、公費によって賄われる経費か、私費によって賄われる経費かの違いがあるだけである。
そもそも本件後援会の会計事務処理を職務外の行為とするのであれば、学校職員は、勤務時間中に職務外の行為を行っていることになる。すなわち学校職員は、本件後援会の会計事務処理を、地方公務員法第35条に定める職務専念義務に違反して行っているという奇妙な結果となる。到底このような結果が容認されるはずはないのであって、本件後援会の会計事務処理も高津高校の教育振興充実を目的してなされる教育活動のためのものであり、職務上のものであると解してこそ合理的な説明が可能になるのである。
この点においても、本件請求文書の作成を職務外の行為とする実施機関の主張が誤りであることは明らかである。
(3)総会による承認と本件文書との関係について
実施機関は、「最終的には、本件後援会は規約第6条3に基づき、会計担当役員が高津高校PTA決算総会の日に、前年度の事業報告及び会計決算報告を会員に対し行っていることからも、本件後援会の文書であることは明白である」と主張しているが、本件後援会が、事業報告及び会計決算報告を総会の承認事項にしているからといって、本件文書が行政文書でなくなるものでは全くない。
本件において公開を求めている文書は、「会計決算報告に関する文書」と「会計監査の結果を報告した文書」であるが、実施機関は、これら文書を、高津高校の学校職員が作成し、校長が預かっていることを認めている。そして本件後援会が、会計事務処理を校長に依頼するにあたっては、本件後援会費の支出の目的を「教育活動」に限定して支出することを校長に委ねているものであり、校長はその目的に限定して支出する責務と、その責務を果たしていることを本件後援会に報告する責務を負っているものである。校長が、本件後援会に対して負っているこのような責務は、高津高校が、その教育環境整備のため本件後援会に支援を仰ぐにあたって、当然に負うべき責務であり、高津高校の校長ならびに職員の本来の職務に含まれるものである。そして本件文書は、高津高校の校長ならびに職員が、かかる本来の職務を果たすために作成するものであるから、行政文書に該当することは明らかである。
(4)本件文書公開の必要性について
実施機関は、平成18年4月「学校徴収金等取扱マニュアル」を定め、その中で「・・・公費と私費は学校教育の中においてそれぞれの役割を果たしています。こうした学校徴収金等は、学校教育活動に必要な経費としての公共性を有するとともに、その管理と取扱いを保護者が包括的に校長に信託している経費であることから、校長は、公費に準じた適正な会計処理を行い、保護者に対して十分な説明及び報告を行なう必要があります」とされている。
そして実施機関は、本件後援会がPTAと同様に学校と深く関わりを有していること等からPTA会計を参考として、本件後援会の会計事務処理が行なわれていることを認めている。
このように本件後援会費は、PTA会費と同様、公費に準じた適正な会計処置が行われる必要があるところ、この会計処理の適正な遂行を監視する役割は、単に、本件後援会内部の自浄作用に期待することはできない。本件後援会は保護者で構成された組織であり、その組織内部から、校長や教職員の会計処理に対する疑念の声をあげることは極めて困難なことだからである。
また、今般、異議申立人が本件文書の公開を請求したのは、異議申立人に対して、高津高校の本件後援会費の支出に関して、本来の教育活動にあたらない支出が、教育活動の名目で支出が行われている疑いがあるとの情報が寄せられたためである。
本件後援会費の支出が、本来の教育活動に限定して適切に支出が行われているかどうかは、高津高校の校長の責務において調査されるべきことであり、校長がそのような責務を果たさない場合には、実施機関の責務において調査されるべきことである。しかるにそのような自主的な調査が行われないために、異議申立人は本件請求に及んだものである。結局のところ、本件文書の公開を求める理由は、高津高校の校長並びに職員が、前項において指摘した責務を適切に果たしているかどうかを明らかにすることにあり、情報公開の目的である「府政の公正な運営を確保」することにある。
本件後援会費の支出に関して、本来の教育活動にあたらない支出であるにもかかわらず、教育活動の名目において支出が行われているとの疑いが、万一、真実であるとすれば、本件後援会は、いわば被害者の立場に、そして高津高校は加害者の立場に立つものである。そして被害者は、加害者からの正確な情報を提供されない限り、誤りなき判断を下すことができない。
従って、本件後援会費の支出に関して、本来の教育活動にあたらない支出であるにもかかわらず、教育活動の名目において支出が行われていた場合には、そのような情報が本件後援会に提供されないまま、決算報告が行われ、その決算報告が総会で承認されたからといって、本件後援会費支出の違法性がなくなるものでは全くない。
そしてこのような違法な支出が行われていた場合に、それを正すべき第一義的責任は、高津高校の校長ならびに実施機関にあるのであって、本件後援会からの責任追及がなされないことで、校長や実施機関の責任が免罪されるものでは全くない。
このように本件で問題とされていることは、本件後援会費の会計事務処理を委託された校長が、本件後援会に対して負っている「適正な支出を担保すべき義務」である。そしてかかる義務は、高津高校の教育環境整備を図る目的で、本件後援会の支援を仰ぐに当たり、校長が、本件後援会に対して負っているものであるから、校長の本来の職務上における義務である。このような義務が公正に果たされているかどうかは、行政としての監督責任により明らかにされるべきことである。にもかかわらず、本件後援会の総会の承認を理由として、問題の解決を同窓会に委ねてしまうことは、本件後援会の自治に名を借りて、公正な府政を実現しようとする情報公開制度の趣旨を没却する結果になりかねない。
以上のとおり、本件請求が認められるべき必要性には、極めて高いものがある。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね以下のとおりである。
1 本件後援会と学校の関係について
本件後援会は、高津高校在校生の教育活動の振興充実に必要な援助を行うことを目的とし、平成12年4月1日に設立されたものである。
本件後援会は、在校生の学力向上や進路目標実現に向け、より良い教育環境を整備するため活動を行っている。具体の取組としては、卒業生が学習サポーターとして在校生の学力向上のためアドバイスを行う「土曜自習室」、定期考査直前に在校生の質問に答える「土曜質問会」、在校生が自己の実力を知るための「校内外部模試」の他、民間教育機関との連携を含む教育活動等を実施している。この他に、クラブ活動に対する支援活動も行っている。これらの活動を行うため、本件後援会の規程において、「後援会は、高津高校PTAの会員で、かつ、会の趣旨に賛同する者により構成し、その事業を運営する。」と定め、有志による運営を行っている。
本件後援会は、在校生の教育活動の振興充実に必要な活動の範囲を総会や役員会で決定するが、その実践にあたっては本件後援会としても学校現場の協力が必要なことから、「役員会は、本会の運営に当たって、必要に応じて学校側と相談するものとする。」と位置付ける一方で、学校としても、校務に密接な関わりがあることから、本務に支障のない範囲内で、その活動に対し協力を行っているところである。その一例として、学校内に本件後援会の事務局の設置を認めるともに、本件後援会の事業の連絡受付について、PTAのホームページにも「ご支援いただける方は、高津高校事務室までご連絡ください。」との記載を認める等の便宜を図っている。
しかし、団体の性格としては、本件後援会が、上記目的を達成するために設立されたものであり、規程及び役員を有する任意団体(権利能力のない社団)である。
2 本件後援会の事務処理について
本件後援会の規程では、「本件後援会の役員は、高津高校PTA役員が兼務する。」とし、会議、会計年度、会計監査等に関する事項についても、PTA規程を参考として作られている。
各学校に設立されているPTAは、保護者、教職員が協力し、学校と家庭における教育の理解、進行に努め、地域における教育環境の改善を図る組織であり、社会教育関係団体として、その活動は、学校と密接な関係にある。そこで、校務との区別を明らかにする必要があることから、国の通知に基づき、各PTAでは団体規約を定め、目的や役員体制等を明確にしている。
本来、任意団体の会計事務はその団体の会計担当役員が行うものであるが、学校と密接な関係にあることを踏まえ、大阪府教育委員会では、「学校徴収金等取扱マニュアル」の中で、各学校に共通する主な会計の処理方法について基本的な指針を示しているところである。
本件後援会の目的は、後方から学校を支援する保護者集団であり、PTAと同様に学校と深く関わりを有していることに加え、本件後援会の会計事務が継続的に発生するものであるため、PTA会計を参考として、本件後援会の会計事務処理を校長に依頼し、校長の指示に基づき学校職員が本来の職務外で事務を行っている。現状として、学校では日常的に校務で収入・支出に係る事務が発生していることから、金融機関における手続き等の支出事務処理を本来業務に併せて行っているが、あくまで、職務外の事務として勤務時間外に行っているものである。
なお、本件後援会の基本的な方針である事業及び会計決算に関することは、総会で決定されており、それに基づいて本件後援会から依頼された範囲内での会計事務処理を校長が行っているに過ぎないので、校長に裁量の余地がなく、支出にあたっては、会計担当役員の確認を定期的に受けている。最終的には、本件後援会は規約第6条3に基づき、会計担当役員が高津高校PTA決算総会の日に、前年度の事業報告及び会計決算報告を会員に対し行っていることからも、本件後援会の文書であることは明白である。
3 本件行政文書の不存在理由
本件後援会の依頼を受けて学校長が作成した会計に関する文書等は、依頼者である本件後援会に帰属している。したがって、学校職員は本件後援会の会計事務処理をし、当該文書を校長が預かっているところであるが、本件後援会の会計事務処理については、本件後援会からの指示を受け、校長及び学校職員が本来の職務とは区分して行っているものであることから、本件請求文書については、学校職員が職務上作成し、又は取得したもので、当該職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理している行政文書ではない。
なお、異議申立人は「教育後援会と高津高校との関係は、PTAと高津高校の関係に準ずるものである。」ことを理由に、本件後援会の会計に関する文書が開示の対象たる公文書にあたる旨主張しているが、実施機関はこれまでも府立高等学校PTA関係文書の公開請求事案について、本件処分と同様に行政文書の不存在を理由として非公開決定している。
4 結論
以上、本件処分は、条例に基づき適正に行われたものであり、何ら違法・不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない?
2 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
(1)本件後援会について
実施機関の説明並びに異議申立人及び実施機関が提出した資料等により、以下のことが認められる。
本件後援会は、高津高校PTAの会員で、かつ、本件後援会の趣旨に賛同する者によって構成され、独自の規程と役員をもつ任意団体である。高津高校在校生の教育活動の振興充実に必要な援助を行うことを目的として設立されており、合格者説明会の際に会員の募集が行われ、役員がPTAの役員の兼務とされ、会計報告がPTA総会の際に行われるなど、高津高校の教育活動やPTAと密接な関係にある団体であるが、経費は、独自に募集したPTA会員有志からの寄付金等で賄われており、公費からの支出はない。
また、本件後援会の会計事務は、校長に処理を依頼しており、校長の指示を受けた高津高校の職員が、事務長、教頭及び校長の承認を得るとともに、定期的に、本件後援会の会計担当役員の確認を受けるという形で処理されているが、これら学校職員の関与は、学校の教育活動と密接な関係にある本件後援会の業務への協力として行われているものであり、実施機関においては、職務外の行為として位置づけられている。
なお、実施機関においては、「学校徴収金及び団体徴収金等の会計基準」(昭和58年4月1日付け教委財第3号)において、団体徴収金の会計処理について定めているが、同基準が適用される団体徴収金は、現在のところ、PTA会計(定時制課程の後援会会計を含む。)と学校安全互助会会計だけであり、本件後援会には、適用されていない。
(2)条例第2条第1項について
行政文書公開請求の対象となる「行政文書」の定義については、条例第2条第1項に「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真又はスライド並びに電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」をいう旨規定されている。
「職務上」とは、実施機関の職員が、法令、条例、規則、規程、訓令、通達等により、与えられた任務又は権限を、その範囲内において処理することをいう。
「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関の職員が管理しているもの」とは、作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該実施機関の組織において、業務上必要なものとして利用又は保存されている状態のものを意味する。
(3)本件請求に係る会計決算報告等の行政文書該当性について
本件請求に係る会計決算報告等(以下「本件決算報告等」という。)は、毎年度、会計担当役員が作成し、会計監査委員の監査を経て、PTA総会の日に会員に報告し、承認を受けているものである。その作成には、高津高校の職員が関与していることが認められるが、(1)で述べたところからすれば、本件後援会の業務への協力として関与しているのであり、実施機関の職員として、法令、条例、規則、規程、訓令、通達等により与えられた任務の遂行又は権限の行使として、関与しているものではない。
以上のことからすると、本件決算報告等は、(2)で述べたところに照らし、実施機関の職員が、「職務上」作成したものとは認められない。
また、本件決算報告等は、PTA総会の日に、会員に報告し、承認を受けているものであることから、校長をはじめ会員である多数の学校職員が資料として受け取っていると考えられ、これらの資料を、学校において組織的に取得し、管理している場合は、「取得した文書」として、「行政文書」に該当することとなる余地があるが、いずれも、会員個人として受け取っているものであり、学校として組織的に保存、管理されているものは、確認されなかった。
以上のことから、本件決算報告等は、本件後援会が管理する文書としては存在するが、実施機関が管理する条例第2条第1項の「行政文書」としては存在しないと言わざるを得ず、本件決定は妥当であったと認められる。
しかしながら、本件後援会は、高津高校における教育活動の振興充実に重要な役割を果たしている団体であり、その経費は保護者からの寄付金という公共性の高い資金で賄われている。その運営においても、PTAと表裏一体であり、学校職員も会計事務の処理に関与している。このような学校の教育活動と密接な関係にある団体については、団体としての会員に対する説明責任とともに、学校としても一定の説明責任があると言うべきである。実施機関においては、事務室で預かっている団体の文書で必要な情報が把握できるから十分とするのではなく、年度毎の事業報告や会計決算報告、学校の教育活動への助成実績などといった基本的な情報について、当該団体に資料の提供を求めたり、学校で資料を作成するなど実施機関の行政文書としても保有することが望まれる。
また、実施機関の説明によれば、本件後援会の会計事務に関する文書は、一定期間、学校の事務室内で保管されているが、今後は、本件後援会の事務局が置かれているPTA室内で管理するなど、実施機関の行政文書と本件後援会の文書とを峻別した文書管理の徹底を図られるよう望むものである。
(4)異議申立人の主張について
異議申立人は、本件決算報告等の作成若しくは取得は、校長が本件後援会費の会計処理を受任したことによるものであるから、当該文書を組織的に用いるものとして保管していることは明らかであると主張している。また、さいたま地裁の裁判事例を引用しつつ、「実施機関が保管していない文書であっても、行政文書とされることがあるのであって、況や、実施機関が保管している文書については、その所有権が実施機関に帰属していなくても、実施機関が職務上作成し、組織的に用いるものであれば、行政文書にあたる」と主張している。
しかしながら、本件決算報告等については、(3)で述べたとおり、実施機関の職員が「職務上」作成したものと言うことができないから、これらの主張は採用できない。
さらに、異議申立人は、本件後援会の会計事務処理を職務外の行為とするのであれば、学校職員は、勤務時間中に職務外の行為を行っていることになると主張しているが、条例に基づく公開請求の対象となる「行政文書」に該当するか否かは、条例第2条第1項に該当するか否かを、当該文書の作成又は取得並びに管理の状況に基づき判断するものである。
3 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
塚本美彌子、福井逸治、小松茂久、鈴木秀美