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更新日:2009年7月10日

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人権及び人権教育

指導等の在り方編

第1章 学校教育における人権教育の改善・充実の基本的考え方

1.人権及び人権教育

(1)人権とは

人権は、「人々が生存と自由を確保し、それぞれの幸福を追求する権利」と定義される(人権擁護推進審議会答申(平成11年))。また、基本計画は、人権を「人間の尊厳に基づいて各人が持っている固有の権利であり、社会を構成する全ての人々が個人としての生存と自由を確保し社会において幸福な生活を営むために欠かすことのできない権利」と説明している。

しかし、人権を一層身近で具体的な事柄に関連させてより明確に把握することが必要である。人権という言葉は「人」と「権利」という二つの言葉からなっている。人権とは、「人が生まれながらに持っている必要不可欠な様々な権利」を意味する。したがって、人権とは何かを明確に理解するには、人とはどのような存在なのか、権利とはどのような性質を持つのかなどについて、具体的に考えることが必要となる。

人権の内容には、人が生存するために不可欠な生命や身体の自由の保障、法の下の平等、衣食住の充足などに関わる諸権利が含まれている。また、人が幸せに生きる上で必要不可欠な思想や言論の自由、集会・結社の自由、教育を受ける権利、働く権利なども含まれている。

このような一つひとつの権利は、それぞれが固有の意義を持つと同時に、相互に不可分かつ相補的なものとして連なりあっている。このような諸権利がまとまった全一体を人権と呼ぶのである。したがって、個々の権利には固有の価値があり、どれもが大切であって優劣や軽重の差はありえない。ただし、今日、全国各地で児童生徒をめぐって生じている様々な事態にかんがみ、人間の生命はまさにかけがえのないものであり、これを尊重することは何よりも大切なことであることについて、改めて強調しておきたい。

人権を侵害することは、相手が誰であれ、決して許されることではない。全ての人は自分の持つ人としての尊厳と価値が尊重されることを要求して当然である。このことは同時に、誰であれ、他の人の尊厳や価値を尊重し、それを侵害してはならないという義務と責任とを負うことを意味することになるのである。

(2)人権教育とは

人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(平成12年法律第147号。以下「人権教育・啓発推進法」という。)では、人権教育とは、「人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動」((第2条)」をいうものとしている。この定義についても、より具体的にとらえることが必要である。

国連の「人権教育のための世界計画」行動計画では、人権教育について「知識の共有、技術の伝達、及び態度の形成を通じ、人権という普遍的文化を構築するために行う」ものとし、その要素として(a)知識及び技術-人権及び人権保護の仕組みを学び、日常生活で用いる技術を身に付けること、(b)価値、姿勢及び行動-価値を発展させ、人権擁護の姿勢及び行動を強化すること、(c)行動-人権を保護し促進する行動をとることが、含まれるものとしている。

これらを踏まえれば、人権教育の目的を達成するためには、まず、人権や人権擁護に関する基本的な知識を確実に学び、その内容と意義についての知的理解を徹底し、深化することが必要となる。また、人権が持つ価値や重要性を直感的に感受し、それを共感的に受けとめるような感性や感覚、すなわち人権感覚を育成することが併せて必要となる。さらに、こうした知的理解と人権感覚を基盤として、自分と他者との人権擁護を実践しようとする意識、意欲や態度を向上させること、そしてその意欲や態度を実際の行為に結びつける実践力や行動力を育成することが求められる。

(3)人権感覚とは

人権感覚とは、人権の価値やその重要性にかんがみ、人権が擁護され、実現されている状態を感知して、これを望ましいものと感じ、反対に、これが侵害されている状態を感知して、それを許せないとするような、価値志向的な感覚である。「価値志向的な感覚」とは、人間にとってきわめて重要な価値である人権が守られることを肯定し、侵害されることを否定するという意味において、まさに価値を志向し、価値に向かおうとする感覚であることを言ったものである。このような人権感覚が健全に働くとき、自他の人権が尊重されていることの「妥当性」を肯定し、逆にそれが侵害されることの「問題性」を認識して、人権侵害を解決せずにはいられないとする、いわゆる人権意識が芽生えてくる。つまり、価値志向的な人権感覚が知的認識とも結びついて、問題状況を変えようとする人権意識又は意欲や態度になり、自分の人権とともに他者の人権を守るような実践行動に連なると考えられるのである。

(4)人権教育を通じて育てたい資質・能力

このように見たとき、人権教育は、人権に関する知的理解と人権感覚の涵養を基盤として、意識、態度、実践的な行動力など様々な資質や能力を育成し、発展させることを目指す総合的な教育であることがわかる。

このような人権教育を通じて培われるべき資質・能力については、次の3つの側面((1)知識的側面、(2)価値的・態度的側面及び(3)技能的側面)から捉えることができる。

ア.知識的側面

この側面の資質・能力は、人権に関する知的理解に深く関わるものである。

人権教育により身に付けるべき知識は、自他の人権を尊重したり人権問題を解決したりする上で具体的に役立つ知識でもなければならない。例えば、自由、責任、正義、個人の尊厳、権利、義務などの諸概念についての知識、人権の歴史や現状についての知識、国内法や国際法等々に関する知識、自他の人権を擁護し人権侵害を予防したり解決したりするために必要な実践的知識等が含まれるであろう。このように多面的、具体的かつ実践的であるところにその特徴がある。

イ.価値的・態度的側面

この側面の資質・能力は、技能的側面の資質・能力と同様に、人権感覚に深く関わるものである。

人権教育が育成を目指す価値や態度には、人間の尊厳の尊重、自他の人権の尊重、多様性に対する肯定的評価、責任感、正義や自由の実現のために活動しようとする意欲などが含まれる。人権に関する知識や人権擁護に必要な諸技能を人権実現のための実践行動に結びつけるためには、このような価値や態度の育成が不可欠である。こうした価値や態度が育成されるとき、人権感覚が目覚めさせられ、高められることにつながる。

ウ.技能的側面

この側面の資質・能力は、価値的・態度的側面の資質・能力と同様に、人権感覚に深く関わるものである。

人権の本質やその重要性を客観的な知識として知るだけでは、必ずしも人権擁護の実践に十分であるとはいえない。人権に関わる事柄を認知的に捉えるだけではなく、その内容を直感的に感受し、共感的に受けとめ、それを内面化することが求められる。そのような受容や内面化のためには、様々な技能の助けが必要である。人権教育が育成を目指す技能には、コミュニケーション技能、合理的・分析的に思考する技能や偏見や差別を見きわめる技能、その他相違を認めて受容できるための諸技能、協力的・建設的に問題解決に取り組む技能、責任を負う技能などが含まれる。こうした諸技能が人権感覚を鋭敏にする。

(5)人権教育の成立基盤となる教育・学習環境

人権教育を進める際には、教育内容や方法の在り方とともに、教育・学習の場そのものの在り方がきわめて大きな意味を持つ。このことは、教育一般についてもいえるが、とりわけ人権教育では、これが行われる場における人間関係や全体としての雰囲気などが、重要な基盤をなすのである。

人権教育が効果を上げうるためには、まず、その教育・学習の場自体において、人権尊重が徹底し、人権尊重の精神がみなぎっている環境であることが求められる。
なお、人権教育は、教育を受けること自体が基本的人権であるという大原則の上に成り立つものであることも再認識しておきたい。

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