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更新日:2009年7月10日

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指導方法の在り方

3.指導方法の在り方

(1)人権教育における指導方法の基本原理

自分の人権を守り、他者の人権を守ろうとする意識・意欲・態度を促進するためには、人権に関する知的理解を深めるとともに、人権感覚を育成することが必要である。知的理解を深めるための指導を行う際にも、人権についての知識を単に一方的に教え込んだり、個々に学習させたりするだけでは十分でなく、児童生徒ができるだけ主体的に、他の児童生徒とも協力し合うような方法で学習に取り組めるよう工夫することが求められる。人権感覚を育成する基礎となる価値的・態度的側面や技能的側面の資質・能力に関しては、なおさらのこと、言葉で説明して教えるというような指導方法で育てることは到底できない。例えば、自分の人権を大切にし、他の人の人権も同じように大切にする、人権を弁護したり、自分とちがう考えや行動様式に対しても寛容であったり、それを尊重するといった価値・態度や、コミュニケーション技能、批判的な思考技能などのような技能は、ことばで教えることができるものではなく、児童生徒が自らの経験を通してはじめて学習できるものである。つまり、児童生徒が自ら主体的に、しかも学級の他の児童生徒たちとともに学習活動に参加し、協力的に活動し、体験することを通してはじめて身に付くといえる。民主的な価値、尊敬及び寛容の精神などは、それらの価値自体を尊重し、その促進を図ろうとする学習環境の中で、またその学習過程を通じて、はじめて有効に学習されるのである。したがって、このような能力や資質を育成するためには、児童生徒が自分で「感じ、考え、行動する」こと、つまり、自分自身の心と頭脳と体を使って、主体的、実践的に学習に取り組むことが不可欠なのである。
このように見たとき、人権教育の指導方法の基本原理として、児童生徒の「協力」、「参加」、「体験」を中核に置くことの意義が理解される。「協力」、「参加」、「体験」を中核とする学習形態には、それぞれ次のような特徴があると一般に考えられている。

  • (1)「協力的な学習」
    児童生徒が自分自身と学級集団の全員にとって有益となるような結果を求めて、協力しつつ共同で進める学習である。こうした協力的な学習は、生産的・建設的に活動する能力を促進させ、結果として学力の向上にも影響を与える。さらに、配慮的、支持的で責任感に満ちた人間関係を助長し、精神面・心理面での成長を促し、社会的技能や自尊感情を培う。
  • (2)「参加的な学習」
    学習の課題の発見や学習の内容の選択等も含む領域に、児童生徒が主体的に参加することを基本的要素とする。児童生徒は参加を通して、他者の意見を傾聴し、他者の痛みや苦しみを共感し、他者を尊重し、自分自身の決断と行為に対して責任を負うことなどの諸能力を発展させることができる。
  • (3)「体験的な学習」
    具体的な活動や体験を通して、問題を発見したり、その解決法を探究したりするなど、生活上必要な習慣や技能を身に付ける学習である。自らの心と頭脳と体とを働かせて、試行錯誤しつつ、身をもって学ぶことで、生きた知識や技能を身に付けることができる。

なお、「体験的な学習」に関しては、我が国の人権教育や人権啓発においても、「参加体験型学習」の名で、従来より普及してきたところであるが、特に人権感覚の育成の観点からも、体験的学習の本質に関する理解の深化が特に求められているといえよう。つまり、「体験すること」はそれ自体が目的なのではなく、いくつかの段階からなる学習サイクルの中に位置付くものである。個々の学習者における自己体験等から、他の学習者との協同作業としての「話し合い」、「反省」、「現実生活と関連させた思考」の段階を経て、それぞれの「自己の行動や態度への適用」へと進んでいくべきものである。こうした基本的視点を踏まえた活用が是非とも必要である。

指導方法に関わる上のような基本原理を踏まえ、以下に、児童生徒の「自主性」、「体験」、「発達段階等」という3点に焦点を置いた指導方法の考え方とその事例を提示しておきたい。

(2)児童生徒の自主性を尊重した指導方法の工夫

人権教育は、人権に関する知識の習得とともに、人権課題の解決を目指す主体的な態度、技能及び行動力を育てることを目的としている。このような指導を効果的に行うためには、児童生徒の自主性を尊重し、指導が一方的なものにならないよう留意することが必要であり、課題意識を持って自ら考え、主体的に判断するような力や、実践的に行動するような力を育成することが目指される。指導に際しては、児童生徒が受け身で終わるのではなく、自らの関心や意欲を高めつつ、能動的に活動を重ねながら学習を深めていけるようにすることが不可欠である。
例えば、学級・ホームルーム活動や児童会・生徒会活動等における主体的な取組を通じ、それぞれが異なる意見を持っていることに気付く経験や、自分達でルールをつくる経験などを積み重ねていくようにするなど、児童生徒の自主性を尊重した指導方法の工夫によって、多面的・多角的に考える力や合理的なものの見方・考え方を育てていくことが求められよう。

(3)「体験」を取り入れた指導方法の工夫

豊かな人間性や社会性を育むため、体験的な活動を多様に取り入れるなどの指導方法の工夫を行う必要がある。しかし、体験的な活動を取り入れ、実施するだけで、人権教育の目標が自ずと達成されるわけではない。児童生徒が自らの行動を変容させる要因や、児童生徒の内面における人権課題への自覚の深まりを意識した指導の構成が不可欠である。
例えば、様々な人々との交流活動や擬似体験活動などにより、人間関係を築く能力やコミュニケーションの技能、他の人の立場に立って考えられるような想像力を培うなど、児童生徒の実態等に応じて、創意工夫を凝らして取り組むことが望ましい。なお、体験的な活動等については、その取組を系統的に展開する、事前・事後指導を工夫するなどにより、単発的なものに終わらせることなく、学校における人権教育全体の中での意義を明確にしながら、その成果を効果的に活かしていくことが肝要である。また、児童生徒一人一人が活躍できるように配慮し、達成感を味わわせ、自立心を養うような工夫に努めることが求められる。

(4)児童生徒の発達段階等を踏まえた指導方法の工夫

学校において人権教育に取り組むに際しては、児童生徒が心身ともに成長過程にあることを十分に留意した上で、それぞれの発達段階に即した指導を展開することが重要である。

【参考】発達段階に即した人権教育の指導方法

1:幼児期

幼児期は、自他の認識や自意識は明確ではないが、他者の存在に気付く時期であり、遊びを中心にして友達との関わり合いの中で、社会性の原型ともいえるものを獲得していく。また、相手との情緒的な絆によって自分の存在に安心感を持つ傾向が認められる。幼児は、特定の友人の存在を拠り所にして人との関わりを広げていく。さらに、表情から他者の情緒を理解し、生活の繰り返しの中で、物や出来事に関連させて友人を認知するため、表面的な理解に止まる傾向がある。幼児にとっては、生活の場自体が学びの場であり、人権感覚の芽生えの場でもある。
こうした幼児期の特徴を踏まえて、遊びを中心とする生活の場で、自分を大切にする感情とともに、他の人のことも思いやれるような社会的共感能力の基礎を育むという視点が必要である。

2:小学校1から3学年

想像力、言葉による理解力、認識力が次第に育ってくる。抽象的な思考もできるようになる。また、生活の場を離れて、いわば時空を越えて、他者や歴史的な事象にも思いを馳せることができるようになってくる。ただし、まだ幼児期の特性も残っている。
このような特性を踏まえて、人権教育においても、生活体験に基づく「気付き」から想像力や認識力に訴えて深い理解に導くような配慮が必要である。また、絵本やお話の本などを活用することで、想像力を育てることも大切である。
なお、情報機器を扱い始める年齢が早まってきている状況も踏まえ、情報モラルの基礎を培うための指導を行うことも必要となる。

3:小学校4から6学年

言葉の数も増え、概念を理解し、抽象的な思考が深まっていく時期である。認識力、分析力、批判力等も身に付くようになり、自意識も次第に強くなる。
この段階の児童は、そうした諸能力の発達の結果、人権の意義や重要性を知的に理解することができるようになる。しかし、その知的理解が抽象的なものに止まらないためにも、体験的な学習を併用して、具体的人権問題を直感的に「おかしい」と認知する感性の育成を図ることが求められる。
また、書き言葉による不特定多数とのコミュニケーションに興味・関心を寄せ始める時期でもあることから、情報モラル教育の充実を図り、インターネットによる人権侵害等の課題について、理解の促進を図ることが重要となる。

4:青年初期(中学校段階)

内省的傾向が顕著になって自意識も一層強まる。自立した主体的な個であるという自意識と、実際に置かれている状況や生徒自らの実態との乖離に悩む時期でもある。他者との関わり方、生き方についての悩みも深まる。他者との関係では、特定の仲間集団の中に安息を見出し、仲間特有の言語環境で充足感を覚え、排他的であることをよしとし、広く他者と意思疎通を図ることに意識が向かわない傾向もある。
こうした青年初期の特色を理解した上で、生徒の自己肯定感を育てるとともに、多様な生の在り方や様々な価値観を持って生きる他者の存在を、知的にも感覚的にも受容できるように導く学習が求められる。
また、パソコンや携帯電話等の機器を個人で所有し、操作知識に習熟した者も多くなることから、インターネットによる人権侵害等の加害者・被害者とならないための判断力を身に付けさせるよう、情報モラル教育の一層の充実を図ることも重要である。

5:青年中期(高等学校段階)

生活空間が飛躍的に広がり、それに伴って情報も生活体験も格段に拡充する。個人差はあるが、抽象的な概念操作もできるようになり、複雑な思考も可能になる。知的にも情緒的にも人間や社会に対する認識が深化する可能性のある時期である。
また、社会の一員として、主体的に自立した存在として生きるための方策を真剣に模索し始める。他者の存在を寛容に受容し、多様な価値観をお互いに認め合って生きていかなければ成立しない一般社会の在り方を、知的にも体験的にも認識できるようになる。また、法教育の観点からも、社会的規範の相対性と「人権」の持つ普遍性を理解できるようにもなってくる。
この時期には、様々な人権教育が可能である。しかも、多くの生徒にとって系統的・計画的な人権学習のための最後の機会となることも考えなければならない。あらゆる場と機会をとらえて、人間としての生き方を真剣に考えさせ、就労観を育成するキャリア教育等との連動も考慮に入れて、積極的に人権教育に取り組むべきである。
また、パソコンや携帯電話等の機器を個人で所有し、操作知識に習熟した者も多くなることから、インターネットによる人権侵害等の加害者・被害者とならないための判断力を身に付けさせるよう、情報モラル教育の一層の充実を図ることも重要である。

なお、青年中期より後の段階の者を対象とした学習指導においても人権教育の推進は必要であり、そのための学習指導方法の工夫改善が求められる。
また、児童生徒の学習は、発達段階だけではなく、その生活の実態にも大きく左右されることもある。例えば、児童生徒の間にいじめがあったり、経済的・社会的な問題等に由来する人権侵害を受けている児童生徒がいたりする場合には、そうした立場にある児童生徒などの経験や思いを、学校や教職員及び他の児童生徒が十分に受けとめ、これに配慮しつつ人権教育を進める必要がある。人権侵害を受けた児童生徒が、その事実や背景を、自ら振り返り、考えることができるようにしたり、信頼できる教職員や他の児童生徒に話して、共感と信頼を深めたりできるよう、必要な支援を行っていくこと等も重要となる。

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