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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第117号)
第一 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において非公開とした部分のうち、「性別」、「合・否」及び「評定無記載」の部分を公開すべきである。
実施機関のその余の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 異議申立人は、平成17年8月27日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、
「平成17年2月23日及び24日に実施された平成17年度大阪府公立高等学校前期入学者選抜のうち、『大阪府立枚方なぎさ高校』の入学者選抜に係る資料、具体的には、- a 選抜実施計画
- b 志願者の選抜に用いた資料 すなわち、各志願者についての以下の情報が記載されている文書
- (1)調査書による点数(各科目及び合計)
- (2)学力検査による点数(各科目及び合計)
- (3)面接の成績等、ボーダーゾーンの志願者を選抜するために必要な情報
- (4)当該志願者の男女の別
- (5)当該志願者の合否の別」
- 実施機関は、平成17年9月12日、本件請求のうち、bの(1)(2)(4)(5)に対応する行政文書として、「大阪府公立高等学校 入学状況及び学力検査実施結果」(以下「本件行政文書」という。)を特定し、「性別、中学校等コード、当過別、居住地、受検、合否、学力検査の各教科の得点、学力検査の得点の合計、調査書の各教科の評定、調査書の各教科の評定の合計、評定無記載、総合点、及び面接の評価が記載された部分」を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を次のとおり付して異議申立人に通知した。
(公開しない理由)
条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)に記録された情報には、志願者の学力検査及び調査書による点数等が記載されており、これらの情報は、個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。 - 異議申立人は、平成17年9月22日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
なお、実施機関は、本件請求のうち、bの(3)に対応する行政文書について、本件決定とは別に、不存在による非公開決定を行っているが、同決定に対する異議申立ては行われていない。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定のうち、「居住地」、「中学校コード」及び「当過別」以外の項目については非公開決定を取り消し、公開することを求めるものである。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は概ね次のとおりである。
1 これまでの経緯
(1)情報公開請求
異議申立人は、平成17年8月27日、実施機関に対して、条例に基づき、平成17年2月23日及び24日に実施された平成17年度大阪府公立高等学校前期入学者選抜のうち、「大阪府立枚方なぎさ高校」の入学者選抜に係る資料、具体的には
- a 選抜実施計画
- b 志願者の選抜に用いた資料
すなわち、各志願者における以下の情報が記載されている文書- (1)調査書による点数(各科目及び合計)
- (2)学力検査による点数(各科目及び合計)
- (3)面接の成績等、ボーダーゾーンの志願者を選抜するために必要な情報
- (4)各志願者の男女の別
- (5)各志願者の合否の別
の情報を公開するよう請求した。また、請求の際、請求の目的は、いわゆる受験の「傾向と対策」のためであるとし、志願者氏名等個人情報の保護の観点から開示できない部分については不要であると、あくまでも資料として用いるための情報公開請求である旨の補足を併せて申し述べた。
(2)実施機関による一部非公開決定
上記情報公開請求を受け、実施機関は、平成17年9月12日、本件情報公開請求のうち、bの(1)(2)(4)(5)に対し、「本件行政文書のうち、性別、中学校等コード、当過別、居住地、受検、合否、学力検査の各教科の得点、学力検査の得点の合計、調査書の各教科の評定、調査書の各教科の評定の合計、評定無記載、総合点、及び面接の評価が記載された部分」について公開しない」ことを決定する処分(以下「本件処分」という。)を行った。
部分公開決定通知書によると当該非公開の理由は、「本件行政文書(非公開部分)に記録された情報には、志願者の学力検査及び調査書による点数等が記載されており、これらの情報は、個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」ことにより条例第9条第1号に該当するとのことであり、また、電話による実施機関の担当者からの補足説明によれば、大略、
- (a)本件行政文書においては、志願者氏名は掲載されていないものの、「受検番号」が掲載されているものである。「受検番号」は『受検番号と志願者氏名との対応関係』をもって志願者氏名と結びつくことで「特定の個人が識別され得る」情報となる。
- (b)そして各受検者の学力検査の点数等については、『受検番号と志願者氏名との対応関係』をもって志願者氏名と結びついている「受検番号」と『受検番号と学力検査の点数等との対応関係』をもって結びつくことで「特定の個人が識別され得る」情報となる。
- (c)したがって、学力検査の点数等の項目は公開できない。
ということが非公開の理由とのことであった。
2 本件処分の違法性
(1)条例第9条第1号に規定する「特定個人が識別され得るもの」の適用妥当性についての検討
まず、「受検番号」を条例第9条第1号に規定する「特定の個人が識別され得るもの」として適用することが妥当か否かについて検討する。
さて、本件情報公開請求に対し、実施機関は大略「「受検番号」を公開、他の部分を非公開」として本件行政文書の部分公開を決定し、非公開項目に係る非公開理由は前述の(a)から(c)までのとおりとした。「特定の個人が識別され得るもの」とは、大阪府情報公開条例解釈運用基準(以下「運用基準」という。)によれば、「当該情報からは直接特定個人が識別できなくとも、他の情報と結びつけることにより、間接的に特定の個人が識別され得るものを含む」ものとされており、また、大阪府情報公開審査会(以下「審査会」という。)の答申においては、「他の情報」とは容易に入手し得るものである旨述べられていることからすれば、実施機関は、「受検番号は、「特定の個人が識別され得るもの」に該当する」、すなわち、「受検番号と結び付け特定の個人の識別をなさしめるのに必要な『受検番号と志願者氏名との対応関係』は容易に入手し得るものである」との立場から殆どの項目を非公開とする決定を行ったということになる。
しかし、以下に挙げる具体的行為からすれば、実施機関は、「『受検番号と志願者氏名との対応関係』は容易に入手し得るものである」との認識など持ち合わせていないことは明らかである。
- 1)昨今では大学の合格発表においても「合格発表は氏名を出さずに受験番号だけを掲示する」ようになったが、それでもなお合格発表の場で合格者の受験番号を公開することを問題なしとするのは、『受検番号と志願者氏名の対応関係』は容易に入手できる情報ではないとの立場にたっていることの現れであるが、府立高等学校の合格発表においても堂々と受検番号の公開掲示を行っている(例えば、大阪府立枚方なぎさ高等学校においても、入試の合格発表においては合格者の受検番号を掲示する形で行っていることを示す写真をホームページ上に掲載している)。
もし実施機関が「『受検番号と志願者氏名との対応関係』は容易に入手し得るものである」との立場をとるのであれば、「合格者の受検番号を満天下に晒す」などという個人情報保護上重大な問題となる行為を放置するとは考えられない。なぜなら、実施機関の方便を用いれば、受検番号は志願者氏名と実質的に同じであるから、合格者の受検番号を掲示する行為は「特定個人につき合格不合格の事実を満天下に晒す(ことで、不合格の事実を満天下に晒された少年少女は大きな精神的苦痛を受ける)」ことになってしまうからである。 - 2)本件情報公開請求に対しても、実施機関は「受検番号」については非公開とはしなかった。
もし実施機関が「『受検番号と志願者氏名との対応関係』は容易に入手し得る。」との立場をとるのであれば、「受検番号」を公開することで「この高校を誰が志願したのか」がわかり、また、当該高校の名簿を参照するなどすれば「誰がこの学校を志願したものの不合格となったのか」をも特定し得る情報である「受検番号」の公開を決定するはずがない。
つまり、実施機関が志願者の受検番号を情報公開請求によってのみならず自ら公開することを問題なしとするのは、「受検番号から志願者の個人名など知られるはずはない」という立場をとっているからこそである。であれば、条例第10条第1項の規定により、本件情報公開請求においては、以下のa及びbを公開しなければならないはずである。- a「受検番号」
- b「受検番号」以外の項目のうち、「受検番号(を通じた志願者氏名)」とは異なる情報と結びついて特定の個人を識別し得る項目(すなわち「当過別」、「居住地」及び「中学校コード」)を除くすべての項目(以下「点数等項目」という。)
例えば、学力検査の点数などというものは、それ自身は単なる数字でしかないから、受検番号を通じて志願者氏名と結びつかない限り公開しないでよい理由は他に見当たらない。にもかかわらず実施機関は学力検査の点数をはじめとして点数等項目の大部分につき非公開決定とした。これは条例第9条第1号の濫用であることは明らかである。
(2)条例第10条第1項に規定する「分離」の妥当性についての検討
(1)で述べたとおり、実施機関が本来「受検番号は、「特定の個人が識別され得るもの」には該当しない」という立場をとっていることは明らかではあるが、仮に実施機関が「受検番号は「特定の個人が識別され得るもの」に該当する」、すなわち「受検番号と結び付け特定の個人の識別をなさしめるのに必要な『受検番号と志願者氏名との対応関係』は容易に入手し得るものである」という立場をとっており、むしろこれまでの行為の方が間違っていたものであるとしたところで、条例第9条第1号の濫用の問題は解消されるものの、依然条例第10条第1項の「分離」の妥当性についての問題は解消されない。以下、条例第10条第1項の「分離」の問題につき、実施機関は「受検番号は、「特定の個人が識別され得るもの」に該当する」という立場から本件処分を行ったものとして妥当性を検討する(ただし、「当過別」、「居住地」及び「中学校コード」については、非公開として分離するべきものと思料するので、以下の検討の対象からは除外する。)
「分離」、すなわち結びつけることにより特定の個人を識別せしめる他の情報との関連性をいかに分断するかについてであるが、条例第10条第1項では、「容易に、かつ、公開請求の趣旨を損なわない程度」に分離できるときは分離して公開しなければならないとしている。本件行政文書の場合、殆どの項目において直接特定の個人を識別せしめる情報は志願者氏名であり、その志願者氏名は本件行政文書においては「受検番号」と結びつくことで間接的にその識別を可能としているものであるから、「受検番号」を丸々非公開とすれば、志願者氏名と点数等項目との関連性は簡単に分断することが可能である。
すなわち、本件行政文書において「個人情報保護の観点からキーとなる項目」となるのは「受検番号」に他ならない。実施機関は、「受検番号」は特定の個人が識別され得る情報であるとの立場にたっているのであるから、実施機関が真っ先に非公開とすべき項目はなにより「個人情報保護の観点からキーとなる項目」たる「受検番号」であり、むしろ「受検番号」を非公開としないのであれば条例第9条に違反することとなる。にもかかわらず、敢えて「受検番号」を非公開としないということは、条例違反を犯してでも特定の項目を非公開にしようとする意図をもっていたものと考えざるを得ない。
仮に「受検番号」が何らかの法則に沿って並んでいたとしても、「受検番号」を非公開とすれば情報の公開を受ける側にはその法則すら判別できない。この点、弁明書においては「仮に受検番号を非公開にした場合にあっても・・・受検番号順に並べられていることを判断することは容易」とあるが、受検番号が非公開であれば本件行政文書の記載順と受検番号との関連性については推測ないし思い込みの域を出ない(実施機関の言うところの「判断」が正しいかどうかは受検番号を非公開とする以上証明できない。)「正しいかもしれないし、正しくないかもしれない不確定な推測ないし思い込み」は特定の個人を識別せしめる材料とはなり得ない。
つまり、「受検番号」を丸々非公開とするだけで、条例第10条第1項でいう「容易に、かつ、公開請求の趣旨を損なわない程度に」特定の個人が識別され得る情報を分離できるにもかかわらず、本件処分は敢えて条例第9条に違反してでも「受検番号」を意図的に残し、『受検番号と点数等項目との対応関係』を温存したことをもって点数等項目に非公開の網をかけようとしているわけであるから、本件処分は明らかに条例第10条第1項に違反するものである。また、「「受検番号」は特定の個人が識別され得る情報である」との立場をとっているにもかかわらず「受検番号」を公開することは、条例第9条に違反するものである。
なお、「受検番号」を黒塗りすることが「容易」であるかどうかについては、「容易」と判断しているはずである本件処分の場合よりも黒塗り部分が相当数減少することを考えれば「容易」であることは言うまでもない。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね次のとおりである。
1 本件行政文書について
本件行政文書は、大阪府立枚方なぎさ高等学校(以下「枚方なぎさ高校」という。)の平成17年度の入学者の選抜(いわゆる高校入試の合否の決定)に用いた資料及び選抜の結果(合否結果)を集約した原簿である。
本件行政文書に記載されている項目及びその内容の概要は以下のとおりである。
(1)カード、区分、学校コード、学区、課程、学科
枚方なぎさ高校の学力検査等の実施科目や配点を示す記号、番号、当該高等学校のコード並びに当該高等学校の通学区域、課程及び学科のコードを示している。
(2)整理番号
各受検者の受検番号を示している。資料を一覧表に集約するに当たって、事務作業上の過誤を防ぐため、受検番号順に並べられている。
受検番号は、出願の受付時に、出願順に男女別に各受検者に割り振られる番号であり、一般に、入学者選抜に係る作業において、各受検者を特定するのにこの受検番号が用いられる。学力検査において解答用紙に各受検者が記入するのもこの受検番号であり、氏名等は記入しない。
(3)性別
受検者の性別を示す。
(4)中学校等コード
受検者の出身中学等を4桁の数字で示す。このコードは府内公立中学校及び府立高等学校等に公表されている。
(5)当過別
受検者が受検の当年度の卒業見込み者と過年度卒業者のいずれであるかを示す。
(6)居住地
枚方なぎさ高校については大阪府立高等学校通学区域に関する規則によって通学区域が4区と定められているが、居住地がこの通学区域内であるか否かを示す。
(7)受検
学力検査等を受検したか否かを示す。
(8)合・否
合否の結果を示す。
(9)国語、社会、数学、理科、英語
各教科とも50点の配点の学力検査の得点を示す。
(10)学検合計
枚方なぎさ高校においては、学力検査の得点について受検者ごとに学力検査の得点の高かった2教科の得点を2倍にして合計したものを示す。
(11)国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保体、技家、英語
調査書中の各教科の評定を示す。なお、保体は保健体育を、技家は技術家庭を表す。
調査書中の評定は、中学校卒業見込み者については、中学校第3学年の1学期及び2学期を平均した成績を基に、10~1の10段階で表示する。その比率は、上位のものから、
10…3%、9…4%、8…9%、7…15%、6…19%、5…19%、4…15%、
3…9%、2…4%、1…3%としている。
(12)調査書計
調査書の評定の合計を示す。なお、枚方なぎさ高校においては、国語、社会、数学、理科、英語の評定の和には2.0倍を、音楽、美術、保体、技家の評定の和には3.5倍の倍率をかけて合計をする。
(13)評定無記載
調査書の評定について、相対評価になじまないため、評定が記載できない教科があるか否かを示す。
(14)総合点
学検合計と調査書計の合計を示す。
(15)面接
面接の評価を示す。
(16)変更科、実技、小論文、選抜方法、作文、申告A、申告B
枚方なぎさ高校では使用していない。
本件行政文書は、入学者選抜事務終了後一定期間保存(大阪府教育委員会行政文書管理規則第17条第1項の規定により、各校において定められているが、枚方なぎさ高校においては5年間。)されるものである。
なお、枚方なぎさ高校における合格者の決定は次のように行われる。
- ア 総合点の高い者から、募集人員の110%に当たる者までを(a)群とする。
- イ (a)群において、総合点の高い者から男女別に原則として募集人員の45%に当たる者をそれぞれ合格とし、残りの者を(b)群(ボーダーゾーン)とする。
- ウ ボーダーゾーンの中から、調査書、学力検査及び面接の中で、特に優れたものがある者を優先して、募集人員を満たすよう合格者を決定する。
2 本件決定の適法性について
(1)条例第9条第1号について
条例第9条第1号においては、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもの(以下「個人識別情報」という。)のうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」に該当する情報が記載されている行政文書を公開してはならない旨が規定されている。
(2)本件行政文書が条例第9条第1号に該当することについて
実施機関が公開しないことと決定した部分は条例第9条第1号に示す「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」個人情報である。
- a「学力検査の各教科の得点」、「調査書中の各教科の評定」及びそれらから算出される「学力検査の得点の合計」、「調査書の評定の合計」、「総合点」並びに「受検」、「合・否」、「評定無記載」、「面接の評価」は、個人のプライバシーに関する情報であり、社会通念上、他人に知られたくないと望む個人情報であることは明らかである。
中学校において、中間考査や期末考査の成績についても、他人に知られたくないと望むのが一般的であるが、入学者選抜における学力検査の得点や調査書の評定等については、合否の判定と直接関連していることから、それらに対する意識はよりデリケートになっている。 - b「大阪府行政文書公開条例解釈運用基準」において、該当する情報例の中に個人の心身状況に関するものの一つとして「府立高等学校生徒の学業成績」が示されており、aの個人情報も同様の個人情報といえる。
- c「中学校等コード」、「当過別」及び「居住地」は条例第9条第1号に示されている「学歴」、「出身」、「住所」に該当するものであり、中学校卒業後の新しい環境(高等学校等)における新しい生活の中で、他人に知られたくないと望むことが正当と認められるものである。
また、これらの個人情報については、受検番号等から個人が識別され得る情報である。 - d 受検番号は、出願時に出願の順に男女別に各受検者に連番で割り振られる番号である。同じ中学校から複数の生徒が同一の高等学校に出願する場合、中学校の指導もあって、まとまって出願に来ることが一般的であり、受検番号は同一中学校出身の受検者について男女別に連番となることが多い。また、学力検査における座席は受検番号順になっており、同一中学校出身の受検者はまとまって着席することになる。このような状況から、特定個人の受検番号を知り得る者は、少なからず存在することは明白であり、個人が識別され得る情報になっている。
- e 本件行政文書については、受検番号の部分を公開する部分公開を行っているが、仮に受検番号のみを非公開とした場合にあっても、文書の性質上、また、昇順・降順に整理された項目は存在しないことから、受検番号順に並べられていると判断することは容易であり、さらに、「性別」、「中学校等コード」、「当過別」、「居住地」、「受検」、「合・否」の各項目の内容から、その判断をより容易なものにし得るとともに、例えば、ある中学校出身の受検者が1名のみである場合には、特定の個人が識別されることに直接つながる。
- f また、個人情報の開示請求によって自分自身の「学力検査の各教科の得点」及び「調査書中の各教科の評定」を既知の受検者にとっては、本件行政文書の中から自分のデータを特定することは容易であり、受検番号の前後が同じ中学校の出身者である場合にあっては、まさに「特定の個人が識別」され、他人がその者の個人情報を知り得ることとなる。
以上のとおり、本件行政文書は、条例第9条第1号に該当し、公開してはならない情報に当たるので、本件決定において、本件行政文書を非公開としたことは、妥当である。
3 結論
以上のとおり、本件決定は、条例の非公開事由の要件に該当するものを非公開として処分したものであり、何らの違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、枚方なぎさ高校の平成17年度入学者選抜に係る「大阪府公立高等学校 入学状況及び学力検査実施結果」の資料である。
本件行政文書には、「カード、区分、学校コード、学区、課程、学科、変更科、整理番号、性別、中学校等コード、当過別、居住地、受検、合・否、学力検査の各教科の得点(国語・社会・数学・理科・英語)、学検合計、調査書の各教科の評定(国語・社会・数学・理科・音楽・美術・保体・技家・英語)、調査書計、評定無記載、総合点、実技、小論文、選抜方法、作文、面接、申告A、申告B」の各項目について、整理番号順に受検者の個別の学力検査の結果が記載されている。
また、本件行政文書中の整理番号は、各受検者の受検番号と同じ数字である。受検番号は、出願の受付時に、各受検者に出願順で男女別の連番で割り振られる番号であり、同じ中学校から複数の生徒が同一の高等学校に出願する場合、中学校の指導からまとまって出願することが一般的であり、同一中学校出身の受検者が男女別に連番になることが多いことが認められ、また、学力検査における座席が受検番号順になっていることから、同一中学校出身の受検者はまとまって着席するといった状況が認められる。
本件行政文書のうち、本件決定において非公開とされたのは、「性別」、「中学校等コード」、「当過別」、「居住地」、「受検」、「合・否」、「学力検査の各教科の得点」、「学検合計」、「調査書の各教科の評定」、「調査書計」、「評定無記載」、「総合点」及び「面接」の各欄であり、異議申立人は、このうち、「中学校等コード」、「当過別」、「居住地」を除く各欄の公開を求めている。
これらのことから、本件において争われている部分(以下「本件係争部分」という。)に記録されている情報を整理すると、次のとおりである。
(1)性別
受検者の性別が記載されている。本件の学力検査においては、受検番号は、男子は1番から、女子は500番からの連番で割り振られているため、番号の早い方から男性、女性の順でまとまって記載されている。
(2)受検
学力検査等を受検したか否かが記載されている。
(3)合・否
合格又は不合格の結果が記載されている。
(4)学力検査の各教科の得点、学検合計
国語、社会、数学、理科、英語の各教科について50点の配点の学力検査の得点が記載されている。学検合計には、受検者ごとに学力検査の得点の高かった2教科の得点を2倍にして合計したものが記載されている。
(5)調査書の各教科の評定、調査書計
国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術家庭、英語の調査書中の各教科の評定が記載されている。調査書中の評定は、中学校卒業見込み者については、中学校第3学年の1学期及び2学期を平均した成績を基に10から1の10段階で表示されている。調査書計には、調査書の評定の合計が記載されている。国語、社会、数学、理科、英語の評定の和には2.0倍を、音楽、美術、保健体育、技術家庭の評定の和には、3.5倍の倍率をかけたものが合計されている。
(6)評定無記載
調査書の評定について、相対評価になじまないため、評定が記載できない教科があるか否かを記載する欄である。本件については、すべての受検者に同じ内容が記載されている。
(7)総合点
学検合計と調査書計の合計が記載されている。
(8)面接
面接の評価が3段階で記載されている。
3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
(1)条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。
同号は、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。
(2)条例第9条第1号該当性について
本件行政文書は、枚方なぎさ高校の平成17年度入学者選抜を受検した者の個別の学力検査の成績等を記録したものであり、本件係争部分に記録されている情報が、上記(1)のアの要件に該当することは、明らかである。
また、本件行政文書は、個人の氏名は記載されていないものの、個人別の学力検査の成績等の情報を受検番号順に整理した表である。本件の学力検査においては、上述のとおり、同じ中学校の出身者が受検会場において男女別に受検番号順で並ぶことが通例であり、同じ中学校の生徒同士がお互いの受検番号を知り得る状況にあること、また、一般に、受検番号については、合否の確認の便宜等のため、当該生徒が中学関係者をはじめ、近親者や友人等に知らせていることが通常想定されることからすると、本件係争部分に記録された情報は、上記(1)のイの要件にも該当する。
そこで、本件係争部分に記録された情報が、(1)のウの要件が該当するか否かについて個別に検討したところ、以下のとおりである。
ア「性別」欄
本件の学力検査においては、上述のとおり、受検番号が男女別で割り振られており、そのことは、受検者等の関係者には周知の事実である。本件決定においては、受検番号が公開されており、本欄を公開するまでもなく、各受検者の性別は明らかとなっているから、本欄に記録されている情報は、上記(1)ウの要件には該当しないと認められる。
イ「受検」欄
本欄を公開することにより、当該受検者が当日受検をしたかどうかが明らかとなる。入学願書を提出したにもかかわらず、学力検査を受検しなかった場合、そのような事実は、個人のプライバシーに関する情報の中でも、とりわけ機微にわたる情報であることから、本欄に記録されている情報は、上記(1)ウの要件に該当すると認められる。
ウ「合・否」欄
本欄は、各受検者の合否が記載された欄である。入学者選抜における合否は、個人のプライバシーに関する情報の中でもとりわけ機微にわたるものではあるが、本件の入学者選抜では、合格者発表は、受検番号を掲示する形で行われており、受検番号を知っている者に対しては、本欄を公開しても、新たな情報が明らかになるものではないから、上記(1)ウの要件には該当しないと認められる。
エ「学力検査の各教科の得点、学検合計、調査書の各教科の評定、調査書計、総合点、面接」欄
「学力検査の各教科の得点、学検合計、調査書の各教科の評定、調査書計、総合点」欄には受検者個人の学力検査や出身校における成績が、「面接」欄には、受検者が受けた面接における評価が記載されている。これらの情報は、個人の能力や評価に係る具体的な情報であって、個人のプライバシーに関する情報の中でも、とりわけ機微にわたる情報であることから、上記(1)ウの要件に該当すると認められる。
オ「評定無記載」欄
本欄は、2(6)に記載のとおり、調査書の評定について相対評価になじまないため、評定が記載できない教科があるか否かを記載する欄であり、この欄に「有」と記載されている場合には、当該受検者に相対評価になじまない事項があることが明らかとなる。本件行政文書においては、すべての受検者について、同じ内容が記載されており、この欄を公開しても、個人が特定されるものではないことから、本欄に記録されている情報は、上記(1)ウの要件には該当しないと認められる。
以上のとおりであるから、本件係争部分のうち「性別」、「合・否」及び「評定無記載」の各欄に記録されている情報については、条例第9条第1号に該当せず、当該欄を公開すべきであるが、その余の情報については、条例第9条第1号に該当すると認められるから、本件決定において非公開としたことは、妥当である。
なお、異議申立人は、「『受検番号』を丸々非公開とするだけで、条例第10条第1項でいう『容易に、かつ、公開請求の趣旨を損なわない程度に』特定の個人が識別され得る情報を分離できるにもかかわらず、本件決定は敢えて条例第9条に違反してでも『受検番号』を意図的に残し、『受検番号と点数等項目との対応関係』を温存したことをもって点数等項目に非公開の網をかけようとしているわけであるから、本件決定は明らかに条例第10条第1項に違反するものである。」と主張している。
しかしながら、本件行政文書においては、受検番号と同じ整理番号の順に個人別の成績等が記載されているのであり、受検者が自らの成績等について個人情報保護条例に基づく本人開示を受けることができ、その場合には、本件行政文書が受検番号順に整理された表であることが受検者に明らかになることからしても、実施機関が、本件決定を行うに当たり、整理番号の公開を前提に、条例第10条第1項に基づく部分公開の範囲を画定したことは止むを得ないものであり、この点についての異議申立人の主張は採用することができない。
(3)本件入学者選抜に係る行政文書の保存について
本件異議申立てに係る審査会の判断は以上のとおりであるが、調査審議の過程で明らかとなった本件入学者選抜に係る行政文書の保存に係る問題点に関して、付言する。
本件異議申立てに係る調査審議において、本件入学者選抜における合否判定の過程で作成される行政文書について調査したところ、本件入学者選抜における合否判定の過程では、本件行政文書以外に、個々の受検者の成績を記載した入学者選抜判定会議の資料として「a 総合点順一覧表(全体、男女別)」及び「b ボーダーゾーン一覧表(ABC付き)」が作成され、その結果を踏まえ、合否通知を行うための資料として、「c 合格者、不合格者受検番号一覧」が作成されていたことが明らかとなった。
これらの行政文書は、本件行政文書をもとに作成され、入学者選抜の判定に必要な資料として使用されたものであるが、判定会議終了後に廃棄されており現存していない。この点について、実施機関は、これらの行政文書は、いずれも本件行政文書から復元可能なものであって、大阪府教育委員会行政文書管理規則第17条に規定する「一時的かつ補助的な用途に用いるもの」であり、「保存期間の定めのない」行政文書であることから、判定会議終了後は、必要な目的を果たしたものとして廃棄したと説明している。しかしながら、これらの文書は、本件入学者選抜における合否の意思決定の直接的で最も重要な根拠資料となったものであることから、たとえ本件行政文書から復元できるものであったとしても、「一時的かつ補助的な用途に用いるもの」であったとは断じがたい。入学者選抜という人の一生を左右しかねない判定の公正さを明らかにし、学校の社会的な説明責任を果たすためにも、本件行政文書と同様に、一定期間、保存すべきものであったと考えられる。
条例は、第3条において「行政文書の公開を求める権利が十分に保障されるように、行政文書の適切な保存と迅速な検索に資するための管理体制の整備を図る」ことを実施機関の責務としている。実施機関においては、当該規定の趣旨を踏まえ、適切な文書管理に努められるよう申し添えるものである。
4 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立ては、「性別」、「合・非」及び「評定無記載」の公開を求める部分について理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
塚本美彌子、福井逸治、小松茂久、鈴木秀美