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更新日:2009年8月5日

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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第108号)

第一 審査会の結論

実施機関の決定は妥当である。

第二 異議申立ての経過

  1. 平成16年11月30日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定に基づき、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、次の行政文書についての公開請求(以下「本件請求」という。)が行われた。
    • (1)平成16年度法人調書(東大阪市で特別養護老人ホームを運営している社会福祉法人全部)のうち次のもの
      • 法人の概要
      • 役員
      • 社会福祉法人会計基準の適用状況
      • 添付の「財務諸表」(老人福祉施設及び事業にかかるもの)
        • a 資金収支計算書
        • b 資金収支内訳表
        • c 事業活動収支計算書
        • d 事業活動収支内訳表
        • e 貸借対照表
    • (2)東大阪市の特別養護老人ホームの「平成16年度老人福祉施設調書」のうち次のもの
      • 1 建物・設備の状況
      • 2 入所者の状況
      • 3 職員配置等の状況
      • 6 入所者の処遇状況
      • 7 入所者預り金等の状況
      • 8 給食の状況
    • (3)平成13年度以降に監査を実施した社会福祉法人(東大阪市で特別養護老人ホームを運営している法人全部)の監査結果に関する文書のうち次のもの
      指導監査結果通知(施設分含む)(13~15年度分)
  2. 同年12月14日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書に第三者に関する情報が記録されていることから、条例第17条第1項の規定に基づき異議申立人を含む第三者に対して意見書提出の機会を付与するため、第三者意見書提出機会通知書を送付した。
  3. 同年12月17日、異議申立人から下記の内容で意見書が提出された。
    • (1)行政文書の公開についての反対の意思の有無 有
    • (2)行政文書の公開についての意見(要旨)
      「平成16年度法人調書」のうち、について、非公開とするよう求める。
      (意見事由)
      • a 「財務諸表」のすべて(決算、収支に関する事項)
      • b 会計基準の適用状況
      • c 入所者の状況
      • d 職員配置等の状況
      • e 役員(開示する情報の程度にもよる)
      • ア 大阪府情報公開条例第8条の1(文書を公開しないことができる場合)に記載されている「団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」という記述、文言は、これまでの通例の「法的な判例」では、正に「決算・収支に関する情報」の事であるとされている。
      • イ 「個人情報保護」の観点から、請求された個人の情報を保護することを尊守する姿勢は理解できるものの、情報開示の必要性も認識できない。特に、「収支・決算事項に関する情報開示」には甚だ疑問が残り、全く同意できるものではない。
      • ウ 厳しい自己責任・競争の時代の施設運営については、法人の自主努力としての諸情報である「入所者・職員の配置情報」などの開示にも上記第8条「競争上の地位を害する」との観点から同意しかねる。
      • エ 役員名簿などの情報公開についても、どの程度までの開示かによって「プライバシー」の問題が生じかねないと危惧している。
  4. 平成17年1月4日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対する部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、請求者に通知した。本件決定において、実施機関は、本件請求のうち異議申立人に係る部分に対応する行政文書として、(1)の行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(2)の部分を除いて公開することとし、条例第17条第3項の規定により、同日、その旨を、公開決定をした理由を(3)のとおり付して異議申立人に通知した。
    • (1)行政文書の名称
      • ア 「平成16年度法人調書」のうち
        • 法人の概況
        • 役員
        • 社会福祉法人会計の運用状況
        • 添付の「財務諸表」(老人福祉施設及び事業にかかるもの)
          • a 資金収支計算書
          • b 資金収支決算内訳表
          • c 事業活動収支計算書
          • d 事業活動収支内訳表
          • e 貸借対照表
      • イ 特別養護老人ホームの「平成16年度老人福祉施設調書」のうち
        • 建物・設備の状況
        • 入所者の状況
        • 職員配置等の状況
        • 入所者の処遇状況
        • 入所者預り金等の状況
        • 給食の状況
    • (2)公開しないことと決定した部分
      • 役員の年齢、職業(法人等代表者、施設長を除く。)、親族等特殊関係人の状況、役員報酬
      • 個人の氏名(施設長、嘱託医を除く。)、性別、年齢、資格(氏名を公表することとした者の職務に必須でないものに限る。)、給与・賃金
      • 社会福祉法人の取引先名及び取引金融機関名
      • 入所者預り金の預金通帳及び印鑑の保管場所等
    • (3)公開決定をした理由
      条例第8条第1項各号又は第9条各号に該当しないため。
  5. 同年1月28日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
    なお、本件決定のうち本件異議申立ての対象となった部分については、同日、異議申立人の申立てにより、実施機関が執行の停止を決定し、その旨を異議申立人及び請求者に通知している。

第三 異議申立ての趣旨

本件決定を取り消し、本件行政文書中「平成16年度法人調書」のうち、添付の財務諸表のすべて(決算、収支に関する事項)及び会計基準の適用状況の部分(以下「本件係争部分」という。)を非公開とすることを求める。

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。

「決算内容の公開」はこれまでの法的判例から、条例第8条第1項第1号(文書を公開しないことができる場合)に該当する。

これまでの一般的な「判例・判断」では、「決算・収支に関する情報」は、条例第8条第1項第1号(文書を公開しないことができる場合)に記載されている「団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」という記述、文言に該当するとされている。「個人情報保護」の観点から、請求された個人の情報を保護することを尊守する姿勢は理解できるものの、重要事項である収支・決算について情報開示の必要性も認識できない。「収支・決算事項に関する情報開示」には疑問が残り、同意できるものではない。

厳しい自己責任・競争の時代の施設運営については、法人の自主努力としての「決算・収支に関する情報」の開示には条例第8条第1項第1号の「競争上の地位を害する」との観点からも同意しかねる。

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は概ね次のとおりである。

1 所轄庁への提出書類について

社会福祉法第59条第1項では、社会福祉法人から毎会計年度終了後3か月以内に、事業の概要その他厚生労働省令で定める事項を、所轄庁に届け出なければならないとされている。同条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項とは、次のとおりである。

社会福祉法施行規則第9条第1項

  • 一 当該会計年度の初日における役員の氏名及び職業並びに代表権を有する者の住所及び年齢
  • 二 前会計年度における事業の概要
  • 三 前会計年度末における主要な財産の所有状況

また、上記事項の届出に際しては、次に掲げる書類を添付しなければならない(同規則第9条第3項)とされている。

  • 一 前会計年度末における貸借対照表
  • 二 前会計年度の収支計算書

実施機関(法人指導課)では、社会福祉法第59条に基づく事業の概要その他厚生労働省令で定める事項の届出について、独自に様式を「法人調書」として定め、その添付書類としての貸借対照表等の計算書類を毎会計年度終了後3か月以内の6月末までに実施機関に届け出させることとしている。

また、社会福祉法人が特別養護老人ホームを経営している場合には、老人福祉法第18条第2項「都道府県知事は、特別養護老人ホームの長に対して、必要と認める事項の報告を求め、」に基づき、同様に独自に様式を定めた「施設調書」として「法人調書」等と同時に提出させている。

ちなみに、社会福祉法人が法人運営及び施設経営を行うことに対して、調査、指導及び助言をすることにより、適正な法人の運営と円滑な社会福祉事業の経営の確保を図ることを目的として「大阪府社会福祉法人等指導監査要綱」を別途定めているが、その中でも「社会福祉法人等及び社会福祉施設に対しては、毎年6月末までに現況報告書の提出を求めるものとする。」(同要綱第8条第1項)と明記している。

2 社会福祉法人会計基準の適用状況、添付書類の平成15年度分財務諸表(a資金収支計算書、b資金収支決算内訳表、c事業活動収支計算書、d事業活動収支内訳表及びe貸借対照表)(以下「財務諸表」という。)について

(1)社会福祉法人会計基準の適用状況について

社会福祉法人会計基準の適用状況は、「法人調書」の一記載事項として定めているものであるが、どの種類の会計基準について、いつから適用しているか、またその予定について記載されている。

さらに、会計基準未適用の場合は他にどのような会計方針を適用しているかが記載されている。

社会福祉法人会計基準とは、平成12年2月17日社援第310号厚生省大臣官房障害保健福祉部長、厚生省社会・援護局長、厚生省老人保健福祉局長、厚生省児童家庭局長通知により、社会福祉法人単位での経営を目指して法人全体の経営状況が把握できる法人制度共通の基準であり、従来と異なり、損益計算の考え方を採り入れることにより効率性が反映されるものである。

適用の範囲については、原則として全ての社会福祉法人について平成12年4月1日より適用されるべきものであるが、利用者の福祉向上を図る施設運営のための費用を行政が直接支弁する軽費老人ホームや保育園などの措置費(運営費)支弁対象施設のみを運営している法人については、当分の間、損益計算の考え方を採り入れていない従来の基準によることもできるとされている。

(2)財務諸表について

これらの書類は、1で述べたとおり、社会福祉法人が毎会計年度終了後3ヵ月以内に都道府県実施機関に届け出ることが義務づけられている。

社会福祉法人の会計処理については、特別養護老人ホームを開設する社会福祉法人にあっては、その財政状態と経営成績の適切な把握を行うことを目的として、「社会福祉法人会計基準」(平成12年2月17日社援第310号厚生省大臣官房障害保健福祉部長、厚生省社会・援護局長、厚生省老人保健福祉局長、厚生省児童家庭局長通知)が定められ、これに基づき処理されている。

資金収支計算書には、支払資金の増減の内容が記載されており、経常活動による収支、施設整備等による収支、財務活動による収支に区分され、それぞれ予算、決算及びその差異等が記載されている.

資金収支決算内訳表には、資金収支計算書の決算分について、さらに細かく中区分の勘定科目まで各経理区分ごとに記載されている。

事業活動収支計算書には、純資産の増減の内容と純資産内の処理の内容が記載されており、事業活動収支の部、事業活動外収支の部、特別収支の部、繰越活動収支差額の部に区分され、それぞれ本年度決算、前年度決算及びその増減が記載されている。

事業活動収支内訳表には、事業活動収支計算書をさらに細かく中区分の勘定科目まで各経理区分ごとに記載されている。

貸借対照表には、当該社会福祉法人の資産勘定として流動資産、固定資産、資産合計の金額、負債勘定として流動負債、固定負債及び負債合計の金額、資本合計の金額並びに負債・資本合計の金額が記載されている。

3 社会福祉法人について

社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを目的として設立される特別な法人であり、その設立等に関しては、昭和26年に制定された社会福祉事業法において初めて規定された。

その後、社会福祉事業法が改正され、現在では社会福祉法の規定によって設立される法人と定義され(社会福祉法第22条)、社会福祉事業の主たる担い手としてふさわしい事業を確実、効果的かつ適正に行うため、自主的にその経営基盤の強化を図るとともに、その提供する福祉サービスの質の向上及び事業経営の透明性の確保を図らなければならない(社会福祉法第24条)とされている。

社会福祉法人は、税制上の優遇措置や施設・設備整備費補助金の交付を含めた各種の助成が講じられ、多額の公費が投入される対象であるという特性を有する以上、経営に自主性が確保されるべき民間法人のなかでは、経営の透明性を確保する必要性が特に高いものと考えられ、それを確保することは、利用者の利益の保護に資するとともに、不祥事防止の観点からも不可欠である。

また、社会福祉法人は、その公益性に鑑み、その経営基盤の安定を図る必要性から、社会福祉事業を行うに必要な資産を備えなければならないとされている(社会福祉法第25条)。

4 本件係争部分が条例第8条第1項各号及び第9条各号に該当しないことについて

(1)条例における公開原則について

条例においては、その前文及び第1条にあるように、「府の保有する情報は公開を原則」、「個人のプライバシー情報の最大限の保護」、「府が自ら進んで情報の公開を推進」を制度運営の基本的姿勢としている。

よって、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報を公開しなければならないものである。

本件異議申立てにおいては、異議申立人が本件係争部分を公開しないことを求めているため、本件係争部分のうち、社会福祉法人会計基準の適用状況と財務諸表に分けて、条例第8条及び第9条各号に該当しないことについて、以下において説明する。

(2)条例第8条第1項第1号に該当しないことについて

事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重・保護されなければならないという見地から、社会通念に基づき判断して、競争上の地位を害すると認められる情報、その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが条例第8条第1項第1号の趣旨である。

同号では、

  • a 法人等に関する情報であって、
  • b 公にすることにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるものは、公開しないことができると規定している。

これを本件係争部分について、社会福祉法人会計基準の適用状況と財務諸表に区分して検討すると、以下のとおりである。

ア 「社会福祉法人会計基準の適用状況」について
(ア)上記aについて

社会福祉法第59条第1項に基づき、社会福祉法人から実施機関に提出された事業の概要その他厚生労働省令で定める事項の一部であって、実施機関が様式として定める「法人調書」の記載事項でもあるので、法人等に関する情報であると認められる。

(イ)上記bについて

一般に、「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理を侵害すると認められるものをいうと解されており、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、事業を営む者に対する名誉侵害、社会的評価の低下となる情報及び公開により団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらわれないものをいうと解されている。

そして、「競争上の地位を害すると認められるもの」と認められるためには、当該文書に記録された情報が明らかとなることにより、当該法人等に具体的な不利益が及んだり、社会的評価の低下につながるなどの事実が存在し、それが社会通念に照らして「競争上の地位その他の正当な利益」を害すると認められる程度のものである必要があると解すべきである。

従来から社会福祉法人が社会福祉法に基づいて実施機関に提出している事業の概要その他厚生労働省令で定める事項のうち、社会福祉法人会計基準の適用状況の記載については、一部記載上の誤りはあるものの、会計の処理方針はいずれか一つしか選択できず、それが誤りであることは明らかである。

また、記載には同基準で義務付けられている平成12年4月1日から適用されていると記載されており、実際の決算書を見ても社会福祉法人会計基準に従って会計処理を行っていることから、これを開示したとしても条例第8条の「競争上の地位を害する」とは認められない。

イ 財務諸表
(ア)上記aについて

本件係争部分は、社会福祉法第59条第1項に基づく社会福祉法人から実施機関に提出された決算報告書の一部であり、法人等に関する情報であると認められる。

(イ)上記bについて

一般に、「競争上の地位を害すると認められるもの」については、ア(イ)で述べたとおりであるが、財務諸表については、取引金融機関名などを除き、項目や数値等を全て公開する取扱いを行ってきている。その理由は以下のとおりである。

(社会福祉法人の公益性)

社会福祉法人は、一部には介護保険など医療分野との競争という観点からも医療法人に類似していると考えられがちであるが、医療法人とは異なり、原則として非課税法人である(所得税法第11条)。

一方、医療法人は、株式会社のような営利法人と異なり、医療の非営利性を担保するため、剰余金の配当を禁止している(医療法第54条)など、先の大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第99号)でもその公益性の高さが述べられてきたところである。

社会福祉法人は原則として非課税法人であることから、医療法人に比してその公益性はさらに高く、このような公益性の高さに鑑み、社会福祉法は社会福祉法人の経営状況の開示義務を定め、社会福祉法人は貸借対照表及び収支計算書を常に各事務所に備え付け、社会福祉法人が提供する福祉サービスの利用を希望する者その他の利害関係人の閲覧に供することを規定している(社会福祉法第44条第4項)。

なお、社会福祉法第44条第4項は、これらの書類の閲覧を求めることができる者を当該社会福祉法人が提供する福祉サービスの利用を希望する者その他の利害関係人としているが、この規定は、地方公共団体が情報公開制度により当該社会福祉法人が提供する福祉サービスの利用を希望する者その他の利害関係人以外の者に対してこれらの書類を公開することを禁止する趣旨ではないと解され、むしろ、近年の情報公開の広がりによって、厚生労働省通知平成12年12月1日付け障第890号、社援第2618号、老発第794号、児発第908号「社会福祉法人の認可について」の中で、「現況報告書及び添付書類等の記載事項については、開示請求があった場合は、厚生労働大臣又は地方厚生局長が所轄庁である法人を含め、各都道府県市の情報公開条例に定める手続により、公開することが望ましいこと。」とされている。

(競争上の地位を害すると認められる可能性)

社会福祉法人会計基準第6条では、

「社会福祉法人が作成しなければならない計算書類は、次のとおりとする。

  • 一 資金収支計算書及びこれに附属する資金収支内訳表
  • 二 事業活動収支計算書及びこれに附属する資金収支内訳表
  • 三 貸借対照表
  • 四 財産目録」

とあり、今回請求の対象文書となっている資金収支計算書、資金収支決算内訳表、事業活動収支計算書、事業活動収支内訳表及び貸借対照表は、上記の社会福祉法人が作成しなければならない計算書類に含まれている。

さらに、社会福祉法人会計基準第1条第2項で「社会福祉法人は、この会計基準に基づき、会計処理のために必要な事項について経理規程を作成しなければならない。」とあり、社会福祉法人は自主的に経理規程を作成しているはずである。

経理規程の作成については社会福祉法人が自主的に行うものではあるものの、社会福祉法人会計基準に基づかなければならないとなっているので、平成12年3月10日に全国社会福祉施設経営者協議会から「社会福祉法人モデル経理規程」が示されている。

モデル経理規程第10条では、会計帳簿は主要簿としての仕訳伝票(日々の収入や支出について詳細に記載されたもの)や、総勘定元帳(全ての勘定科目ごとに時系列で整理したもの)を作成し、補助簿として現金出納帳、固定資産管理台帳、未収金台帳、寄附金台帳など各法人が資産、負債及び収入、支出を管理するために、必要と認められるものを作成するとしている。

異議申立人が作成している経理規程については現在入手していないが、モデル経理規程の記載項目から推測すると、異議申立人においてもこれらの主要簿、補助簿など多数の会計帳簿が作成されているものと考えられる。

財務諸表については、法人の会計年度である毎年4月1日から翌年3月31日までの会計処理について、年度末の一時点の資産・負債の状況あるいは会計年度内の収入・支出の状況を概括的に示しているものにすぎない。

異議申立人が憂慮している「競争上の地位を害する」と認められるためには、当該文書に記録された情報が明らかとなることにより、当該法人等に具体的な不利益が及んだり、社会的評価の低下につながるなどの事実が存在することなどが必要であって、そのためには、その情報から当該社会福祉法人に関する経営内容の分析や把握をより正確かつ詳細に行い、経営上の秘密やノウハウに属するような情報へとなることが必要である。

以上からすれば、財務諸表に記載されている各勘定科目の金額から、当該社会福祉法人の経営規模はどの程度であるか、収入と支出とのバランスがとれているかなど、当該社会福祉法人のおおよその経営内容の分析や把握は可能であったとしても、「競争上の地位を害すると認められるもの」というまでの経営分析や把握をより正確かつ詳細に行うためには、主要簿や補助簿その他多くの会計帳簿などの細目的資料の提出や法人の経理担当者からのヒアリングを受けない限り、当該社会福祉法人の経営上の秘密やノウハウに属するような情報までは得られないと考えられる。

以上のような社会福祉法人の有する公益的性質及び財務諸表の記載事項の概括性からして、実施機関としては、これらの情報のうち具体的な取引金融機関は非公開としているので、それ以外の部分を公開しても、当該社会福祉法人の競争上の地位その他正当な利益を害するまでの支障は生じないと判断して、部分公開する取扱いを行ってきたものであり、本件行政文書についても、同様の判断を行ったものである。

また、利用者やその家族が社会福祉施設を選択するに際して、最も重要視する要因は、従事する介護職員の知識、経験、技術の高低等によるその社会福祉施設が提供する介護サービスの質やどのような介護サービスを受けられるかである。

社会福祉施設において利用者が負担する介護報酬は、報酬基準表により全国一律にどの施設でサービスを受けても、同一の介護サービスであれば同一の金額であることから、利用者にとっては、当該施設を運営する社会福祉法人の経営状況は最優先課題ではない。

したがって、本件行政文書を公開することにより、仮に経理の専門家が分析して当該社会福祉法人のおおよその経営状態が把握できるとしても、そのことによって、一般の利用者やその家族による社会福祉施設の選択に大きな影響を及ぼすとまでは言えず、当該社会福祉法人の競争上の地位、すなわち、他の社会福祉施設との競合に客観的に明らかな影響を及ぼすものではない。

以上により、本件係争部分の記載事項については、公開しても異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。

(3)その他の適用除外事項に該当しないことについて

本件係争部分に記載されている情報が条例第8条及び第9条に規定する他の適用除外事項に該当するかについて、実施機関において再検討したが、本件係争部分には、貸借対照表に示され非公開と決定した取引金融機関名を除いては、個人のプライバシーに関する情報や法令の規定により公にすることができない情報等も含まれておらず、本件係争部分が条例第8条第1項各号及び第9条各号に規定する適用除外事項に該当しないことは明らかである。

5 異議申立人の主張について

本件係争部分に記載された情報の公開が、異議申立人の客観的な競争上の地位その他正当な利益を害するものでないことは前述のとおりである。

また、本件情報が公開請求者に開示されることによって、条例第8条の「競争上の地位を害する」との具体的に裏付ける証拠や特別の事情は明らかにされておらず、異議申立人の主張は抽象的な可能性ないしは主観的な危惧に止まるものであって、客観的に明らかなものということはできない。

さらに、異議申立人は、介護という公益性の高い事業を行う社会福祉法人であり、その収入の基本的部分が国民皆保険制度下における介護保険という公共性の高い資金によって賄われているものであることからすると、その全般的な財務状況に関する情報は、府民の正当な関心の対象となるべきものである。

そして、本件行政文書は、社会福祉法人の適正な運営の確保のため、社会福祉法の規定により、実施機関への提出が義務付けられているものであり、そのような社会福祉法人に対する監督行政が適切に行われているかどうかを府民が監視するために必要な文書ともいうことができる。

そもそも、条例は、府の説明責務を全うするため、府の保有する情報の原則公開及び「知る権利」の保障に資することを目的として情報公開制度を創設し、何人も目的の如何を問わずに行政文書の公開を請求できることとしたのであるから、公開請求に係る行政文書の開示が、抽象的に「競争上の地位を害する」ということだけで、公開を拒否することはできない。

6 結論

以上のとおり、本件決定は条例に基づき適正に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。

2 本件行政文書について

(1)社会福祉法人制度について

ア 社会福祉法人について

社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを目的として、社会福祉法の定めるところにより設立された法人である(社会福祉法第22条)。

イ 「法人調書」について

社会福祉法人は、毎会計年度終了後三月以内に、次の事項を所轄庁に届け出なければならないとされている(社会福祉法第59条第1項、社会福祉法施行規則第9条第1項)。

  • (ア)当該会計年度の初日における役員の氏名及び職業並びに代表権を有する者の住所及び年齢
  • (イ)前会計年度における事業の概要
  • (ウ)前会計年度末における主要な財産の所有状況
    また、上記事項の届出に際しては、次に掲げる書類を添付しなければならないとされている(社会福祉法施行規則第9条第3項)。
  • (エ)前会計年度末における貸借対照表
  • (オ)前会計年度の収支計算書

これらの届出について、実施機関では、「法人調書」として独自の様式を定めており、その添付書類としての貸借対照表等の計算書類を含めて、毎会計年度終了後3月以内の6月末までに届け出させることとしている。

(2)本件係争部分について

本件係争部分は、異議申立人が実施機関あてに提出した「平成16年度法人調書」の一部である「社会福祉法人会計基準の適用状況」及び添付の財務諸表(貸借対照表に記録されている取引金融機関名を除く部分)であり、その記録内容等はそれぞれ次のとおりである。

ア 「社会福祉法人会計基準の適用状況」

当該社会福祉法人の会計基準の適用状況が記録されている。具体的には、社会福祉法人会計基準を適用している(予定を含む。)場合は、適用している会計基準区分(社会福祉法人会計基準、指定介護老人福祉施設等会計処理等取扱指導指針、授産施設会計基準)及びその適用(予定)年月日が記録され、未適用の場合は、現に適用している会計方針(社会福祉法人経理規程準則、病院会計準則、公益法人会計準則、その他)が記録されている。

イ 財務諸表(貸借対照表に記録されている取引金融機関名を除く部分)
(ア)資金収支計算書

「経常活動による収支」、「施設整備等による収支」、「財務活動による収支」の区分により、勘定科目ごとの予算、決算及びその差異の金額が記録されている。

(イ)資金収支決算内訳表

(ア)のうち決算の金額について、本部及び各施設の経理区分ごとの内訳が記録されている。

(ウ)事業活動収支計算書

「事業活動収支の部」、「事業活動外収支の部」、「特別収支の部」、「繰越活動収支差額の部」の区分により、勘定科目ごとの本年度決算、前年度決算及びその増減の金額が記録されている。

(エ)事業活動収支内訳表

(ウ)のうち本年度決算の金額について、本部及び各施設の経理区分ごとの内訳が記録されている。

(オ)貸借対照表(取引金融機関名を除く部分)

「資産の部」、「負債の部」、「純資産の部」の区分により、科目ごとの本年度末、前年度末及び増減の金額が記録されている。

なお、資産の部には、異議申立人の取引金融機関の名称が記録されているが、本件決定においては非公開とされており、本件係争部分には含まれない。

3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由

異議申立人は、「『決算内容の公開』はこれまでの法的判例から、条例第8条第1項第1号に該当する。」、「厳しい自己責任・競争の時代の施設運営については、法人の自主努力としての『決算・収支に関する情報』の開示には条例第8条第1項第1号の『競争上の地位を害する』との観点からも同意しかねる。」などとして、本件係争部分に記録された情報が条例第8条第1項第1号に該当すると主張するので、検討したところ、以下のとおりである。

(1)条例第8条第1項第1号について

事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。

同号は、

  • a 法人(略)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、
  • b 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。)

が記録された行政文書は、公開しないことができる旨定めている。

本号の「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理に反する結果となると認められるものをいい、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、公開されることにより、事業を営む者に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうと解されるが、これらの具体的な判断に当たっては、当該情報の内容のみでなく、当該事業を営む者の性格や事業活動における当該情報の位置づけ等も考慮して、総合的に判断すべきものである。

(2)本件係争部分の条例第8条第1項第1号該当性について

本件係争部分は、社会福祉法人である異議申立人の会計基準適用状況及び財務諸表であるから、本件係争部分に記録された情報が(1)aの要件に該当することは明らかである。

次に、本件係争部分に記録されている情報が(1)bの要件に該当するかどうか検討する。

ア 「社会福祉法人会計基準の適用状況」について

「社会福祉法人会計基準の適用状況」を公にすることにより、当該法人の社会福祉法人会計基準の適用の有無とともに、適用している(予定を含む。)場合はその適用(予定)年月日が、未適用の場合は、現に適用している会計方針が明らかとなる。

しかしながら、これらの情報は、社会福祉法人が制度上許容されている会計基準のうち何れの基準を適用しているか等を明らかにする情報に過ぎない。当該法人の営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密を具体的に明らかにする情報は含まれておらず、また、このような情報をもって、公にすることにより、当該法人に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報であるとも言えない。

したがって、「社会福祉法人会計基準の適用状況」に記録されている情報については、これを公開しても、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するものではなく、(1)bの要件には該当しないと認められる。

イ 財務諸表(貸借対照表に記録されている取引金融機関名を除く部分)について

文書の性質上、公にすることにより、異議申立人の全般的な財務状況を把握することが可能な情報である。本件財務諸表に記録されている数値からは、様々な財務指標を算出することが可能であり、異議申立人の経営規模、資産構成、収支バランス等が把握できることが認められる。

しかしながら、本件決定においては、貸借対照表に記録されている異議申立人の取引金融機関名は非公開とされており、本件財務諸表のうち本件係争部分に含まれる部分には、他に異議申立人の福祉サービスや取引行為に関する具体的な情報は記録されていない。審査会において、本件財務諸表を見分したところによっても、異議申立人の営業上、技術上のノウハウや取引上、経営上の秘密が具体的に明らかとなるような情報は含まれていないことが認められた。

一方、異議申立人は、特別養護老人ホームの運営等の公益性の高い事業を行う非営利法人(社会福祉法人)であり、税制上の優遇措置や施設・設備整備補助金の交付を含めた各種の公的助成の対象となっていること、その収入の基本的な部分が介護保険という公共性の高い資金によって賄われているものであることからすると、その全般的な財務状況に関する情報は、府民の正当な関心の対象となるべきものである。

また、社会福祉法人は、法律上も、事業経営の透明性の確保を図らなければならないとされており(社会福祉法第24条)、その財務諸表についても、当該社会福祉法人が提供する福祉サービスの利用を希望する者その他の利害関係人から請求があった場合には、正当な理由がある場合を除いて、異議申立人自らが、これを閲覧に供しなければならない(社会福祉法第44条第4項)ほか、「開示請求があった場合は、・・・各都道府県市の情報公開条例に定める手続により、公開することが望ましい」との厚生省通知(平成12年12月1日付け障第890号、社援第2618号、老発第794号、児発第908号「社会福祉法人の認可について」第5(4))も発せられているところである。

これらのことからすると、本件財務諸表(貸借対照表に記録されている取引金融機関名を除く部分)に記録されている情報は、社会福祉法人という異議申立人の性格を考慮すれば、これを公にすることにより公正な競争の原理に反する結果となるとまで言うべきものではなく、異議申立人に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下をきたす情報又は団体の自治に対する不当な干渉となる情報であるとも言えない。

したがって、本件財務諸表(貸借対照表に記録されている取引金融機関名を除く部分)に記録されている情報については、これを公開しても、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するものではなく、(1)bの要件には該当しないと認められる。

以上のことから、本件係争部分に記録されている情報は、いずれも、条例第8条第1項第1号に該当しないと認められるものであり、また、このような判断を覆すに足りる判例等も見当たらないから、この点についての異議申立人の主張は、当を得ないものと言わざるを得ない。

4 結論

以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

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