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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第109号)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成16年7月21日、異議申立人は、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対して、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、別記行政文書についての30件の公開請求(以下「本件各請求」という。)を行った。
- 同年8月2日、実施機関は、条例第13条第1項の規定に基づき、本件各請求の全てについて、それぞれ請求に対応する行政文書として、「府立高等学校特色づくり・再編整備計画(全体計画)」(案)及び「府立高等学校特色づくり・再編整備計画(全体計画)平成15年度(第1年次)実施対象校」(案)(以下「本件公開文書」という。)を特定の上、全部を公開するとの決定(以下「本件各決定」という。)をそれぞれ行い、異議申立人に通知した。
- 同年9月27日、異議申立人は、本件各決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件各決定を取り消し、全ての関係文書の公開を求めるものである。
第四 異議申立人の主張
異議申立人の主張は概ね次のとおりである。
1 実施機関は、「情報公開条例」の趣旨を理解していない。
大阪府では、「公文書等公開条例」を「行政文書等公開条例」に作り直している。
これは、実際の行政場面では、公文書によらない実行行為が頻繁に行われており、公文書のみ公開対象とするのでは、行政の「説明責任」を十分に果たしていないことが明白となったからである。つまり、「非公文書=メモ」であることを根拠に、少なからずの行政官が条例の骨抜き、形骸化を図ってきたのである。私のこれまでの経験でも、「文書をつくらなければ・・」というお役人を少なからず見聞している。また、「公文書ではありません」と主張して公開を拒否する対応も多く見られた。
現行条例においても、「メモ」は公開対象文書ではない。では、「行政文書」であるのか「メモ」であるのか。どこで線引きされているのか。明確な基準が明示されておらず、担当者の恣意的判断が入る余地が大きいというのが実情である。
「公開法」なり「公開条例」なりが制定されるに至った経緯を考えると、そこには行政の秘密主義が横行し、主権在民が危機的状況に至っているという認識が強くなったからに他ならない。「法」や「条例」の制定の背景には民主主義に対する危機感があったのである。
行政官は、自身の業務の遂行=公権力の行使について、国民や府民に対して合理的説明を行うことが義務づけられている。つまり、「公開法」や「公開条例」があってもなかっても、行政行為についてきっちり説明する必要がある。
そこで、本事案について考えるとき、上記義務をはたしているといえるのか。答えは、「否」である。「説明会」等を開催したと言っておきながら「説明会」の内容は説明=公表できないと言っている態度は、とても説明責任を果たしているとはいえない。「行政文書等公開条例」においても、たとえ請求に該当する行政文書が存在しない場合であっても、メモ等から事情説明が可能であれば、文書化するなり口頭での説明をすることが、条例改廃の趣旨として盛り込まれているのである。
今回、実施機関が、メモであることを楯にとって、「説明会」等に関する文書を「不存在」として「説明責任」を逃れようとする態度は、府民に開かれた行政とはいえない。
2 本件請求を行った趣旨について
実施機関は、「府立高等学校の特色づくり・・」(素案)を2003年6月25日の委員会議の決定を受けて公表した。パブリックコメントを実施後、同年8月25日の同会議において「府立高校の特色づくり・・」(案)を会議でとりまとめ、公表した。これらの公表後、実施機関において、報道機関への・・・情報提供に努めるとともに、校長との連携の下に生徒や保護者、地元関係者、中学校進路指導担当者などに説明を行い、府民の意見や大阪府議会での審議を踏まえて、・・と述べている。
異議申立人は、前文下線部分の具体的内容を知りたくて、本件各請求を行った。つまり、実施機関が「誰が・いつ・どこで・誰に・何を」説明したのか。そして、先方がどのような感想なり意見を述べたのか。同意したのか、反対したのか。「府民の意見」とは、具体的には何をさしているのか、などが知りたかったのである。当然、実施機関は、説明の結果や府民の意見を踏まえて、それらの総意を反映した施策を構築しているはずである。
実施機関が実施した説明会における中学校側や府民の意見が「特色づくり」に「反対」しているにもかかわらず今回の施策を強行しているのならいざ知らず、関係者の賛同を得ているのであれば、これらの説明会などの状況を秘匿する理由は何も無いはずである。
3 本件各決定により公開された行政文書について
公開された文書は、ホームページ等でも一般公開された冊子であり、行政文書公開請求によって公開を求める文書に該当しない。行政庁の本件各請求にかかる処分で言えば「公開処分」にはあたらない。本来は、文書不存在による非公開処分とすべき事案である。本件各請求に対しては、「みなし非公開」と判断する。
請求文書の中に第三者情報が含まれているのであれば、当該者に公開の是非を問い合わせた上で公開の是非を判断すると条例に定められている。第三者への慮りで文書不存在とすることは、行政庁のとるべき対応としては許されない。
請求文書の中に公開によって著しい支障を生じる恐れのある文書が含まれているのであれば、適用除外事項(第8条、第9条)とすればすむところを、本件事案についてはあえて不存在としていることについて、合理的説明がなされていない。よほど秘匿すべき事実があるのか。
4 復命書について
出張後の報告、いわゆる復命書については、実施機関が記している通り「作成すべき」もので、現場運用上「軽易な事項については口頭で復命することができる」となっているだけであり、本来は存在していてしかるべきものである。それがなぜ作成されなかったのか。軽易な事項とは、具体的にはどういうものかについての説明が一切なされていない。
出張した部下から出張の結果を口頭で復命された上司は、その内容によって次なる行政ステップに進むのか否かを判断し、新たな用務を部下に命じ、あるいは当該上司に報告して新たな意思決定を行うのではないのか。このように、日常の行政では、いわゆるフィードバックによる行政が進められているはずである。このフィードバックにおいて、出張内容が重要なものとなる場合がきっとあるはずである。
本件各請求のすべてが、軽易なものであるとするのであれば、軽易であるとする根拠を示すべきではないか。
5 行政文書の作成と行政の説明責任について
実施機関は、「復命書がないから出張の内容は公開できない」と主張する。しかし、復命書がないから説明責任を果たせないというのか。
「説明会」が行われていながら、会議次第や資料等が一切存在しないことは摩訶不思議であるといわねばならない。参加者のプロフィールや内容の記録が一切存在しないことが、公務を遂行する上で有り得るのか。実施機関の対応は、何か知られたくないやましいことがあるのか、と勘ぐりたくなるほど奇妙なものである。
実施機関は、話し合いの中で、「メモはあるが記録はない」「要請文や受領文・収受文書等一切ない」と発言している。そこで、当方が「メモを清書してほしい」と申し出ると、「お断りする」との返答であった。メモを清書しないという姿勢は、情報公開条例の「出せるものは工夫して可能な限り出すべし」の趣旨に反する行為であり、また、昨年11月に審査会が実施機関に出した答申にも反する行動である。
「この出張は、手ぶらで行って手ぶらで帰ってきたのか」との問いかけには、「そう思われても仕方がないが、メモはある」との一点張りであった。監査委員事務局から「もう少し詳しく説明をしてはどうか」という仲介にも耳を傾けず、実施機関の態度はかたくなであった。コンプライアンスが全くみられない対応といわざるを得ない。
先に行った請求により公開された行政文書において、旅費の支給額が非公開となっているが、誰が見ても明らかである金額でも非公開としている点に、なぜ非公開とするのか強い疑念が残る。
本来、府職員は、その職務や行動に関しては、府民が理解と納得をする十分な説明をする責任がある(アカウンタビリティ)。今回の出張について、相手方や業務の内容について詳細な説明をなぜしないのか。実施機関は、アカウンタビリティやコンプライアンスといった職務に違反をしてまで、何を隠そうとしているのか。本件出張が本当におこなわれたのか、疑いを持たざるを得ない。
確かに、復命書の存否に関しては、違法性はないとしても、復命書がないから説明責任を果たさなくてもよいことにはならない。「条例」の趣旨からは、復命書があろうとなかろうと、説明すべきは説明しなくてはならないのである。公務で出張しているのであるから、その内容は説明できるはずである。本件各請求においては、ただ説明根拠となる行政文書=復命書が存在していないということだけなのである。メモが存在するといっている以上、そのメモをよりどころとした説明が可能なのであるから、説明を一切拒否する対応は許されない。
6 結論
以上の観点から、本件「みなし非公開処分」を取り消し、すべての関係文書の公開を要望する。たとえメモであったとしても、復命すべき事項が記入されているはずであるから、公開されるよう要望する。
「条例・規則に反していないから正義である」とするこれまでの実施機関の態度は、府民に開かれた行政を標榜する大阪府としては通用するものではない。また、通用させてはならない。
実施機関のこのような誤った「公開条例」に対する認識を是正してもらうためにも、メモであると主張する部分についても、行政文書とみなして公開を命じる答申を求める。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張を総合すると概ね次のとおりである。
1「府立高等学校特色づくり・再編整備計画(全体計画)」策定の経過
「全日制府立高等学校特色づくり・再編整備」については、生徒減少期を教育環境・教育条件など教育の質的向上を図る好機と捉え、平成11年度に策定した「教育改革プログラム」に基づき、平成11年度から平成20年度までの10カ年計画として府立高校の改革を推進しているところである。
このような中、今後の後期中等教育のあり方について諮問した大阪府学校教育審議会から、平成14年5月に、多様なニーズを持つ生徒が目的意識を持って学ぶことができる多部制単位制高校(クリエイティブスクール)の設置と、これに従前の全日制の課程を合わせた「昼間の高等学校」という新たな枠組みに対応した進学率を設定すること、及び多部制単位制高校(クリエイティブスクール)の整備に伴う夜間定時制の課程の学校規模や配置のあり方について検討する必要があるとの答申を得た。
また、今後の府立工業高校のあり方について諮問した大阪府学校教育審議会の平成15年5月の答申においては、社会経済情勢の変化に伴い、工業高校に求められる方向として、「実践的な技術・技能を身につけるために専門分野の深化をめざす」、「高度な専門性を身につけるため高等教育機関への接続をめざす」との二つの方向性を基に、今後めざすべき教育内容とその実現に向けた取組みや、適正規模及び適正配置のあり方、工業高校に併置されている夜間定時制のあり方についての方向性が示されたところである。
このような諸課題は、いずれも相互に密接な関連を有するものであり、また、進路指導をはじめとする中学校教育に多大な影響を与えるものである。このため、実施機関においては、これらの答申を踏まえ、全日制の課程の高校に、多部制単位制高校(クリエイティブスクール)を加えた「昼間の高等学校」、及び夜間定時制の課程を包括した「府立高等学校特色づくり・再編整備計画(全体計画)」(以下「全体計画」という。)を策定し、今後の府立高校の改革を計画的に推進していくこととしたところである。
2 全体計画及びこれに基づく平成15年度実施対象校の決定、周知について
府立高校の特色づくり・再編整備については、その内容について説明責任を果たすため、広く府民に周知し、広範な議論を踏まえて計画を決定し、推進していくことが必要である。
このため、実施機関においては、平成15年6月25日の教育委員会会議に全体計画(素案)を諮り、その了承を得て公表した。
その後、同年6月26日から7月25日にかけてパブリックコメントを実施し、府民の意見などを踏まえて、同年8月26日に全体計画(案)及び、「全体計画平成15年度(第1年次)実施対象校(以下「15年度対象校」という。)(案)」を教育委員会会議でとりまとめ、公表した。
これら案の公表後、実施機関において、報道機関への情報提供の他、「府政だより」やホームページなど様々な広報媒体を通じた情報提供に努めるとともに、校長との連携の下に生徒や保護者、地元関係者、中学校進路指導担当者などに説明を行い、府民の意見や大阪府議会での審議を踏まえて、平成15年11月25日の教育委員会会議において、全体計画及び15年度対象校を決定したところである。
3 本件各請求に係る行政文書の特定及び本件各決定の適法性
(1)出張した用務内容や用務相手方等がわかる文書一式及び復命書について
実施機関においては、先に述べたように、平成15年8月に全体計画(案)及び15年度対象校(案)を公表後、市町村教育委員会や公立中学校長会、中学校進路指導担当者、PTA関係者等に対して、これら案の説明を行った。
説明にあたっては、これらの関係者が開催する会議のなかで、案を説明するための所要の時間枠に当課員が出席し、説明終了後に退席する、あるいは直接担当職員等に対して説明するといった方法で、その内容の周知に努めたところである。
これについては、異議申立人から平成16年4月16日付けで、「実施機関の対応として(1)教育関係者への説明、(2)対象校所在市町関係者への説明に関する文書資料等一式についての行政文書」の公開請求を受け、実施機関において、同年5月17日、旅行命令簿兼精算旅費内訳書等を対象行政文書として特定した上で、条例第9条第1号に該当する部分を除き部分公開を行ったところである。
出張後の報告、いわゆる復命については、大阪府教育委員会事務局処務規程第30条に「出張した職員は、その用務が終わったときは、速やかに、帰庁し、復命書を提出しなければならない。ただし、軽易な事項については口頭で復命することができる。」と規定している。また、この復命の取り扱いについては、会計事務適正化のための取り組みの一環として、平成10年4月1日から管外出張等については、「職員が府外へ出張した場合又は府内で宿泊を伴って出張した場合には、大阪府教育委員会事務局処務規程第30条ただし書きに規定する簡易な事項には当たらず、復命書を提出しなければならないこととする。」とした。従って、宿泊を伴わないで府内へ出張した場合、いわゆる、管内出張については、軽易な事項であれば、口頭で復命することが認められている。
異議申立人の請求はいずれも管内出張に関するものであり、かつ、その目的が全体計画(案)及び15年度対象校(案)の趣旨や内容の説明、周知を行うというものであり、特に文書という形で記録し、報告するような結果とならなかったため、各々の出張者はその都度、口頭で上司に復命を行ったところであり、本件各請求に係る復命書は作成していない。
このことから、当時の出張記録としては、先に示した旅行命令簿兼精算旅費内訳書しか存在しない。
(2)出張先等を一覧にしたメモについて
異議申立人が公開を求めるメモとは何をさすのか明らかでないが、一連の出張が終了した後、課員の一人が、説明もれがないかをチェックするため、各担当者の説明日時、相手方を一覧にしたものは作成した。
しかし、当該一覧表は、組織的に用いることなく、課員が自己の執務の便宜のために個人的に作成したものであり、行政文書にあたらないため、公開対象としなかったものである。
以上のことから、異議申立人が行政文書として公開請求した内容のうち、実施機関の職員が本件に係る出張により出席した会議等において関係機関に対する説明のための資料として用いた本件公開文書を対象行政文書として特定し、全部公開決定を行ったものである。
4 結論
以上のとおり、本件各決定は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保するとともに、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。
2 全体計画及び15年度対象校の決定と本件各請求に至る経過について
実施機関の説明等を総合すると、以下のことが認められる。
実施機関は、平成11年度に策定した「教育改革プログラム」に基づき、平成11年度から平成20年度までの10カ年計画で府立高校の改革を推進している。
平成14年5月及び平成15年5月にそれぞれ、大阪府学校教育審議会から示された、「今後の後期中等教育のあり方について」及び「今後の府立工業高校のあり方について」の二つの答申を踏まえ、全日制の課程の高校に多部制単位制高校(クリエイティブスクール)を加えた「昼間の高等学校」と夜間定時制の課程とを包括した全体計画を策定し、今後の府立高校の改革を計画的に推進しているところである。
全体計画の策定に当たって、実施機関は、平成15年6月25日の教育委員会会議で全体計画(素案)を諮り、その了承を得て公表するとともに、パブリックコメントを実施し、その結果得られた府民の意見などを踏まえて、同年8月26日の教育委員会会議で全体計画(案)及び15年度対象校(案)をとりまとめ、公表している。
その後、実施機関は、これら案について、報道機関への資料提供のほか、「府政だより」やホームページなどの広報媒体を通じて周知に努めるとともに、関係校の生徒や保護者、地元関係者、中学校進路指導担当者などに説明を行った上、府民の意見や大阪府議会での審議の結果を踏まえて、同年11月25日の教育委員会会議において、全体計画及び15年度対象校を決定している。
本件各請求は、このような経過の中で、実施機関の関係職員が、平成15年8月27日から10月9日の間に「説明会」、「高校改革用務」又は「会議」として、特定の場所に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式及び復命書の公開を請求したものである。
なお、異議申立人は、本件各請求に先立って、平成16年4月16日にも、実施機関に対する行政文書公開請求を行っており、実施機関は、異議申立人に対し、同年5月17日付けの部分公開決定に基づき、次の(1)~(7)に掲げる行政文書の全部又は一部の公開を実施していることが認められる。
- (1)全体計画(案)及び15年度対象校(案)の送付文書
- (2)全体計画(案)
- (3)15年度対象校(案)
- (4)職員会議録(25校分)
- (5)生徒への配布文書(2校分)
- (6)保護者への配布文書(15校分)
- (7)旅行命令簿兼精算旅費内訳書
3 本件各決定に係る具体的な判断及び理由
本件異議申立てにおいて、異議申立人は、本件各決定における対象行政文書の特定が条例に違反している旨主張していると解されるので、以下検討する。
(1)条例第2条第1項について
行政文書公開請求の対象となる「行政文書」の意義については、条例第2条第1項に「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図面、写真又はスライド並びに電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」をいう旨規定されている。
「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」とは、作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該実施機関の組織において業務上必要なものとして利用・保存されている状態のものなどを意味する。
したがって、正式文書とは別に職員が自己の執務の便宜のために保有する複写物や個人的な検討段階のメモで未だ組織的な検討に付されていないものなど、個人で自由に廃棄しても組織上・職務上支障がない個人メモ等は、これに該当しないが、このような個人メモ等として作成又は取得されたものであっても、原則として、課長補佐に相当する職以上の職にある者を含めた複数の職員による検討に付され、その結果、これらのものが共用するに至るなど、実施機関の組織において業務上必要なものとして利用・保存されるに至った場合は、職員個人の段階のものとはいえず、「組織的に用いるもの」に該当することになる。
なお、同項ただし書きの規定により、「実施機関が、府民の利用に供することを目的として管理しているもの」及び「官報、公報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数のものに販売することを目的として発行されているもの」は、行政文書の範囲から除かれるが、これらと同一の文書であっても、他の行政文書の添付書類となったり、特定の用途に用いられるなど何らかの意味が付け加わったものについては、行政文書公開請求による公開の対象となり得ると解される。
(2)本件公開文書を本件各請求に対応する行政文書として特定したことについて
異議申立人は、本件公開文書は、ホームページ等でも一般公開された冊子であり、行政文書公開請求による公開の対象となる行政文書に該当しない旨主張していると解される。
そこで、この点について検討するに、本件公開文書については、確かに、その内容が、実施機関のホームページ等で公表されており、また、実施機関が先に異議申立人に公開した文書にも含まれているものでもある。しかしながら、本件各請求は、異議申立人が、それぞれ特定の出張の「用務内容や用務相手等がわかる文書一式」等の公開を求めたものであり、実施機関は、これら出張の「用務内容がわかる文書」として、本件公開文書を特定したものであることが認められた。
以上のことからすると、本件公開文書は、「実施機関が、府民の利用に供することを目的として管理しているもの」と同一ではあるものの、本件各請求に係る特定の出張の説明資料に用いられたという意味が付け加わったものとして本件各決定の対象行政文書とされたと言うべきであるから、実施機関が、本件各決定において、本件公開文書を、本件各請求に対応する行政文書として特定したことについては、(1)で述べたところに照らして、妥当であると認められる。
(3)本件公開文書以外の本件各請求に対応する行政文書の存否について
ア 出張の報告又は復命書について
本件各請求に係る行政文書に対応する出張の報告又は復命書が存在しないことについての実施機関の説明は、概ね次のとおりである。
本件各請求に係る出張は、実施機関の職員が全体計画(案)及び15年度対象校(案)について、これらの公表後に市町村教育委員会や公立中学校長会、中学校進路指導担当者、PTA関係者等に対して説明するために行ったものであり、これら関係者が開催する会議の中で、案を説明するための所要の時間枠に担当課の職員が出席し、説明終了後に退席する、あるいは直接相手方の担当職員等に対して説明するといった方法で、その内容の周知に努めたものである。
出張後の報告、いわゆる復命については、大阪府教育委員会事務局処務規程等により、宿泊を伴わないで府内へ出張した場合、いわゆる管内出張については、軽易な事項であれば、口頭で復命することが認められているところであり、本件各請求がいずれも管内出張に関するものであり、かつ、その目的が全体計画(案)及び15年度対象校(案)の趣旨や内容の説明、周知を行うというものであったことから、特に文書という形で記録し、報告するような結果とならなかったため、各出張者はその都度、口頭で上司に復命を行ったところであり、本件各請求に対応する復命書等は作成していない。
当時の出張記録としては、異議申立人が本件各請求に先立って行った公開請求を受け、実施機関が平成16年5月17日付けで行った部分公開決定に基づいて公開を実施した旅行命令簿兼精算旅費内訳書があるが、これらの文書については、既に異議申立人に対して公開済みであったことから、当該文書を本件各請求に対応する行政文書として特定しなかったものである。
これらの説明については、本件各請求に係る出張が全体計画(案)及び15年度対象校(案)の内容を関係者に説明、周知するためのものであり、説明に当たっては、これら関係者が開催する会議の中で、所要の時間枠に担当職員が出席し、説明終了後に退席するといった方法で実施したものであることからすると、特段、不自然な点は認められなかった。
イ 職員が作成したメモ等について
異議申立人は、「実施機関は、話し合いの中で『メモはあるが記録はない』と発言している。」旨指摘している。これに対して、実施機関は、「異議申立人が公開を求めるメモとは何をさすのか明らかでないが、一連の出張が終了した後、課員の一人が、説明もれがないかをチェックするため、各担当者の説明日時、相手方を一覧にしたものは作成した。」と説明している。
そこで、この実施機関の職員が作成したとされるメモ(以下「本件メモ」という。)が、本件各請求に対応する行政文書に該当するかどうか実施機関の説明及び審査会において本件メモを見分した結果により検討するに、本件メモについては、事務の総括を担当する職員が、説明もれがないかどうかチェックするために、説明の対象者(会議名)、日時、場所、出席者(職員の姓)といった定型的な事項を、出席した職員から順次、口頭で聞いて書き留めたものであること、また、作成者である職員が、自己の執務の便宜のために個人的に作成したものであるため、上司への供覧等をすることもなく、作成者である職員のパソコンに保存したままになっていたものであることが認められる。
これらのことからすると、本件メモは、本件各請求の時点においても、専ら作成者である職員のみが利用し、個人的に管理しているものであって、(1)で述べたところに照らし、「実施機関の職員が組織的に用いるものとして当該実施機関が管理しているもの」とまでは言えず、条例第2条第1項に規定する行政文書には該当しないと認められる。また、本件メモ以外には、本件各請求に対応する行政文書に該当するかどうか検討を要する文書等の存在は確認されなかった。
以上のことから、実施機関が、本件各決定において、本件公開文書以外に、本件各請求に対応する行政文書を特定しなかったことは妥当であると認められる。
(4)異議申立人のその余の主張について
異議申立人は、「たとえ請求に該当する行政文書が存在しない場合であっても、メモ等から事情説明が可能であれば、文書化するなり口頭での説明をすることが、条例改廃の趣旨として盛り込まれている」ことから、実施機関が「メモを清書しないという姿勢は、情報公開条例の『出せるものは工夫して可能な限り出すべし』の趣旨に反する行為であり、また、昨年11月に審査会が実施機関に出した答申にも反する行動である。」とし、「たとえメモであったとしても、復命すべき事項が記入されているはずであるから、」「メモであると主張する部分についても、行政文書とみなして公開を命じる答申を求め」ている。
確かに条例はその前文において、府の責務として、その諸活動を府民に説明する責務を挙げ、行政文書の公開を求める権利を明らかにしている。また、第3条の規定において、「実施機関は、行政文書の公開を求める権利が十分に保障されるように、この条例を解釈し、運用するとともに、行政文書の適切な保存と迅速な検索に資するための行政文書の管理体制の整備を図らなければならない。」こととされている。
しかしながら、条例第6条の規定は、請求者に対して、実施機関が現に管理している行政文書の公開を請求する権利を認めるものであって、新たに行政文書を作成した上で公開することを請求する権利を認めたものではない。したがって、当審査会としては、本件メモが条例第2条第1項に規定する行政文書に該当しない以上、これを新たに「行政文書」化して公開するよう求めることはできないのであって、この点についての異議申立人の主張は採用することができない。
なお、当審査会は、平成15年11月25日付け答申(大公審第83号)において、実施機関に対し、「今後の再編整備の推進に当たっては、府として府民に説明する責務を全うし、府民の府政への参加を推進していく上で必要となる文書の作成・保存についても、十分配慮」するよう求めたが、遡って新たな行政文書の作成を求めたものではない。
また、本件メモについては、上述のとおり、本件各請求の時点においても、作成者である職員の個人メモであり、条例第2条第1項に規定する行政文書には該当しないと認められるが、府立学校の再編整備という社会的影響の大きな重要施策に係る全体計画や実施対象校の案を、実施機関として、関係者に説明、周知するにあたり、説明の対象者に遺漏がないかどうかを確認するためという本件メモの作成目的からすれば、「実施機関の職員が組織的に用いる文書」として作成・管理すべきものであったと考えられ、府として、その諸活動を府民に説明する責務を全うする上でも、今後、このような文書の作成・管理については、十分に配慮されるよう望むものである。
4 結論
以上により、実施機関が、本件各決定において、本件公開文書のみを、本件各請求に対応する行政文書として特定したことは妥当であると認められるから、本件異議申立ては理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
別紙
- Aさんが2003年9月29日に説明会として南河内府民センターに出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Aさんが2003年9月19日に説明会として北河内府民センターに出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Bさんが2003年9月16日に高校改革用務として大阪市立天王寺中学校に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Cさんが2003年9月18日に高校改革用務として北河内府民センターに出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Dさんが2003年9月19日に高校改革用務として中河内府民センターに出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Eさんが2003年9月29日に高校改革用務として泉南府民センターに出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Fさんが2003年9月29日に高校改革用務として泉南府民センターに出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Cさんが2003年9月25日に高校改革用務として泉北府民センターに出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Gさんが2003年9月5日に高校改革用務として府教育会館に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Hさんが2003年9月5日に高校改革用務として府教育会館に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Iさんが2003年9月29日に高校改革用務として豊能府民センターに出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Cさんが2003年10月1日に高校改革用務として三島府民センターに出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Jさんが2003年9月29日に高校改革用務として南河内府民センターに出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Gさんが2003年9月22日に高校改革用務として大阪市教育センターに出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Hさんが2003年9月22日に高校改革用務として大阪市教育センターに出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Hさんが2003年9月10日に高校改革用務として府教育会館に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Eさんが2003年8月27日に高校改革用務として府城東庁舎に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Dさんが2003年9月12日に高校改革用務としてホテルアイボリーに出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Dさんが2003年10月9日に高校改革用務として大阪市教育センターに出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Jさんが2003年9月11日に高校改革用務として八尾市役所に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Eさんが2003年9月16日に高校改革用務として岸和田市役所に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Bさんが2003年9月11日に高校改革用務として八尾市役所に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Jさんが2003年9月16日に高校改革用務として岸和田市役所に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Bさんが2003年9月8に高校改革用務として南河内郡美原町役場に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Jさんが2003年9月8日に高校改革用務として南河内郡美原町役場に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Bさんが2003年9月2日に高校改革用務として吹田市民会館に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Kさんが2003年10月3日に高校改革用務としてアウィーナ大阪に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Aさんが2003年9月16日に説明会として天王寺中学校に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Lさんが2003年8月27日に会議として府城東庁舎に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書
- Lさんが2003年9月10日に会議として府教育会館に出張した用務内容や用務相手等がわかる文書一式および復命書