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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第107号)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 異議申立人は、平成16年6月3日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府水道企業管理者(以下「実施機関」という。)に対し、「(大阪府水道部にかかる)安威川ダム事業に係る浄水場予定地の土地台帳・補償台帳、登記簿、契約書」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 実施機関は、平成16年6月14日、本件請求に対応する行政文書として、「安威川ダム事業にかかる浄水場予定地の固定資産台帳、登記簿謄本、土地売買契約書」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(1)の部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を(2)のとおり付して、異議申立人に通知した。
- (1)公開しないことと決定した部分
- ア 固定資産台帳の土地代(単価、金額)、合計額、土地代金支払内訳、補償金支払内訳(同一年度内に単独の土地所有者から土地開発公社が取得している場合に限る。)
- イ 土地売買契約書の売買代金及び内訳(土地取得費、補償費、事務費、利子支払額)(同一年度内に単独の土地所有者から土地開発公社が取得している場合に限る。)
- ウ 土地売買契約書の土地の単価及び金額
- エ 費用償還契約書の総額及び内訳(補償費、事務費、利子支払額)
- (2)公開しない理由
- ア 大阪府情報公開条例第8条第1項第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には法人が所有する土地の売買代金等が記載されており、これらを公にすることにより当該法人の競争上の地位、その他正当な利益を害すると認められる。 - イ 大阪府情報公開条例第8条第1項第4号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)に記載された情報は、安威川ダム建設事業にかかる浄水場予定地の土地代金、補償金等の情報が記載されており、これらを公にすることにより、今後、事業を進めるにあたって、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、これらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす恐れがある。 - ウ 大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には個人が所有する土地の売買代金等が記載されており、これらの情報は個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが適当であると認められる。
- ア 大阪府情報公開条例第8条第1項第1号に該当する。
- (1)公開しないことと決定した部分
- 異議申立人は、平成16年7月16日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定を取り消すとの処分を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は概ね以下のとおりである。
- 実施機関は大阪府営水道第7次拡張事業(以下「第7次拡張事業」という。)のもと、安威川ダム予定地付近に浄水場建設を計画し、大阪府土地開発公社(以下「公社」という。)が実施機関に代わって地権者との交渉を行い用地買収を行ってきた。
公社の取得した土地は、土地売買契約(土地代金、利息、事務費を含める。)を締結後、実施機関が取得し、固定資産台帳によって管理されている。 - 本件固定資産台帳及び売買契約書等は、公社より取得した土地の単価・金額であり、法人・個人の資産を表示したものではなく、個人情報や法人情報にあたらない。
- 仮に個人情報や法人情報にあたったとしても、用地買収費や物件補償費等については、国や大阪府などの公共団体から支弁する公費から支払われ、個人や法人は租税特別措置法等によって一定の優遇を認められており、事業の透明性を検証する上からも土地の単価や金額の公開は必要不可欠である。
- 公社は浄水場予定地の土地をすべて買収しており、固定資産台帳及び売買契約書等を公開しても、本件事業の進捗に支障をきたすとはとうてい考えられない。
- 府民的関心の高い本件情報を開示することは、府民が事業を検証する上からも必要不可欠である。
- 以下のように、安威川ダムはその必要性に疑問があり、ダム本体や利水機能が中止になった場合本件浄水場は不要となり、大阪府は、税金で購入した「土地代金等」の情報開示をすべからく行う責務がある。
- (1)大阪府外部監査人(安威川ダム浄水場の中止検討要請)
2004年2月20日、水道事業の監査を行ってきた大阪府外部監査人は「上水道は、確保されており、工業用水も余る可能性があるとしてダム計画に併せた上水道建設の中止を検討するよう求める監査人報告書を大阪府に提出した。」「府水道部を対象に包括外部監査をした児玉憲夫弁護士は、府が造成した産業用地への企業進出が進んでいない現状では、さらに工業用水が余る可能性を指摘。現在の給水可能性が1日あたり233万トンなのに対して、実績は最大で212万トンにとどまっていることから府の需要予測を疑問視し、浄水場建設中止を含めた検討をすべきである。」(以上、2月20日朝日新聞) - (2)大阪府建設事業評価委員会(2004年2月26日)
「水需要の必要性は確認できない」「府に利水面を再検討し、同委員会が結論を出すまで本体着工を凍結するよう太田知事に意見書を提出」(以上、2月27日読売新聞) - (3)大阪府の対応(是非、平成16年中に判断)
上記の意見具申を受けて大阪府知事は、「利水機能について、早急に将来の水需要予測を検討」「精査に着手し、平成16年中に府としての方向性を明らかにする」(平成16年3月5日、朝日新聞)と2004年3月府議会において答弁し、大阪府水道部経営・事業等評価委員会において審議が行われている。
- (1)大阪府外部監査人(安威川ダム浄水場の中止検討要請)
- ダム事業等の公共事業は、長い歳月と莫大な税金が投入されるが、このような公共事業が無駄なく行われているかを府民が事業遂行中に検証する手法は未だ確立されていない。「公共事業走り出したら止まらない」とされる所以でもある。安威川ダムを例にとっても、当初は、836億円であったものがその後1,400億円にふくらむなど不明朗な税金の使い道が指摘されているが、大阪府や公社が個々の用地・補償費の金額を明らかにしないため検証はできていない。
- (1)大阪府の土地代金等の公開基準
安威川ダム事業用地の土地代金等の公開基準については平成13年4月に、情報公開審査会の答申を踏まえて、
「ダム事業などの公共事業に伴う用地買収や物件補償等については、全て国や府など公共団体が支弁する公費から支払われるものであり、これによる個人や法人の収入については租税特別措置法等により一定の税制優遇措置が認められることなどから、先に述べた国の基準や執行状況については、本来、一般に明らかにされるべきものである。」
「少なくとも当該公共事業が全て完了した後においては、公開を望まない者が多いとの理由のみをもって、これを公にすることにより、用地買収の交渉等に関する事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認めることはできないというしかない。」
(平成13年4月20日、安第31号決定書)と一定の基準を示している。 - (2)大阪府監査委員意見書
安威川ダムは、利水機能からの撤退が明らかになり、大阪府監査委員も意見書で「利水機能が見直しとなった場合を考慮し、利水部分については既買収地を含め、将来の管理問題への対応策を検討する必要がある」と指摘している。(平成16年10月8日記者発表・「意見票」)
監査委員意見は、事業収束後の管理体制にまで言及している。 - (3)大阪府の公開基準では、事業途中について府民の検証(税金の使い道が適正に執行されているのか)に道をふさぐことになり、承服することはできないが、本件浄水場は、安威川ダム建設と相関連をなすものであり、ダム事業が中止になれば必要のない施設であり、利水機能からの撤退が明らかになった時点で事業が完了したものと言える。
したがって、大阪府の基準に照らしても浄水場に関する土地代金等を公開しても「用地買収の交渉等に関する事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認めることはできない」
- (1)大阪府の土地代金等の公開基準
- 本件で異議申立人が問題としている同じ内容で、大阪地方裁判所(平成12年(行ウ)第124号)と大阪高等裁判所(平成14年(行コ)第57号)とで異なる判決が出ているが、異議申立人としては、大阪地方裁判所の判決(同判決は、買収価格等について、条例第8条第1号(現第8条第1項第1号)、第9条第1号及び第8条第4号(現第8条第1項第4号)の何れにも該当しないと判断している。)を支持する。
大阪地方裁判所の判決にもあるように、全国で公開されているということではないが、公開されている横浜などで紛争が起きて裁判になっているとか、地権者が絶対売らないということになっているということは聞いていない。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね以下のとおりである。
1 安威川系浄水場建設事業
(1)安威川系浄水場の概要
大阪府では、昭和55年から、一日最大給水量265万立方メートル、給水対象市町村32市8町1村を目標とする第7次拡張事業を開始している。大阪府営水道は、水源をすべて淀川に依存して施設の拡張を進めてきたが、上流で開発される水源を含めても、淀川のみでは第7次拡張事業で必要な水量のすべてを充足することは困難であった。
このような状況において、新たな水源として期待していた安威川ダムの建設事業が具体化したことから安威川を新たに水源に加えた水道施設整備を第7次拡張事業に盛り込んだ。また、安威川からの新規利水により、大阪府営水道は従来の淀川だけに頼る単一水源依存型から、複数水源依存型の給水体制に移行し、より安定的に水道用水を供給することが可能になるとともに、万一、一つの水源に事故が発生した場合にも、他の水源で供給を行うなど、危機管理を徹底することが可能となる。
(2)安威川系浄水場予定地の概要
- ア 規模 約17,000平方メートル
- イ 位置 桑原地区
- ウ 全体金額 約1,550,000千円
(3)安威川ダム事業に係る浄水場建設事業予定地の取得について
昭和55年4月1日、実施機関、公社及び大阪府知事は、実施機関が行う第7次拡張事業に要する土地の取得、地上権の設定及び支障物件の移転等に関する一切の補償並びにこれらに付随する業務(以下「事業用地の取得等」という。)について協定を締結し、「実施機関は、事業用地の取得等を公社に委託するものとし、単位年度毎に区域を定め、別途公社と委託契約を締結する」ことを定めている。
平成14年8月15日、上記協定に基づき、実施機関と公社は「大阪府営水道第7次拡張事業用地の取得等に関する契約書[安威川系浄水場建設予定区域における用地取得等]」を締結し、「実施機関は、安威川系浄水場建設予定区域(茨木市大字桑原地内)における土地(以下「事業用地」という。)の取得及び支障物件移転等の補償等に係る業務を公社に委託」し、「公社が、事業用地の所有権を取得するとともに、支障物件移転等の補償を行なう」ことを定めている。
(4)事業用地の取得状況
平成16年3月31日現在、公社が事業用地の8割に当たる13,197.14平方メートルを取得し、そのうち9,260.93平方メートルについて実施機関が買い戻しを完了している。
2 本件行政文書について
(1)安威川ダム事業にかかる浄水場予定地の固定資産台帳
固定資産台帳は、水道部が管理する土地等の固定資産を記録し及び整理するために備えることとされている会計帳簿の一つであり、事業管理室長が担当者と定められている。(大阪府水道部会計規程第10条)
その記載事項は「事業名」、「施設名」、「所在地」、「地目」、「地番」、「地積(公簿、実測)」、「売主(売主の前所有者を括弧書で記載)」、「支払伺決裁年月日」、「契約年月日」、「登記年月日」、「土地代(単価、金額)」、「国庫補助金」、「異動事項」、「土地代金支払内訳」、「補償金支払内訳」、「耕作(借地)権利者住所氏名」、「備考」等の項目からなる。
このうち、本件決定において公開しないこととしたのは「土地代(単価、金額)」、「合計額」、「土地代金支払内訳」、「補償金支払内訳」の各欄に記載された金額の部分である。
(2)安威川ダム事業にかかる浄水場予定地の土地売買契約書(物件移転補償等に要した費用の償還に係る費用償還契約書を含む。)
上記契約書は、「大阪府営水道第7次拡張事業用地の取得等に関する契約書[安威川系浄水場建設予定区域における用地取得等]」に基づき、大阪府(代表者大阪府水道企業管理者)と公社との間で締結したものである。
その記載事項は土地売買契約書については「売買代金」、「売買代金の支払時期」、「所有権移転の時期」、「占有の移転等」、「完全な所有権移転の義務」、「登記の嘱託等」、「契約書の作成費用」、「疑義の決定」、「土地の表示」等の項目からなり、費用償還契約書については「費用の額」、「費用の支払」、「疑義の決定等」、「費用償還の対象となる補償物件」等の項目からなる。
このうち、本件決定において公開しないこととしたのは、土地売買契約書の「売買代金及び内訳(土地取得費、補償費、事務費、利子支払額)」(同一年度内に単独の土地所有者から公社が取得している場合に限る。)、「単価及び金額」の各欄及び費用償還契約書の「総額及び内訳(補償費、事務費、利子支払額)」の欄に記載された金額の部分である。
3 条例第8条第1項第4号に該当することについて
本号は、行政が行う事務事業に係る情報のうち、当該事務事業の性質、目的等から執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれのあるものがあることから、このような支障を防止するために、これらの情報については、公開しないことができる旨を定めたものである。
本件非公開部分は、実施機関が安威川ダム事業に係る浄水場建設事業を実施するに当たり、まず、事業実施に必要な土地を取得するために行った用地交渉事務に関する情報であり、条例第8条第1項第4号に規定する「府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、交渉、渉外、争訟等の事務に関する情報」に該当する。
次に、本件非公開部分を公にすることにより、「当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれ」があることについて述べる。
用地事務は、公共事業のために、地権者である私人に土地の売渡し等を求めるという性格から、相手方との日々の交渉の積み重ねが大部分を占め、相手方との円滑な交渉を行うために信頼関係を構築することが事業を推進していくための重要な前提となる。用地事務の実施に当たっては、交渉の相手方に無用な混乱を生じさせないように、あるいは、円滑な交渉事務に支障が生じることのないように配慮しなければならない。
一般に、土地売買に関しては、権利関係等を正確かつ迅速に公示し、不動産取引の適正、円滑に資することを目的に不動産登記制度が確立されており、土地の所有者の住所、氏名、担保権等の物権等の内容が法務局備え付けの登記簿に記載され、公示されているものではあるが、安威川ダム事業に係る浄水場建設事業地の地権者の間において、誰が、いくらで土地を売却したかは公知の情報であるとまではいえず、本件非公開部分が公開された場合に地権者の間に混乱が生じ、相当数の地権者が、混乱の原因となった実施機関に対し、不信感や不快の念を抱くことは想像に難くない。
また、本件非公開部分を公にすることは、当該非公開部分に記載された個人だけでなく、今後買収交渉を進めていく必要がある他の地権者においても、実施機関に対する不信感や不快の念を抱かせる結果となり、ひいては、今後用地買収の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められる。
ところで、本件用地買収は、平成16年8月時点で8割弱を終えたところであり、今後実施機関及び公社において用地買収を継続していかなければならないが、土地所有者等の理解や協力が不可欠であることはいうまでもなく、これら土地所有者等との各段階における交渉、調整等の如何が本件事業の進捗に大きな影響を及ぼすことになる。
このような現状において、既買収地の取得金額等の情報が明らかになると、未買収地の土地所有者においては、自己が所有する土地等についても、将来同程度の評価を得られるものと推測され、また、公的に確定した評価として一般的に流布されるなどにより当該土地所有者等に不確実な期待や不安を与え、あるいは、本件用地買収交渉に不測の損害を及ぼすなどの事態が考えられる。その結果、実施機関に対する信頼が大きく損なわれ、交渉の相手方に不満や不信の念を抱かせるおそれが十分予測される。
したがって本件非公開部分は、公にすることにより、今後、本件用地買収交渉に対する土地所有者等の理解や協力が得にくくなり、交渉に応じなくなるなど、当該事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあり、条例第8条第1項第4号にいう「公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのある」情報に該当する。
4 条例第9条第1号に該当することについて
個人の尊厳の確保、基本的人権の尊重のため、個人のプライバシーは最大限に保護されなければならない。個人のプライバシーは、一旦侵害されると、当該個人に回復困難な損害を及ぼすことに鑑み、条例は、その前文において「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護」することを明記し、条例第5条において「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない」ことを定めている。そして、条例第9条第1号においては「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」については「公開してはならない情報」として公開を禁止するという基本原則が明確に定められている。
本件非公開部分は、安威川ダム事業に係る浄水場建設事業に係る用地買収の相手方である個人が公社との売買契約に基づき公社から受け取った代金の金額そのもの及び当該金額が類推されるものであることから、当該個人の所得等に関する情報であって、条例第9条第1号に規定する「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報」に該当する。
そこで、本件非公開部分が「一般に他人に知られたくないと望むことが正当である」と判断したことについて述べる。
公共事業の用地買収は、公的資金を支出するものであって、適正な時価に基づき買収予定者と交渉し、その合意による任意買収を通例としている。つまり、実際の用地買収においては、公社と土地所有者等との交渉を経て、その合意に基づき売買価格等が決定されるものであり、土地所有者等にとっては、通常の私人間の売買契約と何ら異なるところはない。また、公共事業の用地買収については、その用地取得が困難な場合には、法的な手段として土地収用法に基づく収用裁決による用地取得が認められているが、このような手続は、公共事業を円滑に推進するための最終手段にすぎず、収用裁決に至る過程においても、買収予定者には公共事業の必要性や買収価格の適正等を十分説明し、相手方の理解を得ることを基本としている。
公共事業における用地買収は公的資金を支出するものではあるが、売買契約等により個人が取得した金額が具体的にいくらであったかということは、当該個人にとっては、私的経済活動の情報に属する事項である。
したがって土地所有者等である個人が、自らの財産の対価として実施機関から取得した代金等の金額は、当該個人の所得そのものに関する情報であり、これを公にすることにより、当該個人の生活状況等が容易に推測され得ることから、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められ、条例第9条第1号の規定に該当する。
5 条例第8条第1項第1号について
本件事業用地の買収の相手方(公社への売主となった元所有者)には法人が含まれておらず、また、「公社」は条例第8条第1項第1号に規定する「法人」から除外されるため、本件決定の「公開しない理由」における本号の適用は誤りである。
6 結論
以上のとおり、本件決定は条例の趣旨を踏まえて行われたものであり、「公開しない理由」における適用条号の一部の誤りを除き、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人・法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 安威川系浄水場建設事業と本件行政文書について
実施機関の説明及び審査会において本件行政文書を見分した結果等を総合すると、以下のことが認められる。
(1)安威川系浄水場建設事業に係る用地取得について
安威川系浄水場建設事業は、現在、大阪府が、茨木市生保及び大門寺地先において建設事業を進めている安威川ダムを水源とし、北大阪地域へ給水するための浄水場を整備しようとするものである。
昭和55年4月1日、実施機関、大阪府土地開発公社理事長(以下「公社理事長」という。)及び大阪府知事は、「大阪府営水道第7次拡張事業用地取得等に関する協定書」(以下「本件協定」という。)を締結し、事業用地の取得等については、実施機関が公社に委託することが定められている。
なお、大阪府においては、将来の水需要の減少が予測されることから、安威川ダムの利水機能の見直しが議論されてきたところであるが、平成17年4月現在、実施機関が設置する「大阪府水道部経営・事業等評価委員会」において安威川系浄水場の必要性について検討が進められているものの、安威川系浄水場建設事業は継続中であること、また、同事業用地の買収も継続して行われていることが認められる。
また、本件協定は、昭和55年4月1日に締結され、以後、数次にわたって変更されている。本件請求時点の協定書(平成14年3月28日付け最終変更)には、次のような事項が規定されている。
- ア 実施機関は、事業用地の取得等を公社理事長に委託するものとし、単位年度ごとに区域を定め、別途公社理事長と委託契約を締結するものとする。(第3条)
- イ 事業用地の取得等に係る「交渉」、「契約」、「契約履行確認」、「登記」、「支払」、「用地管理」等の事務の主たる実施者を、公社理事長とする。(第4条)
- ウ 公社理事長が取得する土地、設定する地上権及び支障物件の移転等補償の価格は、実施機関の定める額とする。(第5条)
- エ 実施機関は、公社理事長が取得を完了した土地及び設定を完了した地上権(以下「土地等」という。)については、原則として、その完了した日の属する年度の翌年度から起算して3箇年度以内に再取得し、当該取得又は設定に要した費用を支払うものとする。ただし、支障物件移転等補償費にあっては、移転等の確認を行った日の属する年度末までに支払うものとし、直接経費(用地測量費、支障物件調査費及び土地等の管理に直接要した費用)については、実施機関、公社理事長が協議して定める時期に支払うものとする。(第6条第1項)
- オ 実施機関が支払う費用は、取得費、補償費、直接経費、事務費、利子支払額とし、それぞれ次のとおりとする。(第6条第2項)
- (ア)取得費
土地買収及び地上権設定価格 - (イ)補償費
支障物件移転等補償費及び残地補償費 - (ウ)直接経費
用地測量費、支障物件調査費及び土地等の管理に直接要した費用 - (エ)事務費
次の表に定めるところにより算定した額並びに鑑定手数料及び登記委託料
- (ア)取得費
表 事務費の算定表
区分 |
内容 |
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1 |
事務費の算定 |
事務費は、本件協定第3条の規定により定めた区域ごとに算定するものとし、事業用地の取得等の契約を締結した当該年度における当該区域の事業費額(本件協定第6条第2項第1号から第3号までに規定する費用の合計額をいう。以下同じ。)について、次項の事務費比率表の額に区分してそれぞれの率を乗じて得た額の合計額とする。ただし、北部送水施設に要する事業用地の取得等にあっては、事業費に7.0%を乗じて得た額とする。 |
|||||||||||||||||||||
2 |
事務費比率表 |
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- (オ)利子支払額
(ア)から(エ)の費用に有利子の資金が当てられた場合の支払利息をいい、公社理事長が当該費用を支払った日から当該費用の支払いを受けた日まで公社理事長の金融機関からの借入れ利率により算定するものとする。なお、借入れ利率が2種類以上ある場合は、その利率の相加平均利率を適用するものとし、(エ)の事務費のうち上記の表により算定したものについては、全額10月1日に公社理事長が支払ったものとみなすものとする。
(2)本件行政文書の記載項目及び本件非公開部分について
本件行政文書は、安威川系浄水場建設事業に係る用地取得に関し、実施機関が作成した固定資産台帳、実施機関と公社との間で締結した土地売買契約書(7通)及び費用償還契約書(1通)並びに登記簿謄本であり、それぞれの記載内容及び本件決定における非公開部分は、以下のとおりである。
ア 固定資産台帳
実施機関が管理する事業用地について、一筆の土地ごとに作成される台帳であり、「事業名」、「施設名」、「所在地」、「地目(元、現)」、「地番(元、分筆後)」、「地積(元・公簿、現・公簿、現・実測)」、「売主」、「支出伺決裁年月日」、「契約年月日」、「登記年月日」、「土地代(単価、金額)」、「耕作権拠棄補償費(単価、金額)」、「合計額」、「土地代金支払内訳(年月日、金額)」、「補償金支払内訳(年月日、金額)」、及び「備考」の各欄からなっており、このうち、「売主」欄には、本件事業用地の直接の売主である公社の名称のほか、公社が土地を取得した際の所有者であった個人の氏名がかっこ書きで付記されている。
本件決定においては、これらの記載内容のうち、「土地代(単価、金額)」、「合計額」、「土地代金支払内訳(金額)」及び「補償金支払内訳(金額)」の各欄に記録された情報が非公開とされている。
イ 土地売買契約書
府が公社から本件事業用地を取得した際の契約書(7通)であり、「売買代金」、「売買代金の支払時期」、「所有権移転の時期」、「占有の移転等」、「完全な所有権の移転義務」、「契約書の作成費用」、「疑義の決定等」等の契約条項のほか、締結年月日、契約当事者に関する事項(大阪府及び公社の所在地、名称、代表者氏名、印影)及び(売買)土地の表示(「所在地」、「番地」、「地目」(公簿・現況)、「面積(平方メートル)」(公簿・実測)、「単価(円/平方メートル)」、「金額(円)」)が記載されている。
本件決定においては、これらのうち、「売買代金」に係る契約条項に記録されている「売買代金」及びその内訳である「土地取得費」、「事務費」、「利子支払額(費)」の額(同一年度内に単独の土地所有者から公社が取得している場合に限る。)並びに(売買)土地の表示に記録されている一筆ごとの「単価」及び「金額」が非公開とされている。
ウ 費用償還契約書
府が本件事業用地の取得に際し、公社が負担した支障物件移転等補償費を償還した際の契約書(1通)であり、償還した「費用の額」、「費用の支払い」及び「疑義の決定等」の契約条項のほか、締結年月日、契約当事者に関する事項(大阪府及び公社の所在地、名称、代表者氏名、印影)及び費用償還の対象となる補償物件の表示(「物件の所在地番」、「物件の種類」、「物件の構造」、「数量」及び「摘要」)が記載されている。
本件決定においては、これらのうち、「費用の額」に係る契約条項に記録されている「費用の額」及びその内訳である「補償費」、「事務費」、「利子支払額」の額が非公開とされている。
エ 登記簿謄本
本件事業用地の登記簿謄本であり、本件決定においてはその全部が公開とされている。
3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
実施機関は、本件非公開部分に記録された情報について、条例第9条第1号及び第8条第1項第4号に該当すると主張しているので、以下検討する。
(1)条例第9条第1号の趣旨について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。同号は、
- a 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- b 特定の個人が識別され得るもののうち、
- c 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。
(2)条例第9条第1号該当性について
本件非公開部分に記録されている情報は、下記ア~カのとおり、いずれも、公にすることにより、公社から安威川系浄水場建設事業に係る事業用地又は当該用地に所在していた物件の所有者であった特定個人に支払われた土地売買代金若しくは物件移転補償金の額が明らかとなる情報であり、既に本件決定において、これら所有者であった個人の氏名等が公開されていることからすると、(1)a及びbの要件に該当すると認められる。
- ア 固定資産台帳の「土地代(単価、金額)」、「合計額」及び「土地代金支払内訳(金額)」の各欄に記録された情報及び土地売買契約書の(売買)土地の表示のうち「単価」欄及び「金額」欄に記録された情報について
本項の情報はいずれも、公社が本件事業用地の所有者であった特定個人に支払った土地売買代金の一筆ごとの単価又は金額がそのまま計上されているものであり、当該情報を公にすることにより、当該土地の所有者であった特定個人に対し公社から支払われた土地売買代金の額が明らかになると認められる。 - イ 固定資産台帳の「補償金支払内訳(金額)」欄に記録されている情報及び費用償還契約書の「費用の額」に係る契約条項中に記録されている「補償費」の額について
本項の情報は、公社が本件事業用地に所在していた物件(車庫、工作物、樹木)の所有者であった特定個人に対して支払った物件移転補償金の金額がそのまま計上されているものであり、当該情報を公にすることにより、当該土地に所在した物件の所有者であった特定個人に対し公社から支払われた物件移転補償金の額が明らかになると認められる。 - ウ 土地売買契約書(同一年度内に単独の土地所有者から公社が取得している場合に限る。)の「売買代金」に係る契約条項中に記録されている「土地取得費」の額について
本項の情報は、公社が本件事業用地の所有者であった特定個人に支払った土地売買代金の額がそのまま計上されているものであり、当該情報を公にすることにより、当該土地の所有者であった特定個人に対し公社から支払われた土地売買代金の額が明らかになると認められる。 - エ 土地売買契約書(同一年度内に単独の土地所有者から公社が取得している場合に限る。)の「売買代金」に係る契約条項中及び費用償還契約書の「費用の額」に係る契約条項中に記録されている「事務費」の額について
本項の情報は、本件事業用地の買収又は支障物件の移転補償に関し、実施機関から公社に対して支払われた売買代金又は償還費用に含まれている事務費の額である。
事務費の算定方法は、2(1)オ(エ)に本件協定に係る協定書から引用したとおりであり、「事務費の算定表に定めるところにより算定した額」と鑑定手数料及び登記委託料の合計額として算定される。このうち、「事務費の算定表に定めるところにより算定した額」は、本件の場合、取得費(土地買収価格)又は補償費(物件移転補償費)と直接経費(用地測量費、支障物件調査費及び土地等の管理に直接要した費用)の合計額である事業費額について、事務費比率表に定める区分により所定の事務費率を乗じて得た額の合計額として算定されている。
一方、事務費の算定基礎となる情報のうち、鑑定手数料、登記委託料及び直接経費(用地測量費、支障物件調査費及び土地等の管理に直接要した費用)の額並びに事務費比率表に定める区分ごとの事務費率は、いずれも、土地買収価格や物件移転補償費の額とは関わりなく定まる事項であり、本項の契約書がいずれも実施機関と公社との間のものであることからすると、条例の規定に照らし公開されるべきものである。
このような事情の下では、事務費の額をもとに、事務費比率表に定める区分による事務費率並びに鑑定手数料額、登記委託料額及び直接経費(用地測量費、支障物件調査費及び土地等の管理に直接要した費用)の額を用いて、取得費(土地買収価格)又は補償費(物件移転補償費)を逆算することが可能であり、本項の情報を公にすることにより、当該土地又は物件の所有者であった特定個人に対し公社から支払われた土地売買代金又は物件移転補償金の額が明らかになると認められる。 - オ 土地売買契約書(同一年度内に単独の土地所有者から公社が取得している場合に限る。)の「売買代金」に係る契約条項中及び費用償還契約書の「費用の額」に係る契約条項中に記録されている「利子支払費(額)」の額について
本項の情報は、本件事業用地の買収又は支障物件の移転補償に関し、実施機関から公社に対して支払われた売買代金又は償還費用に含まれている利子支払額である。
利子支払額の算定方法は、2(1)オ(オ)に本件協定に係る協定書から引用したとおりであり、本件の場合は、取得費(土地買収価格)又は補償費(物件移転補償費)と直接経費(用地測量費、支障物件調査費及び土地等の管理に直接要した費用)及び事務費の支払に有利子の資金が当てられた場合の支払利息として、公社が当該費用を支払った日(事務費のうち、事務費の算定表により算出した額については、当該年度の10月1日とみなされる。)から当該費用の支払を受けた日までの期間について、公社の金融機関からの借入れ利率により算定されている。
一方、これらの利子支払額の算定基礎となる情報のうち、公社が当該費用を支払った日及び当該費用の支払いを受けた日並びに公社の金融機関からの借入れ利率は、いずれも、土地買収価格や物件移転補償費の額とは関わりなく定まる事項であり、本項の契約書がいずれも実施機関と公社との間のものであることからすると、条例の規定に照らし公開されるべき情報である。
このような事情の下では、「利子支払費(額)」欄に記録された利子支払額をもとに、公社の金融機関からの借入れ利率及び利子支払の期間(公社が当該費用を支払った日と当該費用の支払を受けた日までの期間)並びに鑑定手数料、登記委託料及び直接経費(用地測量費、支障物件調査費及び土地等の管理に直接要した費用)の額を用いて、当該利子支払の対象となった取得費(土地買収価格)又は補償費(物件移転補償費)を逆算することが可能であり、本項の情報を公にすることにより、当該土地又は物件の所有者であった特定個人に対し公社から支払われた土地売買代金又は物件移転補償金の額が明らかになると認められる。 - カ 土地売買契約書の「売買代金」に係る契約条項中に記録されている「売買代金」の額及び費用償還契約書の「費用の額」に係る契約条項中に記録されている償還する「費用の額」について
本項の情報はそれぞれ、「土地取得費」、「事務費」及び「利子支払額(費)」又は「補償費」、「事務費」及び「利子支払額」の合計額である。これら各費用の額は、ア~オで述べたとおり、いずれも公にすることにより、当該土地又は物件の所有者であった特定個人に対し公社から支払われた土地売買代金又は物件移転補償金の額が明らかとなる情報であり、その合計額である「売買代金」の額及び「費用の額」についても、公にすることにより、当該土地又は物件の所有者であった特定個人に対し公社から支払われた土地売買代金又は物件移転補償金の額が明らかになる情報であると認められる。
次に、本件非公開部分に記録されている情報が、(1)cの要件に該当するかどうかを検討するに、これら情報を公にすることにより明らかとなる特定個人に支払われた土地売買代金又は物件移転補償金の額は、一般に公開されている情報ではなく、他の公開又は公表されている情報から容易に算定することも困難なものである。また、たとえ浄水場建設という公共事業の用地買収に伴うものであっても、個人にとっては、所有地の売却は、私生活上の重大事であり、これに伴う代金収入の額等については、通常、他人に知られたくないと望むものであることから、(1)cの要件にも該当する。
以上のことから、本件非公開部分に記録されている情報については、条例第9条第1号に該当すると認められる。
(3)条例第8条第1項第4号の趣旨について
行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。
このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが本号の趣旨であり、同号は、
- ア 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、交渉、渉外、争訟等の事務に関する情報であって、
- イ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの
について、公開しないことができる旨を定めている(平成17年3月29日大阪府条例第11号による改正(平成17年4月1日施行)以前の条文による。以下同じ。)。
(4)条例第8条第1項第4号該当性について
本件非公開部分に記録されている情報は、実施機関が行う浄水場建設事業に係る用地の取得に際し、実施機関の委任を受けた公社が土地又は物件等の所有者であった特定個人と協議・交渉し、合意(契約)に至った結果に関する情報であるから、条例第8条第1項第4号の「府の機関又は国等の機関が行う交渉等の事務に関する情報」として、(3)アの要件に該当する。
次に、本件非公開部分に記録されている情報が(3)イの要件に該当するか否かを検討するに、本件のような公共事業に伴う用地買収や物件移転補償等については、全て国や府などの公費から支払われるものであり、これによる土地所有者等の所得については租税特別措置法等による税の優遇措置が講じられていることなどからも、その基準や執行状況については、一般に明らかにされるべきものである。
しかしながら、個々の土地の買収価格等についてはその形状、位置、環境等の要因を、個々の物件の補償金額等については当該対象物件の構造、材質、大きさ、形状等の要因を、それぞれ個別に評価したものであり、その算定には高度の専門的知識と経験を要するものであって、当該金額算定の詳細について土地所有者等の十分な理解を得るには相当な困難を伴うものと考えられる。また、およそ、公共事業のために土地を売却し、あるいは、物件の補償を受ける場合、自己の資産をわずかでも高く評価されたいと願うのが通例であり、そのこと自体は一概に否定できるものでもない。
このため、一連の公共事業に関して、未買収地の土地所有者等との用地買収交渉の継続中に、既買収地の買収価格等が公になると、未買収地の土地所有者等が、公になった情報を基に自己に有利な価格を算定し、あるいは自己が算定した価格に固執し、既買収地と自己所有地の価格評価要因の違い、評価時点の違い等が十分に理解されず、用地買収交渉が困難となり、その結果、事業者において、土地所有者等の理解と協力を得るために多大な労力、時間、経費等を要することとなることも想定される。
また、本件行政文書は、ダム建設に伴う浄水場建設事業に関するものであり、当該事業については、異議申立人も指摘するように様々な見直しが行われているとは言え、なお、継続中であることが認められた。
以上のことからすると、本件非公開部分に記録されている個別の土地買収価格等が明らかとなる情報については、たとえ公共事業に係る用地買収等の状況を公にすることの公益性や必要性等を考慮しても、公にすることにより、本件浄水場建設事業における用地買収交渉事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められ、(3)イの要件にも該当する。
よって、本件非公開部分に記録されている情報については、条例第8条第1項第4号にも該当すると認められる。
4 裁判事例等について
公共事業用地の買収価格等の情報公開を巡っては、各地で訴訟が提起されており、既に相当数の下級審判決がなされているが、その判断は、事業の内容や裁判所により分かれているのが現状である。大阪府においても、異議申立人が指摘するように、公社による代替地の取得及び処分に係る知事との協議文書の部分公開決定が争われた事案で、大阪地裁においては、買収価格等を非公開とする決定を取り消すとの判決がなされたのに対して、大阪高裁においては、知事の決定を維持する判決がなされている。
審査会としては、このような裁判例も参考にしつつ、本件行政文書がダム建設に伴う浄水場建設事業に関するものであること、及び当該事業についてはなお継続中であることも考慮して、上記のとおり判断したものである。
5 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。