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更新日:2012年7月30日

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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第217号)

行政命令文書部分公開決定審査請求事案

(答申日平成24年7月30日)

第一 審査会の結論

諮問実施機関(大阪府公安委員会)の判断は妥当である。

第二 審査請求に至る経過

  1. 審査請求人は、平成23年6月20日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府警察本部長(以下「実施機関」という。)に対し、「大阪府公安委員会が、平成23年4月、指定暴力団・山口組組長に対して発出した行政命令(賞揚等禁止命令)。」を請求内容とする行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
  2. 実施機関は、同年7月4日、本件請求に対応する行政文書(以下「本件行政文書」という。)について、条例第13条第1項の規定により、「賞揚等禁止命令書」を特定の上、(1)の部分を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、(2)のとおり公開しない理由を付して審査請求人に通知した。
    • (1)公開しないことと決定した部分
      • ア けん銃使用殺傷事件が発生した店舗の名称及び所在地
      • イ 二次団体以下の暴力団に関する情報
      • ウ 個人の氏名(命令を受ける者を除く。)、本籍及び生年月日
    • (2)公開しない理由
      • ア 条例第8条第2項第1号に該当する。
        本件行政文書(非公開部分)には、暴力団員によるけん銃使用殺傷事件が発生した店舗の名称等が記録されており、これらを公にすることにより、同店の社会的信用が低下するおそれがあるなど、当該店舗を営む者の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められ、条例第8条第1項第1号に該当する。
      • イ 条例第8条第2項第2号に該当する。
        本件行政文書(非公開部分)には、二次団体以下の暴力団に関する情報が記録されており、これは暴力団に対する情報収集活動に関する情報であって、公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
      • ウ 条例第9条第1号に該当する。
        本件行政文書(非公開部分)には、個人の氏名等が記録されており、これらは、特定の個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
  3. 同年7月28日、審査請求人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第5条の規定により、大阪府警察本部長の上級庁にあたる大阪府公安委員会(以下「諮問実施機関」という。)に対し、審査請求を行った。

第三 審査請求人の主張

  1. 審査請求の趣旨
    本件決定のうち、条例第9条第1号を理由とする非公開部分以外の部分(以下「本件係争部分」という。)の公開を求める。
  2. 審査請求の理由
    条例第8条第2項第1号及び同2号の解釈を誤っているため。

第四 審査請求人の主張要旨

審査請求人の主張は、概ね次のとおりである。

1 けん銃使用殺傷事件が発生した店舗の名称及び所在地について

本件事件が、平成○○年○○月○○日に発生した発砲事件であることは、一般人にとって明白である。そうであれば、非公開部分とされた発生場所は「○○所在の○○」か、あるいはそれに類した表現であることは容易に推測でき、こうした情報まで非公開にすることを、条例が規定しているとは思えない。

本件とは別事件である、指定暴力団幹部に対する刑事被告事件に関する判決文が最高裁判所刑事判例集に掲載されており、その中で、被告人の犯行と関係する店舗の名称が実名で記載されているが、私は当該店舗の信用が失墜したという報道を知らない。

2 二次団体以下の暴力団に関する情報

非公開部分である山口組の二次団体の名称について、私の推測が及ばないものもあるが、「○○組」「△△組」「××会」であると思われる箇所があり、私は指定暴力団の二次団体以下の団体名は以下の理由により、公開すべき情報であると考える。

  • 最高裁判所判例集において山口組傘下の組織が、実名で多数掲載されている。
  • 新聞においても指定暴力団傘下の組織名が報じられている。
  • 東京都台東区役所は、山口組弘道会小松組を公開している。
  • 長野県警は六代目山口組四代目山建組石澤組を、鹿児島県警は四代目小桜一家薩成組を、各々公開している。

こうした現実を大阪府警察本部長が知らないはずがない。よって二次団体以下の暴力団に関する情報を非公開にした本件決定は、同本部長が社会通念に著しく反する判断をしたと評価され、裁量を大幅に逸脱した違法な判断である。

なお、警察が暴力団の動静について、常に情報収集に努めることが公安維持等にとって重要であり、そうした情報を一般住民に非公開とするのは、私にも理解できる。

しかし、秘匿に値する捜査情報とは、組事務所に頻繁に出入りし、当該組員との談笑を通して入手した組内部の情報(組内部の序列やその変動、対立する組との縄張り争い、どの飲食店等から毎月いくらの用心棒代を受け取っているか、跡目相続に関する情報等)を言うのであり、組の名称は含まれないと考えるのが一般人にとっての社会常識である。

暴力団事務所には、看板が掛かっているのが普通であろう。組事務所追放運動では共通して、公道から容易に見える場所に派手な看板や代紋を掛けるなと要求しているし、住宅地図にその名称が記載されているものもあり、当該事務所を通る通行人の目には自然に入る。

また、本件決定で非公開とされた情報は、本質的に、法令により誰でも閲覧し得る情報であり、従って公開によって犯罪捜査等に支障が出る等のおそれがある情報ではない。

仮に本件禁止命令に対し、篠田組長が取消しを求めて出訴すれば、同人は本件禁止命令書を裁判所に提出する必要があり、裁判所に提出された当該文書は民事訴訟法第91条の規定により、何人も閲覧し得ると考えられる。もちろん同法第92条は、閲覧制限を規定しているが、閲覧制限を大阪地方裁判所が認めるとは、私には到底思われない。

現実に某県の警察署長が発出した中止命令につき、その取消しを求めて某地方裁判所に出訴した指定暴力団傘下の組長がいて、この訴訟の係属中と判決後に、私は訴訟記録の閲覧を裁判所書記官に請求し、許可され閲覧した。その結果、中止命令書に記載されている全情報、すなわち、同人の本籍、生年月日は勿論のこと、「命令の内容」、「命令をする理由」欄の一字一句を閲覧し得たし、また判決書からは、指定暴力団以外の対立する指定暴力団傘下の団体名も知り得た。

そして、本件の場合、禁止命令の対象者が山口組組長であり、仮に篠田健市氏が出訴して最高裁まで行き着けば、最高裁判例集に掲載される可能性が高く、その場合、本件非公開情報は、全部実名で掲載されるであろう。よって、本件非公開情報は、いずれも公開が相当である。

3 結論

本件決定中、「けん銃使用殺傷事件が発生した店舗の名称及び所在地」については、これを公開しても店舗の信用には悪影響を与えないから、条例第8条第2項第1号の解釈を誤っているし、「二次団体以下の暴力団に関する情報」については、大阪府警察本部長が裁量を大幅に逸脱しているから、条例第8条第2項第2号違反である。

第五 諮問実施機関の主張要旨

理由説明書及び審査会での説明における諮問実施機関の主張は、概ね次のとおりである。

1 まとめ

本件処分については、条例第8条第2項第1号及び第2号に該当する部分を非公開情報として、条例第13条第1項の規定に基づいて行われたものであり、違法、不当はないものと考える。

2 実施機関の意見

(1)賞揚等禁止命令について

暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号。以下「暴力団対策法」という。)第3条又は第4条の規定に基づき、都道府県公安委員会が一定の要件に該当する暴力団を、その暴力団の構成員が、集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい暴力団として指定した場合、当該暴力団を指定暴力団又は指定暴力団連合(以下「指定暴力団等」という。)といい、当該指定暴力団等の構成員を指定暴力団員という。

賞揚禁止命令とは、都道府県公安委員会が、暴力団対策法第30条の5第1項の規定に基づき、対立抗争等における暴力行為により刑に処せられた指定暴力団員に、その所属する指定暴力団等の他の指定暴力団員が賞揚・慰労の目的で金品等を供与するおそれがある場合に、当該他の指定暴力団員又は当該指定暴力団員に対して、期間を定めて、当該金品等の供与をしてはならず、又はこれを受けてはならない旨の命令をすることである。

(2)本件行政文書について

本件行政文書は、当公安委員会が、暴力団対策法第30条の5第1項の規定に基づき、指定暴力団山口組組長に対して発出した賞揚等禁止命令書であり、対立する暴力団員を射殺するなどして刑に処せられた山口組傘下組織組員を賞揚し、又は慰労する目的で金品等を供与することを禁じたものである。

(3)本件係争部分について

審査請求人が審査請求書において公開を求めているのは、実施機関が本件処分において公開しないことと決定した部分のうち、「けん銃使用殺傷事件が発生した店舗の名称及び所在地」及び「二次団体以下の暴力団に関する情報」である。

(4)本件処分の妥当性について
ア けん銃使用殺傷事件が発生した店舗の名称及び所在地について
  • 条例第8条第2項第1号について
    条例第8条第2項は、公安委員会と警察本部長が公開しないことができる行政文書について定めたものである。同項第1号は、条例第8条第1項第1号から第4号までの規定のいずれかに該当する情報について、公開しないことができる旨を定めている。
  • 条例第8条第1項第1号について
    事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重・保護されなければならないという見地から、社会通念に基づき判断して、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが条例第8条第1項第1号の趣旨である。
    一般に、「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上の秘密等、公開されることにより公正な競争の原理を侵害すると認められるものをいうと解されており、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、事業を営む者に対する名誉侵害、社会的評価の低下となる情報及び公開により団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいう。
  • 条例第8条第1項第1号に該当することについて
    審査請求人は、けん銃使用殺傷事件の発生年月日は、平成○○年○○月○○日であることは一般人にとって明白であり、かつ事件発生当時新聞報道もなされていることから、発生場所である店舗の名称等を公開しても、当該店舗関係者には何ら不利益は生じないとして、別事件を例に挙げ、指定暴力団幹部に対する刑事被告事件の判決文を掲載した刑事判例集の中で、被告人の犯行と関係する店舗の名称が実名で記載されているが、当該店舗の信用が失墜したという報道に接したことがないと主張する。
    しかしながら、暴力団とは一切関係がなく、事件に巻き込まれることとなった当該店舗の経営者や関係者にとって、自らが経営・関係する店舗において暴力団によるけん銃使用殺傷事件が発生したという情報は、事案の重大性・悪質性を考慮すると、現在においてもなお社会的信用の低下や名誉侵害に繋がるものであり、非公開情報として保護すべきものであると考えられる。
    なお、当該店舗は、事件発生後に閉店に追い込まれており、その理由は、当該事件にあることは大いに推測されるところであり、当該店舗経営者や関係者にとって、自らが経営・関係した店舗で暴力団によるけん銃使用殺傷事件が発生したという情報は、現在においてもなお、競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
イ 二次団体以下の暴力団に関する情報について
  • 条例第8条第2項第2号について
    公共の安全と秩序を維持することは、府民の基本的な利益を擁護するため、府に課せられた重要な責務であり、情報公開制度においても、これらの利益は十分に保護する必要がある。特に、警察が保有している情報のうち、公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧、捜査等の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれのあるものについては、公開・非公開の判断において、高度な政策的判断を伴う場合があり、また、その性質上、犯罪等に関する将来予測としての専門的、技術的な判断を要するという特殊性が認められている。さらに、その性質上、犯罪の捜査等に関する情報については、他の都道府県警察と共有するものが多く、その取扱いには、全国的な斉一性が求められることとなる。
    こうした理由から、「公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」情報に関して、これに該当するかどうかについての実施機関の第一次的な判断を尊重することとしたのが条例第8条第2項第2号の趣旨であり、「公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると公安委員会又は警察本部長が認めることにつき相当の理由がある情報」については公開しないことができると規定されているものである。
  • 条例第8条第2項第2号に該当することについて
    本件非公開情報は、暴力団対策法第3条の規定に基づき指定を受けた暴力団の二次団体以下の団体名である。
    審査請求人は、指定暴力団傘下の組名は、新聞等において広く公開されており、東京都台東区や長野県警察、鹿児島県警察の例を挙げて、行政機関や警察においても指定暴力団傘下の組名を公表しており、これらを公開しても犯罪の予防等に何ら支障が生じないと主張している(審査請求人の個別の主張及びこれに対する実施機関の主張については、「審査請求人の個別の主張について」において記載)。確かに審査請求人の主張するとおり、指定暴力団傘下組名は、新聞等において報道されているものもある。
    そして、官報においては指定暴力団の名称等について暴力団対策法第7条の規定により公示することとなっているが、公示の対象となるのは一次団体の暴力団に限られており、さらに、警察が白書等で公表しているのは、平成4年3月の暴力団対策法施行以降は、一次団体に限られている(例外として、現在、二次団体ではあるが、山口組組長の出身団体で、警察が一次団体と同一視する弘道会は公表している)。
    二次団体以下の暴力団の名称を公表していない理由は、組織実態を隠ぺいする暴力団の体質とその変動性にある。
    暴力団は、近年、賭博やノミ行為等の伝統的な資金獲得活動や民事介入暴力、行政対象暴力等に加え、その組織実態を隠ぺいしながら、建設業、金融業、産業廃棄物処理業や証券取引といった各種の事業活動へ進出して、企業活動を仮装するなどして、一般社会での資金獲得活動を活発化させている。
    組織実態の隠ぺいの具体例として、「組事務所から代紋・看板等を撤収する」、「暴力団を示す名刺を使用しない」、「政治活動や社会運動を仮装・標榜して活動する」等が挙げられ、近年暴力団組織の不透明化の傾向が一層顕著になってきており、また、大規模暴力団による寡占化、系列化が図られており、新たな下部組織の設立や消滅等の離合集散を繰り返し、組織形態や勢力関係は常に変動している。
    警察としては、暴力団に対しあらゆる法律を適用して検挙活動を行うため、情報収集を行い、その組織実態を把握して監視下に置かなければならない。
    このような状況下で、二次団体以下の暴力団の名称を公表すると、警察の暴力団組織の把握状況や情報収集能力、さらには捜査活動状況が判明することとなり、暴力団においてその活動を一層潜在化・巧妙化させるなどの防衛措置が講じられるおそれがある。
    現実に、暴力団が、非合法に警察の保有する情報の収集を試みた事例があり、情報公開請求により合法的に警察の保有する暴力団に関する情報が入手できるということになれば、暴力団にとって警察からの摘発逃れや、敵対暴力団に関する情報収集の手段とされるおそれは極めて高く、公共の安全と秩序の維持に著しい支障が生じるおそれがある。
    一方で、実施機関としては、社会から暴力団を排除するという暴力団対策の目的達成のため、必要に応じて暴力団に関する情報を府民に提供する必要性は認識しており、「府民からの依頼内容」、「情報提供の相手方の信用性」、「守秘義務の有無」、「悪用のおそれ」や、その情報提供によって達成される公益の程度を十分検討の上、必要な範囲で情報提供を行っている。
    しかしながら、情報公開請求では、請求者が何人であっても、請求の理由を問うことなく同じ情報を公開しなければならず、先に説明したとおり暴力団が組織実態の隠ぺいや、警察からの摘発逃れ、さらには敵対暴力団に関する情報収集の手段として利用した場合、暴力団を社会から排除し、壊滅させるという目的は達成できなくなる。
    よって、実施機関としては、二次団体以下の暴力団情報について、情報公開制度においては公開することができない情報であると考える。
  • 審査請求人の個別の主張について
    • ​​​​平成3年版警察白書に二次団体以下の暴力団の名称が記載されているという主張について
      審査請求人は、意見書において、平成3年版警察白書を添付していることから、警察自らが警察白書に二次団体以下の暴力団の名称を記載し公表している以上、これを非公開とする理由はないと主張しているが、先に説明したとおり平成4年3月の暴力団対策法施行以降は、白書等で公表されているのは、山口組組長の出身団体で一次団体と同一視する弘道会以外は一次団体に限られており、同主張は二次団体以下の暴力団に関する情報を公開する根拠とはなり得ない。
    • 最高裁判所判例集において、山口組傘下の組織が実名で多数報じられているという主張について
      審査請求人は、本件行政文書について、賞揚等禁止命令書の対象者である、篠田健市組長が取消しを求めて出訴すれば、同人は同禁止命令書を裁判所に提出する必要があり、裁判所に提出された当該文書は民事訴訟法第91条の規定により、何人も閲覧し得ることになる可能性が極めて高いと述べ、仮に最高裁まで行き着けば、最高裁判例集に掲載される可能性が高く、その場合、本件非公開情報は、全部実名で掲載されるであろうから、いずれも公開が相当であると主張する。
      実施機関としては、行政文書公開請求の対象となった行政文書に判決文が含まれていた場合は、裁判所に確認のうえ、当該判決文が閲覧可能であることが確認されれば全部公開で対応しているところであるが、本件賞揚等禁止命令書については、訴訟が提起されていないことから、何人も閲覧し得るとは認められず、非公開が妥当であると考える。
      なお、本件行政文書について、賞揚等禁止命令の対象である山口組組長から取消しを求める訴訟はなされていない。
    • 新聞で指定暴力団傘下の組織名が報じられているという主張について
      審査請求人は、新聞においても、指定暴力団傘下の組織名が報じられていると主張するが、上記のとおり二次団体以下の暴力団については公表していない。
      なお、けん銃使用殺傷事件が発生した店舗の名称及び所在地については、事件発生当時に報道提供を行ったか否かについては、関係書類の保存期間を経過し廃棄したと思われるため確認できないが、仮に報道提供を行っていたとしても、事件発生時に公表された事実がある、あるいは、新聞で報じられていたからという理由で、発生から年月が相当経過した事件について、関係店舗の名称を半永久的に公開するという理由は成り立たないと考える。
    • 東京都台東区のホームページで二次団体の暴力団の名称を公表している主張について
      当該情報は、警察において情報提供によって達成される公益の程度を十分検討の上、警察から必要な範囲で提供されたと思われるが、これを以て全ての二次団体以下の暴力団に関する情報を、情報公開請求に応じて公開すべきという根拠にはなり得ない。
    • 長野県警察、鹿児島県警察が二次団体の暴力団の名称を公開しているという主張について
      警察においては、二次団体以下の暴力団に関する情報を非公開としているが、報道提供などの情報提供においては、警視庁及び各道府県警察の判断に任されており、前記のとおり、情報提供によって達成される公益性の程度を十分検討の上、必要な範囲で提供を行うことがある。しかしながら、これを以て全ての二次団体以下の暴力団に関する情報を情報公開請求に応じて公開すべきという根拠にはなり得ない。
    • 看板を掲げていたり、住宅地図に記載されている事例があるという主張について
      全ての暴力団が看板を掲げているという訳ではなく、また、前記のとおり、組織実態を隠ぺいするために、看板を掲げず事務所の存在を周囲に秘匿する事例もあることから、全ての二次団体以下の暴力団に関する情報を情報公開請求に応じて公開すべきという根拠にはなり得ない。

第六 審査会の判断

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 本件行政文書について

本件行政文書は、平成23年4月27日に、大阪府公安委員会が、暴力団対策法第30条の5第1項の規定に基づき、指定暴力団山口組組長に対して発出した賞揚等禁止命令書であり、対立する暴力団員を射殺するなどして刑に処せられた山口組傘下組織組員を賞揚し、又は慰労する目的で金品等を供与することを禁じたものである。

3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

審査請求人は、本件係争部分について、公安委員会と警察本部長が公開しないことができる行政文書について定めた条例第8条第2項第1号及び第2号には該当せず、公開すべきであると主張するので、以下検討する。

なお、審査請求人は、実施機関が条例第9条第1号に該当するとして非公開とした部分については、公開を求めていないので、審査の対象外とする。

(1)条例第8条第2項第1号について

本号は、条例第8条第1項第1号から第4号までの規定のいずれかに該当する情報について、公開しないことができる旨を定めている。

実施機関は、公開しないことができる行政文書に該当するとして本件係争部分中で公開しないと決定した部分について、条例第8条第1項第1号に該当すると主張しているので、同号について(2)以下で検討する。

(2)条例第8条第1項第1号について

事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。

同号は、

  • ア 法人(国、地方公共団体、独立行政法人等、地方独立行政法人、地方住宅供給公社、土地開発公社及び地方道路公社その他の公共団体を除く。)その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、
  • イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。)

が記録された行政文書は、公開しないことができる旨定めている。

また、本号の「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理に反する結果となると認められるものをいい、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、公開されることにより、事業を営む者に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうと解されるが、これらの具体的な判断にあたっては、当該情報の内容のみでなく、当該事業を営む者の性格や事業活動における当該情報の位置づけ等も考慮して、総合的に判断すべきものである。

(3)本件係争部分の条例第8条第1項第1号該当性について

本件係争部分に記録されている、「けん銃使用殺傷事件が発生した店舗の名称及び所在地」は、特定の店舗の名称及びその所在地であるから、(2)アの要件に該当する。

次に、本件係争部分に記録されている情報が、(2)イの要件に該当するかどうか検討する。

審査請求人は、暴力団が関与する別事件の裁判例を示し、判決文等では事件当事者の氏名や事件の発生した店舗等は実名で記載されており、基本的に何人も閲覧可能であることを挙げ、また、意見書に本件事件を報じた新聞記事を添付し、店舗名及び所在地(丁目まで)が報じられており、かつ事件発生から相当年月が経過しているので、本件係争部分を公開しても、当該店舗関係者には何ら不利益は生じないと主張する。

確かに、審査請求人が主張するとおり、本件行政文書に記載されている事件は、社会的反響も大きく、事件発生当時は広く報道され、新聞にも店舗の名称及び所在地が報じられている。

また、本件事件も含め、裁判の判決文は、裁判所において基本的に何人も閲覧し得るものであり、判決文では店舗名及び所在地をはじめ、被告人や被害者等関係者の氏名も実名で閲覧ができるので、本件事件に関心を持つ者であれば、これらを調べることにより、本件事件が発生した店舗の名称及び所在地を知ることは可能である。

しかし、本件事件に関する情報は、例え過去において広く世間に周知され、かつ現在においてもそれを知り得る手段があると言えるが、暴力団とは関係がない店舗において発生したものであり、事件に巻き込まれた店舗の経営者や関係者にとっては、自らが経営、関係する店舗の名称及び所在地が再び公開されることによって、社会的評価の低下を招くなど、その競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。

また、本件事件が発生した店舗は、事件発生後に閉店しており、本件事件が店舗の閉店に大きく影響したことは想像に難くなく、店舗経営者や関係者にとって、自らが過去に経営し、又は関与した店舗において、暴力団員によるけん銃使用殺傷事件が発生したという事実が公開されると、現在行っている事業、又は将来行おうとする事業について、競争上の地位その他正当な利益を害する可能性は否定できない。

よって、本件非公開部分は、条例第8条第1項第1号に該当し公開しないことが相当である。

(4)条例第8条第2項第2号について

公共の安全と秩序を維持することは、府民全体の基本的な利益を擁護するため、府に課せられた重要な責務であり、情報公開制度においても、これらの利益は十分に保護する必要がある。

特に、警察が保有している情報のうち、公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧、捜査等の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれのあるものについては、公開・非公開の判断において、高度の政策的判断を伴う場合があり、また、その性質上、犯罪等に関する将来予測としての専門的、技術的な判断を要するという特殊性が認められている。さらに、犯罪の捜査等に関する情報については、他の都道府県警察と共有するものが多く、その取扱いには、全国的な斉一性が求められることとなる。

こうした事情から、公安委員会と警察本部長が保有する「公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」情報に関して、これに該当するかどうかについての実施機関の第一次的な判断を尊重することとしたのが本号の趣旨であり、本号は、「公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると公安委員会又は警察本部長が認めることにつき相当の理由がある情報」は公開しないことができる旨規定している。

(5)本件非公開部分の条例第8条第2項第2号該当性について

本件非公開部分に記録されている、「二次団体以下の暴力団に関する情報」は、暴力団対策法第3条の規定に基づき指定を受けた暴力団の二次団体以下の団体名である。

これらの情報が、条例第8条第2項第2号に該当するかどうかについて検討する。

審査請求人は、本件非公開部分について、山口組の二次団体の名称が記載されていると思われる箇所があるが、同種の情報は、平成3年版警察白書、最高裁判所、新聞、地方自治体、他府県の県警からも公開されている事例があると主張する。また、暴力団事務所は公道から容易に見える場所に看板がかかっていることが普通であり、当該事務所を通る通行人の目には自然に入るから非公開とすべき理由はない旨主張する。

しかしながら、実施機関が主張するように、平成3年版警察白書においては指定暴力団の二次団体の名称が公表されていたが、現時点では一次団体に限って公表されていること、裁判所の判決であれば原則として誰でも閲覧可能であるが、本件情報はこれには該当していないこと、新聞では暴力団傘下の組織名が報じられているとしても、それは新聞社の独自の取材に基づいてなされたものであって、実施機関から公表している事実はないこと、一部自治体や他府県の警察が捜査に支障のない範囲で暴力団の名称を公開することはあるが全ての情報を公表しているわけではないこと、また、全ての暴力団事務所に看板が掲げられているわけではないことなどから、審査請求人の主張は、本件情報を公開すべき理由になりえない。

また、実施機関は二?団体以下の暴力団の名称を公にすると、警察の暴力団組織の把握状況や情報収集能力、さらには捜査活動状況が判明することとなり、暴力団がその活動を一層潜在化・巧妙化させるなどの防衛措置を講じ、警察からの摘発逃れ、さらには敵対する暴力団に関する情報収集の手段とされるなど公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれが極めて高いと主張する。現実にも、暴力団が、非合法的に警察の保有する情報の収集を試みた事例があったということであるから、かかる主張には、理由があると考えられる。

以上のことから、実施機関が本件情報を公にすることにより暴力団に対する検挙活動に支障が生じるおそれがあると認めたことについては相当の理由があり、条例第8条第2項第2号に基づき非公開としたことは、合理性がある。

4 結論

以上のとおりであるから、本件審査請求には理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

主に調査審議を行った委員

大和正史、岩本洋子、野呂充、松本哲治

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