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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第216号)
旧指掌紋票の様式不存在非公開決定審査請求事案
(答申日平成24年6月1日)
第一 審査会の結論
諮問実施機関(大阪府公安委員会)の判断は妥当である。
第二 審査請求に至る経過
- 審査請求人は、平成23年6月22日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府警察本部長(以下「実施機関」という。)に対し、「改正指掌紋取扱細則(平成10年1月5日施行)前の、『指掌紋票』の様式」を請求内容とする行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 実施機関は、同年7月6日、本件請求に対応する行政文書(以下「本件行政文書」という。)を保管・管理していないとして、条例第13条第2項の規定により、不存在による非公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、次のとおり理由を付して審査請求人に通知した。
(公開請求に係る行政文書を管理していない理由)
本件請求に係る行政文書については、保管しておらず管理していない。 - 同年7月20日、審査請求人は、本件決定を不服として、大阪府公安委員会(以下「諮問実施機関」という。)に対し、行政不服審査法第5条の規定により審査請求を行った。
第三 審査請求人の主張
- 審査請求の趣旨
「公開しない」との決定を取消し、公開を求める。 - 審査請求の理由
指掌紋取扱細則改正(平成23年1月5日施行)後、改正前の『指掌紋票』の作成は廃止となっているが、すでに作成済みの『指掌紋票』については廃止となっておらず、管理運営上、「指掌紋票」の様式は存在する。
従って、保管しておらず、管理していないとの理由は有得ず、「公開しない」は不当である。
なお、「保管しておらず、管理していない」の意味が、「『指掌紋票』の作成は廃止となったが、様式は廃止となっていない。しかし、様式を保管していない、管理もしていない」であるならは管理運営上、大問題である。
第四 諮問実施機関の主張要旨
諮問実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
1 実施機関の意見
(1)指紋等取扱細則等について
指紋等取扱細則(昭和44年警察庁訓令第8号。以下「旧細則」という。)は、被疑者の指紋及び掌紋(以下、「指掌紋」という。)を組織的に収集し、管理及び運営するために必要な事項を定め、もって犯罪捜査に資することを目的とした指紋等取扱規則(昭和44年国家公安委員会規則第6号)を受けて定められたものであり、実施機関において指掌紋を記録する際に用いる様式及び記録の作成要領等が定められていた。
その後、旧細則は廃止され、指掌紋取扱細則(平成9年警察庁訓令第11号。以下「新細則」という。)として新たに制定されることとなり、平成10年1月5日、新細則が施行されたことに伴い廃止された。
(2)指掌紋の記録の様式について
旧細則に定められた被疑者の指掌紋の記録は、様式としての「指紋票」にインクにより押なつの上、被疑者の氏名、生年月日、本籍、住所、身体特徴等の個人情報を記録して行われていた。
その後、新細則の施行に伴い、被疑者の指掌紋等の個人情報は、様式としての「指掌紋記録等」に電磁的方法により記録することとなり、旧細則に規定する様式としての「指紋票」は廃止された。
(3)本件処分の妥当性について
ア 本件請求における文書特定について
審査請求人は、本件請求において、請求内容を「改正指掌紋取扱細則(平成10年1月5日施行)前の「指掌紋票」の様式」としていることから、旧細則に規定する様式としての「指紋票」を本件請求に対応する行政文書として特定した。
イ 本件請求に対応する行政文書の存否について
指掌紋の記録の様式は、新細則の施行により、「指掌紋記録等」に改正され、様式としての「指紋票」は存在しない。
なお、旧細則により作成された「指紋票」は、実施機関において保管はしているが、これらは全て被疑者の指掌紋等の個人情報が記録された固有の行政文書であり、様式としての「指紋票」に該当しない。
また、本件行政文書については、警察庁が現に保管していることを確認できたため、本件決定を行った7月6日付で、実施機関から審査請求人に対し、同文書を警察庁に公開請求すれば入手できる旨を文書で案内していることから、審査請求人が本件行政文書を入手することは可能な状況にある。
(4)結論
以上のとおり、本件処分は条例の趣旨を踏まえて行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
2 諮問実施機関のまとめ
本件処分については、本件請求に係る行政文書を実施機関が保管・管理していないことから、条例第13条第2項の規定に基づいて行われたものであり、違法、不当はないものと考える。
第五 審査会の判断
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、逮捕により身柄を拘束された被疑者等の指掌紋等をインクにより押なつし、その氏名、生年月日、本籍、住所、身体特徴等を記録するための様式で、昭和44年警察庁訓令第8号(旧細則)で定められ、平成10年1月5日に、新細則(平成9年警察庁訓令第11号)が施行されるまで運用されていたものである。
3 本件決定の妥当性について
実施機関は、本件行政文書は、既に廃棄されており、現に管理していないと主張するので、廃棄の時期について説明を求めたところ、廃棄の時期を示す資料も残っていないため、時期を特定することは困難だが、可能性のある時期としては、次のアからウが考えられるとの説明があった。
- ア 当初は、昭和39年に定められた「大阪府警察文書規程」により「完結後廃棄」として管理されていたが、平成10年1月5日の新細則の施行に伴い廃棄した。
- イ 「大阪府警察文書規程」が、昭和58年に「大阪府警察文書管理規程」に改正された際、「長期保存」扱いとなって保存していたところ、同規程が平成13年9月1日から「大阪府警察行政文書管理規則」に改正施行された際、旧規則は既に廃止されていたことから、この時点で廃棄した。
- ウ 平成13年9月時点で廃棄されなかったが、平成14年に、「大阪府警察文書管理規程」に基づく保存期間の見直しが行われた際に廃棄した。
なお、行政文書を廃棄する際に作成することとなっている「文書廃棄票」の保存期間は5年間であり、書庫等を検索したが、それも発見することができなかった。以上のことから本件行政文書は平成10年ころ若しくは平成13年ころから同14年ころまでの間に廃棄された可能性が強いと考えられるとのことであった。
以上の説明も踏まえ、以下判断する。
- (1)実施機関が、本件行政文書を、文書管理諸規程に基づいて管理していたならば、平成10年ころ若しくは平成13年ころから同14年ころの時期に廃棄された可能性があるという説明には特段不自然な点は認められない。
なお、「大阪府警察行政文書管理規則」及び「大阪府警察文書管理規程」は、ともに文書の保存期間として、1年、3年、5年、10年、長期の5種類を規定しているが、仮に平成13年9月1日に「大阪府警察行政文書管理規則」により保存期間が定められた時点、若しくは「大阪府警察文書管理規程」に基づく平成14年ころの保存期間を見直した際に、本件行政文書にかかる保存期間を「5年」「10年」「長期」と設定していたとすれば、本件請求時点で本件行政文書が存在するか、若しくは「文書廃棄票」(文書廃棄後5年間保存)のいずれかが存在するはずである。
しかし、実施機関が、平成10年時点で廃止になった本件行政文書を、平成13年9月及び平成14年の時点で保存期間を設けて複数年保存する理由あるいは必要性があるとは考えにくい。また、実施機関としては、本件行政文書の開示請求を受けて、書庫等を検索したが、本件行政文書及び文書廃棄票を発見できなかったと主張しているところ、- 平成10年1月に改正され失効した本件行政文書を、時期は特定できないものの、一定期間経過後に廃棄した可能性が高い
さらに、本件行政文書を発見できなかった実施機関が、警察庁が本件行政文書を保管していることを確認し、審査請求人が警察庁から同文書を入手するために必要な手続きを案内していることをあわせて考えると、本件行政文書が、時期は特定できないが、既に廃棄され、現に保管されていないとの説明は理由があると思われる。 - (2)審査請求人は、実施機関が本件行政文書を何らかの理由で隠していると主張しているが、(1)で述べたように、実施機関は、審査請求人に対し、本件行政文書を警察庁から入手する手続きを案内していることから、かかる主張は理由があるとは考えにくい。
以上の理由から、本件決定は妥当である。
4 結論
以上のとおりであるから、本件審査請求には理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員
大和正史、岩本洋子、野呂充、松本哲治