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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第215号)
臓器提供関係文書部分公開決定及び不存在による非公開決定異議申立事案
(答申日平成24年6月1日)
第一 審査会の結論
実施法人は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において、公開しないことと決定した部分のうち、「実施法人の看護師、技師等の職員氏名」及び「日本臓器移植ネットワーク西日本支部及び大阪腎臓バンクの職員の役職名」を公開すべきである。
実施法人のその余の判断は妥当である。
また、特定した文書以外にも異議申立人が公開を求める文書があるはずなのに開示されていないという主張については、実施法人は、異議申立人から請求の範囲を十分聴取して、改めて、対象文書を特定した上で、決定を行うべきである。
第二 異議申立ての経過
- 異議申立人は、平成23年5月12日付けで、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第19条の2の規定により、地方独立行政法人大阪府立病院機構(以下「実施法人」という。)に対し、次の法人文書についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。以上大阪府立急性期・総合医療センターで実施された4月の臓器提供事例に関する資料
- (1)4月に開催された倫理委員会及び脳死判定委員会等に相当する会議の議事録及び委員会の要綱又は規則等(以下「請求事項1」という。)
- (2)外部(府庁・上部機構・関連事業体)との連絡記録の時又は後に作成したメモ、備忘録に相当する記録等や時系列にまとめたもの(以下「請求事項2」という。)
- (3)脳死判定結果及び関連資料(以下「請求事項3」という。)
- 実施法人は、同年5月25日、本件請求事項1及び3については、下記(1)アに掲げる法人文書を特定の上、条例第19条の3において準用する条例第13条第1項の規定により(1)イに掲げる公開しないことと決定した部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開する旨の部分公開決定(以下「本件部分公開決定」という。)を行い、(1)ウに掲げる公開しない理由を付して、異議申立人に通知を行った。また、本件請求事項2については、条例第19条の3において準用する条例第13条第2項の規定により、不存在による非公開決定(以下「本件非公開決定」という。)を行い、(2)アに掲げる理由を付して、異議申立人に通知を行った。
- (1)本件部分公開決定について
- ア 本件請求事項1及び3に対応する文書
- (ア)院内臓器移植コーディネートチーム臨時会議
- (イ)第1回臓器移植対策室会議(臓器移植臨時委員会)
- (ウ)第1回法的脳死判定
- (エ)第2回法的脳死判定
- (オ)院内臓器移植コーディネートチーム内規
- (カ)臓器移植委員会設置要綱
- (キ)第129例目の臓器提供事例にかかる情報公開について(1)から(4)
- イ 公開しないことと決定した部分
個人の氏名及び個人が特定される役職名 - ウ 公開しない理由
条例第19条の3において準用する第9条第1号に該当する。
本件法人文書(非公開部分)には、個人の氏名(ただし、医師及び臓器移植委員会委員を除く。)が記録されており、これらは特定の個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
- ア 本件請求事項1及び3に対応する文書
- (2)本件非公開決定について
- ア 管理していない理由
本件法人文書は、作成していないため管理していない。
- ア 管理していない理由
- (1)本件部分公開決定について
- 異議申立人は、同年7月21日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施法人に異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
実施法人は本件部分公開決定で要綱を開示したものの他は部分公開としているが、不当に非公開部分を拡大した処分である。又、本件非公開決定での不存在による非公開決定は不当であり処分を取り消し部分公開とすることを求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は概ね以下のとおりである。
1 異議申立書における主張
実施法人は本件部分公開決定で部分的に非公開とした理由は不当で、臓器移植法に基づく脳死判定や臓器提供で重要な任務について作業した全ての参加個人名は開示すべきである。本件非公開決定で「作成していない」事を理由として不存在による非公開決定処分をしているが、臓器提供に関連する資料や脳死判定記録等作成していないはずはない。現に既に開示された資料の中の「第二回法的脳死判定」の会議では「脳死判定記録書」と「脳死判定的確実施証明書」を作成したと記載されている。こうした資料を開示の対象外とした事及びそれら資料を作成した元データを対象外とした事は不当である。非公開部分を最小限に限定して開示決定すべきである。
2 反論書における主張
実施法人が実施法人の主張要旨で述べている「1、臓器移植について」及び「2、本件臓器摘出について」は承知しており、「3、本件決定の適法性」について以下具体的に反論する。
- (1)第五 実施法人の主張要旨「3、本件決定の適法性について(1)本件部分公開決定についてのア」について
実施法人は、条例第5条を引用して「一般に他人に知られたくないと望む事が正当であると認められるものをみだりに公にする事のないよう最大限の配慮をしなければならない」として今回の非公開の理由の一つとしている。しかし何を根拠に「知られたくないと望む事が正当であると認められる」との考えに至ったのか不明である。そもそも臓器提供は一般に美談として報道され命のリレーと社会一般には受け止められるよう宣伝報道されている。また臓器移植法に基づく臓器提供の為の費用や諸経費を含め一般医療と比べ特段の配慮がなされ、国から臓器提供者の遺族に対して表彰もされている。また臓器提供病院においても臓器提供遺族に対して特別な対応をしている事は承知の事実である。特段の不正や、やましい事がない限りは「他人に知られたくないと望む事が正当」といった考え、判断に至る事は無い。又いずれは各臓器提供事例が国の検証会議の基で専門的検証が実施され検証報告として公表される事が一般的である。この事実経過からも実施法人が「他人に知られたくないと望む事が正当」とした情報判断は間違いで本件事例の非公開判断は不当である。そもそも臓器移植法が制定された平成9年では参議院で原案が修正され付帯決議をつけて可決された。その付帯決議7では「・・・判定が臓器確保のために安易に行われるとの不信を生じないよう、医療不信の解消及び医療倫理の確立に努めること」が明記され、公平公正かつ厳格な脳死判定を求め、医療不信の解消に努めることが決議されている。言い換えれば他人に知られたくないと願う家族がいたとしてもこの法の精神の基に国民に不信を与える秘密主義や隠蔽を戒めている。また法第1条の「目的」では「・・・移植医療の適正な実施に資する事を目的とする」と定めている。適正な実施を判断したい国民に可能な限り情報を提供し「適正に実施」した事を公表する事は法の基に臓器提供した医療機関の責務である。異議申立人は法に基づき適正に実施されたか否かを判断したいが為に公開請求している。条例の範囲を超えた法の目的からも実施法人の非公開理由の主張は不当である。実施法人はそもそもの情報判断を間違い勝手に他人に知られたくないものと判断して非公開にした事は不当である。本人が特定される個人名等を含め非公開部分を最小限に限定して他の部分は公開することを求める。 - (2)第五 実施法人の主張要旨「3、本件決定の適法性について(1)本件部分公開決定についてのイ」について
実施法人はスタッフとして参加した看護師、技師名を非公開の対象としているが、いずれも公務員が公務として仕事に係わったのであり、実施法人が非公開の根拠としている条例第9条第1号の不当な乱用で不当である。そもそも公務員は日常の公務で名刺交換したり氏名を表示して公務についている。本件情報公開についてのみ非公開とする根拠は存在しない。しかも実施法人は非公開の根拠を条例第9条第1号を理由に「一般に他人に知られたくないと望む事が正当であると認められる」と抽象的で誤った情報判断を基にして非公開を範囲拡大、乱用している。条例第8条の不開示条項を根拠としていない事からも範囲拡大、乱用している事が証明できる。行政側のこうした範囲拡大や乱用で、本来の情報公開制度が歪められる事のないように、本年4月22日政府は「行政機関の保有する情報の公開に関する法律の一部を改正する法律案」を国会提出している。その中では公務員等の職務の遂行に関する情報について、公務員等の氏名が原則として開示の対象にされている。日常的に公開している氏名を情報公開の時だけ、又今回だけ非公開とする事は不当な処分であり、関わった職員の氏名の公開を求める。 - (3)第五 実施法人の主張要旨「3、本件決定の適法性について(2)本件不存在による非公開決定」について
実施法人は異議申立人が当初公開請求した項目、請求事項3を恣意的に脳死判定記録書及び脳死判定的確実施証明書を対象外として処分している。これは明らかに条例第2条定義に反している。異議申立人は当初から関連資料の公開を求めている。その関連資料が何処で作成されたか、どの会議で資料として提出され確認されたか等知る由もない。法律で作成が義務付けられている資料であるから公開対象として公開を求めていた。また実施法人は脳死判定記録書及び脳死判定的確実施証明書等は法が閲覧可能な者について限定していると主張して最初から勝手に公開請求対象外の扱いをしていた。これは異議申立人の公開請求内容を一方的に変更して対応していた事でこのような恣意的な対応は条例第3条の「・・公開を求める権利が十分に保障されるように、この条例を解釈し運用する事・・」にも違反し配慮を欠いた許せない判断であり厳しく反省すべきである。更に実施法人が主張する「法は閲覧可能な者を限定している」は当然の事である。閲覧はそのもの全て内容を閲覧する事が出来るのである。つまり全部開示を家族に限定して保障したものである。異議申立人は家族ではないので当然部分公開を想定して公開請求をしている。法は情報公開の対象にすることを禁じているものではない。直接閲覧に限定しているだけである。だからこそ臓器移植事例の検証会議が脳死判定記録書及び脳死判定的確実施証明等も検証した結果公開される検証報告では脳死判定記録書の一部も含めて公開されるのである。実施法人が主張するように法が閲覧を限定しているから公開の対象外であるならば当然検証会議での公開や一部でも検証報告で公開する事は法違反となる。また異議申立人は実施法人以外の臓器提供機関に同様の公開請求を行い脳死判定承諾書や臓器摘出承諾書、法的脳死判定医任命書、脳死判定記録書、脳死判定的確実施証明書、脳波記録等の部分公開を得ている。実施法人だけが非公開対象としているのは法的にも条例上も不当な判断処分である。処分を改め非公開を最小限に限定した上での公開処分を求める。
以上の通り実施法人は不当な非公開理由を主張して部分公開とし、又独断、恣意的に異議申立人の公開請求項目を変更して条例第2条及び同第3条に違反して対象外としたり、不存在処分をする等の不当な処分をしてきた。法及び条例に沿った適切的確な判断の基に運用するべきである。
第五 実施法人の主張要旨
実施法人の主張は、概ね次のとおりである。
1 臓器移植について
臓器の移植に関する法律(以下「臓器移植法」という。)が平成9年7月に成立し、同年10月から施行された。平成11年12月、平成21年7月の改正を経た後、現行同法の骨子は以下のとおりである。
目的
第一条
この法律は、臓器の移植についての基本的理念を定めるとともに、臓器の機能に障害がある者に対し臓器の機能の回復又は付与を目的として行われる臓器の移植術(以下単に「移植術」という。)に使用されるための臓器を死体から摘出すること、臓器売買等を禁止すること等につき必要な事項を規定することにより、移植医療の適正な実施に資することを目的とする。
臓器摘出の条件及び脳死の定義
第六条
- 医師は、次の各号のいずれかに該当する場合には、移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。
- 一 死亡した者が生存中に当該臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないとき
- 二 死亡した者が生存中に当該臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合及び当該意思がないことを表示している場合以外の場合であって、遺族が当該臓器の摘出について書面により承諾しているとき。
- 2 前項に規定する「脳死した者の身体」とは、脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定された者の身体をいう。
脳死判定
第六条
- 4 臓器の摘出に係る第2項の判定は、これを的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師(当該判定がなされた場合に当該脳死した者の身体から臓器を摘出し、又は当該臓器を使用した移植術を行うこととなる医師を除く。)の一般に認められている医学的知見に基づき厚生労働省令で定めるところにより行う判断の一致によって、行われるものとする。
2 本件臓器摘出について
平成23年4月23日、24日、25日にわたり実施法人(大阪府立急性期・総合医療センター)において、社団法人日本臓器移植ネットワーク(移植医療を円滑かつ公正に実行し、臓器移植法に定められた臓器移植の斡旋業を行い、臓器移植希望者の登録、ドナー情報の受付、移植手術予定患者の選出、臓器提供から搬送までの実施・調整を事業とする厚生労働大臣認可団体)の協力のもと脳死の人からの臓器提供による臓器摘出手術を実施した。これは臓器移植法施行後129例目、平成22年7月の改正法施行後、43例目で、本人の意思が書面で残されておらず、家族の承諾だけで提供されるのは40例目である。
3 本件決定の適法性について
(1)本件部分公開決定について
ア 条例第19条の3において準用する第9条第1号について
個人の尊厳の確保、基本的人権の尊重のため、個人のプライバシーは最大限に保護されなければならない。
特に個人のプライバシーは一旦侵害されると、当該個人に回復困難な損害を及ぼすことに鑑み、条例は、その前文において「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護すること」を明記し、条例第5条において「実施法人は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」ことを定めている。
そして、条例第9条第1号においては「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」については、「公開してはならない情報」とし、公開することを禁止するという基本原則が明確に定められている。
条例第9条第1号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報とは、一般的に社会通念上、他人に知られることを望まないものをいい、この「正当であると認められる」情報判断については、個人を取り巻く背景や情報そのものの性質等を十分に考慮して行わなければならない。
イ 条例第9条第1号に該当することについて
本件係争部分は、本号に該当するものとして非公開とした臓器提供の責任ある立場といえる医師及び臓器移植委員会委員を除くスタッフとして参加した看護師、技師等の個人の氏名である。
これらの情報は、特定の個人が識別され得る個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
以上から、これらの情報は条例第9条第1号に該当すると判断した。
(2)本件不存在による非公開決定について
異議申立人の公開請求書に記載された請求事項2は作成していないため、管理していない。
異議申立人は、「脳死判定記録書」と「脳死判定的確実施証明書」が請求事項2の対象になるとの主張をされているが、これらは請求事項1に基づき公開した議事内容を示すものである。
さらに異議申立人は、「脳死判定記録書」及び「脳死判定的確実施証明書」を対象外としたことが不当であるとの主張もされているが、「脳死判定記録書」及び「脳死判定的確実施証明書」は、臓器移植法第10条において「医師は、第6条第2項の判定、同条の規定による臓器の摘出又は当該臓器を使用した移植術(以下この項において「判定等」という。)を行った場合には、厚生労働省令で定めるところにより、判定等に関する記録を作成しなければならない。」に基づき作成したもので、その閲覧については同条第3項にて「前項の規定により第1項の記録を保存する者は、移植術に使用されるための臓器を提供した遺族その他の厚生労働省令で定める者から当該記録の閲覧の請求があった場合には、厚生労働省令で定めるところにより、閲覧を拒むことについて正当な理由がある場合を除き、当該記録のうち個人の権利利益を不当に侵害するおそれがないものとして厚生労働省令で定めるものを閲覧に供するものとする。」と定められている。
そして、臓器の移植に関する法律施行規則第8条においては「臓器移植法第10条第3項に規定する厚生労働省令で定める者は、移植術に使用されるための臓器を提供した遺族、移植術を受けた者又はその者の家族及び臓器移植法第12条第1項の許可を受けた者(以下「臓器あっせん機関」という。)とする。」と閲覧可能な者を定めている。
以上のとおり、「脳死判定記録書」及び「脳死判定的確実施証明書」は、臓器提供者の病状等のきわめて重要かつ慎重な取り扱いが求められる情報であり、かつ臓器移植法により閲覧可能な者についても限定している。
そのため、請求者が請求する内容は議事内容を記録した議事録と判断し、本件対象文書には含めていない。
(3)結論
以上のとおり、本件部分公開決定及び本件非公開決定は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
法人文書公開制度は、府が設立した地方独立行政法人等の法人が、その設立目的及び組織形態から府の行政の一部を構成し、その諸活動を府民に対し説明する責務を自ら有すると考えられることから、これらの法人が保有する法人文書について、府の行政機関が保有する行政文書と同様の公開請求を行うことができることとした制度である。その基本的な理念は、条例の前文及び第1条にあるように、府民の法人文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、実施法人の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第19条の3において、条例第8条第1項各号及び第9条に定める適用除外事項の規定を準用することとしたものであり、実施法人は、請求された情報が条例第2条第3項に規定する法人文書に記録されている場合には、条例第8条第1項各号及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された法人文書を公開しなければならない。
2 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
(1)本件部分公開決定の係争情報について
本件係争部分を含む対象文書は、本件請求事項1及び3に対応する文書のうち「(ア)院内臓器移植コーディネートチーム臨時会議」、「(イ)第1回臓器移植対策室会議(臓器移植臨時委員会)」、「(ウ)第1回法的脳死判定」、「(エ)第2回法的脳死判定」の各会議の議事録(以下、「部分公開対象文書」という。)であり、いずれの文書も「1.日時、2.場所、3.出席者、4.議事」で構成されている。
本件係争情報は、「3.出席者」に記載されている「実施法人の看護師、技師等の氏名(ただし、医師及び臓器移植委員会委員を除く。)」、「日本臓器移植ネットワーク西日本支部の従業員氏名及び役職名」及び「大阪腎臓バンクの従業員氏名及び役職名」である。実施法人は、臓器提供の責任ある立場といえる医師及び臓器移植委員会委員を除くスタッフとして参加した看護師、技師等の個人の氏名及びその個人が識別されるおそれのある役職名は、個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものであり、条例第19条の3において準用する第9条第1号に該当すると主張しているので、以下検討する。
(2)条例第19条の3において準用する第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。
同号は、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された法人文書については公開してはならないと定めている。
(3)条例第19条の3において準用する条例第9条第1号該当性について
本件係争情報は、「実施法人の看護師、技師等の氏名(ただし、医師及び臓器移植委員会委員を除く。)」、「日本臓器移植ネットワーク西日本支部の従業員氏名及び役職名」、「大阪腎臓バンクの従業員氏名及び役職名」であり、これらの情報は、個人の職業に関する情報であるから、いずれも(2)アの要件に該当する。
次に、これらの情報が(2)イ及びウの要件に該当するかどうかについて検討する。
ア 実施法人の看護師、技師等の氏名について
これらの情報は、特定の個人が識別され得る情報であり、(2)イの要件に該当する。
次に、条例に規定される実施法人でもある職員の氏名については、実施法人の看護師、技師等の職員の身分について定める地方独立行政法人法の第47条において「特定地方独立行政法人の役員及び職員は、地方公務員とする。」と規定されており、本件情報が公務員の職務に関連する情報にあたることからすると、(2)ウの要件には該当せず、公開すべきと考える。
イ 日本臓器移植ネットワーク西日本支部及び大阪腎臓バンクの従業員氏名について
これらの情報は、特定の個人が識別され得る情報であり、(2)イの要件に該当する。また、どのような職業に就いているかは、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる個人情報に該当することから、(2)ウの要件にも該当し、非公開とすることが妥当である。
ウ 日本臓器移植ネットワーク西日本支部及び大阪腎臓バンクの従業員役職名について
これらの情報は、一般に役職名のみでは個人が識別され得る可能性は低いと考えられるが、日本臓器移植ネットワークは全国に支部が3か所存在し、専任の移植コーディネーターは約30名在籍するとのことで、役職も細分化されているということを考えあわせると、支部を活動拠点とするコーディネーターは、役職名のみで個人が識別されることもあり得ると考えられる。
しかしながら、厚生労働省の臓器移植法を適切に運用するための指針では、臓器移植ネットワーク等の臓器のあっせんに係る連絡調整を行う者(「コーディネーター」)が、臓器摘出についての家族への説明、承諾の意思確認を行うこととされており、本件情報が記載されている院内臓器移植コーディネートチーム臨時会議は、臓器移植の際の円滑な移植医療を提供することを目的に、ドナーの把握や意思確認、臓器提供の際の連携のための調整を行うために開催するものである。当該会議の開催趣旨からすると、本件法人文書の「(ア)院内臓器移植コーディネートチーム臨時会議」の出席者に記載されている日本臓器移植ネットワーク西日本支部及び大阪腎臓バンクのコーディネーターという言葉を含む役職者が出席して合法的に行われているという事実が明らかになることは、他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるとは到底言い難く、(2)ウの要件には該当しないから、役職名については公開すべきと考える。
(4)本件不存在非公開決定について
請求事項2に対する法人文書の不存在を不服とした理由について異議申立人に確認したところ、口頭意見陳述において、実施法人以外の臓器提供機関に対して行った公開請求により開示を受けた「脳死判定承諾書」、「臓器摘出承諾書」、「脳死判定記録書」、「脳死判定の的確実施証明書」、「脳波記録書」等を審査会に追加資料として提出したうえで、法で作成が義務付けられているこうした文書をはじめ、実施法人が管理している資料の公開を求めることが請求の趣旨であるにもかかわらず、実施法人は異議申立人の請求内容を確認することなく対象文書を特定しており、本来あるはずの文書が開示されていないとの主張があった。
そこで、当審査会として、この点について実施法人に説明を求めたところ、文書の特定は請求書の記載内容に基づき判断し、請求者に意向確認は行わなかったこと、法で義務付けられている「脳死判定承諾書」、「臓器摘出承諾書」、「脳死判定記録書」、「脳死判定の的確実施の証明書」、「患者に関するカルテ情報」については、現に管理しているとのことであったが、法において閲覧可能な者が臓器を提供した遺族等に限定されていることから本件請求の対象文書として特定しなかったとの主張であった。
以上の事実に基づいて判断すると、特定した文書以外にも異議申立人が公開を求める文書があるはずなのに開示されていないという主張については、実施法人は、異議申立人から請求の範囲を十分聴取して、改めて、対象文書を特定した上で、決定を行うことが必要である。
なお、法において閲覧可能な者が限定されているため対象文書として特定しなかったとの実施法人の主張については、異議申立人が条例により公開請求することを妨げるものではないことを申し添える。
3 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
大和正史、岩本洋子、野呂充、松本哲治