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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第223号)
教職員評価・育成システム苦情審査会議事録部分公開決定異議申立事案
(答申日平成25年3月22日)
第一 審査会の結論
大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)の部分公開決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 異議申立人は、平成24年4月25日、実施機関に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「教職員の『評価・育成』システム苦情審査会(以下「苦情審査会」という。)議事録(2011年度)」についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 実施機関は、同年5月9日、本件請求に対応する行政文書として下記(1)の行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、下記(2)の部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を下記(3)のとおり付して異議申立人に通知した。
- (1)行政文書の名称
平成23年度苦情審査会議事録 - (2)公開しないことと決定した部分
苦情審査会議事録の議事内容のうち、苦情申出者の「所属校名」「氏名」の部分 - (3)公開しない理由
条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、苦情申出者の所属校名や氏名が記載されており、これらの情報は、個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別されうるもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められるものである。
- (1)行政文書の名称
- 平成24年7月2日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に対して、異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定の取消し及び当該情報の全部開示を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。
公開された審査会議事録には、「4 議事内容」として(1)事務局説明(2)委員審議(主な意見)が列挙されているが、どの委員が何を言ったかかが全くわからないし、意見のやり取りも不明である。議事録の体をなしてない。実質的な「議事録」不存在である。
この議事録は明らかに後日作成されたものであり、担当者が備忘録として作成するメモ等の存在が推測されるが公開されなかった。
このようなことが認められるならば、審議会での発言で教育委員会に都合の悪いことは議事録に記載されないで記録が一切残らないことになる。いわゆる議事録の二重帳簿状態になる。審議会ではどのような議論がなされたのかはわからないものである。
「評価・育成システム」の「評価結果に対する苦情の申出及びその取扱いに関する要綱(2005年1月1日制定)」第2条(苦情対応の基本的考え方)には「苦情対応は、評価に対する被評価者と評価者の共通認識の形成に寄与することにより、学校における信頼関係の醸成を図るとともに、評価の公正性・公平性に資するものであり、被評価者、評価者すべての関係者は、真摯に対応しなければならない。」とある。また、苦情対応要領(同日制定)第4事案の審査等(1)では「審査会は、申出事案にかかる評価結果が、事実に基づき、評価基準等に照らして評価されているかどうか審査する。」とある。メモが廃棄等を理由にして公開されないことは、これら要綱、要領に反することは明らかである。
「評価・育成システム」での評価は昇給、賞与に反映するので、当該教職員の権利に大きく係わるものである。苦情審査会の透明性、公平性が求められるのは当然である。
異議申立人は2009年10月26日にも同様の開示請求を行い、決定に対する異議申し立てを行った。これに対して、大阪府情報公開審査会は2010年9月22日付け文書(大公審第55号)P9(2)「本件決定の妥当性について」の「イ アに記載した文書特定の考え方の妥当性について」のなかで、「なお、異議申立人は、「議事録」の記載内容について、発言者が不明である「議事録」は一般的には議事録といえず、また、「議事録」の作成後に職員が作成した「メモ」の廃棄が許されるのであれば、議事録の二重帳簿状態を認めることになり、苦情審査会運営の公平性、客観性、透明性の確保に関わる問題であると主張する。これらの主張については、公開された議事録を検討したところ、簡略に過ぎると思われる記載になっており、実施機関は、条例の趣旨にできるだけかなった文書作成に努めることなど改善の余地がある」との指摘がされている。
さらに、大阪府教育委員会の2010年10月18日付け「異議申立てに対する決定について(通知)」(教委職企1778号)P6(2)「本件決定の妥当性について」の「イ アに記載した文書特定の考え方の妥当性について」でも同じ文面である。
しかし、2011年度の「議事録」は2009年度と書式や内容が全く変わっておらず、改善のあとが全く見られない。
また、公開された2011年7月13日実施分の苦情審査会議事録P5には苦情申し出をした教諭の個人名が記載されている。これは「部分公開決定通知書」の「公開しないことと決定した部分」が「苦情審査会議事録の議事内容のうち、苦情申出者の「所属校名」「氏名」の部分」、「公開しない理由」として「大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する。本件行政文書(非公開部分)には、苦情申出者の所属校名や氏名が記載されており、これらは特定の個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」に明らかに反している。
苦情審査会が大阪府情報公開審査会の指摘後も、まともな議事録を作らないからこそ、議事録公開への緊張感を欠き、その結果、個人識別情報が漏えいするような事態を招いたと考えられる。
第五 実施機関の主張要旨
弁明書及び口頭で説明された実施機関の主張は概ね次のとおりである。
1 教職員の評価・育成システムについて
- (1)実施機関は、平成14年7月、「教職員の資質向上に関する検討委員会」から、「教職員全般の資質向上方策」について最終報告を受けた。この最終報告の中で、教職員の意欲と資質能力を高め、教育活動をはじめとする学校の様々な活動を充実し、学校を活性化する方策として提言されたのが「教職員の評価・育成システム」(以下「システム」という。)であり、試行実施を経て、平成16年4月16日に開催された大阪府教育委員会会議で、府立学校に勤務する教職員を対象とした「府立の高等専門学校、高等学校等の職員の評価・育成システムの実施に関する規則(平成16年大阪府教育委員会規則第12号)」(平成23年4月1日より「府立高等学校等の職員の評価・育成システムの実施に関する規則」と改定。以下、「システム実施規則」という。)を新たに制定し、平成16年度以降は、これら規則に基づいて実施している。
地方公務員法第40条第1項には「任命権者は、職員の執務について定期的に勤務成績の評定を行い、その評定の結果に応じた措置を講じなければならない。」とあり、実施機関においては、平成16年4月16日付けで旧勤評規則を廃止し、平成16年度以降、システムの評価結果をもって地方公務員法第40条第1項に規定する勤務評定として実施している。
評価結果の給与への反映については、平成19年度から、前年度の評価結果を昇給及び勤勉手当における勤務成績の判定に活用することとし、職員の給与に関する条例、府人事委員会規則の改正や実施機関による「勤務成績に応じた昇給の取扱いに関する要領」等を制定するなど必要な規定整備を行い、各府立学校長に通知し、全ての教職員に周知している。 - (2)システムは、システム実施規則に基づき、自己申告と面談を基本に実施しており、府立学校における教諭の評価者については、1次評価者は教頭、2次評価者は校長としている。
各教職員は、学校や校内組織の目標達成に向け、各自が年間を通じて取り組む目標を設定し、自己申告票(設定目標等)を作成して育成(評価)者である校長に提出する。教職員の設定目標は、自己申告票をもとに、育成(評価)者との面談によって決定される。
教職員から提出された自己申告票に対して、育成(評価)者は、児童生徒や保護者、同僚教職員などの意見も参考にしながら評価を行う。
評価では教職員の自己申告を踏まえ、設定された個人目標の達成状況を判断して「業績評価」として評価し、また、職務全般の取組みを対象に、教職員の日常の業務の遂行を通じて発揮された能力を「能力評価」として評価する。その上でこれらの評価をもとに「総合評価」が行われる。
評価は、いずれもS・A・Bの3段階を基本にss・Cを加えた5段階(ss・S・A・B・C)の絶対評価でなされ、その結果は年度末に本人に開示され、評価の結果は、教職員本人に開示され取り組みの改善や、次年度の目標設定に生かすこととされている。
評価の基準や方法はあらかじめ明らかにされ、評価の結果に納得できない場合については、教職員は苦情の申出ができることとしている。
当該苦情申出に対する取扱い等については、「評価結果に対する苦情の申出及びその取扱いに関する要綱(以下「苦情取扱要綱」という。)」及び「苦情対応要領」に基づき対応している。
なお、平成25年度には、評価・育成システムの見直しをする予定である。
2 評価結果に対する苦情の取扱いについて
- (1)苦情審査会による苦情対応について
システムでは、教職員の評価に対する信頼性と納得性を高めるため、評価結果に対する苦情申出制度として苦情取扱要綱第3条第1項に基づき苦情審査会(以下「審査会」という。)を設置しており、その詳細については、次のとおりである。
地方公務員に係る紛争処理機関としては、既に、地方公務員法第8条に基づき人事委員会が設置されているが、実施機関としては、システム実施者として、評価の適正を図るとともに、評価の客観性・信頼性を確保するため、教育委員会内に審査会を設置し、評価結果に対する苦情について迅速に対応することとしている。
本件、府立学校教職員に関する苦情審査については次のとおりである。
審査会の委員は、教育委員会事務局職員が当たるが、審査の適正を期すため、教育委員会の幹部職員が対応することとしている。実施機関に係る審査会については、5人の委員から構成され、会長には校長の一次評価者である教育監が当たり、その他の委員には、教育振興室長及び教職員室長、教育総務企画課長及び教職員人事課長が当たっている。
システムにおける苦情対応については、開示面談において評価結果について説明を受けた本人が、その結果について評価者の見解と相違があり、当事者間で解決が見込まれない場合に申し出ることができることとなっている。
教職員から苦情申出がなされた場合、審査会事務局の調査員が苦情申出者から提出された苦情申出書に基づき、苦情内容を聴取することとなる。
なお、この聴取時に申出者から第三者を同席させたい旨の意思表示があった場合には、職員団体役員その他大阪府職員の1名の同席を認めている。また、この同席した第三者は、書面により意見書を提出することができる。
調査員は、聴取した内容について、評価者である校長から評価理由を確認し、その内容を調書として取りまとめ、当該調書を申出者に送付する。
調書を受けとった申出者は、調書内容を踏まえ、さらに苦情申出書に苦情内容を追加することができることとなっている(以下「苦情追加申出書」という。)。以上の手続きを経た上で、審査会では、(1)苦情申出書、(2)第三者の意見書(提出された場合に限る。)、(3)調査員が評価者から聴取して作成した調書(以下「調書」という。)、(4)苦情追加申出書(提出された場合に限る。)を基に、評価結果が、事実に基づき、評価基準等に照らして評価されているかどうかを審査する。
その審査結果は、「審査結果通知書」として、申出者及び評価者にそれぞれ通知し、苦情審査を終了することとなる。
この「審査結果通知書」には、苦情案件毎に各審査員から出された意見を「審査会の意見」としてとりまとめ、審査結果に付記することとしている。
さらに、開催日時、開催場所、出席者、議事内容等を記録した「苦情審査会 議事録」を案件毎に作成している。 - (2)平成23年度の審査会による審査について
平成22年度の評価結果に対しては、府立学校で15件の苦情の申出が行われ、これに対応するため、実施機関は苦情取扱要綱第8条第1項に基づき、平成23年6月8日、6月29日、7月13日、7月26日に審査会を開催した。
それぞれの苦情案件については、苦情対応要領第4(1)及び(2)に基づき、審査会事務局である教職員企画課職員の説明のもと、各審査員が、上記の苦情申出書等と調書を相互に見比べ、校長の行った評価が具体的事実に基づき、評価基準に照らして行われているかを合議した。
なお、審査会終了後、「審査結果通知書」により、苦情申出者及び当該苦情申出者に係る評価者に審査結果を通知した。
3 本件処分の適法性
- (1)本件行政文書の公開について
本件行政文書の公開については、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報(条例第9条第1号該当)として、本件行政文書のうち、苦情申出者の「所属校名」及び「氏名」の部分を非公開としたものである。 - (2)条例第9条第1号該当性について
本件行政文書には、苦情申出者の所属校名及び氏名が記載されている。これらの情報は、特定の個人が識別され得るものである。
評価結果に対する苦情申出制度は、苦情取扱要綱に基づきすべての教職員が利用できる一般的な制度であり、事務局調査員が苦情内容を聴取するための面談への出席について申出者は職務専念義務の免除が認められていることに鑑みると、当該制度の利用は公務員の職務に関する情報といえる。
しかし、教職員が当該制度を利用したという情報は、当該教職員の評価結果が最上位でないことを推知させるものであり、たとえ公務員の身分を有する個人に関する情報といえども、その本人にとっては、不面目な内容の情報である。このような情報については、特定の個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別されうるもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるため、条例第9条第1号に該当するものである。
4 結語
以上のとおり、本件処分は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法又は不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
実施機関は、本件行政文書に記録された情報のうち、苦情申出者の「所属校名」「氏名」について、条例第9条第1号の非公開事由に該当すると主張しているので、この点について、検討する。
- (1)条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、条例第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
本号は、このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。
同号は、- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
- (2)条例第9条第1号該当性について
苦情申出者の「所属校名」「氏名」は、苦情申出者本人の属性及び苦情の有無に関する情報であり、特定の個人が識別され得るものであることから、(1)ア及びイの要件に該当する。
次に、(1)ウの要件に該当するか否かについて検討する。
評価結果に対する苦情申出制度は、公務員の職務に関する情報ではあるが、本件非公開部分が開示されると、教職員は当該制度を利用したことが明らかになり、当該教職員の評価結果が最上位ではないことを推知させることから、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるとする実施機関の主張には理由がある。よって、(1)ウの要件に該当する。
以上のことから、苦情申出者の「所属校名」「氏名」は、条例第9条第1号に該当し、公開してはならない情報に当たる。
3 その他
異議申立人は、苦情審査会の議事録の記載内容では、審議会でどのような議論がなされたのかはわからず、また、2011年度の議事録は2009年度と書式や内容が全く変わっていないなど、平成22年9月22日付け大公審答申第194号(以下「答申第194号」という。)で指摘された点につき、改善のあとが全く見られないと主張するが、かかる主張は、請求対象文書の公開すべき箇所の判断に際して、当審査会での判断に影響を与えるものではない。また、審査会において議事録を見聞したところ、事案によっては、具体的な委員の意見内容が記録されているものもあるなど、一定程度、答申第194号を踏まえた改善がなされていると認められる。実施機関においては、今後とも議事録作成のさらなる改善に努められたい。
なお、実施機関が、対象文書の開示に際し非公開とすべき教諭の氏名を誤って開示したことは不適切な対応であり、今後このようなことのないよう、十分に留意されたい。
4 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
野呂充、松本哲治、小谷寛子、久末弥生