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大阪府情報公開審査会答申(大公審第214号)
学校法人決算書類部分公開決定第三者異議申立事案
(答申日平成24年6月1日)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成22年12月28日、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「学校法人Aの平成21年度の消費収支計算書、貸借対照表」についての行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)が行われた。
- 平成23年1月4日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書に異議申立人である、学校法人A(現在の名称:学校法人B)(以下「異議申立人」という。)に関する情報が記録されていることから、条例第17条第1項の規定に基づき意見書提出の機会を付与するため、異議申立人に対して、第三者意見書提出機会通知書を送付した。
- 同年1月18日、異議申立人は、実施機関に対し、次のとおり、理由を付して、本件行政文書の公開に反対する旨の意見書を提出した。
(公開に反対する理由)- 私達は、公人に請求されるならわかるけれど(例 弁護士会とか、○○会とか)、個人がへんな目的をもっていて公開していいのでしょうか。相手は誰でも公開するのは不安です。
- 個人情報を保護したい。いいなりになるのはくやしい。だから、個人情報がだだもれの時代だからこそ、そう思う。
大阪府知事橋下様よりご本人よりご回答を要求いたします。
- 同年1月25日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として、「学校法人Aの平成21年度の消費収支計算書、貸借対照表」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(1)に掲げる公開しないことと決定した部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて、(2)に掲げる理由により公開する旨の部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、その旨を条例第13条第1項の規定により、請求者に通知した。
さらに、これと同時に、条例第17条第3項の規定により、公開決定をした理由を付して異議申立人に通知した。- (1)本件非公開部分の表示
- 法人代表者の印影
- 中科目以下の金額等(但し、大科目により知り得る中科目以下の金額、補助金に係る中科目以下の金額は除く。)
- (2)公開決定をした理由
本件行政文書(公開部分)に記録されている情報については、当該法人及びその事業の性質等を考慮すると、当該法人の競争上の地位、その他正当な利益を害するとは認められず、条例第8条第1項第1号に該当しない。
そのほか、条例第8条第1項各号又は第9条各号(非公開情報)に該当しないため。
- (1)本件非公開部分の表示
- 同年2月1日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
また、本件決定については、同日、異議申立人が、行政不服審査法第48条において準用する同法第34条第2項に基づき、執行の停止の申立てを行い、同年2月21日、実施機関が執行の停止を決定して、その旨を異議申立人及び請求者に通知している。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定を取り消し、全部非公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は概ね次のとおりである。
1 異議申立書における主張
前理事長は、平成6~平成7年8年にわけて先代園長死去に伴う、園運営についてのトラブルにまきこまれ、平成13年頃C保育園にかかわる事柄について同園から訴訟を提訴され、5年間に渡り、地裁、高裁、最高裁にわたる審議の結果勝利を勝ち取ったものである(当時C保育園の理事長はDである)。
また、当園の銀行であるEに対する無効訴訟にも勝訴したところであるが、今だ園運営にとって、安定期に入ったとはいいがたく、何者から情報公開されているのか、使用目的もはっきりしない者に妨害目的ともうけ、利益を害すると判断される為、条例第8条に該当すると思った。経営の妨害、情報の拡散も考えられるので、公開するなら来園してほしいと切に願うものである。
2 反論書における主張
- (1)実施機関は、弁明書において以下のとおり弁明している。
実施機関においては、許認可、補助、調査等の事務事業を通じて、事業を営む者の情報を収集しており、これらの情報は、事業を営む者から収集したものであっても、原則として公開すべきものとしている。
しかしながら、公開請求に係る行政文書に国、地方公共団体及び請求者以外の第三者の情報が記録されている場合は、第三者の正当な権利利益の保護を図るため、条例第17条第1項の規定に基づき、第三者の意見を事前に聴取し勘案した上で、より的確な判断を行うことが重要である。その際、条例第8条第1項第1号により、社会通念に照らし、第三者の競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことが適当である。
このような観点に照らしたところ、法人代表者の印影及び中科目以下の金額(ただし、大科目により知り得る中科目以下の金額、補助金に係る中科目以下の金額は除く。)を公開することは、金融上、経営上の秘密などの経営ノウハウが明らかとなり、その結果、これらを他者に利用されるなど競争上不利となり、児童の確保にも大きな影響を与えるなど、競争上の地位その他正当な利益を害するものと考えられる。そのため、経営内容が一定明らかとなる大科目(大科目により知り得る中科目以下の金額を含む。)については公開し、法人代表者の印影及び中科目以下の金額(ただし、大科目により知り得る中科目以下の金額、補助金に係る中科目以下の金額は除く。)については、条例第8条第1項第1号に規定する「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」に該当すると判断し、非公開とした。 - (2)請求者の氏名等及び請求の目的・使途を第三者に開示しないまま公開決定をしたことは違法である。
公開請求の対象となっている情報が第三者の競争上の地位を害すると認められる情報か否か、もしくはその他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報か否かを判断するにあたっては、公開請求を行った請求者の氏名・住所その他請求者を特定するに足りる事項(以下「氏名等」という。)及び公開請求の目的・使途が当該第三者に開示されなければならない。
例えば、請求人が第三者と同業の学校法人を営む者である場合、あるいは第三者に対し訴訟提起を予定している者である場合、私立学校の実態を調査・分析することを目的としている研究者の場合、第三者への入園を希望している父母の場合、または当該第三者に寄付するかどうかを検討している者の場合などを考えれば、それぞれの請求者及び公開を請求する目的との関係において、自ずから公開できる情報の範囲には広狭の差があるというべきである。したがって、第三者としては、情報公開の請求者の氏名等及びその目的・使途が開示されて初めて、公開請求の対象となっている情報が第三者の競争上の地位を害すると認められるか否か、もしくはその他事業を営む者の正当な利益を害すると認められるか否かを検討・判断することができるのであって、請求者の氏名等及び目的・使途がまったく開示されなければ、かかる判断をすることはできない。
実施機関は、第三者に対し請求者の氏名等及び目的・使途を開示することを拒否したうえで、当該第三者に対し公開に同意するかどうかの意見を求め、公開に反対する場合にはその理由を明示することを求めるのであるが、第三者としては、請求者の氏名等及び目的・使途を開示されない以上は、かかる判断ができないのであるから、公開に同意できないのは当然のことと言わなければならない。
以上から、実施機関が請求者の氏名等及び目的・使途を開示することなく、第三者が公開請求に反対しているにもかかわらず、情報公開の決定をしたことは違法である。 - (3)大科目の金額に関する情報は、第三者の競争上の地位その他正当な利益を害するものに該当する。
弁明書では、法人代表者の印影及び中科目以下の金額(ただし、大科目により知り得る中科目以下の金額、補助金に係る中科目以下の金額は除く。)を公開することは、金融上、経営上の秘密などの経営ノウハウが明らかとなり、その結果、これらを他者に利用されるなど競争上不利となり、児童の確保にも大きな影響を与えるなど、競争上地位その他正当な利益を害するものと考えられるが、大科目(大科目により知り得る中科目以下の金額を含む。)についてはこれを公開しても、競争上の地位その他正当な利益を害するものと解されないと弁明している。
しかし、このような判断は基本的かつ重大な誤りを犯している。貸借対照表及び消費収支計算書の大科目の金額を開示すれば、収入・支出における各科目の構成比や資産・負債における流動比率や自己資本比率などの経営分析指標並びに財務状況がつぶさに明らかとなり、金融上、経営上の秘密などの経営ノウハウが開示されることは避けられない。その結果、これらを他者に利用されるなど競争上不利となり、児童の確保にも大きな影響を与えるおそれも極めて高くなる。しかも、公開した情報の利用方法について、法令上の制限は定められていないから、公開された情報を請求者がどのように利用するかは請求者の判断に委ねられている。しかし、利用方法によっては、情報を公開された第三者が深刻な風評被害を被るなど回復の困難な損害を被るおそれも十分に考えられる。情報公開法(ママ)の建前上は、第三者に損害が発生すれば、民事上の損害賠償の問題として損害の回復を図れば足りるということであろうが、それでは取り返しのつかない事態が生じうるのである。行政の一方的な判断により、第三者がそのような損害を甘受しなければならない合理的理由は、およそ見出せない。
以上からするならば、貸借対照表及び消費収支計算書の大科目の金額であっても、金融上、経営上の秘密などの経営ノウハウが明らかとなり、その結果、これらを他者に利用されるなど競争上不利となり、児童の確保にも大きな影響を与えるなど、競争上の地位その他正当な利益を害するものと考えられるから、公開すべきでない。そうすると、情報を一部公開するとしても、経営内容に関する一定の情報を明らかにするという情報公開の目的に照らせば、貸借対照表では「資産の部合計」、「負債の部合計」、「基本金の部合計」、「翌年度繰越消費収支超過額」、「消費収支差額の部合計」、「負債の部、基本金の部及び消費収支差額の部合計」、消費収支計算書では「補助金」(これは収入の性格上公開せざるをえないと考える。)、「帰属収入合計」、「基本金組入額」、「消費収入の部合計」、「消費支出の部合計」、「当年度消費収入超過額」、「前年度繰越消費収入超過額」、「翌年度繰越消費収入超過額」を公開すれば十分であり、その場合でも「本年度末」の金額のみの公開に止めるべきである。
3 意見陳述書における主張
- (1)行政文書に第三者の情報が記録されている場合に、条例第17条第1項が当該第三者に対して意見を提出する機会を付与している趣旨
条例第8条第1項の各号該当性の認定にあたっては、条例第17条第1項により、あらかじめ公開によって直接の被害を受けるおそれのある当該第三者の意見を聴取することが義務付けられている。これは、行政手続における適正手続の要請に基づくものと理解できる。本件において、意見を求められた第三者としては、条例第8条第1項の各号の要件該当性、具体的には公開請求にかかる情報を公開することによって、「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるか否か」を判断するために、請求人が当該第三者と競争上の地位にあるかどうか等の情報が最低限必要である。そのためには、請求人を特定するに足りる氏名等を開示することが必要不可欠であるが、条例施行規則第7条によれば、第三者に通知する事項は、公開請求があった日と行政文書に記録されている当該第三者の情報の内容だけである。しかし、これでは、第三者としては、条例第8条第1項の要件該当性について判断することができない。条例第17条が当該第三者に対して意見を提出する機会を付与している趣旨は、条例第8条第1項の要件該当性についての第三者の意見・判断を聴取するためであるから、このような意見の形成・判断に必要な情報が通知されないのであれば、あらかじめ第三者に対して意見を提出する機会を付与したことにはならない。このような条例及び規則の定めは、行政手続に要請される適正手続に反しており、違法である。
よって、請求人の氏名等を開示することなく第三者の意見を求めた公開手続は、違法であって、違法な手続によって第三者に関する情報公開を決定することは違法というべきである。 - (2)大科目の金額も、公開によって「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」に該当する。
実施機関は、法人代表者の印影及び中科目以下の金額を除き、大科目の金額は、公開によって「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」には該当しないと判断したが、異議申立人と競争的地位にある私学経営者が、当法人の経営内容、特に貸借対照表の大科目に属する固定負債の額、流動負債の額、また消費収支計算書の「消費収入の部合計」、「消費支出の部合計」、「当年度消費収入超過額」を広く公表・流布することにより、異議申立人の経営不安を喧伝して、これを園児の獲得競争に利用する場合を考えれば、異議申立人の競争上の地位が害されることは明らかである。このような事態を考えれば、実施機関が異議申立人に請求人の氏名等を一切開示しない以上、異議申立人としては、請求人が競争者であった場合を想定して、大科目の金額であっても、「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」に該当すると判断するほかない。実施機関がそのようなおそれがないと判断するのであれば、請求人の氏名等を開示して、そうではないと判断する具体的な理由を示すべきである。
また、弁明書によれば、私立学校法が、利害関係人から請求があった場合は、正当な理由がある場合を除いては、財務書類を閲覧に供しなければならないと定めていることを理由に、大科目の金額の公開であれば、経営への妨害・情報の拡散が起こりえるとは考え難いと述べている。しかし、私立学校法の規定は、利害関係人にのみ閲覧を認めているのであって、閲覧を求められた学校法人は、請求人に対し利害関係があることの証明を求めることができることが前提になっている。また、仮に、利害関係がある場合であっても、学校法人側に正当の理由がある場合は、閲覧を拒否できることを認めているのであって、この2つの重要な考え方が今回の公開請求手続には欠落している。すなわち、今回の公開手続では、異議申立人には、請求人が利害関係人であるかどうかもまったく判らず、そのために閲覧を拒否できる正当な理由があるかどうかの判断ができない状況になっているのである。このような情報公開の手続は、私立学校法の上記規定に照らしても、違法である。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね次のとおりである。
1 学校法人について
学校法人とは、私立学校の設置を目的として設立される法人であり(私立学校法第3条)、また、私立大学及び私立高等専門学校以外の私立学校を設置している学校法人の所轄庁は都道府県知事と定められており(私立学校法第4条)、実施機関は異議申立人の所轄庁である。
2 学校法人の計算書類について
学校法人は、毎会計年度終了後2月以内に財産目録、貸借対照表及び収支計算書等を作成し、常にこれを各事務所に備え置かなければならない(私立学校法第47条)。また、所轄庁は、補助金の交付を受ける場合には、学校法人からその業務若しくは会計の状況に関し報告を徴することができ(私立学校振興助成法第12条)、当該学校法人は貸借対照表及び収支計算書等を所轄庁に届け出なければならない(私立学校振興助成法第14条)。
実施機関においては、毎年、府内の私立学校に対して、学校経営にかかる収支状況と学校法人の運営状況を調査することを目的として、貸借対照表を含む計算書類を、前記の法令に基づいて、学校法人から提出を求めており、本件行政文書は異議申立人から提出のあった計算書類に該当する。
3 本件決定の適法性について
本件行政文書について、実施機関が公開しないことと決定した部分は「第二 4(1)」のとおりであるが、その理由は以下のとおりである。
実施機関においては、許認可、補助、調査等の事務事業を通じて、事業を営む者の情報を収集しており、これらの情報は、事業を営む者から収集したものであっても、原則として公開すべきものとしている。
しかしながら、公開請求に係る行政文書に国、地方公共団体及び請求者以外の第三者の情報が記録されている場合は、第三者の正当な権利利益の保護を図るため、条例第17条第1項の規定に基づき、第三者の意見を事前に聴取し勘案した上で、より的確な判断を行うことが重要である。その際、条例第8条第1項第1号により、社会通念に照らし、第三者の競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことが適当である。
このような観点に照らしたところ、法人代表者の印影及び中科目以下の金額(ただし、大科目により知り得る中科目以下の金額、補助金に係る中科目以下の金額は除く。)を公開することは、金融上、経営上の秘密などの経営ノウハウが明らかとなり、その結果、これらを他者に利用されるなど競争上不利となり、児童の確保にも大きな影響を与えるなど、競争上の地位その他正当な利益を害するものと考えられる。そのため、経営内容が一定明らかとなる大科目(大科目により知り得る中科目以下の金額を含む。)については公開し、法人代表者の印影及び中科目以下の金額(ただし、大科目により知り得る中科目以下の金額、補助金に係る中科目以下の金額は除く。)については、条例第8条第1項第1号に規定する「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」に該当するものと判断し、非公開とした。
4 異議申立人の提示する異議申立ての理由について
異議申立人の提示する申立ての理由に対しての見解は、以下のとおりである。
- (1)本件行政文書が条例第8条に該当し、全部非公開にすべきとの主張について
公開決定を行うにあたり、当該学校法人の財務状況を全て公開することは、金融上、経営上の秘密などの経営ノウハウが明らかとなり、その結果、これらを他者に利用されるなど競争上不利となり、児童の確保にも大きな影響を与えるなど、競争上の地位その他正当な利益を害するものと考えられるため、法人代表者の印影及び中科目以下の金額(ただし、大科目により知り得る中科目以下の金額、補助金に係る中科目以下の金額は除く。)については、「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」に該当するものと判断して非公開とし、経営内容が一定明らかとなるその他の部分については公開とした。
このように、部分公開決定を行うにあたり、当該学校法人の競争上の地位その他正当な利益を害するものと考えられる部分については非公開としているため、本件行政文書のうち、公開することと決定した部分は条例第8条第1項第1号に該当しない。 - (2)情報公開を行うことによる経営への妨害・情報の拡散について
学校法人は、私立学校法により、毎会計年度終了後2月以内に財産目録、貸借対照表、収支計算書等を作成しなければならず、それらの書類を各事務所に備えて置き、当該学校法人の設置する私立学校に在学する者その他の利害関係人から請求があった場合には、正当な理由がある場合を除いて、これを閲覧に供しなければならないとされている。
これは、私立学校法により、全ての学校法人に共通して課される最低限の義務であり、各学校法人においては、財務情報の閲覧に加え、設置する学校の規模等、それぞれの実情に応じ、例えば学内広報やインターネット等の活用など、より積極的な対応が期待されている。(平成16年7月23日付け16文科高第305号)
また、当該学校法人の競争上の地位その他正当な利益を害するものと考えられる部分については非公開としているため、実施機関が決定した部分公開により、経営への妨害・情報の拡散が起こりえるとは考え難い。
5 結論
以上のとおり、本件についての実施機関の決定は、条例の非公開事由の要件に該当する範囲のものとして適正に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適正かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 本件行政文書について
- (1)学校法人に対する実施機関の関与について
学校法人は、私立学校の特性にかんがみ、その自主性を重んじ、公共性を高めることを目的とする私立学校法の規定に基づき、私立学校の設置を目的として設立される法人である(同法第1条及び第3条)。私立学校及び学校法人の所轄庁は、学校の種類に応じて定められており、異議申立人は、同法第4条第2号及び第4号に該当する学校法人であり、その所管庁は都道府県知事である。
学校法人は、毎会計年度終了後2か月以内に財産目録、貸借対照表、収支計算書及び事業報告書を作成するとともに、常にこれを各事務所に備え置かなければならず、当該学校法人の設置する私立学校に在学する者その他の利害関係人から請求があった場合には、正当な理由がある場合を除いて、これを閲覧に供しなければならないこととされている(私立学校法第47条)。
また、所轄庁は、学校法人が補助金の交付を受ける場合、当該学校法人からその業務若しくは会計の状況に関し報告を徴し、又は当該職員に当該学校法人の関係者に対し質問させ、若しくはその帳簿、書類その他の物件を検査させることができ(私立学校振興助成法第12条第1号)、当該学校法人は、文部科学大臣の定める学校法人会計基準に従い貸借対照表、収支計算書その他の財務計算に関する書類(以下「計算書類」という。)を作成し、所轄庁へ届け出なければならない(私立学校振興助成法第14条)とされている。 - (2)本件行政文書について
本件行政文書は、上記の実施機関の求めに応じて異議申立人が提出した計算書類のうち、平成21年度の消費収支計算書及び貸借対照表である。本件決定において、実施機関は、法人代表者の印影及び中科目以下の金額等(大科目により知り得る中科目以下の金額及び補助金に係る中科目以下の金額を除く。)から成る本件非公開部分を除き公開することとしており、これに対し、異議申立人は、本件決定の取消しを求めている。したがって、本件における係争部分(以下「本件係争部分」という。)は、本件行政文書のうち、本件非公開部分を除く部分である。
3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
- (1)異議申立人の主な主張内容について
異議申立人は、本件係争部分に記載されている、貸借対照表及び消費収支計算書の大科目の金額等の情報、その中でも特に貸借対照表上の固定負債額及び流動負債額並びに消費収支計算書上の消費収入の部合計、消費支出の部合計及び当年度消費収入超過額に係る情報については、経営分析指標及び財務状況が明らかとなる経営ノウハウに該当し、開示を受けた者の情報の利用の仕方によっては、深刻な風評被害など回復困難な損害が発生する恐れがあるなど、法人の競争上の地位が著しく害される恐れがある情報であり、条例第8条第1項第1号に該当しうると主張している。
そこで、本件係争部分に記録されている情報について、(2)及び(3)において、同号の該当性を検討する。 - (2)条例第8条第1項第1号について
事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができる、とするのが本号の趣旨である。
同号は、- ア 法人(国、地方公共団体、独立行政法人等、地方独立行政法人、地方住宅供給公社、土地開発公社及び地方道路公社その他の公共団体を除く。)その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、
- イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。)
本号の「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理に反する結果となると認められるものをいい、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、公開されることにより、事業を営む者に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうと解されるが、これらの具体的な判断に当たっては、当該情報の内容のみでなく、当該事業を営む者の性格や事業活動における当該情報の位置づけ等も考慮して、総合的に判断すべきである。 - (3)本件係争部分の条例第8条第1項第1号該当性について
本件係争部分に記録されている情報は、学校法人である異議申立人が作成した計算書類である消費収支計算書及び貸借対照表の一部であるから、(2)アの要件に該当することは明らかである。
次に、本件係争部分に記録されている情報が(2)イに該当するかどうか検討する。
異議申立人は、本件係争部分に記録されている情報が、競争的な立場にある者に公開されれば、公開された情報の使途について制限がないため、これを異議申立人の経営不安の喧伝や児童獲得競争に利用され、その競争上の地位を害される恐れがあると主張している。
確かに、本件係争部分に記録されている情報については、異議申立人が主張するとおり、異議申立人の収入・支出における各科目の構成比、資産・負債における自己資本比率等の経営分析指標が把握できるなど、その経営規模、資産構成、収支バランス等、全般的な財務状況を把握することが可能なものである。
しかしながら、学校法人は、専ら教育という公益性の高い事業を行うことを目的として設立される公益法人であること、その公益的性格に鑑み税制上の優遇措置がとられていることからすると、学校法人の全般的な財務状況に関する情報は、児童、保護者等関係者や入園志願者にとどまらず、広く府民等の正当な関心の対象となるべき情報である。
また、本件係争部分には、異議申立人の個別の取引に係る取引先や金額などの具体的な情報は記録されておらず、しかも、本件決定においては、計算書類の中科目以下の金額は、該当する中科目が1科目で大科目の金額より知り得る場合及び補助金に係る金額である場合を除き非公開とされている。
以上のことを総合的に判断すると、本件係争部分に記録されている情報については、公開することにより、異議申立人の全般的な財務状況が明らかとなるものではあるものの、学校法人としての公益的性格を考慮すると、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するものとまでは言えないと認められる。
よって、本件係争部分に記録された情報は、(2)イの要件には該当しないと認められ、条例第8条第1項第1号により、公開しないこととすることはできない。 - (4)異議申立人のその他の主張について
- ア 私立学校法第47条の利害関係人の閲覧に係る規定との関連について
異議申立人は、私立学校法の規定により、財務書類の閲覧を請求できるのは当該学校法人の利害関係人に限定されており、利害関係がある場合でも、学校法人側に正当な理由がある場合には、閲覧を拒否できることを指摘した上で、条例が定める情報公開手続では、請求人が利害関係人であるかどうか全く判らず、そのために閲覧を拒否できる正当な理由があるかどうか判断することができないとして、情報公開手続が、私立学校法の規定に照らしても違法であると主張している。
しかし、私立学校法第47条第2項は、学校法人自らが利害関係人に対して貸借対照表及び収支計算書等の全部を閲覧に供しなければならない旨義務づけたものであり、文部科学事務次官通知(平成16年7月23日付け16文科高第305号)において「すべての学校法人に共通に義務付けるべき最低限の内容を規定したもの」とされていることからしても、実施機関が学校法人から提出を受けた計算書類を、条例の規定に基づき一般に公開することを妨げるものではないと解される。よって、異議申立人の主張は認められない。 - イ 条例に規定する第三者への意見照会手続に係る主張について
異議申立人は、条例及び条例施行規則(以下「条例等」という。)に規定した第三者への意見照会手続について、請求者が「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるか否か」を判断するためには、氏名等が必要であって、これらを当該第三者に示さないとする条例等の定めは、行政手続きに要請される適正手続に反するものである旨主張している。
しかし、当審査会は、不服申立てのあった事案について条例に基づき、その決定内容について審議する機関であり、条例等に基づく手続自体が行政手続に要請される適正な手続に反するか否かを審議するものではない。 - ウ 情報公開に係る予備的な主張について
異議申立人は、本件係争部分の非公開を求めるとともに、予備的な主張として、情報の一部を公開するとしても、貸借対照表では「資産の部合計」、「負債の部合計」、「基本金の部合計」、「翌年度繰越消費収支超過額」、「消費収支差額の部合計」、「負債の部、基本金の部及び消費収支差額の部合計」、消費収支計算書では「補助金」(これは収入の性格上公開せざるをえないと考える。)、「帰属収入合計」、「基本金組入額」、「消費収入の部合計」、「消費支出の部合計」、「当年度消費収入超過額」、「前年度繰越消費収入超過額」、「翌年度繰越消費収入超過額」を公開すれば十分であり、その場合でも「本年度末」の金額のみの公開に止めるべきであると主張する。
しかし、条例に基づく情報公開制度は、請求の対象となる行政文書が、条例第8条の規定により公開しないことができるものであるもの又は条例第9条の規定により公開してはならないものに該当する場合を除き、すべて公開の対象とするものである。
本件係争部分に記録された情報は、(3)で述べたとおり、(2)イの要件には該当しないと認められ、条例第8条第1項第1号により、公開しないこととすることはできない情報であることから、これらの情報はすべて公開すべき情報であり、一部の情報のみを抽出して公開し、それ以外の情報は非公開とするといった取扱いを行うことはできない。
よって、この点についても、異議申立人の主張を認めることはできない。
- ア 私立学校法第47条の利害関係人の閲覧に係る規定との関連について
4 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
鈴木秀美、山口孝司、松田聰子、細見三英子