ここから本文です。
大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第86号)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成15年6月3日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定に基づき、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「建築確認申請書(平成○年○月○日確認・番号○確認建築大阪府○○○○○○)の添付書類のうち平面図・基礎伏図・各階床伏図」の公開請求(以下「本件請求」という。)が行われた。
- 同年6月10日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書に第三者である異議申立人に関する情報が記録されていることから、条例第17条第1項の規定に基づき意見書提出の機会を付与するため、異議申立人に対して第三者意見書提出機会通知書を送付した。
- 同年6月17日、異議申立人から下記の内容で意見書が提出された。
- (1)行政文書の公開についての反対の意思の有無 有
- (2)行政文書の公開についての意見(概要)
- ア 建築確認書は、たまたま大阪府が管理、許可をしているだけであり、大阪府の情報として提供したものではない。又、当該物件は第三者への転売が決定しており、その点を考慮し、他人に見せるべきものではないと考える。
- イ 勝手に公開しないようお願いする。ただし、閲覧者の正体、目的を明かしていただいた場合は協議の上、再度検討する余地はある。
- 同年7月1日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として、次の(1)の文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、次の(2)の部分(以下「本件非公開部分」といい、これを除いた部分を以下「本件公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件処分」という。)を行い、公開しない理由を次の(3)のとおり付して、本件請求をした者(以下「請求者」という。)に通知した。
- (1)行政文書の名称
建築確認申請書(平成○年○月○日付け第○確認建築大阪府○○○○○○号により確認済)の添付書類のうち、平面図、基礎伏図、各階床伏図 - (2)公開しないことと決定した部分
- a 個人の印影
- b 平面図
- (3)公開しない理由
条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、個人の印影、許可申請に係る建築物の平面図が記載されており、これらは個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
- (1)行政文書の名称
- 同日、実施機関は、本件処分を行った旨及び本件非公開部分を除いて公開することとした理由を次のとおり付して、条例第17条第3項の規定により第三者である異議申立人に通知した。
〔公開決定をした理由〕
条例第8条第1項各号又は第9条各号に該当しないため。 - 同年7月14日、異議申立人は、本件処分の執行停止の申立てを行うとともに、本件処分を不服として、行政不服審査法第6条の規定により本件処分を取り消し、本件公開部分の非公開を求める旨の異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
- 同年7月17日、実施機関は、本件処分について異議申立てがなされていることを踏まえ、本件処分の執行を停止することを決定し、その旨を異議申立人及び請求者に通知した。
第三 異議申立ての趣旨
本件処分を取り消し、本件公開部分を非公開とすることを求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。
- a 情報公開の対象となった物件の第三者への転売が決定している。
- b 建築確認は異議申立人が費用を負担し、建築基準法(昭和25年法律第201号。以下「法」という。)に従って実施機関に申請しただけであり、本件処分に関わる文書が実施機関の情報とは思いがたい。
- c 請求者の情報が公開されない。
- d 条例第9条に該当しないというが、素性の分からない相手に自分の住居の構造等を見られることは、一般に他人に知られたくないと望むことに該当する。
- e 大阪府の職員の持ち家に関して、全面公開若しくは今回と同じ情報公開をしていない。
- f 個人財産にもかかわらず、国の基準に従い、建築確認の基準に則り制限を守っている。
以上を勘案すると本件処分は行政の怠慢によるものである。情報公開決定は関係者と協議の上で行うべきである。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張を総合すると概ね次のとおりである。
1 建築確認事務について
(1)建築確認事務の概要
建築物を建築しようとする場合、工事に着手する前に、その計画が法令等の規定に適合するものであることについて、建築主が確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けるものであり、法により義務付けられている。
(2)建築確認申請書
建築確認申請書には、付近見取図、配置図、各階平面図、し尿浄化槽又は合併処理浄化槽の見取図、2面以上の立面図、2面以上の断面図、基礎伏図、各階床伏図、小屋伏図、構造詳細図等の図書を添付し、併せて、建築計画概要書も提出することとされている。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、異議申立人が実施機関に提出した建築確認申請書に添付された平面図、基礎伏図及び各階床伏図であり、各図面には建築基準法施行規則(昭和25年建設省令第40号。以下「法施行規則」という。)に基づき次の事項が記載されている。
(1)平面図
縮尺、方位、間取、各室の用途、壁及び筋かいの位置及び種類、通し柱、開口部及び防火設備の位置並びに延焼の恐れのある部分の外壁の構造
(2)基礎伏図及び各階床伏図
縮尺並びに構造耐力上主要な部分の材料の種別及び寸法
3 本件公開部分が条例に定める適用除外事項(非公開情報)に該当しないことについて
(1)条例第9条第1号に該当しないことについて
本件公開部分である基礎伏図及び各階床伏図に記載された情報は、転売後の所有者の財産等に関する情報ではあるが、建築物の構造耐力上主要な部分の材料の種別及び寸法等を示すものに過ぎず、これらの情報は、本件処分において非公開とした平面図のように個人の生活状況等が明らかになる情報ではなく、一般に他人に知られたくないと望むことが正当である情報とは認められない。
したがって、本件公開部分は、条例第9条第1号に規定する適用除外事項には該当しないものである。
(2)条例第8条第1項第1号から第5号及び第9条第2号に規定する適用除外事項に該当しないことについて
本件公開部分には、設計者の氏名、建築士事務所の名称、所在地、郵便番号、電話番号、大阪府知事登録番号も記載されているが、これらはいずれも、法に定められた建築計画概要書に記載された情報であり、法に基づき閲覧の請求を行うことによって何人でも閲覧することができる情報である。また、建築物の名称、日付、縮尺、図面の名称、建築士事務所のFAX番号についても、これを公にすることによって異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められないことから、外部に対して秘匿すべき情報とは考えられない。
したがって、本件公開部分は、条例第8条第1項第1号から第5号及び第9条第2号に規定する適用除外事項にも該当しないことは明らかである。
4 本件処分に係る文書が行政文書に該当し、何人も公開請求し得ることについて
条例第2条第1項は、公開請求の対象となる「行政文書」について、「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した」文書等であって、「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」と定めている。
本件処分に係る文書は、法及び法施行規則に基づき、建築物の建築計画が法等に適合するものであることについて建築主事が確認を行い、確認済証の交付を行うために、実施機関の職員が建築主から受領したものであり、実施機関へ提出された段階から実施機関の職員が組織的に用いるものとして、大阪府行政文書管理規則に従い、実施機関が適正に利用、保存しているものである。
以上のことから、本件処分に係る文書は、条例第2条第1項に定める行政文書に該当するものであり、条例第6条の規定により、何人も、実施機関に対して公開請求することができるものである。
5 請求者の情報が公開されないことについて
条例は、第5条において、「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない」と、個人のプライバシーに関する情報に対する実施機関の責務を定め、また、第9条第1号において、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」を公開してはならない旨を定めている。
請求書に記載された請求者の氏名、住所等は、公開請求を行ったという個人の思想・信条といった個人の内心の秘密に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものであることから、実施機関は、公開することはできないものである。
これは本件処分において、個人の印影及び平面図を非公開としているのと同じ理由である。
6 異議申立人が述べるその他の理由に対して
以上の他、異議申立人が主張する次の理由は、行政文書公開請求における実施機関の公開・非公開の判断に影響を及ぼすものではない。
- (1)大阪府の職員の持ち家に関して、全面公開若しくは今回と同じ情報公開をしていない。
- (2)個人財産にもかかわらず、国の基準に従い、建築確認の基準に則り家の制限を守っている。
7 結論
以上のとおり、本件処分は条例に基づき適正に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このような理念の下に実施されている行政文書公開制度の対象となる「行政文書」の範囲については、条例第2条第1項において、a「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真及びスライド(これらを撮影したマイクロフィルムを含む。)並びに電磁的記録」であって、b「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」をいうと規定されており、実施機関は、請求に係る情報が上記の各要件を満たす「行政文書」に記録されている場合には、当該情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除き、その行政文書を公開しなければならないのである。
2 建築確認事務について
法は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的としている(法第1条)。
建築確認事務は、この目的を達成するため、都道府県及び一部の市に置かれる建築主事等が建築物の法定基準に対する適合性を確認する事務であり、一定の建築物を建築する場合、建築主は工事の着手前にその計画が法等の規定に適合するものであることについて、確認の申請書(建築確認申請書)を提出して建築主事等の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならないとされている(法第6条及び第6条の2)。
建築確認申請書には、付近見取図、配置図、各階平面図、し尿浄化槽又は合併処理浄化槽の見取図、2面以上の立面図、2面以上の断面図、基礎伏図、各階床伏図、小屋伏図、構造詳細図等の図書を添付するとともに、建築計画概要書を併せて提出することとされている(法施行規則第1条の3)が、このうち建築計画概要書は、建築主、代理者、設計者、工事監理者及び工事施工者等の氏名及び住所等、敷地の地名地番、都市計画上・防火上の地域区分、道路、敷地面積、建築物の主要用途、建築面積、延べ面積、構造、高さ等、付近見取図並びに配置図が記載された書面であり、確認を受けた建築物が滅失又は除却されるまで保存され、法に基づき閲覧の請求を行うことによって何人でも閲覧することができる(法第93条の2、法施行規則第11条の7)。
3 本件行政文書について
本件行政文書は、建築主である異議申立人が大阪府建築主事あて提出した特定の一戸建て住宅に係る建築確認申請書の添付書類のうち、平面図並びに基礎伏図及び各階床伏図であり、その記載内容等はそれぞれ次のとおりである。
(1)平面図
建築物の各階(1~3階、屋根を含む)ごとの配置が分かる平面図であり、建築物の方位、間取、各室の用途、壁及び筋かいの位置及び種類、通し柱、開口部などの分かる図面に、敷地面積、建築面積、各階床面積、建ぺい率、設計者の氏名及び印影、作成年月日、縮尺、工事の名称、建築士事務所の名称、登録番号、所在地、電話番号、FAX番号等が付記されている。
この文書については、本件処分において公開しないこととされている。
(2)基礎伏図及び各階床伏図
これらの図面にはそれぞれ建築物の基礎及び各階(2~3階及びR階)の構造耐力上主要な部分の材料の種別及び寸法等の分かる図面に、設計者の氏名及び印影、作成年月日、縮尺、建築工事の名称、建築士事務所の名称、登録番号、所在地、電話番号、FAX番号等が記載されている。
これらの図面のうち本件処分において公開しないこととされたのは、設計者個人の印影のみであり、その他の部分については、公開することとされたが、異議申立人の申立てを受けて実施機関が執行を停止しており、現時点において、公開は実施されていない。
4 本件処分に係る具体的な判断及びその理由
(1)条例第9条第1号への該当性について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限に配慮をしなければならない旨規定している。
このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。
同号は、
- a 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- b 特定の個人が識別され得るもののうち、
- c 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。
これを本件についてみると、本件公開部分である基礎伏図及び各階床伏図には、上述のとおり、一戸建て住宅である建築物の縮尺並びに構造耐力上主要な部分の材料の種別及び寸法が記載されており、これらの情報は、当該住宅の所有者や居住者である「個人に関する情報」であると言えなくはない。
また、本件公開部分には、建築主の氏名や敷地の地名地番等の記載がないものの、上述のとおり、建築主の氏名や敷地の地名地番等が記載された建築計画概要書を何人も閲覧することができることからすると、本件公開部分に記載された情報は、他の情報と結びつけることにより、所有者又は居住者である「特定の個人が識別され得るもの」であることは明らかである。
しかしながら、本件公開部分である基礎伏図及び各階床伏図に記載された情報は、法が求める当該建築物の安全性に関わる公共性の高い情報であって、本件処分において非公開とされた平面図とは異なり個人の生活状況等が明らかになる情報でもないから、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報には該当しないものである。
異議申立人は、既に第三者への転売が決定しており、素性の分からない請求者に自分の住居の構造等を見られるということが一般に他人に知られたくないということに該当すると主張するが、以上のことから、本件公開部分は、条例第9条第1号に該当するとは認められない。
(2)条例第9条第1号以外の適用除外事項への該当性について
本件公開部分である基礎伏図及び各階床伏図の図面そのものは、一戸建て住宅として一般的なものであり、これを公にすることにより、異議申立人等関係する事業者の競争上の地位その他正当な利益を害するような事由は認められない。
また、本件公開部分には、設計者の氏名並びに建築士事務所の名称、登録番号、所在地及び電話番号も記載されているが、これらはいずれも建築計画概要書に記載された情報であり、上述のとおり、何人でも閲覧することができる情報である。
さらに、作成年月日、縮尺、建築工事の名称、建築士事務所のFAX番号についても、通常、外部に対して秘匿すべき情報とは考えられない。
以上のことから、本件公開部分に記載された情報は、条例第8条第1項第1号に該当しないと認められる。また、本件公開部分に記載された情報について、条例第8条第1項第2号ないし第5号に該当する事由が存しないこと、本件公開部分に記載された情報を公にすることを禁じた法令の規定が存せず条例第9条第2号に該当しないことも明らかである。
(3)その他の異議申立人の主張について
なお、異議申立人は本件処分に係る文書は実施機関の文書でなく、条例に規定する「行政文書」には当たらないと主張するが、本件処分に係る行政文書は、実施機関の職員である建築主事が法及び法施行規則に基づき、建築主から取得したものであり、実施機関が大阪府行政文書管理規則に基づいて現に管理しているものであることから、条例第2条第1項に定める公開請求の対象となる行政文書に該当するものであることは明らかである。
また、異議申立人は、本件異議申立ての理由として、請求者の情報が公開されないこと、大阪府の職員の持ち家に関して、全面公開若しくは今回と同じ情報公開をしていないこと、個人財産にもかかわらず、国の基準に従い、建築確認の基準に則り制限を守っていることも挙げているが、これらは、本件行政文書の公開・非公開の適否に何ら影響のない事由を主張するものであり、当を得ないものである。とりわけ、行政文書公開請求書に記載された請求者の氏名又は名称、住所等の情報は、請求者が個人である場合には、これを公にすることにより、特定個人がどのような情報について公開請求をしたかという個人の思想に関わる行動が明らかとなる情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報であり、条例第9条第1号が定める適用除外事項に該当し、実施機関として公開してはならない情報であるし、そもそも、行政文書公開制度における公開・非公開の判断は、請求者が誰であっても同じ判断を行うものであることからしても、異議申立人の主張は当を得ないものと言わざるを得ないのである。
5 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。