ここから本文です。
大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第82号)
第一 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において非公開とした部分のうち、別表に掲げる部分を公開すべきである。
第二 異議申立ての経過
- 異議申立人は、平成14年11月8日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「H14年度自閉症・発達障害支援センターに係る厚生労働省との協議書」について公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 実施機関は、平成14年11月22日、次の(1)の文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、次の(2)に示す部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件処分」という。)を行い、公開しない理由を次の(3)のとおり付して異議申立人に通知した。
- (1)本件行政文書
自閉症・発達障害支援センターの設置運営協議書 - (2)本件非公開部分
職員の氏名、年齢、学歴・職歴及び自閉症児(者)療育に関する経験並びにこれらが特定し得る部分 - (3)公開しない理由
条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、法人の職員の氏名、年齢、学歴・職歴等が記載されており、これらは個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
- (1)本件行政文書
- 異議申立人は、平成14年12月2日、本件処分を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に対して異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件処分において非公開とした部分のうち年齢を除く部分(以下「本件係争部分」という。)の公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張を総合すると概ね次のとおりである。
1 自閉症・発達障害支援センターについて
- (1)自閉症・発達障害支援センターは、正しい理解の促進、専門性に裏付けられたサービスの提供や家族へのサポート、関係機関との連携、専門家の養成等を実施することが期待されている。
自閉症・発達障害支援センターの実施主体は都道府県又は政令指定都市であるが、事業内容を有効に実施して自閉症児(者)等への支援ができる社会福祉法人へ委託することもできる。このことは、大阪府において府の機関が有効に実施することができるのであれば、府の機関でもよいということである。三重県は県の機関が、仙台市は市の機関が自閉症・発達障害支援センターになっている。
大阪府が社会福祉法人北摂杉の子会へ自閉症・発達障害支援センターを附置する理由として、- ア 知的障害者施設において多くの自閉症の援助にあたっている実績がある。
- イ 自閉症児(者)支援にかかわる他の関係団体との連携に積極的に取り組んでいる。
現員数79人のうち37人が自閉症の人たちだから、施設単位あるいは法人単位としては多くの自閉症の人たちを支援しているということはできる。
しかし、自閉症・発達障害支援センターに関していえば、選定理由の中には支援の内容が問題である。この法人がやっていないということを主張しているものではない。協議書の中に説明した箇所がないということである。
施設長さんは、京都で自閉症施設の施設長をされ全国自閉症施設協議会全国大会等で活躍されている。社会福祉法人北摂杉の子会の会報のタイトルは「地域に生きる」である。地域を意識した施設運営をしていることがわかる。今回の情報公開請求で不開示になった方が大阪自閉症支援センター長として「大阪府自閉症・発達障害支援センター構想」についての文を寄せられている。 - (2)厚生労働省社会援護局障害保健福祉部障害福祉課長発「自閉症・発達障害支援センター運営事業の実施について」の取扱いについての中に示されている内容の事業を実施するためには、配置される職員の力量は児童相談所や知的障害者更生相談所の職員と同程度かそれ以上の力量が必要とされる。
自閉症・発達障害支援センターの事業には、多様な状態を見せる本人達を前に常に適切な支援計画を立案し実施していくには高度な専門性が要求されているとともに、裁判にも耐えることができる障害認定、障害程度の判定、そして支援計画・実施の手続きが必要とされていると思われる。
この事業の実施主体は大阪府である。実施機関は、最善をつくして事業を実施しているということを説明する責任がある。力量のある人材を配置したということを主張するのであれば、その根拠を提示すべきである。判断するのは利用者であり、実施機関ではない。利用者が自閉症・発達障害支援センターの事業の内容を実行するのに必要な力量のある職員が配置されているのかどうかを判断するのである。
2 一般に他人に知られたくないと望むことが正当である情報について
(1)情報公開審査会の動向について(厚生労働省の場合)
ア 異議申立ての理由
研究計画書への記載情報は研究遂行に係る情報であり、厚生労働省が研究の質を確保するために必要な情報と判断する。
イ 諮問庁の説明の要旨
特定の個人を識別できる情報であることから、不開示情報に該当する。各研究者に係るこれらの情報については、厚生労働省において公にしてこなかったものであり、今後とも公にするつもりはない。
ウ 審査会の判断
個人の履歴に係る情報は通常、慣行として公にされる情報ではないと考えられる。本件においては研究を総括する立場にある申請者の研究歴等の情報については、本件研究の高い専門性にかんがみ本件研究に直接関連した論文及び著書等の発表業績を含め、具体的に記載されているものと考えられ、また、本件研究課題は旧厚生省において採択され、現に、国費である補助金が交付されたものであり、その際、研究歴等が判断の原因となったものと思慮される。したがって、申請者の研究歴等の情報は最終卒業学校及び卒業年次に係る情報を除き、本件研究にかかる申請者の遂行能力を推し量る上で重要な要素の一つと認められ、申請者の学位及び専攻科目と同様に公にすることが予定されている情報に該当すると考えることが妥当である。
この審査会の判断に立てば、自閉症・発達障害支援センターの事業の「遂行能力を推し量る上で重要な要素」と認められるものは公にすることが予定されている情報であるといえる。
(2)社会福祉法人の個人情報開示請求に対する考え方の事例
現在、自閉症・発達障害支援センターの事業を実施している所が12箇所ある。そのうち、年齢、学校名以外の情報を開示したところは9箇所である。1箇所は態度保留である。
法人が障害者の地域生活を前面に掲げている場合には、個人名を出すケースが多い。川崎市の福祉法人は施設職員の研修状況を実施月、研修会名、開催者、場所、参加職種、参加者名、研修日数、研修内容をそのままにして開示決定している。長野県の福祉法人は地域支援担当者のみ開示している。
(3)自閉症・発達障害支援センター職員名が開示された事例(北海道の場合)
北海道の情報公開条例は、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、学歴、職歴、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって特定の個人が識別され得るもののうち、通常他人に知られたくないと認められるもの」となっている。「通常他人に知られたくないと認められるもの」とは、特定の個人の主観的判断のいかんを問わず社会通念上、他人に知られたくないと思うことが通常であると認められる情報という解釈をしている。
大阪府の条例は、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められるもの」とは、一般的に社会通念上、他人に知られることを望まないものをいう。なお、「正当と認められるもの」かどうかが客観的に明白である場合を除き、当該個人から意見を聴取するなどにより慎重に取り扱い、客観的な判断に努めることにする。「一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められるもの」に該当せず、公開することができる例をあげている。今回の件は、従来から慣行上公開しており、かつ今後公開しても、それが一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められる情報でないことが確実であるもの、また、公務員としての職務に関連する情報に該当する。
公務員としての職務に関連する情報であるとしたのは、自閉症・発達障害支援センターの実施主体が大阪府だからである。
北海道では、「通常他人に知られたくないと認められるもの」は年齢と学歴のみである。北海道の職員であれば開示しなければならないと判断される箇所を全部開示している。利用者が安心して自閉症・発達障害支援センターを利用するための情報、つまり配置されている職員については自閉症についての知見をもっているという情報を利用者に開示することによって、事業の質を担保している。
(4)親の立場からの批判
自閉症・発達障害支援センターへの期待は非常に大きいものがある。配置されている職員についても、非常に熱心で自閉症児(者)への支援の実績があり、自閉症児(者)への支援を専門にやってみたいと思っている人たちが職員として配置されていると思っている。自閉症・発達障害支援センターに配置されたということを人に知られたくないと思う人には、職員としての事業遂行能力を期待することはできない。行政の責任は、自閉症・発達障害支援センターの職員となって自閉症児(者)の支援がしたいという人を配置することである。
福祉事務所、保健所、児童相談所、教育委員会、学校、保育園、企業、家庭との連携の中心になって活動することを期待されている。自閉症・発達障害支援センターの職員であることにプライドを持っていると、親の立場として期待したい。特定の個人を識別して自閉症児(者)及び親は相手を信頼して相談をすることができる。制度的な支援は行政、自閉症・発達障害支援センターの運営についての支援は福祉法人、直接的な支援は職員である。自閉症に係る職歴、療育歴を知ることができなければ適切な相談、療育を行うための関係を築くことが困難になる。
3 まとめ
以上のとおり、非公開にした部分は、事業を適切に運営する為に、公開を予定している情報であり、条例第9条第1号に該当しない。(年齢、卒業学校名を除く。)
厚生省の厚生科学研究や日本自閉症協会の自閉症ガイドブックで分担執筆をされた方も自閉症・発達障害支援センター職員として活躍されている。他の都道県市の自閉症・発達障害支援センターと連携され、自閉症児(者)への支援が充実されることを希望する。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張を総合すると概ね次のとおりである。
1 自閉症・発達障害支援センター運営事業について
(1)事業の概要
自閉症・発達障害支援センター運営事業(以下「本件事業」という。)は、厚生労働省の国庫補助対象事業であり、「自閉症・発達障害支援センター運営事業の実施について」(平成14年9月10日付け厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知。以下「実施通知」という。)において、概ね次のとおり定められている。
ア 目的
支援センターは、自閉症等の特有な発達障害を有する障害児(者)(以下「自閉症児(者)等」という。)に対する支援を総合的に行う地域の拠点として、自閉症等に関する各般の問題について自閉症児(者)等及びその家族からの相談に応じ、適切な指導又は助言を行うとともに、関係施設との連携強化等により、自閉症児(者)等に対する地域における総合的な支援体制の整備を推進し、もって、これらの自閉症児(者)等及びその家族の福祉の向上を図ることを目的とする。
イ 実施主体
実施主体は、都道府県又は指定都市(以下「都道府県等」という。)とする。なお、都道府県等は、支援センターの行う事業の全部又は一部について、自閉症児施設、知的障害児施設、知的障害者更生施設、知的障害者授産施設その他都道府県等が適当と認める施設(以下「自閉症児施設等」という。)を経営する地方公共団体、民法第34条の規定により設立された法人及び社会福祉法人に委託することができる。
ウ 支援センターを附置する施設の選定
都道府県等は、自閉症児施設等の中から支援センターを附置する施設を選定するものとする。
エ 支援センターの利用対象者
自閉症等の特有な発達障害を有する障害児(者)とその家族を対象とする。
オ 事業の内容
支援センターにおいては、地域の自閉症児(者)等を支援するため、概ね次に定める事業を実施する。
- (ア)自閉症児(者)等及びその家族等に対する相談支援と情報提供を行う。
- (イ)自閉症児(者)等及びその家族等に対する療育相談を実施し、家庭での療育方法に関する指導又は助言、情報提供等を行う。
- (ウ)自閉症児(者)等及びその家族等に対して、就労に向けて必要な相談等による支援を行い、必要に応じて公共職業安定所、地域障害者職業センター等との連絡・調整を図る。
- (エ)関係施設及び関係機関等に対する普及啓発及び研修を行う。
カ 職員の配置
この事業を行うにあたっては、あらかじめ、支援センターの管理責任者を定めるとともに、事業を担当する次の職員は常勤の者でなければならない。
(ア)相談支援を担当する職員
社会福祉士(社会福祉士及び介護福祉士法(昭和62年法律第30号)に定める社会福祉士をいう。以下同じ。)であって、自閉症児(者)等の相談支援について、相当の経験及び知識を有する者、又は、それと同等と都道府県等が認める者。
(イ)療育支援を担当する職員
自閉症児(者)等の心理判定及び療育について、相当の経験及び知識を有する者、又は、それと同等と都道府県等が認める者。
(ウ)就労支援を担当する職員
自閉症児(者)等の就労について、相当の経験及び知識を有する者、又は、それと同等と都道府県等が認める者。
(2)実施機関における支援センター事業への取組み
実施機関は、平成14年度から、社会福祉法人北摂杉の子会(以下「本件法人」という。)内に支援センターを附置し、支援センターの行う事業を本件法人に委託して実施することとし、実施通知に先立ち通知された平成14年4月11日付け障発第0411001号「平成14年度在宅心身障害児(者)福祉対策費補助金及び知的障害者通勤寮運営事業等補助金に係る国庫補助の協議について」に基づき、「平成14年度在宅心身障害児(者)福祉対策費補助金に係る国庫補助の協議について」を作成し、平成14年5月27日付けで厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課長あてに提出した。なお、当該文書は、実施通知が出される以前に作成する必要があったため、平成14年4月11日付け「自閉症・発達障害支援センター設置運営要綱(案)」をもとに作成したものである。
そして、平成14年10月10日付けで、同協議に対して厚生労働省の承認がされており、平成15年2月19日に実施機関と本件法人の間で委託契約が締結され、自閉症・発達障害支援センターとして活動が行われているところである。
(3)支援センターの職員について
上記のとおり、支援センターの事業は、実施機関が社会福祉法人である本件法人に委託して行うものである。今回、支援センターを附置する場所は、本件法人が設置している「知的障害者入所更生施設萩の杜」(高槻市大字萩谷14番地1)の分場「工房ひむろ南」(高槻市氷室町1-14-27)内であり、「工房ひむろ南」の一部分を改築し支援センターとして使用することとしており、職員については、平成14年4月1日現在で本件法人職員である者の中から、支援センターの専任職員又は兼任職員として配置される予定となっていた。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、1の(2)に記載した平成14年5月27日付け「平成14年度在宅心身障害児(者)福祉対策費補助金に係る国庫補助の協議について」に添付された協議書であり、本件行政文書は次の(1)~(9)の項目により構成されている。
- (1)実施主体の自閉症等への取組み方針
- (2)自閉症・発達障害支援センターの内容(本件法人の定款、施設のパンフレット、周辺地図、施設の平面図を添付)
- (3)自閉症・発達障害支援センターを附置する施設の選定理由
- (4)事業計画
- (5)関係施設・関係機関等の連携
- (6)職員配置
- (7)自閉症・発達障害支援センターの設備
- (8)職員に関すること
- (9)都道府県・指定都市の状況等
3 本件非公開部分について
本件行政文書のうち、本件非公開部分は、上記2(6)の「職員配置」に記載された部分の一部及び(8)の「職員に関すること」に記載された部分の一部である。
(1)「職員配置」について
「職員配置」については、「a 相談支援」、「b 療育支援」、「c 就労支援」、「d 普及啓発」、「e 研修」、「f 関係機関連携」の担当業務ごとに、「氏名」、「兼任・専任の別」及び「備考」の各欄が表形式で設けられている。このうち、「氏名」欄には、本件法人の職員のうち、支援センターの当該担当業務に従事する予定者の氏名を記載している。「兼任・専任の別」欄には「兼任」又は「専任」の区別を記載している。なお、備考欄は何も記載していない。
このうち、本件処分において公開しないこととしたのは、「氏名」欄に記載した氏名の部分である。
(2)「職員に関すること」について
「相談支援担当職員」、「療育支援担当職員」、「就労支援担当職員」、「就労・相談支援担当職員」の担当内容ごとに、次のア~カの各欄が職員ごとに表形式で設けられている。
ア「氏名等」欄
本件法人の職員のうち、支援センターの当該担当業務に従事する予定者の氏名及び年齢を記載している。本件処分においては、この部分を公開しないこととした。
イ「専任兼任別」欄
支援の業務に専任であるか、あるいは、支援センターの業務と本件法人における援助員の業務と兼任であるかの別を記載している。当該部分で、公開しないこととした部分は存在しない。
ウ「関係する学歴・職歴等」欄
支援センター業務に関係する学歴・職歴等を具体的に記載している。本件処分においては、この部分を公開しないこととした。
エ「取得資格等(取得年月日)」欄
支援センターの職員配置基準に必要な社会福祉士、臨床心理士の資格及びその取得年月日を記載している。当該部分で、公開しないこととした部分は存在しない。
オ「自閉症児(者)療育に関する経験(事業名・職種・職務内容)」欄
職歴のうち、勤務先、担当職務内容、自閉症児(者)療育に関する経験を記載している。本件処分においては、この部分を公開しないこととした。
カ「備考」欄
「関係する学歴・職歴等」欄及び「自閉症児(者)療育に対する経験(事業名・職種・職務内容)」欄の記載内容をさらに詳しく補足した事項を記載している。本件処分においては、この部分を公開しないこととした。
4 条例第9条1号に該当することについて
(1)条例第9条第1号について
条例第9条第1号においては、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの
に該当する情報が記録されている行政文書を公開してはならない旨が規定されている。
(2)本件係争部分が条例第9条第1号に該当することについて
異議申立人が本件異議申立てにおいて公開を求めている部分は、本件非公開部分のうち年齢を除く部分、すなわち、職員のa 氏名、b 学歴・職歴等及びc 自閉症児(者)療育に関する経験並びにこれらを特定し得る部分である。
ア 職員の氏名について
職員の氏名が明らかになることにより、当該職員が社会福祉法人である本件法人に職員として勤務しているという事実及びその職務内容が明らかになる。つまり、本件係争部分における職員の氏名は、個人の職業に関する情報である。
また、氏名は、個人を識別する情報そのものである。
そして、ある個人が特定の社会福祉法人の職員であるという事実は、公務員であること等とは異なり、通常公にすることを前提にした情報ではなく、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報である。よって、職員の氏名は、条例第9条第1号に該当する。
イ 職員の学歴・職歴等及び自閉症児(者)療育に関する経験
職員の学歴・職歴等及び自閉症児(者)療育に関する経験は、個人の学歴、経歴等に関する情報である。
また、学歴・職歴等及び自閉症児(者)療育に関する経験のうち、公にされていない情報については、これにより直接特定の個人を識別することはできないが、本件法人の職員など関係者であれば、職名など既に公にされている情報から、どの職員に係る学歴・職歴等の情報であるのか、特定の個人を識別することが可能である。
そして、これらの部分には、個人の学歴・職歴等が具体的に記載されており、こうした情報は、個人に専属する情報であり、通常、職場の同僚等に対しても明らかにされる情報ではない。さらに、これらの情報は、支援センターが設立される前の、今後の特定の業務に就任を予定している者に係る情報で、これらは、未確定で、本件法人内でも未公表の情報である。よって、学歴・職歴等及び自閉症児(者)療育に関する経験のうち、公にされていない情報は、一般に他人に知られたくないと望むことが正当である情報に該当する。
なお、本件係争部分の学歴・職歴等及び自閉症児(者)療育に関する経験に関する情報の中には、公職歴など、一般に公にされているか、あるいは公にすることを前提とした情報も含まれているが、これらは、既に公にされている情報を組み合わせる等により、特定の個人を識別することが可能となる情報である。
そして、こうした部分を公にすることにより、特定の個人が本件法人に勤務していることが明らかになるのであるから、一般に他人に知られたくないと望むことが正当である情報に該当する。
以上のことから、本件係争部分は、条例第9条第1号に該当する。
5 まとめ
以上のとおり、本件についての実施機関の決定は、条例の趣旨を踏まえたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人・法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 本件行政文書について
(1)本件事業及び本件行政文書について
本件事業は、平成14年度から新たに厚生労働省の補助事業として実施されることとなった事業であり、その目的は、概ね、
自閉症児(者)に対する支援を総合的に行う地域の拠点として、
- a 自閉症等に関する各般の問題について自閉症児(者)等及びその家族からの相談に応じ、適切な指導又は助言を行うこと
- b 関係施設との連携強化等により、自閉症児(者)等に対する地域における総合的な支援体制の整備を推進すること
によって、自閉症児(者)等及びその家族の福祉の向上を図ることである。
また、本件事業の実施主体は都道府県等であるが、都道府県等は、支援センターの行う事業の全部又は一部について、自閉症児施設等を経営する地方公共団体、民法第34条の規定により設立された法人及び社会福祉法人に委託することができる。
実施機関は、制度が開始された平成14年度から、社会福祉法人である本件法人に委託する方式で本件事業を実施することとし、国の補助を受けるために、平成14年5月27日付け「平成14年度在宅心身障害児(者)福祉対策費補助金に係る国庫補助の協議について」を作成し、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課長あてに提出したものである。本件行政文書は当該協議書である。
本件行政文書には、実施機関の自閉症等への取組方針が記載されるとともに、本件法人に本件業務を委託して実施することを前提とした事業計画、職員配置、設備の状況等が記載されている。
(2)本件係争部分について
本件行政文書のうち、本件係争部分は、「職員の氏名、年齢、学歴・職歴及び自閉症児(者)療育に関する経験並びにこれらが特定し得る部分」である。これは、本件行政文書のうち、本件事業の業務を担当する予定の者について記載した、「6 職員配置」及び「職員に関すること」をそれぞれ表題とする一覧表の一部分である。
具体的には、「6 職員配置」(以下「文書1」という。)については、「a 相談支援」、「b 療育支援」、「c 就労支援」、「d 普及啓発」、「e 研修」及び「f 関係機関連携」の各担当業務内容ごとに、「氏名」欄、「兼任・専任の別」欄及び「備考」欄が設けられている。このうち、本件係争部分は、「氏名」欄に記載された情報である。当審査会で確認したところ、当該氏名欄には、本件事業の業務を担当する予定の個人の氏名が、各担当業務内容ごとに1~2名ずつ記載されていることが認められた。
また、「職員に関すること」(以下「文書2」という。)については、「相談支援担当職員」(以下「職員1」という。)、「療育支援担当職員」(以下「職員2」という。)、「就労支援担当職員」(以下「職員3」という。)及び「就労・相談支援担当職員」(以下「職員4」という。)の各担当業務内容ごとに、「氏名等」欄、「専任兼任別」欄、「関係する学歴・職歴等」欄、「取得資格等(取得年月日)」欄、「自閉症児(者)療育に関する経験(事業名・職種・職務内容)」欄及び「備考」欄が設けられている。このうち、本件係争部分は、「氏名等」欄、「関係する学歴・職歴等」欄、「自閉症児(者)療育に関する経験(事業名・職種・職務内容)」欄及び「備考」欄に記載された情報(以下「関係する学歴・職歴等」欄、「自閉症児(者)療育に関する経験(事業名・職種・職務内容)」欄及び「備考」欄に記載された情報をあわせて「経歴等」という。)である。
当審査会において確認したところ、文書2の本件係争部分については次のことが認められた。
ア「氏名等」欄
各担当業務内容ごとに1名ずつの氏名が記載されているとともに、年齢が記載されている。
イ「関係する学歴・職歴等」欄
関係する学歴並びに職歴及びその職に従事した年数が具体的に記載されている。
ウ「自閉症児(者)療育に関する経験(事業名・職種・職務内容)」欄
「関係する学歴・職歴等」欄に記載された職歴に応じて、当該勤務先での職種、担当業務内容等が具体的に記載されている。
エ「備考」欄
本件事業に関連した経験、役職等のうち、「関係する学歴・職歴等」欄及び「自閉症児(者)療育に関する経験(事業名・職種・職務内容)」欄に記載された事項以外のものを具体的に記載している。
3 本件処分に係る具体的な判断及びその理由について
実施機関は、本件係争部分に記載された情報が条例第9条第1号に該当すると主張するので、以下、この点について検討する。
(1)条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限に配慮をしなければならない旨規定している。
このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。
同号は、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。
ここで、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められるもの」とは、一般的に社会通念上、他人に知られることを望まないものをいうが、情報の種類や内容によっては、一般人としての他人だけでなく、特定の関係者である他人にも知られたくないと望むことが正当と認められる場合があり、このような場合には、当該情報が「特定の個人が識別され得るもの」かどうかについても、一般人ではなく、当該「知られたくないと望むことが正当と認められる」相手方である特定の関係者を基準として判断すべきものと解される。
(2)当審査会における調査・審議について
本件事業は、平成14年5月27日付けの本件協議書を受けて、平成14年10月10日に厚生労働省の承認がなされ、平成15年2月19日には府と本件法人との間で本件事業の委託契約が締結されている。当審査会としては、平成14年11月22日に行われた本件処分が当該委託契約の前に行われたものであり、現在は本件事業が現に実施されていることを踏まえ、本件処分の処分時における妥当性を判断するとともに、現時点において当該情報が条例第9条第1号に該当するかについても調査・審議を行った。
(3)氏名について
ア 本件処分における実施機関の判断の妥当性について
本件係争部分に記載された氏名は、本件法人の職員のうち、支援センター開設後に本件事業に従事する予定であった者の氏名である。
当該氏名は、これを公にすると、本件行政文書のうち既に公開された部分に記載されている情報と突合することにより、特定の個人が本件法人に勤務し、特定の業務に従事する予定であることが明らかになる情報であることから、上記(1)ア、イの要件に該当する。また、当審査会において調査したところ、社会福祉法人全般、又は、本件法人において、特定の個人が当該法人の職員であること、さらには将来、特定の業務に従事する予定であるという人事上の情報は、通常公にすることを前提とした情報ではなく、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報であることから、上記(1)ウの要件に該当する。
よって、本件係争部分に記載された氏名は、条例第9条第1号に該当するものであり、本件処分において、実施機関が氏名を公開しないこととしたことは妥当である。
イ 現時点における妥当性について
上記(2)のとおり、本件事業は既に実施されており、当審査会において確認したところ、当該業務への従事予定者として本件行政文書に記載されていた者は、本件法人の職員としての身分を有しつつ、予定されていた当該業務に実際に従事していることが確認された。
このような状況からすると、本件行政文書に記載されている従事予定者の氏名は、現時点においては、特定の個人が、将来、特定の業務に従事する予定であるという人事上の情報という意味では、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報ではなくなっているが、特定の個人が本件法人に勤務していることを明らかにする情報であることには、何ら変わりがない。また、本件事業は府の委託事業ではあるが、特定の個人が従事することが求められているものではなく、実施機関としては、仮に当該予定者が他の者に変更になった場合であっても、変更後の担当者が変更前の者と同等の経験、知識を有している者であれば支障がないものとして是認することとしている。以上のことからすれば、本件係争部分に記載された氏名は、特段の事情がない限り、現時点においても「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報であり、条例第9条第1号に該当するものと認められる。
しかしながら、当審査会において調査したところ、これらの氏名のうち、職員2の氏名は支援センターの担当職員であることが既に公にされていることが認められるので、現時点では、上記(1)ウの「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報とは認められず、条例第9条第1号には該当しないと認められる。
(4)経歴等について
ア 本件処分における実施機関の判断の妥当性について
上記(2)のとおり、本件処分が行われた時点は、府と本件法人との間で本件事業の委託契約が締結される前の段階であった。職員の業務に関連する経歴等は、本件法人内部では明らかとなっていることが十分予想されるところであり、また、当該施設の職員数が30名程度にすぎないことも考え合わせれば、この時点において経歴等の情報が公にされれば、本件法人内部の関係者にとっては容易に特定の個人が識別されることとなり、ひいては、本件法人の職員のうち、特定の個人が本件事業に従事するという情報が具体的に明らかになることとなる。このような人事上の情報は、法人内部においても、通常明らかにされていないものであり、当該情報が明らかになることにより望まぬ干渉を受けるなど何らかの不利益を被るおそれがあることも否定できないものであることから、法人内部の関係者との関係において「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報である。
よって、経歴等の情報は、条例第9条第1号に該当するものであり、本件処分において、実施機関がこれらの情報を公開しないこととしたことは妥当である。
イ 現時点における妥当性について
(ア)職員2について
職員2については、上記(3)のとおり、その氏名は、既に公にされていることが確認されており、当審査会においてもこれを公開すべきであると判断するものである。氏名が公であるもとでは、当該個人の学歴、職歴、経験等については、条例第9条第1号に規定する「個人の職業、学歴等に関する情報」であって、「特定の個人が識別され得るもの」に該当する。
そして、社会福祉法人に勤務する職員の学歴、職歴、経験等は、本件事業が実施機関の委託業務であることを考慮に入れてもなお、公職歴や既に公にされている場合を除いて、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当するものである。
このような観点から、当審査会において、職員2の経歴等の内容を個々に確認したところ、学歴及び研修に係る情報を除いて、そのいずれもが公職歴に係る情報、又は既に公にされている情報であった。
以上のことから、職員2については、学歴及び研修に係る部分は、現時点においても条例第9条第1号に該当するものと認められるが、学歴及び研修を除く経歴等の情報は条例第9条第1号に該当しないものと認められる。
(イ)職員1、職員3及び職員4について
職員1、職員3及び職員4に係る氏名については、上記(3)のとおり、条例第9条第1号に該当し公開しないことが妥当と判断したところである。このように氏名が公にされないもとで、経歴等の情報が明らかになったとしても、直接特定の個人が明らかにならないだけでなく、これらの情報と一般人が容易に入手し得る他の情報を相互に組み合わせることによっても、特定の個人を識別し得る情報であるとはいえない。
しかしながら、本件事業は、自閉症児(者)等に対する支援を行う地域の拠点として、自閉症等の問題について、面談等により自閉症児(者)及びその家族からの相談に応じ、指導又は助言を行うことなどを内容とするものである。これらの業務は、支援センターの利用者と相談等を行う各担当職員が直接接することにより行われる業務であり、利用者と職員との間で信頼関係の構築が不可欠であることからすれば、当該情報が、府民一般からみてどのような情報であるかだけでなく、支援センター利用者等関係者にとってどのような意味を持つのかという観点からも検討を行う必要があると考えられる。
これを検討するに、支援センターの担当者は4名と少数であり、担当業務も分かれていることからすると、利用者にとっては、各業務の担当者が誰であるかは容易に知り得るところである。本件処分において相談支援、療育支援等の各担当業務名に係る部分が公開決定され、すでに公にされているもとでは、経歴等に記載された個々の学歴、職歴、経験等の情報は、「個人の職業、学歴等に関する情報」であって「特定の個人が識別され得るもの」に該当する。
次に、当該情報が「一般に他人に知られたくないと望むことが正当である」か否かを検討する。
本件係争部分に記載された職員1、職員3及び職員4の経歴等の情報については、本件業務が実施機関の委託業務であり、その達成度は、業務の性格上、各担当職員の力量に大きく依存するものであることからすると、実施通知に定める職員の要件を満たしているか否かを積極的に明らかにすべきという側面があることは否定できないものである。しかしながら、一方では、利用の初期段階等で、支援センター利用者と各担当職員の面識が少ないことなどにより未だ十分に信頼関係を築くことができていない場合等において、これらの情報を明らかにすれば、利用者に予断を生じさせ、適切な関係を結ぶことが困難になることも十分に予想されるところである。本件業務のような個人間の信頼関係を築くことが必要な業務においては、各業務担当者は、自らの経歴等を、利用者との関係を見極めながら各支援業務に支障をきたさないように慎重な配慮をしつつ取り扱っているものと考えられる。
支援センター利用者と本件事業に携わる職員との上記のような関係を踏まえれば、当該情報は、利用者等との関係において、「一般に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報であるといえる。
したがって、職員1、職員3及び職員4に係る経歴等の情報は、現時点においても条例第9条第1号に該当すると認められる。
(5)異議申立人の主張について
なお、異議申立人は、本件事業の実施主体は大阪府であるとし、本件係争部分には、本件事業の担当者となることが予定されている者に関する情報が記載されていることから、公務員としての職務に関連する情報として、これらの情報を公開すべきである旨主張する。しかしながら、本件事業は、制度的には府が直接実施することも選択肢の一つとして可能であるものの、実際には、府は直接実施することはせず、本件法人に委託して実施している。したがって、府と本件事業の担当者である本件法人職員との間に雇用関係は生じず、これらの職員が公務員としての身分を有することもないから、本号の適用上、本件係争部分に記載された情報を公務員の職務に関する情報と同様に扱う根拠はなく、この点についての異議申立人の主張は当を得ないものである。
また、異議申立人は、他の地方公共団体等における公開事例を紹介しつつ、本件非公開部分に記載されている情報は、従来から慣行上公開しており、かつ今後公開しても、それが「一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められる情報でないことが確実であるもの」に該当すると主張するが、本件法人において、また社会福祉法人全般において、そのような慣行が認められないことは上記のとおりであり、事情が異なる他の社会福祉法人の状況を本件にそのままあてはめることはできない。
さらに、異議申立人が指摘する国の情報公開審査会の答申は、当該研究者自身が研究費に係る補助金の申請者(受給者)となっている事案であり、当該職員が法人の担当者として本件事業に関わることになる本件とは、明らかに事情が異なるものである。
4 結論
以上のとおりであるから、本件処分はその処分時において妥当なものであったが、現時点においては、本件行政文書のうち、別表に示す「公開すべき部分」については公開すべきであることから、「第一 審査会の結論」のとおり答申する。
(別表)公開すべき部分
行政文書の件名 |
公開すべき部分 |
---|---|
6 職員配置(文書1) |
氏名欄に記載された氏名のうち、下記「職員に関すること」(文書2)において公開すべきとした氏名と同一のもの |
職員に関すること(文書2) |
|