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更新日:2009年9月4日

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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第85号)

第一 審査会の結論

実施機関の決定は妥当である。

第二 審査請求の経過

  1. 審査請求人は、平成14年12月5日及び平成14年12月24日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府警察本部長(以下「実施機関」という。)に対し、それぞれ(1)及び(2)の文書の公開請求(以下、それぞれ「本件請求1」、「本件請求2」という。)を行った。
    • (1)平成14年12月5日請求分
      運転免許適性検査判定会議の内容がわかる文書(平成12年2月1日付)
    • (2)平成14年12月24日請求分
      平成11年11月18日の運転適性判定会議の内容がわかる文書
  2. 実施機関は、平成14年12月19日、本件請求1に対応する行政文書として(1)アの文書(以下「本件行政文書1」という。)を特定の上、(2)の部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件処分1」という。)を行い、公開しない理由を(3)のとおり付して請求人あて通知した。さらに、実施機関は、平成15年1月17日、本件請求2に対応する行政文書として(1)イの文書(以下「本件行政文書2」という。)を特定の上、本件非公開部分を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件処分2」という。)を行い、公開しない理由を(3)のとおり付して請求人あて通知した。
    • (1)行政文書の名称
      • ア 運転適性判定会議の結果について(報告)(平成12年2月1日開催分)
      • イ 運転適性判定会議の結果について(報告)(平成11年11月18日開催分)
    • (2)公開しないことと決定した部分
      • ア 被検者の氏名、住所、生年月日、性状、事情聴取の内容及び診断内容が記載された部分、免許種別並びにこれらを特定し得る部分
      • イ 事故等の発生月日・時間及び発生場所並びにこれらを特定し得る部分
      • ウ 警察電話番号
      • エ 警部補(同相当職を含む。)以下の警察職員の氏名
    • (3)公開しない理由
      • ア 条例第9条第1号に該当する。
        本件行政文書(非公開部分)には、被検者の氏名、住所、性状及び主張等が記載されており、これらは個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
      • イ 条例第8条第2項第1号に該当する。
        本件行政文書(非公開部分)には、警察部内の事務に関する電話番号が記載されており、これは警察の連絡調整事務等に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
      • ウ 条例第8条第2項第3号に該当する。
        本件行政文書(非公開部分)には、警部補(同相当職を含む。)以下の警察職員の氏名が記載されており、これらを公にすることにより、当該警察職員及びその家族等の生命、身体、財産等の保護に支障を及ぼすおそれがある。
  3. 審査請求人は、平成15年2月14日、本件処分1及び本件処分2(以下、あわせて「本件各処分」という。)を不服として、行政不服審査法第5条第1項の規定により、実施機関の上級行政庁である大阪府公安委員会に対して審査請求を行った。
  4. 大阪府公安委員会(以下「諮問実施機関」という。)は、平成15年2月26日、条例第20条に規定により、当審査会に当該審査請求に対する裁決について諮問した。

第三 審査請求の趣旨

本件各処分のうち、運転適性判定会議被検者名簿bの「発見の端緒及び病状の欄」中「当課での事情聴取」の項及び「診断内容」の欄における非公開部分(個人が特定できる部分を除く。)(以下「本件係争部分」という。)の公開を求める。

第四 審査請求人の主張要旨

審査請求人の主張を総合すると概ね次のとおりである。

  1. 次の点において実施機関の部分非公開決定は、条例の解釈を著しく誤るものである。
    • (1)条例第9条第1号は、個人の健康状態等に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものを公開してはならないとしている。これは言うまでもなく個人のプライバシー保護のためであり、したがって、特定の個人が識別され得る情報であることが大前提であることは言うまでもない。
      そして条文の文理解釈上も、「特定の個人が識別され得るもののうち、・・と認められるもの」としており、個人が特定されない情報が当該条文の対象でないことは明白と言わざるを得ない。
      また、直接個人が特定できなくても関係者が見れば当該個人と識別できる情報も個人特定情報に含むとの見解は、不当に個人特定情報の範囲を拡大するものであるとともに、担当者の恣意的対応をよぶものであって、到底容認し得ないものである。一定の関係者が主観的に特定できるか否かではなく、客観的に個人が識別できるものか否かで個人特定情報を判断すべきであって、厳格な文理解釈がなされなければならない。
      本件各処分においては、被検者の欄が年齢と職業を除いて全て非公開とされており、また、事故の日時及び場所も非公開とされていることから、担当警察関係者以外は通常個人識別はできないものであって、条例第9条第1号の目指す個人のプライバシー保護は十分図られていると言える。にもかかわらず、審査請求の趣旨記載の非公開部分中に個人が特定されない情報がかなりにわたりあると推測されるのであり、これらの非公開決定を取り消すべきである。
    • (2)条例は、その前文で、「府の保有する情報は公開を原則とし」として公開原則を高らかに謳っている。言うまでもなく、条例前文は条例の一環であり、また条例中の条項の解釈において最大限尊重されるべき指針である。
      そうすると、条例第9条第1号の非公開事由の解釈に当たっても、公開原則の観点でなされなければならないのであり、非公開を最低限に止める解釈がなされねばならない。この点からも個人特定情報の範囲は厳格な文理解釈がなされなければならない。
      また、公開原則である以上、条例の非公開事由に該当しない限り、公開されなければならないのであり、個人特定情報部分以外の非公開は取り消されなければならない。さもないと、今や基本的人権の一つとして重要な位置をしめる国民の「知る権利」を侵害するものと言わざるを得ない。
    • (3)また、条例前文では、「府民の府政への信頼を確保し」「地方自治の健全な発展に寄与する」ため、「その諸活動を府民に説明する責務」を全うするため情報公開を行う旨が謳われている。つまり、情報公開による行政の適正執行の確保も目的の大きな一つに掲げているのである。
      本件行政文書1では、疑いがある病名を「てんかん」としながら、診断内容を全面的に非公開とし、判定結果を「1ヶ月留保」としている。しかし、判定会議の行われた原因と結果は公開されているのに、原因と結果を結ぶ肝心の部分が非公開とされており、これでは適正な行政執行がなされたのか否か全く判断できないと言わなければならない。
      本件行政文書2でも同様に疑いがある病名を「てんかん」とし、診断内容を全面的に非公開としながら、判定結果を「取消該当」としている。個人の基本的人権を侵害する権力的処分がどのような根拠でなされたのか全く不明と言わざるを得ないのである。
      これでは、行政の適正執行の確保は全く図れない。また、診断内容に影響を大きく与えたであろうと推測される事情聴取の内容も非公開とされているのにも同様の問題がある。
      したがって、これらの非公開部分は条例の制定趣旨である行政の適正執行の確保の観点からも、速やかに取り消されるべきである。
  2. 諮問実施機関が主張する非公開理由としては詰まるところ、
    • ア 個人が直接識別し得る情報は記載されていないが、既に公開した情報や非公開部分に記載された情報を相互に組み合わせるなどにより、被検者の近親者等や交通事故の関係者においては、特定の個人を識別し得る
    • イ 特定の個人の病状や事故当時の心境等が記載された部分を除外して公開すると、文書の構成上、残りの部分が意味のある情報として成り立たなくなる
    との2点のみに尽きると思われる。
    上記アについては、本件の場合に「既に公開した情報」としてどのようなものがあり、「非公開部分に記載された情報を相互に組み合わせる」と、どのように「特定の個人を識別し得る」ことになるのか説明が一切なく不明であり、反論の仕様がない。
    しかし、いずれにしろ公開原則から非公開事項は限定的に判断されるべきこと、個人が特定されるものでない限り「特定の個人の病状や事故当時の心境等が記載された部分」があろうとなかろうと、原則として公開されるべきであること、そして、個人が特定されるか否かの判断は、一般通常の常識的社会人を判断の対象にすべきであって、特殊な者のみが特殊な状況下で個人が特定できるという情報をみだりに個人特定情報とすべきでないという点については、上記において詳述したとおりである。
    上記イの点については、初めて聞く主張である。なるほど、「私はAです。」という文章である場合、個人特定情報を除くと「私は・・・です。」となり、文章としても成り立たないし、公開しても意味がないことは自明の理である。
    しかし、「私はAといい、阪神ファンです。」という文章であれば、「私は・・・といい、阪神ファンです。」という文章は文章として成り立つ。阪神ファンであることが公開して意味があるか否かは、請求者が判断することであり、実施機関が判断することではない。実施機関がその点について判断し、公開非公開を決定することになれば、条例の公開原則は踏みにじられることになり、許されないものであることもまた自明の理であるといえよう。
    そして本件を見てみると、「当課での事情聴取」及び「診断内容」欄の黒塗りの文章の長さからして、文章として成立しないものばかりとは到底信じられないのである。
    諮問実施機関は不必要な説明を長々とするよりも、肝心の上記ア、イ記載の論点について、具体的にその主張内容を分かりやすく説明すべきである。
    もちろん、情報公開の特殊性(文書自体の内容を不服申立乃至裁判で明らかにしてしまうと公開になってしまい、争う意味がなくなる)から、具体の文書を明らかにできないということは理解できるが、その主張はあまりに抽象的であり、内容に具体性がなさ過ぎる。諮問実施機関はもう少し誠意をもって説明義務を尽くすべきである。

第五 諮問実施機関の主張要旨

諮問実施機関の主張を総合すると概ね次のとおりである。

1 運転適性判定会議について

(1)運転適性判定会議の位置づけ

  • ア 道路交通法(平成13年6月20日公布、平成14年6月1日施行の「道路交通法の一部を改正する法律」による改正前の道路交通法。以下「法」という。)は、運転免許(以下「免許」という。)の欠格事由該当者として精神病者やてんかん病者等を定め、これらに該当する場合は免許を与えないこととしており、また、免許取得後にこの欠格事由に該当していることが判明すれば、免許を取り消さなければならないとされている。(注1、注3)
    免許取得者が、精神病者等の欠格事由に該当するか否かは、法の定める臨時適性検査の結果をもって判断することとしている。(注2、注5)
  • イ 臨時適性検査は、公安委員会があらかじめ指定する医師(以下「指定医」という。)が診断するものである。(注4、注5) 
  • ウ 法は、臨時適性検査被検者(以下「被検者」という。)の診断を行う指定医の人数を定めておらず、1人の指定医の診断結果でもって判断できるところであるが、諮問実施機関にあっては、該当者に対しては免許の取消しという不利益処分を伴うことから、より慎重を期するために、複数(2人)の指定医の一致した診断結果をもって判断することとしており、指定医のほか判定医(指定医以外の専門医として出席を求めている医師)及び警察職員等からなる運転適性判定会議を開催している。
    この判定会議を経て、後日、1人の指定医が診断書を作成することとしているものである。
    • 注1:法第88条第1項(欠格事由)
      次の各号のいずれかに該当する者に対しては、第1種免許又は第2種免許を与えない。
      第2号 精神病者、知的障害者、てんかん病者、目が見えない者、耳が聞こえない者又は口がきけない者
    • 注2:法第102条第1項(臨時適性検査)
      公安委員会は、免許を受けた者が法第88条第1項第2号、第3号若しくは第4号のいずれかに該当する者となり、又は、法第103条第2項第1号に該当することとなったと疑う理由があるときは、当該免許を受けた者につき、臨時に適性検査を行うことができる。
    • 注3:法第103条第1項(免許の取消し、停止等)
      免許(仮免許を除く。以下第106条までにおいて同じ。)を受けた者が第88条第1項第2号から第4号までのいずれかに該当する者になつたときは、その者が当該各号のいずれかに該当する者となつたときにおけるその者の住所地を管轄する公安委員会は、その者の免許を取り消さなければならない。
    • 注4:法第113条の2(行政手続法の適用除外)[公安委員会指定医の根拠]
      ………第103条第1項又は第4項の規定による免許の取消し(公安委員会がそのあらかじめ指定する医師の診断に基づき第88条第1項第2号から第4号までのいずれかに該当すると認定した者に係るものに限る)………
    • 注5:法施行規則第29条の3第1項(臨時適性検査)
      免許を受けた者が次の各号に掲げる者のいずれかに該当することとなったと疑う理由がある場合における法第102条第1項に規定する適性検査は、それぞれ当該各号に定める医師の診断により行うものとする。
      第1号 精神病者、知的障害者、てんかん病者又はアルコール、麻薬、大麻、あへん若しくは覚せい剤の中毒者 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)第18条第1項の規定により精神保健指定医に指定された医師

(2)運転適性判定会議の構成及び運用等

ア 開催及び場所

開催については、おおむね3か月に1回、大阪府警察本部交通部門真運転免許試験場において開催している。

イ 会議の構成員

大阪府公安委員会指定医2人(必須構成員)

判定医 2人(任意構成員)

大阪府警察本部交通部運転免許課安全運転学校長他3人

ウ 会議の進行

運転免許課員の司会で会議は進行し、司会が被検者の氏名、疑いのある病名及び運転免許課員が被検者から事情聴取した内容等を説明する。それを受けて、被検者ごとに指定医が各種検査結果等をもとに診断内容を説明し、2人の指定医の一致した診断結果をもって本件判定会議の診断結果とする。

2 本件行政文書について

  • (1)本件行政文書は、運転適性判定会議における判定に至る具体的内容及び判定の結果等を記録し上司に報告するとともに、その経過を明らかにするために作成したものである。
  • (2)本件行政文書は、a 起案用紙及びb 運転適性判定会議被検者名簿であり、記載している事項は次のとおりである。
    • ア 起案用紙
      起案日、起案者の所属、氏名、警察電話番号、件名、当該会議の開催日時、場所、議題、出席者及び判定会議結果を記載しており、決裁欄等に上司の確認の印影を押印している。
      なお、当該起案用紙は、本件審査請求の対象から除外されている。
    • イ 運転適性判定会議被検者名簿
      被検者の人定事項(氏名、生年月日、年齢、住所、職業及び免許種別)、疑いがある病名、発見の端緒及び病状(発見通報者、発見報告受理月日、発見時の概要、事情聴取の内容)、診断内容、判定結果を記載している。

3 条例第9条第1号に該当することについて

個人の尊厳の確保、基本的人権の尊重のため、個人のプライバシーは最大限に保護されなければならない。特にプライバシーは、一旦侵害されると、当該個人に回復困難な損害を及ぼすことに鑑み、条例は、その前文において、「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護」することを明記し、条例第5条において「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをみだりに公開することのないよう最大限の配慮をしなければならない。」ことを定めている。そして、条例第9条第1号においては、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもの(以下「個人識別情報」という。)のうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」については、「公開してはならない情報」として公開を禁止するという基本原則が明確に定められている。

本号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」とは、一般的に社会通念上、他人に知られることを望まないものをいい、この「正当と認められるもの」の判断に当たっては、客観的に明白である場合を除き、条例第5条の規定の趣旨に十分配慮し、プライバシーの侵害のないよう特に慎重に取り扱うことが要請されている。

本件各処分のうち、審査請求の対象となる「運転適性判定会議被検者名簿b」において、本号に該当する情報として非公開としたものは、次の(1)のとおりであり、これらの情報のうち、本件係争部分である次の(2)について、以下本号に該当する理由を述べることとする。

(1)本件非公開部分

  • ア 被検者の氏名、住所、生年月日、性状、事情聴取の内容及び診断内容が記載された部分、免許種別並びにこれらを特定し得る部分
  • イ 事故等の発生月日・時間及び発生場所並びにこれらを特定し得る部分

(2)本件係争部分

  • ア 事情聴取の内容
  • イ 診断内容

(3)「事情聴取の内容」及び「診断内容」について

条例第9条第1号においては、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」については、「公開してはならない情報」として公開を禁止することが規定されている。

事情聴取の内容には、被検者が、臨時適性検査を受ける端緒となった交通事故の詳しい内容、事故当時の病状、事故当時の心境が具体的に記載されている。更に、事情聴取の内容は、被検者個人の言動そのものであり、これらは全て個人の一身に専属する情報である。また、診断内容には、公安委員会指定医による被検者に対する診断等の結果が個別具体的に記載されており、言い換えると、これらは指定医のカルテ等の内容そのものであり、これらも全て個人の一身に専属する情報である。

したがって、記載された情報は、個人の身体的特徴、健康状態、心情等に関する情報に該当する。

次に、本件係争部分には、被検者の氏名、生年月日、住所等特定の個人が直接識別し得る情報は記載されていないが、既に公開した情報や非公開部分に記載された情報を相互に組み合わせるなどにより、被検者の近親者等や交通事故の関係者においては、特定の個人を識別し得るものである。

更に、事情聴取の内容及び診断内容には、精神分裂病、てんかん病等の疑いのある特定の個人の病状、事故当時の心境、臨時適性検査により判定された診断内容等が具体的に記載されている。このような情報は、本人が身近な関係者に対しても厳に秘匿している可能性がある極めてプライバシー性の高い情報であると考えられることから、条例の「個人のプライバシー情報の最大限保護」の趣旨に照らせば、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報である。

なお、「当課での事情聴取」欄及び「診断内容」欄は、特定の個人の病状や事故当時の心境等が記載された部分を除外して公開すると、文書の構成上、残りの部分が意味のある情報として成り立たなくなることから、条例第10条の規定に照らし、部分公開できないものと判断し、記載内容全体を公開しないこととしたものである。

4 審査請求人の主張について

審査請求人は、「直接個人が特定できなくても関係者が見れば、当該個人と識別できる情報も個人特定情報に含むとの見解は、不当に個人特定情報の範囲を拡大するものであるとともに、担当者の恣意的対応をよぶものであって到底容認し得ないものである。」旨主張している。

しかしながら、先に述べたとおり、条例はその前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言するとともに、条例第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることがないよう最大限に配慮しなければならない旨規定している。また、個人のプライバシーは、いったん侵害されると当該個人に回復困難な損害を及ぼすものであることにも留意すべきである。

このような観点から、とりわけ、特定の個人の病状及び診断内容のような極めてプライバシー性の高い情報は、関係者であっても知られたくないと望むことが正当であり、実施機関としては、大阪府情報公開審査会答申第68号の趣旨を踏まえて、本件各処分を行ったものである。

5 まとめ

本件各処分のうち、審査請求人が公開を求めている部分にかかる情報は、条例第9条第1号に規定されるプライバシーに関する情報に該当するものと考えるところであり、本件処分には何ら違法、不当な点はない。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人・法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 本件行政文書について

(1)本件事務及び本件行政文書について

法においては、自動車及び原動機付自転車を運転する者は公安委員会の免許を受けなければならない旨規定されているが、免許を受けた者が精神病者、知的障害者、てんかん病者など法第88条第1項第2号から第4号までのいずれかに該当する者になったときは、公安委員会は、その免許を取り消さなければならないこととされている(法第103条第1項)。また、公安委員会は、免許を受けた者が法第88条第1項第2号から第4号のいずれかに該当する者となったと疑う理由があるときは、当該免許を受けた者につき臨時に適性検査を行うことができるとされている(法第102条第1項)。

臨時適性検査は、法令上は、1人の指定医が被検者を診断することによっても免許を取り消さなければならないかどうかの判定を行うことができるが、諮問実施機関においては、慎重を期すため、2人の指定医が被検者を診断した上で、この2人の指定医に2人の判定医及び大阪府警察本部交通部運転免許課安全運転学校長他3人を加えた運転適性判定会議(以下「判定会議」という。)を開催し、2人の指定医の一致した診断結果をもって免許を取り消さなければならないかどうかの判定を行うこととしている。

本件行政文書は、臨時適性検査事務を所掌する交通部運転免許課の担当者が運転免許課長に判定会議の開催結果を報告するとともに経過を記録することを目的として作成されたものである。当審査会で確認したところ、本件行政文書1は平成11年11月18日開催分を平成11年11月22日に報告、また、本件行政文書2は平成12年2月1日開催分を平成12年2月4日に報告したものであり、いずれも起案文本文と別紙の運転適性判定会議被検者名簿(以下「被検者名簿」という。)から成っている。このうち、起案文本文については、「運転適性判定会議の結果について(報告)」の件名のもとに、開催日時、開催場所、議題、出席者及び判定会議結果が記されている。一方、被検者名簿は、被検者ごとに作成されており、本件行政文書1では、被検者7名についてa~gの7件、本件行政文書2では、被検者5名についてa~eの5件の被検者名簿が作成され添付されている。

(2)本件係争部分について

本件係争部分は、本件行政文書1及び本件行政文書2にそれぞれ含まれている被検者名簿bの一部分である。当審査会で確認したところ、本件行政文書1の被検者名簿b及び本件行政文書2の被検者名簿bは、一人の被検者に対して、運転免許の欠格事由の一つであるてんかん病者に該当するか否かの判定会議を2度にわたって開催した結果を記載したものであり、1度目の平成11年11月18日の判定会議における判定結果は1ヶ月保留、2度目の平成12年2月1日の判定会議における判定結果は取消該当とされたものである。

当審査会において被検者名簿bを確認したところ、「被検者」、「疑いがある病名」、「発見の端緒及び病状」、「診断内容」、「判定結果」及び「指導事項等」の各欄が表形式で設けられており、その記載状況は次のとおりであった。

ア「被検者」欄

被検者の氏名、年齢、生年月日、住所、職業、免許種別が記載されており、本件行政文書1、本件行政文書2ともに同じ内容が記載されている。このうち、本件各処分において公開しないこととされた部分は、氏名、生年月日、住所、免許種別の各情報であり、年齢及び職業は公開することと決定され既に公開が実施されている。

イ「疑いがある病名」欄

本件行政文書1、本件行政文書2ともに、「てんかん」と記載されている。本欄において公開しないこととされた部分は存在せず、当該情報は公開することと決定され既に公開が実施されている。

ウ「発見の端緒及び病状」欄

発見通報者、発見報告受理年月日、概要(発見年月日・時間、場所、発見状況)及び当課での事情聴取の内容について記載されており、本件行政文書1、本件行政文書2ともに同じ内容が記載されている。このうち、本件各処分において公開しないこととされた部分は、発見月日・時間、場所(市区名を除く部分)及び当課での事情聴取欄に記載された事情聴取内容であり、発見年、発見場所(市区名)、発見状況及び事情聴取年月日は公開することと決定され既に公開が実施されている。

エ「診断内容」欄

本件行政文書1及び本件行政文書2それぞれの診断内容が記載されている。本件各処分においてはこの診断内容の全てが公開しないこととされている。

オ「判定結果」欄

本件行政文書1では、「1ヶ月保留」、本件行政文書2では「取消該当」と記載されている。本欄において公開しないこととされた部分は存在せず、「1ヶ月保留」、「取消該当」のいずれの情報も公開することと決定され既に公開が実施されている。

カ「指導事項等」欄

本件行政文書1、本件行政文書2ともに何も記載されていない。

本件行政文書のうち、本件係争部分は、上記ウのうち「当課での事情聴取」欄に記載された事情聴取内容の部分及び上記エ「診断内容」欄に記載された診断内容である。

3 本件各処分に係る具体的な判断及びその理由について

実施機関は、本件係争部分に記載された情報が条例第9条第1号に該当すると主張するので、以下、この点について検討する。

(1)条例第9条第1号について

条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。

このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。

同号は、

  • ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
  • イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
  • ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる

情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。

(2)本件係争部分に記載された情報の条例第9条第1号該当性について

本件係争部分に記載された情報は、個人である被検者が免許の欠格事由であるてんかん病者に該当するか否かを判定するために開催された判定会議の結果を記載した文書の一部であり、判定の根拠となった事情聴取内容や診断内容が具体的に記載されているものであるから、上記(1)アの要件に該当する。

さらに、既に述べたように、本件係争部分に記載された情報は、個人の健康状態や内心の秘密に関する情報であり、個人のプライバシー情報の中でも、とりわけ機微にわたるものであり、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報にあたるといえる。

したがって、本件係争部分に記載された情報は、条例第9条第1号に該当し、公開することが許されないものといわざるをえない。

そこでさらに、本件係争部分に記載された情報の部分公開の可能性について検討する。この点、本件各処分においては、年齢,職業という個人の属性に係る情報に加えて、発見の端緒となった事故の発見年、発見場所(市区名)及び事故状況の具体的な詳細に係る情報が公開決定され、既に公開が実施されているとともに、「疑いのある病名」欄の「てんかん」、「判定結果」欄の「取消該当」等の情報についても公開決定がなされ、既に公開が実施されている。したがって、このような状況のもと、本件係争部分の一部でも公にされた場合には、交通事故の相手方や当該個人の身近な関係にある関係者に特定の個人を識別され得るものとするおそれがある。さらに、当審査会で見分したところ、本件係争部分の大部分はこのような条例第9条第1号のもとで公開することのできない情報で占められており、公開請求の趣旨を損なわない程度にこれを分離して切り離し、残りの部分を公開することはできないと認められる。

以上の理由により、本件係争部分に記載された情報は、条例第9条第1号に該当し、さらに部分公開も不可能であるため、これについて非公開とした本件決定は妥当と認められる。

(3)審査請求人の主張について

なお、審査請求人は、「関係者が見れば当該個人と識別できる情報も個人特定情報に含むとの見解は、不当に個人特定情報の範囲を拡大するものであるとともに、担当者の恣意的対応をよぶものであって、到底容認し得ないものである。一定の関係者が主観的に特定できるか否かではなく、客観的に個人が識別できるものか否かで個人特定情報を判断すべきであって、厳格な文理解釈がなされなければならない。」及び「条例第9条第1号の非公開事由の解釈に当たっても、公開原則の観点でなされなければならないのであり、非公開を最低限に止める解釈がなされなければならない。」としている。

確かに、条例において、府の保有する情報は公開を原則としていることは、審査請求人の指摘するとおりである。しかしながら、その一方では、その前文や第5条において、個人のプライバシーに関する情報はみだりに公にすることがないよう最大限に保護しなければならないことを規定しているところである。条例第9条第1号の「特定の個人が識別され得るもの」の解釈においては、請求の対象となった情報の種類や内容によっては、一般人ではなく特定の関係者を基準として判断すべきものであると解されることは上記(2)のとおりであり、本件のように個人の健康状態や内心の秘密に関する情報に関しては、プライバシーの侵害がないように特に慎重に取り扱うべきものである。よって、審査請求人の主張は当を得ないものである。

さらに、審査請求人は、行政文書の部分公開について「実施機関は、特定の個人の病状や事故当時の心境等が記載された部分を除外して公開すると、文書の構成上、残りの部分が意味のある情報として成りたたなくなると主張するが、公開して意味があるか否かは請求者が判断することであり、実施機関が判断することではない。本件係争部分の黒塗りの文章の長さからして、文章として成立しないものばかりとは到底信じられない。」旨、主張している。

しかしながら、条例第10条第1項では、行政文書に非公開とすべき情報がある場合において、「実施機関は・・・・・その部分を容易に、かつ公開請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは、その部分を除いて、当該行政文書を公開しなければならない。」と規定しており、公開決定等の処分において実施機関が部分公開の可否の判断を行うものである。また、本件係争部分の一部を分離して残りの部分を公開することができないことは、上記(2)のとおりであるから、審査請求人の主張は当を得ないものである。

4 結論

以上のとおりであるから、本件審査請求には理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

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