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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第166号)
旅行命令簿等部分公開決定・文書特定異議申立事案
(答申日 平成21年3月30日)
第一 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定について、「管内出張旅行命令等 決裁済み照会(4名分)」を対象行政文書に加え、改めて公開・非公開の決定を行うべきである。
実施機関のその余の判断は妥当である。
第二 異議申立ての経緯
- 平成20年7月10日、異議申立人は、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「平成○○年○月○○日 ○○時○○分~○○:○○まで共有物分割訴訟の証人尋問において、(1)府の職員が傍聴に来ていた職員の氏名及職員肩書、(2)公務で傍聴か任意かの判る文書一式(公務なら出張命令書、任意なら休か届け等)」についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 同月24日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として、「職員録」及び「旅行命令簿兼精算旅費内訳(4名分)」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(1)の部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を(2)のとおり付して異議申立人に通知した。
- (1)公開しないことと決定した部分
- 職員個人の通勤手当認定経路及びこれを特定し得る部分
- 職員番号
- (2)公開しない理由
条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、職員番号及び職員の通勤経路が明らかになる情報が記載されており、これらは、特定の個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
- (1)公開しないことと決定した部分
- 同年8月11日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
平成○○年○月○○日○○時○○分より○○時まで大阪地裁410号室の裁判傍聴に出席した大阪府の職員の役職名と氏名、公務による場合は命令者の役職名と氏名と確認印のある命令書、公務外の場合は休暇届並びに休暇許可されたことの判る書類の公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。
1 異議申立書における主張
平成20年8月8日11時より府政情報センターにて開示された4名分の10枚の資料はいずれも情報公開請求した内容を確認できる書類と言えない。
それぞれの書類を閲覧して、立会いの職員に書類の内容を確認しても回答できないような書類を開示するということは許されない。
情報公開請求者を侮辱した行為であり、強く抗議する。
2 反論書及び口頭意見陳述における主張
(1)職員が傍聴した裁判について
ダム建設用地としての買収であれば、当然買収交渉を行っている筈である。然るに、別件にてダム建設用地の土地(17名の共有地)の買収交渉の情報公開を請求した結果、交渉内容はおろか訪問記録すら不存在による非公開通知としているということからしても、買収交渉など行っていないことは明白であり、実施機関の主張は失当である。また、仮に買収交渉を行っていると仮定して、「共有地の分割に反対して買収は進んでいない」と主張しているが、分割しなければ買収ができないとする根拠はどこにも存在しないのであり、それにしてもなぜ分割を必要とするかの根拠も明白に示すことなく、共有者である吾々の要求する「墓地の不法な措置を含む諸問題の解決に応ぜず」買収交渉に訪問もしていないのである。
持分買収は不動産業界での常套手段として日常行われていることであり、敢えて費用を必要とする方法にて買収しなければならない理由はどこにも存在しない。
(2)本件決定における文書特定について
4人分の10枚の資料のうち必要な人数分を取得するためにどれがどの人物のものであるかと分類を要求したが、持参して立ち会った職員ですら30分掛かっても分類ができなかったのである。
担当職員でも、どの書類がどの職員のものであるか区別できないような書類を、情報公開請求した府民に開示したことが、適法性があると主張できるものではなく失当である。大阪府の職員はそれで職務を果たしたと思っているのですか。
その上、「命令者の確認印のある命令書」も添付されていなかったので、追加開示を要求したのである。ちなみに機械化されているなら、パソコンによる決裁書(参考までに他の市町村で使用しているものを添付した)があるべき筈で、上司の命令なしに単独行動による出張や法廷傍聴などあり得ない。
平成20年8月11日午後4時に再度説明を受けることを約し退庁したが、8月11日は急用で実現せず、今尚実現していない。
(3)本件行政文書の非公開部分について
本件行政文書では、出張経路に係る乗車駅・降車駅のうち職員自宅の最寄駅、路線名及び運賃並びに職員番号を非公開としている。
しかし、乗車駅、降車駅及び路線名については、最寄駅名を公開しても当該職員の自宅住所が明らかになるわけではないし、駅間の運賃はすでに公開されている情報である。また、職員番号については、公開するとどういう支障があるか理解できない。
したがって、これらの情報は、すべて公開すべきである。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね次のとおりである。
1 職員が傍聴した裁判について
(略)
2 本件行政文書について
本件行政文書は、本件分割訴訟を傍聴した職員の職員録、旅行命令簿兼精算旅費内訳である。
- (1)職員録は、職員の所属、所属グループ、職員の職階、職種、氏名、内線番号等からなる。当該文書に公開しないことと決定した部分はない。
- (2)旅行命令簿兼精算旅費内訳は、所属名、職員番号、氏名、出張の発令日、旅行日、用務名、用務詳細、用務先、宅発宅着の区分、交通手段、往復の別、乗車駅、降車駅、路線名、運賃、旅費合計、内訳、会計区分からなる。
このうち、本件部分公開決定においては、職員番号、自宅から直接出張した職員の乗車駅、自宅に直接帰った職員の降車駅等の特定個人の通勤手当認定経路及びこれを特定し得る部分を非公開とした。
なお、旅行命令簿兼精算旅費内訳には、職員の職階が記載されていないため、本件請求の「職員肩書」に対応する行政文書として職員録を特定したものである。
3 本件決定の適法性について
実施機関は、平成20年8月8日11時より、府政情報センターにおいて、本件部分公開決定において特定した文書を、異議申立人に開示した。これに対し、異議申立人は申立書において「開示された4名分の10枚の資料は、いずれも情報公開した内容を確認できる書類とはいえない」として「命令者の役職名と氏名と確認印のある命令書」の開示を求めている。
しかし、異議申立人が求める行政文書は、本件部分公開決定において特定した文書以外には存在せず、また、実施機関における職員の出張に関する事務処理は、すべて電子決裁により行うこととされていることから、命令者の確認印のある命令書も存在しない。
以上のとおり、本件部分公開決定は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、違法、不当な点はない。
なお、職員に対する出張命令は口頭で行われるため、命令者の氏名が記載された「出張命令書」は存在しないが、命令者(承認者)の氏名が記載された文書としては、電子決裁における照会画面を印刷した「管内出張旅行命令等 決裁済み照会」が存在する。
しかし、本件請求の内容は、「傍聴が、公務か任意かが判る文書一式(公務なら出張命令書)」というものであり、「命令者(承認者)の氏名が記載された文書」までを請求されているとは解釈していなかったため、本件請求に対して特定する文書は、本件行政文書のみと判断したものである。
後日、別の日の裁判傍聴に係る異議申立人の行政文書公開請求で、請求内容に「出張命令者の氏名」が明記された案件があったが、それに対しては、「管内出張旅行命令等 決裁済み照会」も対象文書として部分公開決定している。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに、府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このようにな理念の下に実施されている行政文書公開制度の対象となる「行政文書」の範囲については、条例第2条第1項において、(1)「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図面、写真及びスライド(これらを撮影したマイクロフィルムを含む。)並びに電磁的記録」であって、(2)「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」をいうと規定されており、実施機関は、請求に係る情報が上記の各要件を満たす「行政文書」に記録されている場合には、当該情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除き、その行政文書を公開しなければならないのである。
2 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
(1)職員の出張に関する事務処理について
実施機関の職員が公務の出張として行う旅行については、旅行命令権者が旅行命令を発することとされており、旅行命令権者が旅行命令を発する場合には、旅行命令簿に、当該旅行に関し必要な事項を記載し、当該旅行者に提示することとされている(大阪府職員の旅費に関する条例第4条第1項及び第4項)。
また、職員が出張した場合には、当該職員に対し、旅費を支給することとされている(同条例第3条)。
これらの旅行命令及び旅費支給に係る事務については、現在、人事給与福利厚生情報管理事務取扱要綱に基づき、電子情報処理組織を使用して行うこととされている。管内出張に係る旅行命令を発する場合は、旅費事務取扱要領に定める「旅行命令簿兼精算旅費内訳(電子様式第1号)」によるものとされており、通常は、あらかじめ、旅行命令権者が、口頭で出張の指示又は承認を行った上で、出張する職員が、旅行日、用務、用務先等の必要事項を入力し、旅行命令権者の承認を経ることにより旅行命令を受けるとともに、出張前又は帰庁後に、旅費の支給に必要な事項を入力するという手順によって処理されている。
この際、旅行命令の承認は、決裁権者が、総務事務システムの承認画面から、リンクされている「旅行命令簿兼精算旅費内訳(電子様式第1号)」の内容を確認して、所定の位置にチェックを入れる方法により行われる。承認後も、「旅行命令簿兼精算旅費内訳(電子様式第1号)」には、承認者(決裁者)の氏名や承認日等の情報は表示されないが、別途「決裁済み照会」の画面には、提出日、事実発生日、承認日(決裁日)、承認者(決裁者)等の情報が表示され、当該画面から「旅行命令簿兼精算旅費内訳(電子様式第1号)」へリンクすることで承認に係る旅行の内容が確認できる仕組みになっている。
(2)本件行政文書の部分公開について
本件非公開部分について、実施機関が、条例第9条第1号に該当すると主張しているのに対し、異議申立人は同号には該当しないと主張しているので、以下検討する。
ア 条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。
同号は、
- (ア)個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、
- (イ)特定の個人が識別され得るもののうち、
- (ウ)一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。
イ 本件非公開部分の条例第9条第1号該当性について
- (ア)職員個人の通勤手当認定経路及びこれを特定し得る部分
実施機関は、「職員個人の通勤手当認定経路及びこれを特定し得る部分」として、自宅発の場合の乗車駅名・路線名、自宅着の場合の降車駅名・路線名及びこれらを特定し得る駅名・路線名並びに全ての区間に係る区間ごとの運賃を非公開としている。
これらの非公開部分の条例第9条第1号該当性について、以下検討する。
自宅発の場合の乗車駅名・路線名、自宅着の場合の降車駅名・路線名及びこれらを特定し得る駅名・路線名(以下「駅名等」という。)については、個人の住所の特定につながる情報であり、出張者である職員の氏名は公開されているため、ア(ア)及び(イ)に該当する。全ての区間に係る区間ごとの運賃については、当該出張者の出張経路のうち、通勤認定経路区間の運賃が、システム上、自動的に0円と表示されるため、これを公開すると当該個人の通勤経路又はその一部が明らかになる。また、0円の欄のみを非公開とすると、やはりその区間が通勤経路又はその一部であることが明らかになるため、運賃についても、ア(ア)及び(イ)に該当する。
次に、ア(ウ)該当性について検討するに、前述のとおり、駅名等及び運賃が明らかになると、当該個人の通勤認定経路、すなわち自宅から勤務先までの通勤経路又はその一部が明らかになる。ストーカーなどによる被害が増加し、また、公務員が襲われる事件が実際に起こっている近年の社会情勢から考えると、通勤経路又はその一部が明らかになれば、安全面において不安を感じるという感覚は一般的なものであり、これらの情報は、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるため、ア(ウ)に該当する。 - (イ)職員番号
職員番号は、大阪府の職員が、個人の認証、人事給与、決裁等の業務の基本的な番号として使用しているものであって、地方職員共済組合員証の番号の一部にもなっているものであることから、ア(ア)及び(イ)の要件に該当する。
また、このような職員番号を公にすると、職員個人の職務の正常な遂行や取引の安全等を害するおそれがあるから、ア(ウ)の要件にも該当すると認められる。
以上のことから、本項の非公開部分に記録されている情報は、本号に該当すると認められる。
(3)文書の特定について
異議申立人は、本件行政文書について、どの書類がどの職員のものであるかの区別が出来ない、「命令者の確認印のある命令書」も添付されていないなどとして、本件決定における文書特定が不適法である旨主張していると解されるので、以下検討する。
ア 請求の趣旨について
異議申立人は、開示された旅行命令簿兼精算旅費内訳には、決裁者の氏名、押印がなく、上司の命令なしに単独行動による出張や法廷傍聴などあり得ないので、決裁が電子化されているとしても、命令者の氏名が記載された決裁書が存在するはずであり、これも本件請求の対象文書に含むべきであると主張する。
実施機関は、本件請求の内容は、「傍聴が、公務か任意かが判る文書一式(公務なら出張命令書)」というものであり、「命令者(承認者)の氏名が記載された文書」までを請求している趣旨とは解釈していなかったため、本件請求に対して特定する文書は、本件行政文書のみと判断したものであると主張する。
以上のように、請求の趣旨に対する解釈が請求者と実施機関において異なっているが、請求者はどのような行政文書が存在するのかをあらかじめ知っているわけではないので、実施機関は請求の趣旨を十分に踏まえた上で、適切な文書特定を行わなければならない。
本件請求は、「出張命令書」の公開を求める請求であるが、「出張命令書」には、出張命令の承認者や承認日が記載されていると考えることが通常であると考えられるため、請求者から特段の申出がない限り、本件請求の趣旨には、出張命令の承認者や承認日が分かる情報が含まれるものと解すべきである。
イ 対象文書の分類について
異議申立人は、「4人分10枚の対象文書を、どれが誰のものであるかの分類を要求したが、立ち会った職員は30分かけても分類ができなかった。このような書類を情報公開請求した府民に開示したことは、適法性があると主張できるものではない」と主張する。
実施機関が開示した文書は、「職員録」及び「旅行命令簿兼精算旅費内訳(4名分)」である。「旅行命令簿兼精算旅費内訳」については、2枚目以降に出張者の氏名の記載がないため、一旦順序が入れ替わると元のとおり並べ替えることが困難になるので、クリップ等で固定しておくなどの工夫をする余地はあったかもしれないが、当該文書を本件請求に対する文書として特定し、開示したこと自体に違法性はない。
ウ 本件請求に対する文書特定について
実施機関は、本件請求に対する行政文書として「職員録」及び「旅行命令簿兼精算旅費内訳」を特定した。この「旅行命令簿兼精算旅費内訳」は、通常の出張命令の処理を行う画面を印刷したものであるが、出張の命令者(承認者)の氏名や承認日は記載されていない。これらの情報は、出張命令について検索・確認ができる照会画面を印刷した「管内出張旅行命令等 決裁済み照会」に記載されており、今回、請求者から出張の命令者(承認者)の氏名や承認日の情報は含まないという特段の申出が無かったことから、この文書も本件請求の対象文書として特定すべきである。
3 結論
以上のとおりであるから、本件決定は、「管内出張旅行命令等 決裁済み照会(4名分)」を本件請求に対応する行政文書として特定しなかった点に不備があるため、実施機関は、「管内出張旅行命令等 決裁済み照会(4名分)」について改めて公開・非公開等の決定を行う必要がある。
すでに部分公開決定した「職員録」及び「旅行命令簿兼精算旅費内訳」については、実施機関の判断は妥当である。
よって、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
岡村周一、福井逸治、松田聰子、山口孝司