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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第163号)
大公審答申第
大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第163号)
〔政党交付金使途報告書等非公開決定異議申立事案〕
(答申日 平成20年10月23日)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成20年4月4日、異議申立人は、大阪府選挙管理委員会(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「(1)自由民主党の大阪府内全ての支部の2007年分の政党交付金使途報告書(解散等に係るものを含む。)、(2)上記(1)の領収書等の写し、支部基金の残高証明書の写し、支部総括文書、(3)上記(1)の監査意見書。」についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 実施機関は、同年4月15日、本件請求に対応する行政文書として、(1)の文書を特定の上、条例第13条第2項の規定により、非公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を(2)のとおり付して異議申立人に通知した。
- (1)本件請求に対応する行政文書
自由民主党の大阪府内の支部のうち、支部交付金が支給されている支部にかかる、平成19年分使途報告書及び添付書類。 - (2)公開しない理由
大阪府情報公開条例第9条第2号に該当する。
本件行政文書に記録されている情報については、政党助成法第32条の2第3項の規定により、総務大臣がその要旨を公表するまで情報の開示ができないため、法令の規定により公にすることができない情報と認められる。
- (1)本件請求に対応する行政文書
- 異議申立人は、同年4月30日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
- 実施機関は、同年5月12日、本件決定の一部(「上記(1)の領収書等の写し、支部基金の残高証明書の写し及び支部総括文書」を公開しないこととした部分)を取り消すとともに、取り消した部分について、改めて不存在による非公開の決定を行い、異議申立人に通知した。
この結果、本件決定により公開しないこととされている行政文書(以下「本件行政文書」という。)は、2(1)の行政文書のうち、「(1)自由民主党の大阪府内全ての支部の2007年分の政党交付金使途報告書(解散等に係るものを含む。)」及び「(3)上記(1)の監査意見書」に該当するもののみとなっている。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定を取り消し、公開するとの決定を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は概ね次のとおりである。
1 異議申立書における主張
本件決定は以下に記述する理由で違法である。
(1)政党交付金使途報告制度は国民の「知る権利」を具体的に保障したものである。
- ア 憲法は「知る権利」について明記していないものの、それを保障していると解される。
- イ この「知る権利」には、少なくとも、「国家からの自由」である「知る自由」としての「知る権利」と、政府情報公開請求権としての「知る権利」がある。
- ウ 政府情報公開請求権としての「知る権利」(以下、原則として「知る権利」と記す。)は、憲法第21条の表現の自由及び国民主権原理などによって保障されていると解される。
- エ この憲法上の人権としての「知る権利」は、法的権利である。具体的権利ではないものの、抽象的権利であると解される。
- オ 国も地方公共団体も、この抽象的権利としての「知る権利」を具体的に保障するための手続きを整備することが法的に義務づけられる。国や地方公共団体がそれを怠れば、例えば、国家賠償法により責任を追及されることになる。また、国や地方公共団体の保障が不十分であれば、国の情報公開法や地方の情報公開条例は違憲であると判断されることになる。
- カ いわゆる情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)は、その第1条で「行政文書の開示を請求する権利」を、その第3条で「開示請求権」を、それぞれ明記しているが、これは憲法の保障している抽象的権利としての「知る権利」を具体化したものである。そうでなければ違憲になってしまう。
- キ 条例は、その前文で「行政文書等の公開を求める権利」を、第1条で「行政文書及び法人文書の公開を求める権利」を、第6条で「公開請求権」を明記しているが、これも、憲法の保障している「知る権利」を具体化したものである。その証拠に、条例の前文でも「知る権利」は明記されている。
- ク 政党助成法は、第4章で「政党交付金の使途の報告」について、また第6章で「報告書等の公表」について、それぞれ定めているが、これは、いわゆる情報公開法と相俟って、憲法の保障している「知る権利」を具体化したものであると解される。そう解さなければ違憲になってしまう。
(2)政党交付金使途報告制度は民主主義が要請したものである。
- ア 情報公開法および情報公開条例は、以上のように、抽象的権利としての「知る権利」を具体的権利として保障するものであるが、それに加えて、民主主義の維持及び発展にとって不可欠である。
- イ いわゆる情報公開法は、「この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。」と定めている。
- ウ また、条例は、「情報の公開は、府民の府政への信頼を確保し、生活の向上をめざす基礎的な条件であり、民主主義の活性化のために不可欠なものである。府が保有する情報は、本来は府民のものであり、これを共有することにより、府民の生活と人権を守り、豊かな地域社会の形成に役立てるべきものであって、府は、その諸活動を府民に説明する責務が全うされるようにすることを求められている。このような精神のもとに、府の保有する情報は公開を原則とし・・・、併せて府が自ら進んで情報の公開を推進することにより、・・・地方自治の健全な発展に寄与するため、この条例を制定する。」と定めている。
- エ さらに、政党助成法は、「この法律は、議会制民主政治における政党の機能の重要性にかんがみ、国が政党に対し政党交付金による助成を行うこととし、・・・、その使途の報告その他必要な措置を講ずることにより、政党の政治活動の健全な発達の促進及びその公明と公正の確保を図り、もって民主政治の健全な発展に寄与することを目的とする。」と定めている。
- オ 要するに、情報公開制度および政党交付金使途報告制度は、民主主義を維持し発展させる上で不可欠の制度なのであるから、それら抜きに民主主義を語ることはできないし、それらの制度が不十分であれば民主主義も不十分になってしまうという関係にある。
(3)政党交付金使途報告書はその提出と同時に公開の対象になるべきである。
- ア 以上のように、情報公開制度と政党交付金使途報告制度は、「知る権利」を保障するうえでも民主主義の維持・発展のうえでも不可欠の制度であるから、政党交付金使途報告書が国(総務大臣)または地方公共団体(都道府県選挙管理委員会)に提出され受理されれば、当然に行政文書となり、直ちに情報公開の対象になるべきである。
- イ 政党交付金使途報告書が提出され、正式に受理されているにもかかわらず、情報公開の対象から外されたり、公開決定がなされなかったり、あるいは不当な非公開決定がなされるようであれば、それは「知る権利」を侵害し、説明責任(責務)を怠るものであり、民主主義を阻害するものである。
- ウ ところが、政党助成法第32条の2は、その第1項で、「定期報告文書若しくは解散等報告文書又はこれらに併せて提出すべき書面若しくは文書で第31条の規定により当該定期報告文書又は解散等報告文書の要旨が公表される前のものに係る行政機関の保有する情報の公開に関する法律(・・・)第3条の規定による開示の請求があった場合においては、当該要旨が公表される日前は同法第9条第1項の決定を行わない。」と、第3項で、「都道府県は、第1項の規定の例により、都道府県提出文書に係る情報の開示を行うものとする」と、それぞれ定めている。要旨の公開はこれまで9月に行われているから、遅くとも2月末までの報告書提出から6~7ヶ月後でなければ公開の決定がなされないことになる。これは、政党交付金使途報告書を公開の対象外にするものではないが、その公開決定の時期を著しく遅らせるものであり、憲法上の「知る権利」を十分に保障するものではないから、その権利を侵害し、説明責任(責務)を怠るものであり、民主主義を阻害するものである。
(4)都道府県は政党助成法第32条の2第3項の規定に拘束される必要はない。
- ア 以上のように、政党助成法第32条の2は、「知る権利」の保障という点でも民主主義の活性化という点でも憲法上問題であり、違憲であるとの評価を免れるものではないから、都道府県は、それに拘束される必要はない。
- イ これに対しては、政党助成法第32条の2が違憲であるとは断じ得ないし、また、憲法第94条が「地方公共団体は、・・・、法律の範囲内で条例を制定することができる」と定めているとして、都道府県は、政党助成法第32条の2の「範囲内」でしか条例を制定できないと反論がなされるかもしれない。しかし、憲法第94条の意味は、地方公共団体の基本的人権の保障や民主主義の内実が法律の水準を下回ることがないよう、いわば“下限としての歯止め”であると解すべきである。それゆえ、法律を「横だし」であれ「上乗せ」であれ上回る内容の人権保障や民主主義はこの規定に違反するわけではないと解すべきである。その証拠に、国に情報公開法が制定される前に地方では情報公開条例が制定されてきたし、情報公開法制定後も、同法よりも「知る権利」の保障の点で上回る情報公開条例が存在している。
- ウ 実施機関は非公開とした理由として政党助成法第32条の2第3項を挙げているが、この規定は「知る権利」の保障が不十分で民主主義の活性化を阻害しているのであるから、実施機関はこれに従う必要はない。
- エ したがって、条例の方が政党助成法よりも「知る権利」を保障しているのであるから、実施機関は、条例に基づく公開の決定をすべきである。
- オ なお、実施機関は、“公開の決定をしない”ことを定めた政党助成法第32条の2第3項を挙げながらも、“非公開の決定をしている”のは、必ずしも当該規定に従う必要がないことを自ら認めていることになる。
- カ 当該規定に従うのであれば、条例を「改正」して、政党交付金の趣旨の公表がなされるまで公開決定しないという規定を設けるしかないが、それも前述の理由で違憲であろう。
(5)政党交付金使途報告書を公開しても何ら行政上の支障は生じない。
- ア 政党交付金使途報告書は、提出後、それを公開しても、何ら行政上の支障は生じない。
- イ この点は、国(総務省)も地方公共団体(選挙管理委員会)も同じであろう。
- ウ 実施機関(の担当者)は、異議申立人との電話で、支障が生じないことを認めている。
- エ 政治資金規正法に基づく政治団体の収支報告書の公開請求に対して非開示処分がなされ、その取消しを求めた裁判において、大阪地方裁判所は、以下のように判断し、総務大臣に提出直後の当該報告書を公開しても何ら支障がないと判断し、非開示処分を取り消しているが、これは政党交付金使途報告書にも妥当するだろう。
「収支報告書は、政治団体の会計責任者が総務大臣等に提出した時点ですでに完成された文書であり、31条審査によって是正され得るのが形式的な不備等に限られることに照らせば、その審査終了前に収支報告書が公開されたことにより、被告が主張するような不備のある報告書(例えば、提出すべき様式の一部が提出されていないもの)が国民の目に触れたとしても、通常、それを読んだ国民が当該政治団体の収支や活動について誤った印象を持つという事態は考えにくい。また、上記のような形式上の不備等がある収支報告書が公開されたとしても、それに接する国民は、それが31条審査未了のものであり、今後形式上の不備等が是正され得ることを前提に、その報告書を読むと考えられるため、被告が危惧する事態が生じることは、なおさら考え難い。しかも、その後、上記審査を経て訂正された収支報告書の要旨が官報等によって公表され、これが閲覧に供されれば、その時点で上記不正確な情報は是正されるのであるし、上記審査前後の収支報告書に接する国民は、両者の記載を比べることにより、その政治団体の会計責任者が、不備のある収支報告書を提出したのか、不備のない収支報告書を提出したのかなど、当該政治団体の活動の一部である収支報告書の作成に対する姿勢も、併せて知ることができるのである。そして、この点を含め、形式的不備がある状態で収支報告書が公開されたことによる不利益ないし責任は、そのような収支報告書を作成し、提出した会計担当者が属する当該政治団体が負えば足りる。これらの点に加え、収支公開制度が、政治団体の機能の重要性等にかんがみ、その政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするためのものであり(政治資金規正法1条)、政治団体が作成した収支報告書を速やかに公開することが同法の上記趣旨に合致すると考えられることをも考慮すれば、仮に31条審査終了前の時点で収支報告書が公開されたことにより、当該政治団体の収支について形式的な不備のあるままの状態で情報が公開されたとしても、これによって、同法の定める収支公開事務の適正な遂行に実質的な支障が生じるとは認められない。実際、少なくとも18の府県において、同法20条2項に基づく府県の公報による公表前でも当該府県の情報公開条例ないしこれに類する条例に基づく公開請求に応ずることとしている(・・・)が、かかる公表前における収支報告書の公開によって、被告が主張するような支障が生じたことをうかがわせる証拠はまったくない。」(行政文書不開示決定処分取消請求事件・2006年8月10日大阪地判・判例タイムズ1218号236頁)
(6)税金を原資とした政党交付金の使途報告書の公開は「公益性」を有するから条例第11条第2項を“適用”又は“準用”すべきである。
- ア 政党交付金は国民が支払った税金を原資としている。
- イ それゆえ、その使途を公開することには公益性があることは言うまでもなく、その提出と同時に公開の対象にして国民が監視し批判できるようにすることにも公益性があるだろう。特に政党交付金の交付を受けている政党が次の衆議院議員総選挙で立候補することが予想されるからである。使途報告書が提出されているにもかかわらず、情報公開請求しても公開されないままで総選挙が実施されるとなれば、何のための使途報告制度なのか、と国民は政治への不信を増幅させるだろう。もちろん、総選挙であれ参議院議員通常選挙であれ国政選挙が実施されなくても、提出された使途報告書が提出同時に公開の対象にされ、国民が監視し批判することができるようになれば、国会の審議にも影響を与える可能性があるだろう。いずれにしても、政党交付金使途報告書は提出と同時に公開に応じられるようにすることには、主権者国民にとって、当然、公益性があるといえる。
- ウ 条例第11条は、「公益上の理由による公開」を認めており、その第2項は、「第9条の規定にかかわらず、実施機関は、公開請求に係る行政文書に同条第1号に掲げる情報が記録されている場合であっても、公益上特に必要があると認めるときは、請求者に対し、当該行政文書の全部又は一部を公開することができる。」と定めている。ここでいう「同条第1号に掲げる情報」とは、いわゆる個人情報である。ということは、条例は、個人情報であっても「公益上特に必要があると認めるときは、請求者に対し、当該行政文書の全部又は一部を公開することができる」と定めているのである。
- エ プライバシー権の保障の対象になりうる可能性のある個人情報に比べ非公開にする必要のない政党交付金使途報告書は、当然、この条項により「公益上の理由」により公開することができる、と解すべきである。
- オ かりにこの条項を“適用”すると解することが解釈論上難しいとしても、プライバシー権の侵害の可能性が皆無である政党交付金使途報告書については、この条項を“準用”すべきである。そうしなければ、条例は、「知る権利」を十分に保障していないことになるし、民主主義の発展を阻害することになるからである。
2 意見書における主張
(1)政党助成法第32条の2の解釈の誤り
- ア 実施機関は、本件決定の理由として、条例第9条が「実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている行政文書を公開してはならない。」と定め、その第2号が「法令の規定により、又は法律若しくはこれに基づく政令の規定による明示の指示(地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条第1号への指示その他これに類する行為をいう。)により、公にすることができない情報」を具体的に挙げていることを根拠にし、かつ当該第2号の「法令」として政党助成法第32条の2を挙げている。つまり、実施機関は、政党助成法第32条の2が都道府県に提出された政党交付金使途報告書等の「公開」を禁止していると解釈したうえで、本件決定が妥当であったと弁明している。
- イ しかし、実施機関は、そもそも政党助成法第32条の2の解釈を誤っている。同条第1項は「定期報告文書若しくは解散等報告文書又はこれらに併せて提出すべき書面若しくは文書で第31条の規定により当該定期報告文書又は解散等報告文書の要旨が公表される前のものに係る行政機関の保有する情報の公開に関する法律(・・・)第3条の規定による開示の請求があった場合においては、当該要旨が公表される日前は同法第9条第1項の決定を行わない。」と、同条第3項は「都道府県は、第1項の規定の例により、都道府県提出文書に係る情報の開示を行うものとする」と、それぞれ定めている。これは、いわゆる情報公開法第9条が「行政機関の長は、開示請求に係る行政文書の全部又は一部を開示するときは、その旨の決定をし、開示請求者に対し、その旨及び開示の実施に関し政令で定める事項を書面により通知しなければならない。」と規定していることから、政党交付金使途報告書の要旨が公表されれば必ず開示(公開)しなければならないと定めているのである。言い換えれば、当該要旨の公表されるまで“開示(公開)の決定を行わない”と規定しているにすぎず、“開示(公開)を行わない”と規定しているわけではない。したがって、政党助成法第32条の2を根拠に不開示(非公開)決定が行われるようなことがあれば、それはむしろ同条(及び情報公開法第9条)に違反し違法である。
- ウ 他方、府条例には、政党助成法第32条の2のように政党交付金使途報告書の要旨が公表されるまで“開示(公開)の決定を行わない”という条項はどこにもない。
- エ 条例に“開示(公開)の決定を行わない”という条項がない以上、実施機関は異議申立人の情報公開請求に対し、政党助成法第32条の2及び条例第9条第2号を根拠に非開示決定の処分をすることは法的に許されない。
- オ したがって、本件決定は、条例第9条第2号及び政党助成法第32条の2の解釈を誤ったものであり、違法である。
- カ なお、政党助成法第32条の2に従うのであれば、条例を「改正」して、政党交付金使途報告の趣旨の公表がなされるまで公開決定しないという規定を設けておくべきであった。もっとも、たとえ設けていても、それも後述する理由で違憲であっただろう。
(2)立法裁量論の誤り
- ア かりに条例第9条第2号が政党助成法第32条の2の開示決定を行わない場合を含んでいるとしても、政党助成法第32条の2はいわゆる「知る権利」を不当に制限するもので違憲であるから、実施機関は、違憲の条項を適用して非公開決定を行うべきではない。
- イ 実施機関は、「国民や住民に対する情報公開請求をどのような範囲で認めるかは、立法政策の問題であ」る、と弁明している。
- ウ しかし、このような弁明がなされるのは、政府情報公開請求権としての「知る権利」の憲法解釈を誤っているからであろう。
- エ 政府情報公開請求権としての「知る権利」は、憲法第21条の表現の自由及び国民主権原理などによって保障されていると解される。この憲法上の人権としての「知る権利」は法的権利である。具体的権利ではないものの、抽象的権利であると解されるから、国も地方公共団体も、この抽象的権利としての「知る権利」を具体的に保障するための手続きを整備することが法的に義務づけられる。国や地方公共団体がそれを怠れば国家賠償法により責任を追及されうるし、国や地方公共団体の保障が不十分であれば国の情報公開法や地方の情報公開条例は違憲であると判断されることになる。「知る権利」が法的権利である以上、「情報公開請求をどのような範囲で認めるか」は決して立法政策に全面的に委ねられているわけではない。たとえ立法政策に委ねられる部分があるとしても、憲法の保障する「知る権利」の保障の本質を骨抜きにするようなことまで憲法が立法政策に委ねていると解してはならないから、「知る権利」の保障の本質を骨抜きにするような立法行為又は立法不作為は、立法機関の裁量権の濫用・逸脱として違憲であると解すべきである。
- オ いわゆる情報公開法は、「行政文書の開示を請求する権利」(第1条)及び「開示請求権」(第3条)を明記しているが、これは憲法の保障している抽象的権利としての「知る権利」を具体化したものである。そうでなければ同法は違憲になってしまう。条例は「行政文書等の公開を求める権利」(前文)、「行政文書及び法人文書の公開を求める権利」(第1条)及び「公開請求権」(第6条)を明記しているが、これも、憲法の保障している「知る権利」を具体化したものであり、条例の前文も「知る権利」を明記している。政党助成法第4章「政党交付金の使途の報告」及び第6章「報告書等の公表」は、いわゆる情報公開法と相俟って、憲法の保障している「知る権利」を具体化したものであると解される。そう解さなければ政党助成法は違憲になってしまう。
- カ 情報公開制度と政党交付金使途報告制度は、「知る権利」を保障するうえでも民主主義の維持・発展のうえでも不可欠の制度であるから、政党交付金使途報告書が国(総務大臣)または地方公共団体(都道府県選挙管理委員会)に提出され受理されれば、当然に行政文書となり、直ちに情報公開の対象になるべきである。政党交付金使途報告書が提出され、正式に受理されているにもかかわらず、情報公開の対象から外されたり、公開決定がなされなかったり、あるいは不当な非公開決定がなされるようであれば、それは「知る権利」を侵害し、説明責任(責務)を怠るものであり、民主主義を阻害するものである。
- キ ところが、政党助成法第32条の2は、政党交付金使途報告の「要旨が公表される日前」は開示の「決定を行わない。」(第1項)、「都道府県は、第1項の規定の例により、都道府県提出文書に係る情報の開示を行うものとする」(第3項)と定めているが、要旨の公開はこれまで9月に行われているから、遅くとも2月末までに提出された政党交付金使途報告書は6~7ヶ月後でなければ公開の決定がなされないことになる。
- ク 政党交付金使途報告書は、提出後速やかに公開しても何ら行政上の支障は生じない。この点は、国(総務省)も地方公共団体(選挙管理委員会)も同じであり(異議申立書で紹介した行政文書不開示決定処分取消請求事件・大阪地判2006年8月10日・判タ1218号236頁も参照)、実施機関(の担当者)は、異議申立人との電話で、何ら支障の生じないことを認めている。実施機関の弁明にも、その点についての反論は一切ない。これは、わざわざ都道府県に提出される政党交付金使途報告書の公開決定をその趣旨公開まで遅らせる実質的な理由が存在しないからに他ならない。
- ケ 政党助成法第32条の2(少なくとも第3項)は、公開決定を遅らせるべき実質的理由がないにもかかわらず、その公開決定の時期を著しく遅らせるものであり、その限りで憲法上の「知る権利」の本質を骨抜きにするものであるから、「知る権利」の保障という点でも民主主義の活性化という点でも憲法上問題であり、立法機関の裁量権の濫用として違憲であるとの評価を免れるものではない。
- コ それにもかかわらず、実施機関が違憲の政党助成法第32条の2に従えば、条例第9条の規定そのもの、または条例第9条の運用が違憲であると解さざるを得ないだろう。
(3)違憲の評価を回避するためには条例を憲法適合的に解釈・運用すべきである。
- ア 以上のような違憲の評価を回避するためには、幾つかの方法が考えられる。
- イ 第一の方法は、すでに上記(1)で説明したように、条例には開示(公開)の決定を行わないとする規定が存在しないとして解釈・運用する方法である。
- ウ 第二の方法は、政党助成法第32条の2が違憲であるとして、政党助成法第32条の2に従わない方法である。
- エ 第三の方法は、政党助成法第32条の2第3項の規定の趣旨を次のように合憲限定解釈する方法である。すなわち、同規定は、情報公開に応じると都道府県(の選挙管理委員会)の事務(例えば届出書類等の説明聴取等について定めている政党助成法37条参照)に支障が生じる場合に備えたものであるが、遅くとも政党交付金使途報告の要旨が公表された場合には都道府県は必ず情報公開に応じるべきであると定めたもので、何ら事務上の支障のない都道府県にあっては、当該要旨の公表前であっても情報公開に応じて公開決定することを許容していると解する方法である。
- オ 第四の方法は、条例第11条を“適用”または“準用”する方法である。そもそも政党交付金は国民が支払った税金を原資としているから、その使途を公開することには公益性があることは言うまでもなく、その提出と同時に公開の対象にして国民が監視し批判できるようにすることにも公益性がある。条例第11条は「公益上の理由による公開」を認めており、その第2項は「第9条の規定にかかわらず、実施機関は、公開請求に係る行政文書に同条第1号に掲げる情報が記録されている場合であっても、公益上特に必要があると認めるときは、請求者に対し、当該行政文書の全部又は一部を公開することができる。」と定めている。つまり、条例は、プライバシー権の保障の対象になりうる可能性のある個人情報であっても「公益上特に必要があると認めるときは」「公開することができる」のである。したがって、個人情報に比べ非公開にする必要のない(あるいは非公開にする情報を殆ど含んでいない)政党交付金使途報告書は、当然、この条項により「公益上の理由」で公開(全部公開あるいは部分公開)することができる、と解する方法である。
(4)結論
- ア 以上の理由により、実施機関の弁明は本件決定の合法性を十分に説明するものではなく、本件決定は違法である。
- イ したがって、本件決定は取り消され、公開決定がなされるべきである。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
1 政党助成金の交付に関する業務内容について
(1)政党助成法について
政党助成法は、国が政党に対して政党交付金を交付することにより行う助成制度に関して規定した法律であり、平成6年2月に公布、平成7年1月に施行された後、12回の改正を経て今日に至っている。この法律は、「議会制民主政治における政党の機能の重要性にかんがみ、国が政党に対し政党交付金による助成を行うこととし、このために必要な政党の要件、政党の届出その他政党交付金の交付に関する手続を定めるとともに、その使途の報告その他必要な措置を講ずることにより、政党の政治活動の健全な発達の促進及びその公明と公正の確保を図り、もって民主政治の健全な発展に寄与すること」(第1条)を目的としているものである。
政党助成法は、上記目的を実現するために、政党交付金の額の算定(第8条)や交付の決定(第10条)等、交付の手続を定めるとともに、交付を受けた政党及び政党の支部に対し、当該交付金に係る収支の状況を明らかにするため、これら交付金に関する会計帳簿を備え(第15条、第16条)、必要事項を記載した使途等報告書を提出すること(第17条、第18条)を義務付けているほか、使途等報告書の要旨の公表(第31条)や情報の公開(第32条の2)に関する規定を定めている。
また、報告書等の未提出や虚偽記載(第44条)、会計帳簿の未整備、未記載(第45条)といった法違反行為を行った者については、禁固刑や罰金刑に処し、又はこれを併科する等の罰則が設けられている。
(2)支部報告書の受理業務について
ア 政党の会計責任者への提出義務
政党交付金は、総務大臣が算定し、交付決定したものについて、国が政党に交付しているが、政党助成法第18条の規定により、政党の本部から支部に対して支給される金銭等で政党交付金を充て又は政党基金を取り崩して充てるもの(以下「支部政党交付金」という。)の支給を受け、若しくはこれによる支出をした政党の支部の会計責任者は、12月31日現在で、当該支部のその年における支部政党交付金による支出に係る支出総額や支出の内訳等所定の事項を記載した報告書(以下「支部報告書」という。)、領収書等の写し及び監査意見書を同日の翌日から起算して2月以内に、当該支部政党交付金の支給をした政党の会計責任者に提出しなければならない。
イ 都道府県の選挙管理委員会への提出義務
アの提出の翌日から起算して7日以内に、支部報告書及び監査意見書を当該支部の主たる事務所の所在地の都道府県の選挙管理委員会に提出しなければならない。
ウ 実施機関による支部報告書の受理
実施機関は、上記イのとおり、政党支部から提出があった際は、政党支部の名称、所在地等の届出事項の確認、収支の総括表、支部政党交付金の内訳、支出の総括表、支出の内訳表における各金額欄の検算等により形式審査を行った上で受理している。
(3)報告書等に係る情報の公開について
政党助成法第31条の規定により、総務大臣は、定期報告文書(政党交付金の使途等に関する報告書、支部報告書等)の要旨を9月30日までに公表しなければならないが、政党助成法第32条の2第1項の規定により、これらの要旨が公表される前のものに係る行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)第3条の規定による開示の請求があった場合においては、当該要旨が公表される日前は同法第9条第1項の決定を行わないこととされている。
また、政党助成法第32条の2第3項の規定により、都道府県についても、この例により都道府県提出文書に係る情報の開示を行うものとされている。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、支部政党交付金の交付を受けた政党支部が政党(本部または上位支部)に対して提出する支部政党交付金による支出に係る(1)支部報告書、(2)領収書等の写し及び(3)監査意見書のうち、都道府県選挙管理委員会に提出する義務がある(1)及び(3)の文書として、実施機関に提出のあったものである。本件請求の対象は、平成19年(2007年)分の大阪府内に主たる事務所を置く自由民主党の支部のうち、支部政党交付金の支給を受けた全ての支部に係る支部報告書であり、実施機関に対して24団体から支部報告書の提出があった。
3 本件決定の適法性について
(1)条例第9条第2号について
条例第9条第2号は、法令の規定により、又は法律若しくはこれに基づく政令の規定による明示の指示(地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条第1号への指示その他これに類する行為をいう)により、公にすることができない情報が記録されている行政文書を公開してはならないと規定している。
(2)上記(1)の要件について
政党助成法第32条の2第1項の規定により、総務大臣による定期報告文書の要旨が公表される前のものについては、情報公開法第3条の規定による開示の請求があった場合にも、当該要旨が公表される日前は同法第9条第1項の決定を行わないとされ、同規定は、都道府県提出文書に係る情報の開示についても適用されるところ、総務大臣に対して提出義務がある平成19年分に係る支部報告書は、本件請求に係るものも含め、本件決定を行う時点でまだその要旨の公表は行われていないことから、本件行政文書は、実施機関が公開することのできない情報であり、上記(1)に該当する。
4 異議申立人の主張について
異議申立人は、政党助成法第32条の2において、国が定期報告文書の要旨を公表する日前は、情報公開の決定を行わないことと規定していることに関し、「政党交付金使途報告書はその提出と同時に公開の対象になるべき」、「「知る権利」の保障という点でも民主主義の活性化という点でも憲法上問題であり、違憲であるとの評価を免れるものではないから、都道府県はそれに拘束される必要はない」、「条例の方が政党助成法よりも「知る権利」を保障しているのであるから、実施機関は、条例に基づく公開の決定をすべき」、「政党交付金使途報告書は、提出後、それを公開しても、何ら行政上の支障は生じない」などと主張する。
しかし、行政機関である実施機関は、地方自治法第2条第2項及び第16項の規定により、法令に従って事務を処理しなければならないところ、これら法令の規定に従って本件決定を行ったものである。そもそも、国民や住民に対する情報公開請求権をどのような範囲で認めるかは、立法政策の問題であり、現に施行されている法律に対し、実施機関が独自の判断で規定と異なる取扱をすることができないことは当然であるから、異議申立人の主張は失当である。
また、異議申立人は、条例第11条第2項において、公益上の理由による公開を認めていることに関し、「税金を原資とした政党交付金の使途報告書の公開は「公益性」を有するから府条例第11条第2項を“適用”又は“準用”すべき」、「プライバシー権の保障の対象になりうる可能性のある個人情報に比べ非公開にする必要のない政党交付金使途報告書は、当然、この条項により「公益上の理由」により公開することができる、と解すべき」、「かりにこの条項を“適用”すると解することが解釈論上難しいとしても、プライバシー権の侵害の可能性が皆無である政党交付金使途報告書については、この条項を“準用”すべき」などと主張す?。
しかし、条例第11条第2項の規定は、同第9条第1号で非公開とされる個人情報に関し、公益上公開する特別の必要性が認められるときに限り公開を認めるとするものであって、政党助成法第32条の2の規定により一定期間の非公開が羈束されている本件行政文書については、条例第9条第2号を根拠に非公開決定をしていることから、条例第11条第2項を直接の根拠として公開決定することができないことは明らかである。
また、異議申立人がいう「適用」及び「準用」の法的意味は定かではないが、本件は処分性を伴う性質のものであって、具体的に法が非公開と規定していることにつき、他の法令に明文の根拠がないにもかかわらず、条例第11条第2項の規定を類推解釈することはできないと解すべきであるから、この点についても異議申立人の主張は当を得ないといわざるを得ない。
5 結論
以上のとおり、本件についての実施機関の決定は、条例の規定に基づき適切に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 支部報告書等の実施機関への提出等について
政党交付金は、政党の活動を助成するため政党助成法に基づき国が政党に対して交付するものである。
政党からその支部に対して支給される金銭等で政党交付金を充て又は政党基金を取り崩して充てるもの(以下「支部政党交付金」という。)の支給を受け、若しくはこれによる支出をした政党の支部の会計責任者は、毎年12月31日現在で、当該支部のその年における支部政党交付金による支出に係る支出総額や支出の内訳等所定の事項を記載した報告書(以下「支部報告書」という。)、支部政党交付金による支出に係る領収書等の写し等及び監査意見書を、法定の期限までに、当該支部政党交付金を支給した政党の会計責任者に提出するとともに、その提出日の翌日から起算して7日以内に、支部報告書及び監査意見書を当該支部の主たる事務所の所在地の都道府県の選挙管理委員会に提出しなければならないこととされている(政党助成法第18条第3項)。
また、政党がその支部から提出を受ける上記の書類のうち、支部報告書及び監査意見書については、当該政党に対して交付された政党交付金の使途等報告書等とともに、定期報告文書として、政党から総務大臣に提出しなければならないこととされており、総務大臣は、これらの定期報告文書の要旨を、当該定期報告文書が提出された年の原則として9月30日までに公表することとされている(政党助成法第31条)。
3 本件行政文書について
本件行政文書は、実施機関が、政党助成法第18条第3項の規定に基づき、自由民主党の支部のうち、平成19年分の支部政党交付金を受けた24団体から提出を受けた支部報告書及び監査意見書である。
支部報告書には、政党支部の名称、主たる事務所の所在地、代表者及び会計責任者の氏名、事務担当者の氏名及び電話番号、収支の総括、支部政党交付金の内訳、支出項目別金額の内訳、政党支部基金の内訳が記載されている。また、監査意見書には、当該政党支部の名称及び監査をした者の氏名及び印影、実施した監査の概要、監査の対象となった会計帳簿、領収書等及び残高証明等についての意見、その他の監査上の特記事項が記載されている。
4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
本件行政文書について、実施機関は、条例第9条第2号により公開してはならないこととされている「法令の規定により、・・・公にすることができない情報」に該当すると主張しているので、以下検討する。
(1)条例第9条第2号について
本号は、地方公共団体が、法律の範囲内で、かつ、法令に違反しない限りにおいて、条例制定権が認められているものであることに踏まえ、法令の規定に基づく非公開情報と条例との関係について定めたものである。
本号においては、「法令の規定により・・・公にすることができない情報」については、公開してはならない旨規定している。
また、本号の「法令の規定により・・・公にすることができない情報」とは、法令の個別規定から、直ちに非公開と定められている場合のほか、当該法令の趣旨、目的、社会通念に従って適正に解釈すると公開できない場合を含むものであるが、本号が、府民等の行政文書の公開を受ける権利に対する公開禁止という強い制限として位置付けられていることからすると、この規定の適用が認められるのは、当該法令の規定により一義的に公開することができない場合に限られると解すべきである。
(2)本件行政文書の条例第9条第2号該当性について
支部報告書及び監査意見書を含む総務大臣への定期報告文書について、政党助成法第31条の規定に基づき総務大臣が要旨を公表する前に情報公開法第3条の規定による開示の請求があった場合の総務大臣の対応に関して、政党助成法は、「当該要旨が公表される日前は同法第9条第1項の決定を行わない」こととする(政党助成法第32条の2第1項)とともに、開示決定等の期限について要旨の公表日から起算する旨手続の特例を定めている(政党助成法第32条第2項)。これらの規定により、総務大臣は、定期報告文書について情報公開法に基づく開示請求があった場合、要旨の公表までは、開示決定も非開示決定も行わず、要旨の公表後に全部又は一部の開示決定を行うこととしているのである。
一方、支部報告書及び監査意見書からなる都道府県選挙管理委員会への提出文書について、総務大臣が要旨を公表する前に公開請求等があった場合の都道府県選挙管理委員会の対応に関して、政党助成法は、「都道府県は、第1項の規定の例により、都道府県提出文書に係る情報の開示を行うものとする」と規定している(政党助成法第32条の2第3項)。この規定により、都道府県(選挙管理委員会)が、「第1項の例により、都道府県提出文書に係る情報の開示を行う」こと、すなわち、総務大臣と同様に、要旨の公表前に全部又は一部を公開する旨の決定は行わないことを義務づけられていることは明らかである。
なお、この点に関し異議申立人は、政党助成法第32条の2の規定は違憲であり実施機関は拘束される必要がない、政党交付金使途報告書は提出後速やかに公開しても何ら行政上の支障は生じない、公益上の理由による公開を定めた条例第11条を適用又は準用すべきであるなどとして、本件行政文書を公開すべきである旨主張しているが、実施機関としては、明らかに違憲無効と言えるような特別な事情がない限り法令を遵守しなければならないものであり、政党助成法第32条の2第3項の規定にそのような特別な事情は認められず、要旨の公表前の公開が禁止されている以上、これらの異議申立人の主張は採用できない。
また、異議申立人は、「”公開の決定をしない”ことを定めた政党助成法第32条の2第3項を挙げながらも、”非公開の決定をしている”のは、必ずしも当該規定に従う必要はないことを自ら認めている。」と主張しているが、政党助成法第32条の2第3項は、各都道府県の行政文書公開の制度が、国とは異なることを前提に、都道府県に対し、総務大臣と同様に、要旨の公表前には全部又は一部を公開する旨の決定は行わないよう義務づけたものであり、そのための具体的な対応方法は、各都道府県に委ねているのである。本府の制度では、政党助成法第32条の2第2項のような決定期間の特例を定めた規定がなく、原則15日の期間内に公開・非公開等の決定を行わなければならないから、実施機関が、支部報告書及び監査意見書の公開請求に対する対応として、総務大臣による要旨の公表前の場合には、条例第9条第2号に該当することを理由に非公開決定を行い、要旨の公表後の場合には、全部又は一部を公開する等の決定を行うこととしているのは、正当な対応と言うべきである。
以上のことから、本件行政文書は、総務大臣が定期報告文書の要旨の公表を行う前の本件請求の時点においては、条例第9条第2号に該当すると認められ、公開することができない。
5 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
岡村周一、小松茂久、鈴木秀美、岩本洋子