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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第161号)
貸金業変更届出書等部分公開決定第三者異議申立事案
(答申日 平成20年9月12日)
第一 審査会の結論
実施機関の判断は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成20年3月11日、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「株式会社A、大阪府知事(○○)第××××号の現在の営業所所在地、代表者氏名がわかる文書」についての行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)が行われた。
- 同年3月17日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として次の行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、本件行政文書に第三者である異議申立人に関する情報が記録されていることから、条例第17条第1項の規定に基づき意見書提出の機会を付与するため、異議申立人に対し、「第三者意見書提出機会通知書」を送付した。
(行政文書の名称)
株式会社Aから提出された平成20年3月3日付け変更届出書、3月5日付け誓約書、3月1日付け残貸付債権の状況等に係る報告書 - 同年3月21日、異議申立人から、次の部分の公開に反対する旨の内容の意見書の提出があった。
株式会社Aに係わる全ての関係者及び代表取締役、取締役、監査役、使用人、主任者、責任者他、個人を特定できる個人情報に係わる全ての関係者の住所、氏名、連絡先などの部分 - 同年3月27日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件行政文書について、(1)の部分を公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、その旨を請求者に通知するとともに、条例第17条第3項の規定により、公開決定をした理由を(2)のとおり付して異議申立人に通知した。
- (1)公開することと決定した部分
本件行政文書のうち、以下の部分を除く部分
法人代表者の印影、変更届出書における変更後の住所のうち、登記簿に記載されていない部分、代表者個人の携帯電話番号、残貸付債権額及び債務者数 - (2)公開決定をした理由
行政文書公開請求に対する公開・非公開の決定は、条例の規定に則して行うものであり、本件行政文書(公開部分)に記録されている情報については、当該法人及びその事業の性質等を考慮すると、当該法人の競争上の地位、その他正当な利益を害するとは認められず、条例第8条第1項第1号に該当しない。
また、本件行政文書(公開部分)に記載されている情報については、個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別されるもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であるとは認められず、条例第9条第1号には該当しない。
そのほか、条例第8条第1項各号又は第9条各号(非公開情報)に該当しないため。
- (1)公開することと決定した部分
- 同年4月11日、異議申立人は、本件決定を不服として行政不服審査法第6条の規定により、本件決定の取り消しを求める異議申立てを行った。
また、同日、異議申立人は、行政不服審査法第48条において準用する同法第34条第2項に基づき、執行の停止の申立てを行い、同年4月16日、実施機関が執行の停止を決定して、その旨を異議申立人及び請求者に通知している。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定を取り消し、全部非公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。
- この案件による行政文書の公開は民法第1条の信義則の原則に反し、権利濫用である。
- 異議申立人は、貸金業を2年以上前に廃業した。現在、残高も非常に少額で、債務超過により廃業後、清算、解散もままならず、営業活動どころか回収業務も行っていない。そのような法人に競争上の地位とは何を示すのか。貸金業者としての競争をする事もなく、地位も確立していない。また、正当な利益を害するという趣旨も理解できない。このような残高の少なく資産のない法人は、各代表や役員を個人追及されることが多く、そのしわ寄せが来る。情報公開という手段を講じなくとも、十分に弊社のことを知り得る情報は、登記簿上で確認できる。個人を守るという事は正当な利益を害されるという事ではないのか。その条例の解釈を再度、検討していただきたい。貸金業対策課の担当の指導、要請により届出はしたが、実際は営業所ではなく、個人宅である。届けたために居住地をあたかも営業所と追及され、土足で踏みにじられるような事があれば、自宅で居住する家族が困惑する事が容易に推測できる。
条例や府庁担当者が配慮、考慮して、そのような一般個人を保護して判断する事を望む。 - これこそ条例第8条第1項各号又は、同条例第9条各号に該当しないで、何が該当しえるのか。
- 自身は自分で守る。家族を守る。このような行為を頑張って行っても、国が保護してもらえない。廃業して、競争もなく、地位も資産もない法人に何が出来るというのか?そうなれば個人が追及されることは目に見えて明らかである。法人とはいえ個人商店となんら変わりないのである。その個人のプライバシーを容易に開示する。しかも府庁担当者の強硬な指導の下、説明もしたが、直ちに対応して、届出をした直後に、このような通知書が送付されるとは、あまりにも配慮に欠けた行為であり、遺憾の意を示すものである。
弊社が営業時には1度も府庁にご迷惑をおかけしたことがない。法も厳格に解釈していた。弊社の情報を府庁にまで、届けて知ろうとする者の趣旨は基本的に、昨今はやりの過払い金請求以外考えられない。それは、弊社は既に廃業し、営業活動を行っておらず、競争上の地位もないからである。そのような法人の情報を知る必要もない。だから会社が実質営業していなければ、法人と個人が別人格としても、個人を強行に追及してくるのである。 - 現在でも具体的な個人追及をする主張、立証もせず、支払いを迫る法律関係者が後を絶たない。その事態を鑑みると私も含めて、個人情報の漏洩は、個人情報に該当し、個人情報保護法の問題もあり、適切に扱われるべきであると思う。条例と法律はどちらが重視されるべきものであるか私には判断しかねる部分であるが、諸事情を理解し、少し異議申立人に対して配慮、尊重してもいいのではと考えている。
よって、条例第8条第1項各号又は、条例第9条各号に該当し、民法第1条の信義側に反し、まさに権利濫用の法理がここに適用されるので、情報公開は容認できない。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね次のとおりである。
1 貸金業の登録に関する事務について
貸金業を営もうとする者は、異議申立人が直近に貸金業登録した平成15年9月3日当時(以下「登録当時」という。)の貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業規制法」という。)第3条第1項(現貸金業法第3条第1項)の規定により、当該申請法人の営業所又は事務所の所在地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならない。
当該申請に対し、登録当時の貸金業規制法第6条(現貸金業法第6条)の規定による登録拒否要件審査の結果、適当と認められたときには、登録当時の貸金業規制法第5条第1項(現貸金業法第5条第1項)の規定により貸金業者登録簿に登録する。登録簿への登録は、登録当時の貸金業規制法施行規則第4条の2第1項(現貸金業法施行規則第4条の2第1項)の規定により、登録申請書様式第1号第2面から第8面までを貸金業者登録簿につづることにより行うこととされている。
また、登録当時の貸金業規制法第9条(現貸金業法第9条)及び登録当時の貸金業規制法施行規則第9条第2項(現貸金業法施行規則第9条第2項)の規定により、貸金業者登録簿は、一般の閲覧に供するものとされている。
登録後に貸金業者登録簿の内容に変更が生じた場合は、貸金業規制法第8条第1項(現貸金業法第8条第1項)の規定により、変更の届出を、また、登録有効期間内に廃業を行う場合は、登録当時の貸金業規制法第10条第1項(現貸金業法第10条第1項)の規定により、廃業等の届出を行うこととされている。
なお、貸金業者が登録有効期間(3年)切れ、廃業及び登録の取消し処分等となったときは、貸金業者の登録を消除しなければならない旨登録当時の貸金業規制法第40条(現貸金業法第24条の6の7)で規定されており、貸金業者登録簿からも消除することとされている。
ただし、登録有効期間切れ、廃業及び登録の取消し処分等となった場合でも、「当該貸金業者が締結した貸付けの契約に基づく取引を結了する目的の範囲内においては、なお貸金業者とみなす」と登録当時の貸金業規制法第44条(現貸金業法第44条)に規定されており、登録の有効期間がなくなった場合でも、みなし貸金業者として法令の適用を受けることとなる。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、異議申立人(平成18年1月31日付で廃業の届出が提出されている。)から、みなし貸金業者として、廃業当時の貸金業規制法第42条第1項(現貸金業法第24条の6の10第1項)の規定により、実施機関に対して提出されたものである。
本件行政文書に記録されている事項は以下のとおりである。
(1)変更届出書
届出日、届出者の住所・郵便番号・電話番号・商号又は名称・代表者の氏名・法人代表者の印影、廃業当時の登録番号、変更(予定)年月日、変更に係る届出事項(本件においては、代表取締役の変更に伴う氏名、主たる営業所又は事務所の変更に伴う住所、連絡先等の変更に伴う電話番号)
(2)誓約書
届出日、届出者の住所・郵便番号・商号、代表者の氏名、法人代表者の印影、廃業当時の登録番号、貸金業の業務を行わない登記簿上の本店の所在地、貸金業の業務を行う主たる営業所等の店舗名等・所在地、登記簿上の本店において、貸金業の業務を行わない理由
(3)残貸付債権の状況等に係る報告書
届出日、届出者の住所・郵便番号・電話番号・商号又は名称・代表者の氏名・法人代表者の印影、残貸付債権の状況及び債権回収方針(本件においては、残貸付債権額及び債務者数)、債権譲渡の状況、取立委託の状況、帳簿及び個人情報の取扱い(本件においては、具体的な措置状況)
本件行政文書のうち、異議申立人が公開に反対している部分は、公開しないことと決定した法人代表者の印影、変更届出書における変更後の住所のうち登記簿に記載されていない部分、代表者個人の携帯電話番号、残貸付債権額及び債務者数の部分を除く全て(以下「本件係争部分」という。)である。
3 条例における公開原則について
条例においては、その前文にあるように、「府の保有する情報は公開を原則」、「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護」、「府が自ら進んで情報の公開を推進」を制度運営の基本的姿勢としている。
よって、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報を公開しなければならないものである。
4 本件決定の適法性について
(1)条例第8条第1項第1号について
事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重・保護されなければならないという見地から、社会通念に基づき判断して、競争上の地位を害すると認められる情報、その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが条例第8条第1項第1号の趣旨である。
同号では、
- ア 法人等に関する情報であって、
- イ 公にすることにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるものは、公開しないことができると規定している。
また、一般に、「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理を侵害すると認められるものをいうと解されており、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、事業を営む者に対する名誉侵害、社会的評価の低下となる情報及び公開により団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらわれないものをいうと解されている。
そして、「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、当該文書に記録された情報が明らかとなることにより、当該法人等に具体的な不利益が及んだり、社会的評価の低下につながるなどの事実が存在し、それが社会通念に照らして「競争上の地位その他正当な利益」を害すると認められる程度のものである必要があると解すべきである。
(2)本件係争部分が条例第8条第1項第1号に該当しないことについて
上記(1)ア及びイの要件を本件係争部分についてみると、本件係争部分は全て法人の商号及び代表者の氏名、営業所の所在地等に関する情報であり、(1)アの要件に該当することは明らかである。そこで、本件係争部分に記録された情報が、(1)イの要件に該当するか否かを検討した結果、当該情報が営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等に当たるとはいえず、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するものでないことは明らかである。
また、異議申立人は現在、貸金業を廃業しているが、それをもって当該情報を非公開とすべき特段の理由も認められない。
したがって、(1)イの要件に該当しない。
(3)条例第9条第1号について
個人の尊厳の確保、基本的人権の尊重のため、個人のプライバシーは最大限に保護されなければならない。特にプライバシーは、一旦侵害されると、当該個人に回復困難な損害を及ぼすことに鑑み、条例は、その前文において、「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護」することを明記し、条例第5条において「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」ことを定めている。そして、条例第9条においては、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの
については、「公開してはならない情報」として定められている。
(4)本件係争部分が条例第9条第1号に該当しないことについて
(3)ア~ウの要件を本件係争部分についてみると、本件係争部分に記録されている情報は届出日、法人の商号等であり、これらはア及びイの要件に該当しない。
また(3)ウの要件に該当するか否かについて検討すると、当該情報は、公表することにより、特定の法人が貸金業を営んでいたという事実が明らかとなる情報であるものの、本件情報の開示によって、当事者の個人の尊厳が傷つけられたり、人格的利益が損なわれたりすることは、社会通念上考えられないことから、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当である」とは認められないものであり、(3)ウの要件にも該当しない。
(5)その他の適用除外事項に該当しないことについて
本件係争部分に記録されている情報が、条例第8条第1項各号又は第9条各号に規定する他の適用除外事項である条例第8条第1項第2号から第5号及び第9条第2号に該当するかについて検討した結果、全て該当しない。
(6)異議申立人の主張について
異議申立人は、異議申立人の情報を公開されるのに、個人情報の漏洩等を本件請求に反対する理由の一つとしているが、本件係争部分は法人に関する情報であり、条例に基づく行政文書公開制度は、実施機関が取得した文書について、条例の非公開事由に該当しない限り、何人に対しても当該行政文書が公開の対象となるものであることから、この点について異議申立人の主張を採用することはできない。
また、本件係争部分に記録された情報の公開が、異議申立人のプライバシーや競争上の地位その他正当な利益を害するものでないことは、前述のとおりである。
5 結論
以上のとおり、本件決定は条例の公開事由の要件に該当するものを公開として決定したものであり、何らの違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。
2 貸金業の登録に係る実施機関の事務について
貸金業を営もうとする者は、当該営業所又は事務所の所在地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならないこととされており(貸金業規制法第3条第1項(現貸金業法第3条第1項))、都道府県知事は、当該申請について審査の結果適当と認めれば、登録申請書様式第1号第2面から第8面までを貸金業者登録簿に綴ることにより登録を行い(貸金業規制法第5条第1項、同法施行規則第4条の2第1項(現貸金業法第5条第1項、同法施行規則第4条の2第1項))、貸金業者登録簿を一般の閲覧に供しなければならないこととされている(貸金業規制法第9条、同法施行規則第9条第2項(現貸金業法第9条、同法施行規則第9条第2項))。
また、貸金業者は、登録後に貸金業者登録簿の内容に変更が生じた場合は、変更の届出、登録有効期間内に廃業を行う場合は、廃業等の届出をそれぞれ行わなければならないこととされている(貸金業規制法第10条第1項(現貸金業法第10条第1項))。
なお、貸金業者の登録有効期限が切れたとき、又は廃業若しくは登録の取消処分となったときは、都道府県知事は貸金業者の登録を消除しなければならないこととされており(貸金業規制法第40条(現貸金業法第24条の6の7))、この場合、当該貸金業者の情報は、閲覧に供されている貸金業者登録簿からも消除されるが、登録有効期間切れ、廃業及び登録の取消し処分等となった場合でも、当該貸金業者が締結した貸付けの契約に基づく取引を結了する目的の範囲内においては、なお貸金業者とみなされ、法令の適用を受けることとされている(貸金業規制法第44条(現貸金業法第44条第1項))。
3 本件行政文書について
本件行政文書は、異議申立人が、貸金業規制法第42条第1項(現貸金業法第24条の6の10第1項)の規定により、みなし貸金業者として実施機関に提出したものであり、その内容及び本件決定における公開部分(以下「本件公開部分」という。)は以下のとおりである。
(1)変更届出書
異議申立人が代表者、住所及び電話番号を変更した旨の届出書であり、届出年月日、廃業当時の登録番号、異議申立人の住所、郵便番号、電話番号、名称、代表者の氏名及び印影、変更年月日、変更前及び変更後の代表者、住所及び電話番号が記録されている。本件決定においては、変更後の電話番号、変更後の住所のうち登記簿に記載されていない部分(部屋番号)及び法人代表者の印影を除く部分が公開とされている。
(2)誓約書
異議申立人の代表者が登記簿上の本店において貸金業の業務を行わないことを誓約した書面であり、作成年月日、廃業当時の登録番号、誓約者である異議申立人代表者の住所、郵便番号、氏名及び印影、貸金業の業務を行わない登記簿上の本店の所在地、貸金業の業務を行う主たる営業所等の店舗名等及び所在地、登記簿上の本店において、貸金業の業務を行わない理由が記録されている。本件決定においては、法人代表者の印影を除く部分が公開とされている。
(3)残貸付債権の状況等に係る報告書
異議申立人が残貸付債権の状況について報告した書面であり、作成年月日、報告者である異議申立人の住所、郵便番号、電話番号、名称、代表者の氏名及び印影、残貸付債権の状況及び債権回収方針(自主回収、取立委託、債権譲渡及びその他の債権回収方針別と合計の残貸付債権の額及び債務者数)、債権譲渡の状況、取立委託の状況、帳簿及び個人情報の取扱いについて、具体的な状況が記録されている。本件決定においては、変更後の電話番号(代表者個人の携帯電話番号)、法人代表者の印影、債権回収方針別と合計の残貸付債権の額及び債務者数を除く部分が公開とされている。
4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由
異議申立人は、本件公開部分に記録された情報が条例第8条第1項各号及び条例第9条各号に該当すると主張しているので、検討したところ、以下のとおりである。
(1)条例第8条第1項第1号について
事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。
同号は、
- ア 法人・・・その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、
- イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。)
が記録された行政文書は、公開しないことができる旨定めている。
また、本号の「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理に反する結果となると認められるものをいい、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、公開されることにより、事業を営む者に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうと解されるが、これらの具体的な判断に当たっては、当該情報の内容のみでなく、当該事業を営む者の性格や事業活動における当該情報の位置づけ等も考慮して、総合的に判断すべきものである。
(2)本件公開部分の条例第8条第1項第1号該当性について
本件公開部分に記録されている情報はいずれも、みなし貸金業者としての異議申立人に関する情報であり、(1)アの要件に該当することは明らかである。
そこで、本件公開部分に記録された情報が、(1)イの要件に該当するか否かを検討するに、本件公開部分に記録されている情報の内容は、3で述べたとおりであり、いずれも、法人登記簿において公示されている情報、みなし貸金業者としての業務に関する概括的な情報又は文書の作成年月日や宛先などの基本的な情報であって、残債権の額や債務者数あるいは個別の取引先など異議申立人の経営状況や個別の取引に関わる情報は含まれておらず、公にすることにより本件法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められないことから、(1)イの要件に該当しない。
したがって、本件公開部分に記録されている情報は、条例第8条第1項第1号に該当しない。
(3)条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。
同号は、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。
(4)本件公開部分の条例第9条第1号該当性について
本件公開部分に記録されている情報のうち、法人代表者の氏名については、(3)ア及びイの要件に該当する。また、変更届出書に主たる営業所又は事務所の変更後の所在地として記載されている住所についても、異議申立人の主張及び実施機関の説明等を総合すると、代表者個人の自宅住所であると認められるから、一応(3)ア及びイの要件に該当するということができる。
そこで、これらの情報が(3)ウの要件に該当するか否かを検討するに、法人代表者の氏名については登記簿で公示される情報であり、(3)ウの要件に該当しないことは明らかである、また、変更届出書に記載されている変更後の所在地については、あくまでも、みなし貸金業者である異議申立人の事務所の住所として届出されたものである。代表者個人の自宅住所と一致するとしても、法人の主たる営業所又は事務所の所在地である以上は、通常、取引先などに広く開示されるべき情報であり、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であるとは認められず、(3)ウの要件に該当しない。
以上のことから、本件公開部分に記録されている情報は、条例第9条第1号に該当しない。
(5)その他の適用除外事項の該当性について
その他、本件公開部分に記録されている情報が、条例第8条第2号から第5号及び第9条第2号に該当する事由は認められなかった。
5 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
岡村周一、福井逸治、曽和俊文、松田聰子